第4話(3)準決勝アテナvs朧牡丹
西暦2382年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
◇ ◇ ◇
■デレる牡丹とキレるアテナ
研究所チームがパレードさながらに場内を歩き、観客が大声援を送っている。
【チーム・ニアサイド】のメンバー全員でアテナにエールを送っている。
そこへ、対戦者サイドから、
準決勝第二試合でアテナと競う相手、キャンサーγ2・朧牡丹が近づいてきた。
(あ、牡丹さん?あぁ、次のアテナの相手。宣戦布告ってとこか)
ショーンはキャプテンとして、丁寧に挨拶しようと身構える。
チームメンバーにもショーンの緊張が伝わったのか、固唾を飲んで注目した。
ショーンは形式的な挨拶に留めておこうと、他人行儀に徹する。
「こ、こんにちは。キャンサーγ2さん、次は……」
「し、師匠。どうぞ、牡丹とお呼びくださいませ」
「「「え?」」」全員が驚き固まった。
「え?牡丹さん?師匠って……」
「はい、あなたの愛弟子を名乗らせていただいてます」
「はい?」
何のことか分からず、ショーンが動けないでいると、
「ショーン師匠!」
感極まったのか、牡丹は一気にショーンに詰め寄る。
ガシイッ!!
アテナがショーンの前に立ち塞がって、
近づいてくる牡丹を抑えるため腕を伸ばす。
反射的に牡丹も応戦。
結果、二人はプロレスで言う“ロックアップ”の体制になった。
ギリギリと押し合う二人。
「近寄らないでください、あなた、今なにをしようとしました?」
「私は敬愛する師匠に抱擁したいだけ。邪魔をしないでもらえますか?」
「そんなことは許可できません。この破廉恥ノイド!」
「何を言って!……ああ、あなたが……」
誰だったかしら?
一瞬考えて、牡丹は適当に言葉を繋ぐ。
「天然無茶の何でも屋メイド?」
ネットワークメディアに勝手に付けられたアテナのニックネーム、
【天衣無縫の万能プレミア】を盛大に弄られた。
いや、天然で言ってるのか。
「うっ、ぷぷぷ」横でオロオロと二人の様子を見ていたシャッテだったが、
あまりに酷い言い間違いがツボに入り、笑いを必死に堪えていた。
◇ ◇ ◇
「おい、あそこ!」
「え?」
「あれ!アテナと朧牡丹じゃない?」
これから対戦する民間アストロノイド2体が、
まさかの組み手を演じている事に観客の何人かが気づいた。
突然騒ぎ出す場内、あっという間に観客は騒然となる。
「二人とも、スタートだよ!」ショーンが止めに入って二人はようやく離れた。
■準決勝アテナvs朧牡丹
「さあ、準決勝第二試合は、なんと民間アストロノイド同士の激突です!」
第一試合の興奮冷めやらぬ中、次の試合がアナウンスされた。
「白のポーン、アテナN3と、黒のポーン、キャンサーγ2朧牡丹。
二人とも着座するなりお互いに睨み合っています!
まるで格闘ファイターが同士が、
試合前のセレモニーで見せるような緊張感が伝わってきます」
開始のファンファーレと同時に、場内の空気が張り詰めた。
3
2
1
スタート!
