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第1話(5)

念願の宇宙探索者となったショーン。

その帰り路、ショーンは同じ職場だったサンドガスらに襲撃される。

絶体絶命のピンチ。

そこへ、遥か上空からアストロノイド・アテナが舞い降りた

アテナと呼ばれて現れたその女性は、

 メイド・アテナと確かに顔立ちは似ていた。

 だが、姿形はまるで別人だった。


 腰まで流れる銀色のロングヘア。

 右目は澄んだスカイブルー、左目は深い金色

 ――鮮烈なオッドアイ。

 身長は175センチ。

 メイド姿の彼女より、ひと回りも高い。

 

 銀青色の一体型スペーススーツに包まれた肢体は、

 実に女性的な曲線を描きながら、

 その全身からは鋼のような緊張感が漂っていた。


 ――アテナN3

 メイド・アテナのもう一つの姿。

【アストロノイド】――

 それは、宇宙船操縦用に設計されたAIヒューマノイドだった。


「キャプテン・ショーン・マクスヴェインに対する暴言、

 暴行、殺害未遂、強盗未遂を確認しました。

 あなた方の愚かな行為は、

 証拠として撮影し既に警察へ提供済みです」


 静かな声だった。

 だが、その一言一言には冷徹な重みがあった。


「この時点でキャプテンの正当防衛が成立しています。

 これより制圧モードに移行。

 あなた方全員を捕縛します」


ほんの一拍、間を置いて。

「今ここで自首するなら、

 ――情状酌量の余地はあります。

 社会復帰も少しは早くなるかも知れませんよ?」


形式上の最後通告。

 だが、アテナの内側では怒りが沸騰していた。

 ショーンが吹っ飛ばされ、

 踏みつけられた映像の撮影中、アテナは早く飛び出して

 守りたい気持ちをぐっと堪えていたのだ。


「はっ? この人数相手に一人でやれると思ってんの?」

「ぷぷっ、何寝言言ってんだよ!」

「ウケる~! ロボ子に何ができんの?」

「俺ぁ作り物でもイケるぜ? デカくて揉み甲斐ありそうじゃねえか」

 ゲラゲラと下卑た笑い声が、アテナを更に冷徹に変えていく。


 彼らは知らなかったのだ。

 宇宙探索者という過酷な仕事を、“完璧に”支える存在――

 【アストロノイド】の、本当の意味での戦闘力を。


「……警告を無視したと判断します」


ダンスビート・アタックモード――

 起動音と同時に、空気が震えた。

 エネルギー効率が悪く、身体負担も大きいが、

 ”攻防一体・一撃必殺”の戦闘スタイル。


 次の刹那、アテナは“消えた”。

 いや、違う。

 人の視覚が追いつかなかっただけだ。


 音楽に乗るようなステップ。

 舞うような旋回。

 敵の急所だけを紙一重で外しながら、骨を折り、

 神経を麻痺させていく。


 それは攻撃というより――

 踊りだった。


 「――インパクト!【舞撃】」

  強烈な踏み込みと共に、手刀、掌底、蹴りの三連撃。

  至近距離にいた三人が、次々と崩れ落ちる。

  「ぐっ……!」

  「っあぁ……!」

  「ふぐ……」


リーダー格の三人が素早く行動する。

 「クソがっ!」

    テーナが、市内で使用禁止の銃火器を引き抜く。

 「ヒイヒイ言わせたるわ!」

    モンヤが、ステルス迷彩でまた姿を消す。

 「あ、あわわ……」

    サンドガスは、倒れた仲間を盾にして震えている。


テーナが、ショーン目がけてレーザーを乱射した。

 「要はコイツだよなぁ!」

  だが――

  ショーンを完全に捉えた筈のレーザーは、素早く回り込んだ

  アテナの防御スーツに全て弾かれ、消えた。


「アテナ、後ろだ」

 ステルスのほんの僅かな揺らぎをショーンは見逃さない。

 ぼそっとしたショーンのつぶやきに、

 アテナは、微笑みを返す余裕すら見せた。


 「――インパクト!【舞撃】」

  姿を消して後ろから迫っていたモンヤだったが、

  アテナが足のスラスター全開で、高速旋風脚を放つと、

  ズゥダダダァン――

  巨漢のモンヤが軽々と宙に舞う。

  次の瞬間、

  アテナはスラスターでシュタっと高く上空に上がると、

  逆噴射で急降下して

  飛び蹴り、

  モンヤは地面に叩きつけられ動かなくなった。


「ヒ、ヒューマノイドが人間に手を出したら、

 廃棄処分だろうが……!」

 サンドガスの震える声。


だが、アテナは淡々と答える。

「アストロノイド規制法では、

 “アストロノイドは船長の生命維持を最優先とする”

