ティータイム・ストーリー(イゾルデ編)第3話:主が、帰ってきたにゃ
視聴者数が五百人を超えたあたりで、玄関のドアが開く音がした。
「ただいま——」
凪が入ってきた。
イゾルデはカメラに向かって「帰ってきたにゃ」と言った。
【コメント欄】
鮭おにぎり:魔神様帰宅!!
DD(誰でも大好き):どんな反応するの
攻略ガチ勢:これは怒られるか?
指摘警察:ドッキリか
廊下から足音が聞こえた。
「ただいま——」
「配信中にゃ!!」とイゾルデが素早く叫んだ。
一瞬の間があって、足音が止まった。
凪がリビングの入口で止まっていた。イゾルデを見た。スマホを見た。画面の「LIVE」マークを見た。視聴者数「531」を見た。
そのまま、ドアの陰に半身を隠した。
【コメント欄】
鮭おにぎり:誰か来た!?
DD(誰でも大好き):魔神様?
攻略ガチ勢:後ろ姿だけ見えた
名無しさん:背が高い
指摘警察:後ろ姿もCGか
「……イゾルデ」とドアの陰から声がした。低い声。「何をしていたんだ」
「留守番にゃ」
「留守番って、これは」
「暇だったにゃ」とイゾルデは言って、尻尾をぴんと立てた。「だから配信したにゃ。おとなしくしてたにゃ」
【コメント欄】
鮭おにぎり:おとなしいの定義が違う
DD(誰でも大好き):声が若い
攻略ガチ勢:これ魔神様だよな
魔神びいき:むしろ呆れてる
指摘警察:声はCGじゃないぞ
「……スパチャは」とドアの陰から声がした。「カネゴンから七十万円来てるんだが」
「まぐろのお礼にゃ」
「まぐろを頼んだのか」
「届いたにゃ」とイゾルデは言って、冷蔵庫の方向を前足で示した。「冷蔵庫に入ってるにゃ。主の分もあるにゃ」
ドアの陰から、小さな物音がした。
「……仮面がないにゃ」とイゾルデが小声で言った。「カバンの中にあるにゃ?」
「……ある」
「取るにゃ」
少しの間があった。
【コメント欄】
鮭おにぎり:何か相談してる
DD(誰でも大好き):仮面って言った
攻略ガチ勢:やっぱり仮面は必須なのか
カネゴン:魔神様! 早くイゾルデたんに会いに来て!!
しばらくして、仮面をつけた人物がドアの陰から出てきた。
「……どうも」と仮面の人物は言った。カメラを向いてはいるが、少し距離を置いている。「イゾルデが、その……勝手に配信を」
鮭おにぎり:魔神様だ!!
DD(誰でも大好き):合流した
魔神びいき:いつもの仮面だ
指摘警察:やっぱりCGだ(諦め)
凪がイゾルデを見た。
「終わらせるぞ」
「もう少しにゃ」
「終わらせる」
「なぁ~」
【コメント欄】
鮭おにぎり:ケンカしてる
DD(誰でも大好き):仲良しだ
魔神びいき:これが日常なんだな
カネゴン:……尊い(小声)
凪がカメラを向いた。
「……今日は、イゾルデが留守番中に勝手に配信をしていました。ご迷惑をおかけしました。スパチャしてくれた方、ありがとうございます。まぐろは美味しく頂きます」
それだけ言って、配信を終了した。
*
夜、まぐろを食べながら、凪が言った。
「次から勝手に配信するな」
「なぁ~」
「返事になってないぞ」
「……なぁ~」
「……まあ」と凪は言って、箸を置いた。「視聴者が五百人増えたのは、悪くないけどな」
イゾルデは尻尾をぴんと立てた。
「だから言ったにゃ。ボクは人気者にゃ」
「俺が言ったわけじゃない」
「同じにゃ」
凪が少し笑った。声には出さない笑い方だった。
イゾルデは満足して、まぐろの続きを食べた。
イゾルデ編、いかがだったでしょうか?
ソフィア編と聖羅編も用意していますので、お楽しみに。
それからブックマークと高評価をよろしくお願いいたします。