――次の瞬間、観客がどよめく。
両軍、陣形を組まない。
白も黒も、一直線に相手陣地へ向けて全軍を叩きつける。
「おおっとぉ!?これは布陣なしの総攻撃!両者KO狙いだぁ!」
盤面中央で白黒1000対1000が激突。金属音が連鎖し、
ポーンが火花を散らす。真正面の1対1では、牡丹の黒ポーンがわずかに押し勝つ。
ポーンへのバフの高さ、反応速度――黒が優勢だ。
「正面衝突は牡丹選手が強い!」
だがアテナは下がらない。
接敵直前にポジションを入れ替え、徐々に白ポーンを二体一組、三体一組へと小隊編成する。
側面から、背後から、一撃離脱のヒットアンドアウェイ。
「白が包む!単騎戦を避け、複数のポーンで連携しています。
10分経過。残り20分。
白は激しく動き回り、盤面の空白を塗り潰す。
アテナ――陣地20万、残ポーン800機。
牡丹――陣地15万、残ポーン950機。
「ポーン損失は白が多い!しかし陣地は白がリード!」
牡丹は歯噛みする。正面なら勝てる。ならば捕まえればいい。
黒ポーンが追撃を強める。
そこでアテナは動きを変えた。
白300機がわずかに遅れ、黒350機を誘うように後退する。
「逃げるのか!?」
だがそれは逃走ではなかった。
カイティング。
白は一定距離を保ちつつ空白地を通過する。
追う黒は陣地を取りにくくなった。
白は退きながら確実に陣地を増やす。
「白300機が誘導している!黒350機は振り回されています!」
観客が理解した瞬間、歓声が爆発した。
20分経過。残り10分。
アテナ陣地45万、残600機。
牡丹陣地25万、残850機。
解説が唸る。
「序盤はバトルロイヤルに応じると見せ、二対一、三対一を作って単体性能差を相殺。
中盤はカイティングで損失を抑えつつ陣地拡大。
作戦を段階的に変化させています」
制限時間残り3分。
牡丹はようやく、カイティング部隊を削り切った。
だが、獲得陣地は白のアテナが61万と、ついに過半数を獲得。
このままタイムアップなら牡丹の敗北である。
現在の残りポーン――白100機、黒400機。
「牡丹選手、勝つにはKOのみ!」
黒400機が白100機を包囲。牡丹は確信する。削り切れる。
その瞬間。
白ポーンが淡く輝いた。
「バフ発動」アテナが静かに指示を出す。
白ポーンの体力、防御が跳ね上がる。
黒の猛攻が――通らない。
「なにぃ!?」
実況が裏返る。黒の攻撃エフェクトが弾かれ、ダメージ表示が出ない。
アテナは静かに盤面を見ていた。
カイティング中に収集した攻防データ。黒の最大攻撃値、持続時間。
これまで防御バフを使わずに。切り札として温存していたのだ。
「なんと、アテナ選手、ここまでバフ無しで上手く凌いでいた!」
時間が削れる。
黒は必死に叩くが、白は崩れない。
カウントダウン。
3
2
1――
タイムアップ。
白ポーン40機残存。
獲得陣地、圧倒的白優勢。
「勝者、アテナ選手!」
歓声の中、牡丹は盤面を見つめる。
正面では勝っていた。だが、戦場全体では翻弄されていた。
アテナは一礼する。
怒気はない。ただ静かな勝利。
準決勝第二試合は、知略が猛攻を制した一戦として、深く刻まれた。
◇ ◇ ◇
控室は静まり返っていた。
大型モニターには、試合終了直前の盤面が静止している。
黒400機が白100機を包囲し、猛攻を加える瞬間。
牡丹は椅子に腰掛けたまま、その映像を何度も巻き戻す。
「……捕まえていた」
指先で停止。拡大。数値を確認。
攻撃値、ヒット回数、削り効率――理論上は落とせた。
「違う。捕まえ“させられた”」
小さく吐き捨てる。
序盤、単体性能では優位だった。
真正面の1対1なら押し切れていた。
だが白は単騎戦を避け、二対一、三対一を徹底。自分の土俵を作らせない。
「私は……勝てる局面を“選ばされた”」
カイティングの映像に切り替わる。
黒350機が白300機を追い続ける。追えば追うほど陣地差が開く。
「あの時点で、分断を切るべきだった」
深追いせず、主力を引き締めて中央制圧に切り替える選択肢はあった。
だが――
陣地差。観客の歓声。
白が逃げているように見えた。優勢だと錯覚した。
そしてラスト3分。
逃げ回る白300機を殲滅した瞬間、
「……あそこで私は勝った気になった」
それが最大の敗因。
アテナは勝利条件を最後まで計算していた。
自分は「殲滅できるか」に思考が寄っていた。
牡丹はゆっくり立ち上がる。
モニターの前に立ち、静止画のアテナ陣地61万を見つめる。
ふと、内部システムログが更新されていることに気づいた。
自己鍛錬(絆)因子:
準決勝敗戦後
優先1:ショーン・マクスヴェイン(師匠設定)
優先2:アテナN3(ライバル設定)
優先3: モモ・トーヤマ(祖母設定)
やはり、そうなりましたか。
牡丹はかつて無い感情、闘争心に目覚めたことを自覚した。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




