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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第一章 宇宙探索者ショーンとアストロノイド・アテナ
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第3話(1)ギルド長ゴーツ

ショーンは宇宙探索者として、初めての輸送任務に就くも、

あわや幽霊船と衝突しかける。


間一髪でこれを切り抜け、任務自体は無事クリア。

だが、その行動に尾ひれがつき、

やがて都市伝説が生まれることになるとは、

この時のショーンは思いもよらなかった。


急転直下、ショーンの物語が大きく動き出す第3話、スタートです。

◆ギルド長ゴーツ◆

宇宙探索者ギルドは、ここ【ルナヒューストン】に本部を構える。

  この本部には各支部の5倍もの探索者が登録されており、

  いわゆる“宇宙の猛者”達が集う場所だ。

  そんな彼らでも、昨夜の報道特集で扱った話題には興味津々だった。


カウンター前、掲示板の下、簡易テーブルの周囲――

  あちこちで同じ名前が囁かれている。

 「……聞いたか? ゴーストチェイサー」

  声を潜めたつもりでも、興奮は隠せていない。


 「や、やばいだろ……ゴーストチェイサーって……」

 「ビビりすぎだっての」

  怖がる者、強がる者。探索者同士で噂で盛り上がっている。


  少し離れた場所で、C級探索者が静かに語っていた。

 「問題は“誰か”じゃない」

  周囲の視線を集めつつ、淡々と続ける。

 「何時、何処に現れるか? それを把握して避けりゃいいだけだ」

 

