第4話(5)決勝戦
西暦2382年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■(ヴァロワの回想:選抜戦4日目)
今日はアストロクイーン選抜戦の休養日。
明日は準決勝、そして勝てば午後から決勝。
出場者は限られた時間で明日への対策を立てている。
ルナ・ネットワークニュースでも特集が組まれ、色々な専門家たちが
それぞれの切り口で試合の分析を披露し、明日の勝敗を様々に予想する。
一般市民でさえも自分視点で予想を語り合って酒場で盛り上がる。
大勢が明日を心待ちにしていた。
そんな中、ボナパルト公国の国家元首であるヴァロワ大公は、
滞在中のホテルに籠りきりで、火星の新ダンジョン“マーズ4”の攻略を
話し合っていた。
『それでは、昨日のマーズ4攻略状況をご報告申し上げます。
第2層へ向かうスロープの途中で落石トラップと申し上げましたが、
それは認識不足でした』
「ほう?では何だったのだ?」
『落石ではなく、ストーンゴーレムが小さく丸まったブロックでした。
物体の通過を感知して、天井から剥がれて落ちてくるのです。
床に落ちると、巨大ヘビやトカゲの形に展開して襲ってくるのです』
「そうか、出現ギミックということか」
『はい、続いてそれらストーンゴーレムとの戦闘状況ですが、
四人小隊で10分ほどで一体討伐できました。
ゴーレムにはレーザーなど光学兵器は効果が無く、攻撃方法は限られます。
高周波カッターでの斬撃やハンマーの打撃は有効でした』
「それでは、時間をかければ殲滅できそうだな」
『…いいえ、ゴーレムは、倒してもまた沸いて襲ってくるのです』
「何だと?沸くとはどういう意味だ?」
『あのスロープエリアはゴーレムが最大20体出現します。
倒すと砂になって床に吸収されるのですが、
約3分後に、同じように上からブロックが落ちてきて、
これがゴーレムに変化して襲ってくるのです』
「分かった。
倒す以外に、そこを抜ける方法がないか検討しろ。
先に進めばそこのトラップを解除できるかも知れない。
色々と考えて作戦を進めるんだ」
そう言うと、ふと、ヴァロワは思ったことを述べた。
「ところで明日、アストロクイーン選抜戦の準決勝そして決勝が行われる。
準決勝進出四体のうち、三体が民間アストロノイドだ」
『存じております』
「至急、その民間三体を詳しく調べろ。
此度のマーズ4攻略に役立ちそうか見極めるのだ」
◇ ◇ ◇
■ヴァロワ大公と準決勝
その翌日、選抜戦5日目。
「マーズ4の報告は選抜戦の後に聞く」
そう伝えると、ヴァロワ大公はアストロクイーン選抜戦、準決勝を観戦した。
準決勝第一試合。
宇宙軍レオΘ0 対 民間ヴァルキリーC9
本命のレオが勝利して決勝進出。
だが、辛勝であった。
ヴァロワの眼には、負けたヴァルキリーC9の方が思い切った戦術を展開し
レオを追い詰めていたように見えた。
(挟撃で前衛を潰したことも凄いが、綺麗に両サイドを出し抜いた動きも良かった)
準決勝第二試合。
民間アテナN3 対 民間キャンサーγ2
序盤こそキャンサーγ2が優勢に見えたが、気が付けばアテナN3の快勝だった。
(あれだけの数のポーンを整然と動かす技量、やはり民間レベルとは思えない)
ヴァロワ大公は、これから始まる決勝戦を思い描いていた。
(さて、決勝戦。レオΘ0とアテナN3どちらが勝利するか…
いや、どちらが“私好み”か、と言うべきか…フフッ)
◇ ◇ ◇
■アストロクイーン選抜戦、決勝
ルナロンド上空に投影された疑似戦争空間。
防衛対象のジオラマ宇宙ステーションが最後衛に静止し、それを守るべく
左右に100隻ずつ、無人艦隊が隊列を組む。
左の艦隊は、黒と金色が豪華な装飾の、レオΘ0率いる100隻。
右の艦隊は、青と白のコントラストが映える、アテナN3率いる100隻。
100分の一にスケールダウンさせているが、全て実物で揃えられていた。
そして会場には、艦隊と同じ彩色が施された艦隊制御コックピットが二つ。
既に、レオΘ0とアテナN3はそれぞれ着座し、全艦隊リンクを構築し終えている。
アストロクイーン選抜戦、いよいよ決勝。
◆実況席
「さあ始まります! アストロクイーン選抜戦決勝!
競技名は――ジオラマ・ラグナロク《箱庭の終末戦線》!
今大会のために準備された壮大な戦闘シミュレーションですね!