 と、定められています」


 静かな断言。

「つまり、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な……!」

「よって――処理を再開します」

 再び、足元の起動音。


 「ダンスビート・アタックモード

  ――インパクト【舞撃】三連!」

    手刀と掌底、さらに上段回し蹴りが、

    サンドガスの顔面を容赦なく捉える。

    グシャグシャ、という鈍い音と共に、

    彼は崩れ落ちた。

  そして、一瞬でテーナの目前へ。

  「あなた……キャプテンを踏みつけていましたね?」

   低い声。

   言葉を発する間もなく、

   テーナは腹に衝撃を受け5メートル吹っ飛ばされた。

   美しい放物線を描いて――


かくして、

一分も経たないうちに全員が制圧、救急搬送された。


◇ ◇ ◇


警察関係者の現場検証が終わり、救急搬送のドローンが去ると、

 辺りはショーンとアテナの二人だけになった。

「ドレッドレッダー号の市内航行許可証の取得に、

 時間がかかってしまいました……

 申し訳ございません」


ショーンはギルドを出る前、

 アテナに航行許可証の発行を指示していたのだ。

 計画とは言え、船長を危険に晒してしまった

 ――恐縮するアテナは目を閉じて少し震えていた。

「いや、最高のタイミングだったよ」


笑ってアテナにそう声をかけるショーン、

 その姿に――

 とうとう我慢の限界を超えたアテナがいきなり抱きついた。

「お迎えに上がりました、ショーン♥」

 次の瞬間、ショーンは宙に浮いていた。


 ――お姫様抱っこ。


「ま、待ってアテナ……! 自分で歩けるから……っ」

「ダメです。ショーンは――“私が守る”のですから」


アストロノイド・アテナが、”ショーン”と呼ぶときは

 ――姉モードの”ラブラブ癒しタイム”突入の証。

 胸の柔らかさが、容赦なく当たる。

 甘い吐息が、耳元に伝わる。

 少し高い体温を感じる。

 

スラスター全開――

 アテナはショーンを抱き抱えたまま、

 上空で待機しているドレッドレッダー号へと飛び上がった。


◇ ◇ ◇


ドレッドレッダー号のハッチが静かに閉じ、

 外界の喧騒が完全に遮断された瞬間、

 ショーンの身体から一気に力が抜けた。

「……ふぅ」

 安堵の息が、思わず漏れる。


アテナはその変化を見逃さなかった。

 彼女はそっとショーンをソファへ降ろすと、

 至近距離で視線を重ねる。

「心拍、呼吸、神経応答……軽度の打撲と精神的ストレスを確認。

 ですが、深刻な損傷はありません」

 そう告げる声は、戦闘時とは違い、柔らかく澄んでいた。

「そうか、よかった……」


ショーンが呟いたそのとき、

 船内にアップテンポの曲が流れ始める。

「まずは船内空気を整えましょう。

 ダンスブレス・アトモスケア――発動」

   曲に合わせて、アテナが全身を大きく使って軽快に踊る。

   途端に、船内の空気が変わっていく。

   こもっていた熱と二酸化炭素が彼女の皮膚から体内に吸引、

   内蔵フィルタと浄化機構で二酸化炭素やVOCが浄化され、

   微量の酸素を発生させて放出される。


船内に澄んだ“酸素リッチ”の空気が満ちていく。

「……空気が、気持ちいいな」

「はい。キャプテンの自律神経が落ち着く濃度に調整しています」

 彼女は微笑み、ショーンの額に手を添えた。

 次の瞬間、アテナとの距離が――さらに近づく。

 視線が絡み、呼吸が重なる。


アテナの吐息が、かすかな温度を伴って頬を撫でた。

「リラクゼーションアロマを散布いたしますので、

 そのままお寛ぎください」

   アテナの体内で調合されたアロマは、吐息や首筋、

   胸元、脇からほとばしる疑似発汗となって

   ショーンをくすぐってくる。

   少し甘くも落ち着いた香りは、

   吐息や汗というより“ぬくもり”そのものだった。


「はぁ……」

 ショーンの肩から、無意識に力が抜けていく。

 痛みも、緊張も、恐怖の残滓も――

「先ほどは相当なご無理をなさいましたね」

「……まあ、ちょっとだけ」

「“ちょっと”ではありません。

 眼を大切に、といつも申し上げておりますのに」

 心配かけたね、と素直に謝るショーン。

 彼を見つめるアテナは、

 今日も守れた――良かったと思うのだった。


◇ ◇ ◇


数分後。

 目を閉じてまどろんでいたショーンが、再び目を開けると――

 いつもの、エプロン姿。

 メイド・アテナがそこに立っていた。

 身長も縮んで元通り。

 スラスターパンプスでくるくるとスピン

 薄紫色のポニーテールが爽やかに揺れる。

「だんなさま、お夕食にいたしましょう!」

 今朝と変わらない元気なアテナ。

「……切り替え早いなぁ」

「それがアテナなのです!

