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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第二章 アストロクイーン選抜戦
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第4話(4)ヴァロワ大公

西暦2382年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。

第四回アストロクイーン選抜戦、その準決勝二試合が終了し、

宇宙軍チームのレオΘ0と、民間のアテナN3が決勝進出となった。


午後から決勝戦が行われるのだが、その前にインターバルとして

煌びやかなダンスショーが始まった。

各国の代表、スポンサー企業、軍高官、研究機関の重鎮たちが一堂に会し、

一般観衆で埋め尽くされた満員の会場は光と音に包まれていた。


その最上段、重厚な防弾ガラスに囲まれたVIP席で、

ボナパルト公国の国家元首であるヴァロワ大公は、

これから始まる決勝戦を思い描いていた。

(さて、決勝戦。レオΘ0とアテナN3どちらが勝利するか…

 いや、どちらが“私好み”か、と言うべきか…フフッ)


彼はここ数日の出来事を回想しはじめた。


■(ヴァロワの回想:選抜戦1日目)

アストロクイーン選抜戦の開会式。

今と同じVIP席に深く腰掛け、

ヴァロワ大公は肘掛けに頬杖をつき、あくびを噛み殺していた。

「……退屈だ」

 選抜戦そのものに興味がないわけではない。

優秀なアストロノイドは貴重な資産だ。

だが、演出過多の祝祭は、彼にとっては儀礼以上の意味を持たない。


 開会式が華やかに進行するその時、

ヴァロワの袖口に埋め込まれた暗号通信端末が震えた。

 公国直通の緊急回線。

 彼の瞳がわずかに細くなる。

「どうした?」

 回線を繋ぐと、視界内ホログラムに、

 公国宰相と火星保安管理局長の顔が浮かんだ。

 二人とも興奮と緊張で顔が赤い。


『大公閣下、緊急報告です。

 火星の地下に新たな構造体を確認。

 第四のダンジョンです』


ヴァロワはハッと身を起こした。


「……位置は」

『アルキメデス平原下、

 地下深度約100メートルの位置に巨大な空洞を発見。

 その奥に、高さ20メートルの巨大な扉がありました。

 これまで同様、火星地下迷宮への入口と思われます』


「そうか!でかしたぞ、局長。」

 その瞬間、ヴァロワ大公の退屈は消え失せた。

「そうだな…ダンジョンを“マーズ4”と呼称する。すぐに調査を始めるのだ。

 夜には調査報告をまとめるように」

『はっ!新ダンジョン“マーズ4”の調査を開始します』


◇ ◇ ◇

 

 ボナパルト公国は、太陽系で唯一の宇宙ステーション国家である。

火星軌道上、赤い惑星を見下ろす静止軌道に築かれた巨大宇宙都市と、

それに隣接する幾つもの産業コロニー。

その繁栄は、

火星地下に眠っていたダンジョンと共にあると言っても過言ではない。


古代異星文明に遺棄されたダンジョン――それが火星に幾つも存在する。

ダンジョンでのみ採掘可能な豊富な鉱物資源。

今も使用可能な古代の設備、その高度なテクノロジー。


これまで三度にわたる発見と探査発掘が、

ボナパルト公国にロストテクノロジーの獲得と鉱物資源という、

大きな外交アドバンテージをもたらしたのだ。

 

◇ ◇ ◇


 ヴァロア大公は開会式、そして一回戦を観戦し終えると、

ホテル最上階の私室でマーズ4の初日調査報告を聞いた。

『まず、ダンジョンの規模ですが、

 過去最大のマーズ3と同等以上と推察します』


彼の口元が愉悦に歪む。

「そうか、それは大いに成果が期待できるな。では本日の報告を」

新たに任命された調査隊長が深々と一礼して報告を述べる。


『はい、ダンジョン一層目はドローン探索機により順調にマッピング中。

 人口重力が機能しており、ダンジョン内は極めて安定です。

 大気の固定化も良好、有害成分は全くありません。

 人工通路、段差構造あり、照明も機能しておりました』


「ふむ。部隊構成は充分か?」

『ABCの3チーム編成、24時間交替で調査を進めています。

 各チームには調査探索のスペシャリスト10人を選定。

 各人にサポート用アストロノイドが1名ずつ帯同しています』


この場面、アストロノイドはマスター登録された人間に対して絶対服従。

仕事の補佐は勿論、

マスターに代わって作業ドローンの指示制御の全てを仕切る。

トラブル時には護衛や戦闘、人命救護も任されるのだ。


『作業用ドローン歩兵が50体、カーゴドローン100機は現場に常駐、

入口付近にベースキャンプを設営しましたので、そこで全てを統轄します』

「分かった。リソース不足で停滞することは許さん。しっかり進めるように」

『はっ。次の定時連絡は15時間後、明日の昼頃で如何でしょうか?』

「それでいい。吉報を期待する」


◇ ◇ ◇

■(ヴァロワの回想:選抜戦2日目)