  受付カウンターでは、上層部の方針が共有されていた。

  宇宙商人の男が「護衛、付けられませんか?」と受付に詰め寄る。

 「申し訳ありません。

  その時間帯の商業航路の護衛依頼はお断りしています。

  幽霊船及びゴーストチェイサー出現の可能性が高いためです」

  丁寧だが、はっきりとした言い切りだった。


 その結果は、すぐに数字に表れた。

 主要商業航路は、18時を回ると異様なほど静まり返る。

 誰もが避け、誰もが語り、誰もが正体を知らないまま――

 ゴーストチェイサーの“影”だけが、航路に残っていた。


◇ ◇ ◇


ギルドホールの喧騒とは対照的に、

  奥のギルド会議室は満席にも関わらず、異様に静まり返っていた。

 「噂は完全に独り歩きしています」

 「例の当事者の名前、素性は一切表に出ていません」

  各支部長らギルド幹部達でさえ、話題の騒ぎの“真相”、

  つまり、当事者“E級ランク探索者”の情報に関しては、

  ギルド長の署名で固く箝口令を敷かれていた。


報告書を閉じたギルド長“ゴーツ・イナマージ”は

  幹部たちを見ながら静かに話し出す。

 「噂の拡散を止める必要はない」

  部下が一瞬、言葉を選ぶ。

 「……放置、ですか?」

 「ああ。都市伝説は止めようとするほど勝手に育つ」

 「問題が起きるまで、静観だ」


ゴーツには考えがあっての事だが、まだそれは語られない。

 「それより、私はこれから【ルナトキオ】へ行く。

  明朝、例の冒険者に面会する予定だ。

  ルナトキオ支部長、手配状況はどうかな?」

 「はい、この件は事前連絡に従い、担当が調整済みです」

 「よし、だが勘違いしないように。

  彼を呼びつけるんじゃなく、客人として、くれぐれも丁重に頼む」


◇ ◇ ◇


ルナトキオの朝は、地球の空とは全く違う表情を見せる。

  黒い天蓋に薄い青の光線が伸び、人工大気に反射して街全体が

  透き通ったように輝く、月面都市特有の“透明感のある朝”。

  その下を、ショーンとアテナN3は並んで歩いていた。


「ショーン、歩く速度が昨日より7パーセント速いです。

 ……緊張していますか?」

 銀色の獣耳を揺らしながら、アテナが柔らかく問いかけてくる。

「いや……まあ……これから本部のギルド長に会う訳だし?」

「大丈夫ですよ。ショーンなら」

 優しい声が耳に染みた。

 アテナの笑顔は、喧噪の中にあっても不思議と落ち着ける。


ギルドのエントランスを通ると、受付のヴァレッタが

  軽く手を上げ挨拶してきた。

 「おはようございます。キャプテン・ショーン・マクスヴェイン」

  にっこり微笑む。

 「今日は早くから有難う」

 「あ、はい!」

  ショーンがやや固まっている横で、アテナが軽く会釈する。

 「ギルド長が待ってるわ。

  さっそくで悪いんだけど、一緒に来てください」


厚い隔壁に守られた会議室の前で、ショーンは小さく息を整えた。

  ノックするより早く、

  隔壁の向こうから低く、腹の底に響く声が返ってきた。

 「おう、開いてるぞ。入れ入れ」

  ――拍子抜けするほど、気さくな声だった。


扉を開けた瞬間、ショーンは思わず見上げる。

  そこに立っていた男は、身長2メートル超。

  岩のような肩幅、丸太のような腕。

  古傷だらけの顔に深く刻まれた皺。

  その場に立っているだけで、空気が重くなる男だった。

  だが、その巨体に似つかわしくないほど、目元には

  人懐こさ――いや、獲物を値踏みするような光があった。


「わざわざ来てくれたことに感謝するぜっははっ、

  っと自己紹介が先か」

  男は胸を叩いた。

 「俺はゴーツ・イナマージ。

  宇宙探索者ギルドのギルド長をやっておる」

  ――威厳。

  ――風格。

  ――でも、それ以上に“酒場にいそうな大柄の老人”の空気。

  ショーンの緊張が一段上がった。

  アテナは心配そうな顔を向ける。

 「まあ座ってくれ」


◇ ◇ ◇


ショーンはゴーツと向かい合わせの椅子におずおずと腰かけ、

  アテナは今にも肩揉みしそうな雰囲気で傍らに立つ。

 「ショーン……だったか?

  ドレッドレッダー号、使いこなしてるみたいだな!

  若いのに大したもんだ」

 「……はぃ、ありがとうございます」

 「だが線が細いな!ちゃんと食ってんのかぁ?」

  ぐははは、と笑うゴーツ。


ショーンがキョトンとしていると、

  ゴーツは唐突に立ち上がり、にかっと笑うと胸を叩いた。

 「お前の祖父ちゃん

  ――アレックスとは、ギルドの“初期メンバー仲間”で”悪友”よ」

  その言葉に、ショーンは息を呑む。


「実は、今回の幽霊船事件の記録に“ドレッドレッダー号”って

  懐かしい船の名前見つけたから、

  思わず飛んで来たぜ!

  こりゃあアレックスの身内じゃねえか?ってなぁ!」

  ショーンはようやく得心がいった。


「だが、お前、実は相当危なかったんじゃねえか?

  報告書を読む限り、

  幽霊船に後ろから衝突して、そのまま

  自爆しても不思議じゃねえよ」

  ショーンはただひたすら平身低頭するしかなかった。


「ぐははは、まあ、アレックスの孫っぽくていいじゃねえか!

  アイツに比べりゃ、可愛いもんだぜ」

  ゴーツは、昔話だけど、と言って語り出した。


「火星探索の頃だ。

  まだ宇宙が今よりずっと無茶で危険な時代な」

 「あそこの地下にゃあ、とんでもねぇ巨大迷宮があってよ」

  ゴーツは楽しそうに笑う。

 「奥から出てきやがったのが――

  太古の火星遺物、ゴーレム兵器でな」


アテナが、さりげなく記録用に内部ログを起動する。

 「何故かビーム兵器が効かなかったんで、

  俺とアイツでぶん殴りながら

  撤退したんだけど、お前の祖父ちゃん凄かったぜ?」

  まるで昨日の出来事のように、豪快に笑うゴーツ。


「……あ、その話、聞いたことあります。

  確かマジゴリラって人と……?」

「ぐはあぁ! それオレな~」

  その光景が、何故だかショーンの脳裏に鮮明に浮かんだ。

  ぐははは、あの野郎、どははは!

  豪快に笑うゴーツを見てると、自然と口元が緩み、

  はははっとつられて笑うショーンだった。

 

◇ ◇ ◇


会議室の空気が、ひと段落ついたところで――

  ゴーツは、深く椅子に腰を下ろした。

 「さて……本題だ」

  その声色は、

  先ほどまでの豪快さを少しだけ削ぎ落としたものだった。

 「キミたちの幽霊船遭遇の報告書と記録映像は、

  大変貴重な物だ。

  達成ポイント追加の話は聞いているだろう?

  それに追加して、特別報奨金も出すから受け取ってくれ」

  臨時収入の話にショーン素直に喜び感謝を伝えた。


「それで……だ。

  ついでと言ってはアレだが、一つギルドから依頼を受けて欲しい」

  アテナは、やっぱりそうなりますよね、

  と一人警戒する。

 「依頼内容は、ある場所に赴いて情報収集する。

  依頼達成条件は“幽霊船の発見もしくは足取りを掴む”だ」


卓上に投影されたのは、月—地球間航路の立体図。

 「“コーラル・クラスタ”。

  小惑星帯の中でも不安定な重力波が混じってる区域だ。

  幽霊船が現れたという座標も近い」

 「表向きの依頼は、ここら一帯の採掘調査だ。

  期間は最長で5日間、報酬は……輸送任務の10倍出そう。

  さらに――宇宙船の運用経費、これも全部ギルド持ちだ」


え?そんなに?

  とでも言いそうな表情で、驚くショーン

 (ショーン……受注に前向きですね

  おじい様のご友人と分かり、警戒心が下がってます)


知らない大人には気をつけなさいと、いつも言ってますのに……

今日のアテナは母親目線が五割増しだ。


======== 次回更新へつづく ========

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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