実況は本日も私ピーター、解説もお馴染みコサックさんです!」
一言一言に、会場の観衆は拍手と大歓声で反応する。
「よろしく。いやあ、面白い競技を考えましたね。
協力型でありながら個人成績が評価される訳ですよ、これ」
「その通り! ルールを簡単におさらいしましょう!」
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◆ルール説明(実況)
「両者はそれぞれ小型のAI無人艦100隻ずつを指揮!
時間と共に波状攻撃を仕掛ける敵艦隊を“共同で”撃退します!」
「敵の波状攻撃は10分間隔で第一陣から第五陣の計5回。
第一陣は200隻ですが第二陣は250隻に増大、
以後,300、350と増え、最後の第五陣は400隻!
見事敵を全滅させることが競技のクリア条件です」
「見事クリアとなって、初めてスコア勝負となります」
敵1隻撃破で10点、最後までに残った味方1隻につき10点加算!」
「さあ――
カウントダウンが始まります。
5……4……3……2……1――
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◆第一陣 200隻(開始0分)
「スタートしましたぁッ!!」
宙域の暗黒を裂くように、敵200隻が無秩序に押し寄せてきます!
赤色の識別灯が無数に灯る。
「いきなり広範囲の拡散攻撃です! これは圧力がすごい!」
「敵は学習型AIですから回を追うごとに手強くなるでしょう。
単純な火力勝負では最後まで持ちませんよ」
「おっと!? レオ選手、いきなり動きました!」
黒と金色の100隻が即座に33の小隊へ再編。
3隻1組のトライアングル編隊。
「3隻で1隻を確実に沈める……徹底した局地殲滅型ですね」
「1、2、3……速い! もう10隻沈めました!」
小隊は高速で敵を包囲、集中砲火、即離脱。
無駄がない。
「すごい連携です! 3隻が一つの生命体のようだ!」
「対してアテナN3、50隻が横一線に展開、防御陣形を構築。
残り50隻はその後方で射撃準備。
「これは、引きつけて撃たせて、それを防いで、確実に落とす戦法です」
敵レーザーが防御艦に降り注ぐ。
だが、装甲値はほとんど減らない。
「隙間から正確な反撃! 命中率が異常です!」
「敵第一陣、5分で全滅です!
現在撃破数――レオ100隻! アテナ100隻!同数です」
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◆第二陣 250隻(開始10分)
敵艦隊は、50隻ずつ、五つの長方形陣が横並びで突進する。
整然。無機質。圧迫感。
実況が叫ぶ。
「来ました第二陣! 敵は陣形を組んできました!!」
レオが先に動く。
雁行の陣。
斜めにずらした編隊が、敵列を裂く。
効率重視、無駄撃ちゼロ。
一隻、二隻、十隻。
爆散が連続する。
アテナも前進、横長に二列で進む。
が、射程内に入る寸前、中央はゆっくりと、両端は素早く移動。
青と白の艦隊が見事な翼を羽ばたかせる。
「おお!アテナ、横並びと見せかけて、綺麗なV字の艦隊運動!
これは、鶴翼の陣ですね?」
「ギリギリまで近づいて、瞬時に陣形を変えました。
これで敵の射程を惑わせましたね。敵中央は一気にボロボロです」
「敵の第二陣も全滅です!
現在撃破数――レオ240隻! アテナ210隻!差が着きました」
観客がどよめく。
「しかし艦隊に被害が出ました――レオ5隻ロスト! アテナはロストゼロ!」
「レオが艦隊は半分以上撃破しましたが、艦隊の列が伸びてしまいました。
そこを狙われましたね」
ヴァロワは静かに顎に手を当てる。
(アテナは撃破効率では劣る。だが損耗が異常に低い。
…常に艦隊運動をして、ダメージ艦を射線から逃がしている)
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◆第三陣 300隻(開始20分)
敵は100隻ずつ三部隊で進軍してくる。
右翼・中央・左翼。
レオは即断、魚鱗の陣形を取る。
鋭角三角形で敵右翼へ突撃し、見事な突破を決める。
敵右翼は隊列を崩され全滅した。
一方、敵中央と左翼は近づいてくるアテ艦に寄せてきた。
実況が叫ぶ。
「挟撃だぁぁぁ!!
アテナ艦隊、敵中央と左翼200機に挟まれました!大丈夫か?」
アテナ艦隊は鶴翼の陣を既に崩していた。
艦隊を二つに分け、一つは旗艦中心に菱型の方陣。
もう一つは長蛇の陣、一直線。
その長蛇の陣が、菱型の方陣をぐるぐると高速で移動する。
車掛かりの陣。
回転防御。
敵の猛攻を高速移動する長蛇の壁で全て防ぐ。
敵の中央と左翼は完全に足止めされた。
耐える。
耐える。
耐えながら敵を削る。
その隙にレオが中央を崩す。
理想的な連携。
観客が立ち上がる。
「やりました!