 さあさあ、たっぷり栄養取って下さいね!」


 テーブルに並んだのは、

 焼き立てパンと手作りハンバーグ

 トウモロコシを芯ごと輪切りにして油で揚げ、

 砂糖醤油にサッとくぐらせた、

 お祖父ちゃんの大好物、”揚げトウモロコシ”。

 湯気と香りが、先ほどまでの緊張を完全に洗い流していく。

  「いただきます」

  「はい、どうぞ」

  「……なんか、本当に“家”って感じだな」

 ショーンのその言葉に、アテナは一瞬だけ目を細めた。

  「はい。そうあるべき場所です」

 

◇ ◇ ◇

 

その夜――

 ベッドに腰掛けたショーン、その横へ、

 再び【アストロノイド】モードになったアテナN3が

 すすっと座り、”じーっ”と、ショーンを見つめる。

「……クスッ……それじゃあ頼もうかな?」

 お任せ下さい♪

 ぱぁっと満面の笑みに変わったアテナは、

 即答するとショーンの頭を優しく両手で撫でながら膝の上に導く。


姉モードのアテナの膝枕は少し刺激が強かった。

「ナイトブレス・スリープメロウを使いますね。

   さぁリラックスして?……アロマ効果で良く眠れますよ」

   膝枕が心地よい、夜限定のスーパー癒しスキル。

   アテナがショーンの腕を取ると、

   優しく“甘噛み”

  「すぐ良くなりますよ……」怪しく微笑むアテナ。


ほどなくして、“甘噛み”で投与された

 【健康補助物質】が効き始め、ショーンの体を優しく解きほぐした。

 「あ……気持ち……いい」

  そして囁くような旋律の歌声が、ショーンを眠りの淵へと誘う。

 「良い夢を」

  膝枕の体温を感じながら、

  ショーンの意識はゆっくりと沈んでいく。

  ――守っているという意思、守られているという安心。

    静かな船内で、二人の呼吸だけが重なり合っていた。

 

◇ ◇ ◇

 

その少し離れた船内リビングで──

 ショーンが消し忘れたままのモニタスクリーンから、

 人気番組『月面サテライトアワー』の映像が、不意に切り替わった。


「――ここで、番組を変更し、緊急速報をお伝えします」


 淡々とした男性キャスターの声が、静かな船内に流れ出す。


「宇宙軍からの発表です。

 第三次木星探索部隊は、木星衛星軌道上にて、

 正体不明の存在による襲撃を受け、作戦を中断。

 現在、全軍撤退が完了したことが明らかになりました。

 人的損害は軽微とされています」


 映像が切り替わり、遠征艦隊の航跡データが映し出される。


「艦隊守護者の第三代アストロクイーンは、会敵直後より

 専守防衛と情報収集を進言。

 総司令官はこれを承認。

 クイーンは3ヵ月に渡って全部隊を統率、指揮し、

 最小限の損傷で、全軍撤退に導きました」


 宇宙軍は、

『判断は適切であり、被害拡大を防いだ』

 とコメントしています」


続いて、画面は女性キャスターに替わり、新たな驚きが伝えられた。


「――次のニュースです。

 月面都市【ルナロンド】の『アストロクイーン中央運営委員会』は、

 第4回アストロクイーンコンテストについて、

 開催時期および大会規定の見直しを発表しました。


 次回大会は、従来予定されていた2383年より

 一年前倒しとなり、2382年より予選ラウンドを開催。

 これまでの軍属・研究開発枠による推薦制32名から、

 推薦枠を24名に縮小し、

 全アストロノイドを対象とした予選選抜8名を加えた

 合計32名で本選が行われます」


「今回の規定変更について、運営委員会では、

 『急速に変化する宇宙情勢に対応するため』

 と説明していますが、

 異例の決定に、各方面で波紋が広がっています」


ニュースは何事もなかったかのように、次の話題へ移っていった――


二人は、まだ知らない。

 この夜が、二人にとって――

 最後の“穏やかな眠りの夜”になることを。


 そして、運命はすでに、

 静かに彼らを見つめ始めていることを。

 

<<第1話 おわり>>

  

======== 次回更新へつづく ========


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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