『報告します。

4時間前、Bチームに代わってCチームが第二層への進入を開始しました』

調査隊長の顔色がすぐれない。

何かあったのだろうか、ヴァロワは問いただす。

「何があった?」

 一拍の沈黙。

『第二層に続くと思われる扉を開けると、緩やかな斜面の通路が続いていました。

斜面をゆっくり下っていくと、突然、通信がロストしました』

Cチームがトラブルに巻き込まれたのだ。


『つい先ほど、カーゴドローン数機だけが帰還。

 ふ、負傷者を搬送していました。

 Cチームは帰還した負傷者6名、それ以外は死亡と思われます。

 その他は…アストロノイド、歩兵ドローンは全滅と予測します。

 現在、調査を一時中断し、Aチームを前倒しで準備させています』


ヴァロワの眉が僅かに動いた。

「原因は何だ?」

『は、はい。現場ログでは、

 地下二層へ向かう坂の途中で、大規模な落石トラップを確認。

 加えて――ストーンゴーレムの存在を確認。

 体長3メートルの巨大ヘビ型、巨大トカゲ型で、交戦記録もありました』


ホログラムに映し出される断片映像。

巨大な落下物。大きく振動する床。叫び声。

ヘビ型ゴーレムの巨大な尾がドローンを弾き飛ばす。

アストロノイドがマスターを庇ってトカゲ型ゴーレムの下敷きになる。

そこには緊急事態の惨劇が映し出されていた。


 ヴァロワはゆっくりと立ち上がった。

「ゴーレムか。稀だが前例はある」

 過去三度の発掘でも、防衛機構は存在した。ゆえに対処不能ではない。


「Aチームは一先ず待機だ。Cチームは人員補充を急げ」

ヴァロワ大公は調査部隊のケアを指示すと、最も肝心なことを命令する。


「ダンジョン内の敵性ゴーレムを一掃する。

 国防大臣を呼べ。対ゴーレム武器を導入。機動装甲部隊を編成。

 いいか、怯むな」

『は』宰相が一礼する

次の報告は明日の朝、そう命令すると、彼は一度通信を切った。


◇ ◇ ◇


午後のひととき。

ヴァロア大公は昨日の一回戦を、全試合無言で再生する。

宇宙軍、研究所のアストロノイドは想定通り。

高出力、堅実、良くも悪くも無難、平凡。

だが――

「民間アストロノイドが三体も準々決勝に進出……」

 アテナN3

 ヴァルキリーC9

 キャンサーγ2


特にアテナは、宇宙軍エースのレオと同じレベル。

芸術点の高さは、これまでの経歴が多様で豊富なことを伺わせた。

(応用が上手い、判断が早い、迷いがない……

 学習型か?それにしては完成度が異常だ)

通常AIの挙動ではない、そう直感した。

「明日の準々決勝、もし、民間が勝ち残れるなら一興だな」


◇ ◇ ◇

■(ヴァロワの回想:選抜戦3日目)

『おはようございます。大公殿下。

昨日から本日にかけてのマーズ4調査の進捗状況をご説明いたします』

「ああ、速報メッセージで大筋は理解している。

 要点だけを。

 つまり、ゴーレムは倒せるが時間がかかる。

 それが問題だな?」

『ご指摘のとおりです』

「対策は?」

『数で圧倒する以外ございません。

 各探索チームは、武装部隊で護衛します。

 ペースは落ちますが、これが最も安全確実。

 明日には本格的な攻略が可能です』

ふむ、そんなところか。ヴァロワは了承し、

ダンジョン全容の把握と攻略を迅速に進めるよう指示した。


◇ ◇ ◇


通信を終えると、ヴァロワは選抜戦会場へ赴く。

いつものVIP席に通されると、既に、注目の一人、アテナN3が

入場していた。


そして――

《試合終了! 7―0!》

《民間代表アテナN3!ストレート勝ちです!》

(ほう…これは宇宙軍の上位個体と同等以上か)


だが、驚くことはそれだけではなかった。


第二試合に登場したキャンサーγ2朧牡丹は鮮やかな逆転勝利。


そして、第四試合。

ヴァルキリーC9は僅差でヴァルゴΔ4に勝利する。


ヴァロワは今回出場している民間アストロノイドの性能に目を奪われる。

(宇宙軍や研究所を打ち負かすとは……素晴らしい!)

ヴァロワの胸中に強烈な印象を与えた民間アストロノイド三体。

彼女らが中心となってマーズ4を攻略するビジョンが鮮明に浮かんできた。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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