見事な連携!アテナ艦隊が2倍の敵を足止め。その間にレオが叩く。
現在撃破数――レオ390隻! アテナ360隻!」
「しかし、またも艦隊被害――レオ更に6隻ロスト!
だが、 アテナは未だロストゼロ!信じられません!」
「レオが艦隊は動きがダイナミックな分、隙も出やすいですね」
ヴァロワの瞳が細くなる。
(あれは……高速移動する艦で攻撃威力を弱めているのだ
船の何処で受ければダメージを抑えることが出来るか把握している。
宇宙船のことを良く知っているアストロノイドだ)
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◆第四陣 350隻(開始30分)
敵はまたもや100隻ずつ三部隊で進軍してくる。
右翼・中央・左翼。
だが今回は、それらの後方に遊撃部隊50隻が不気味に控える。
(こちらは89隻に減りました。ここは身を切りましょう)
レオは蜂矢の陣を取る。
旗艦自らが三角形の先端となる、一点突破の豪快な陣。
敵左翼艦隊を粉砕。爆発の中を突き進む。
だが。
「レオ艦隊、敵の遊撃部隊に背後を許しました!危ない!!」
観客が絶叫。
損耗が増える。
その瞬間。
アテナが動く。
七星の陣!
彼の北斗七星に由来する絶対防御の陣。
車掛けの陣を見事に散開させると、星の瞬きの如く連結。
遊撃部隊を見事に分断し、
自陣に飲み込むと、抵抗する間も与えず撃破。
さらにレオの背後を塞ぐ。
実況が震える。
「完璧なフォロー!!」
「やりました!
アテナ、見たこともない陣形と華麗な動きでレオのピンチをサポート。
現在撃破数――レオ560隻! アテナ540隻!」
「艦隊被害――レオここで11隻ロストです。残り78隻です。
一方の アテナはまたもやロストゼロ!」
ヴァロワは思う。
(攻撃力は確かにレオが上。
だが……私ならアテナだ。欲しいのは勝つ者ではなく負けない者だ――)
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◆第五陣 400隻(開始40分)
200隻の紡錘陣形が左右に構える。
レオ側に200。
アテナ側にも200。
真正面からの中央突破が見え見えだ。
レオは旗艦を先頭に偃月の陣。
旗艦を先頭に弧を描く。
紡錘陣を受け流し、寄せて、包んで、叩く。
2倍の敵を圧倒する。
「おお!アテナ、またもや謎の陣形を披露します!」
アテナは八卦の陣
回転。
誘導。
敵を混乱させ、互いに干渉させる。
爆発が連鎖。
だがついに――
「アテナ、一隻ロスト!」
初損耗。
観客が息を呑む。
そして――
「やりました!最後の第五陣も完全撃破です!!」
「いやあ、どちらもハイレベルな陣形そして艦隊運動でした」
「さあ、気になる両者の獲得ポイントはどうなったでしょうか!」
一瞬の静寂が訪れる――
結果表示。
「最終撃破数――レオ780隻! アテナ720隻!」
「残存数 ――レオ残存65隻! アテナ残存99隻!」
獲得ポイント――
レオ 8450点。
アテナ8190点――260点差。
アナウンスが響く。
「勝者――宇宙軍レオΘ0!!」
競技場が揺れる。
歓声、拍手、絶叫。
拍手の中。
ヴァロワ大公は座ったまま動かない。
レオは優秀だった。
突破力。決断力。前線統率。
だが、マーズ4は間違いなく消耗戦になる。
通信は遮断。
敵は再構築。
そこで必要なのは――“損耗を出さない者”
アテナは敗れた。だが、崩れなかった。
損耗たった一隻。
あれだけの激戦で。
(決まったな――)
彼の胸に、確信が芽生える。
マーズ4攻略の要はアテナN3――
大歓声の中、彼の思考はすでに火星地下へ向いている。
アストロクイーン選抜戦は終わった。
だが次の戦い、いや陰謀は、既に始まっていたのだった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
【作者からのひとこと】
この投稿で第二章を終わります。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
ただ、大変申し訳ございませんが、第三章火星ダンジョン編は只今執筆中につき、
発表日未定とご理解ください。
【作者からのお願い】
もし少しでも、
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新、応援したいな」
と思っていただけましたら、
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また、ブックマークしていただけると、
更新時にすぐ続きを読んでいただけますし、
作者としても大きな支えになります。
皆さんの応援が、この物語を続けていく原動力です。
これからも楽しんでいただけるよう頑張りますので、
どうぞよろしくお願いします!




