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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第二章 アストロクイーン選抜戦
44/47

第4話(2)準決勝、それはサウザンドポーン

西暦2382年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。

■準決勝サウザンドポーン

「さあ、本日はいよいよ準決勝2試合が行われます。

 そして更に、午後からは決勝戦が行われるのです!

 準決勝の競技種目は、大方の予想を裏切り、

 なんと『サウザンドポーン』です!」


大きなスクリーンに『サウザンドポーン』が表示されると

観客は一瞬どよめき、やがて大歓声へと変わった。


「これまでの決勝種目が、今回は準決勝ですよ、皆さん!

いったい決勝戦はどうなるのか、想像すら出来ませんね!」

盛り上げ役、実況のピーター氏は今日も絶好調だ。


「ここで『サウザンドポーン』のおさらいです。

 これは、縦1200マスx横1000マス、

 合計120万マスの平面フィールドで繰り広げられる、陣取り合戦。

 互いの持ち駒は1マスずつ進むコマ、ポーンのみ。

 白と黒、それぞれ1000体が持ち駒となります」


「しかーし!

 この競技の特徴は、交互に差し手を打つのではなく、

 競技者の処理能力が許す限り、どんどん動かして良いのです!

 すなわち、『サウザンドポーン』は、頭脳戦というよりも、

 より多くのポーンを、より素早く動かした方が有利になるという

 まさに、集団バトルなのです!」


「空白地はポーンが通過すればプレイヤーの陣地となり、

 しかも、そこで確定です。

 後から来ても陣地が変わることはありません。 

 隣り合ったポーンは自動戦闘になります。先に体力がゼロになると負け、

 そのポーンは盤面から取り除かれて復活しません」


「そして、ポーンは基本全て同じ能力ですが、競技者の力量に応じてバフを付与できます。

 体力、攻撃力、防御力、スピード、それぞれを最大2倍に上げることが可能。

 このバフをどう使うかも大変重要です」


「勝利条件もシンプル!制限時間30分で獲得陣地の多い方が勝利。

 また、獲得陣地が大差でポーン戦力差もつくとAI審判がTKO勝ちを宣言。

 そして更に、相手のポーンを全滅させると陣地数に関係なくKO勝ちです」


「まあ、細かいルールはともかく、勝敗は獲得した陣地の数。

 隣り合ったポーンは戦闘でつぶし合っていく。

 アストロノイドの能力が高いほど、ポーンを多く、速く動かせる

 更にバフでポーンが強くなる(体力、攻撃力、防御力、スピード)

 という話ですな」

解説のコサック氏がさらっとまとめた。


◇ ◇ ◇

■レオvsルキ

準決勝第一試合は、宇宙軍のレオΘ0と民間のヴァルキリーC9だ。

一二星座アストロノイド、獅子座のレオΘ0が、白色の制御シートに着座する。

それを見て、ヴァルキリーC9、ルキは黒色のシートに着座。


レオは低く結い上げた金のメッシュが艶やかなオレンジの長髪を揺らし、

初期設定を進めていく。

金色の瞳が静かにモニターを見つめ、少し鋭い視線でルキを見る。

(すいぶんと設定が遅いですね。何か思考しているのでしょうか)


ルキは、当然ながら初めてやる競技だ。

これまでと同様、少し前にルールと操作方法をインストールし、

チュートリアルを少しやった程度だった。


ルキちゃんはとってもデキる子、シャッテから応援

相手は格上だからいっぱい教えてもらえるね、とショーンから激励

見て覚えて真似て、そこから一歩アレンジ、とアテナから助言


ルキは、レオをじっと見る。

高い身長、鍛え上げられたしなやかな体躯

ふと、レオと視線が合った。

思わず口走る。

「これ……楽しい?」


シンプルで奥が深い問いかけ。

レオは一瞬答えに詰まる。

「楽しいとかは分かりませんけど、勝てば評価されますね」

「……そう」

「ところで、あなたはさっきから何を考えているのです?」

「ルキは、初めてだから遅いだけ」


初めて?ああ、こういう大舞台がということですか。

レオは何となく合点がいった。

民間ではこういうところは初めてでも仕方がないですね。

「けど、後で追いつくから」

「?……そうですか」


ファンファーレが奏でられ、カウントダウン。

スタート!


レオ陣営の白いポーン先頭300機が一気に大きく前進する。

少し遅れて、中盤の300機がゆっくり前進。

残った400機がバラバラと自陣の周辺空白地を白く塗り潰していく。


「レオ選手、1000機を前衛、中衛、後衛の三つに分け、

効率良く陣地を獲得していきます」

「おおーっと、更に!」

レオの前衛が左右と中央、100機ずつ三つに分かれ、

中衛も三つに分かれる。


ここで解説 のコサック氏が指摘する。

「レオ選手はサッカーで言うところの4−3−3フォーメーションですね。

自陣を厚くしてフィールド全体をバランス良く押さえる布陣です。

TKO勝ちも狙える理想的な進め方です」


これに対して、ルキは前衛200機、中衛300機、後衛500機で

全体をゆっくり前進させる。

「ヴァルキリーC9ことルキ選手はゆっくりと全体を進めております。

 後衛が多く、やや消極的でしょうか」


試合時間10分経過。

ここまでルキは20万の陣地を黒く塗り潰したが、レオはその倍、

40万を白色で獲得していた。

ここで状況が大きく動き出す。


「さあ、レオ選手の前衛ポーン300機が、

 一気にセンターラインを越えて、ルキ選手側の陣地を獲得し始めます」

「レオ選手は自陣側60万の3分の2を既に獲得しましからね。

 当然、快勝を狙って相手陣地を取りに行く訳です」


「おおーっと、ここで前衛同士のぶつかり合いか?」

レオ前衛300機が大きく前進、ルキ前衛200機に襲いかかる。

「みんな、避けて!」

ルキ前衛200機はレオのポーンをするりと躱して前進を続けた。

自然と、レオ前衛300機はルキ中衛300機と対峙する。


ガガガッ!ポーン同士の激しいバトル。

ルキの中衛300機は体力が半分を切り、ロストギリギリになる。


「今!」


通り過ぎたはずのルキ前衛200機が反転。

黒の奔流が白300機の背後へ滑り込む。


「な?!」

レオの瞳がわずかに揺れる。


次の瞬間。


ルキの後衛500機が一斉加速して、レオ前衛300にバトルを挑む。

その隙にボロボロの中衛300機は、スルスルと後退した。


「ルキ選手の見事な部隊操作!

 消耗した中衛とポジションを入れ替え後衛がレオ前衛に襲いかかります」

だが、それだけではなかったのだ。

後衛500機は左右100機ずつが伸びて鶴翼の陣を作る。

加えて、前衛200機も薄く隊列を伸ばして、レオ部隊の退路を塞いだ。


「ほ、包囲されたぁぁぁぁ!!」

観客席が一瞬静まり――爆発的歓声。


「ああーっと!

 レオ選手の前衛300機が、ルキ選手700機に包囲されました!」


ガガガガガッ!!

金属音が炸裂し、白と黒のポーンが火花を散らして衝突する。

体力ゲージが一斉に削れ、いくつかの駒が赤く点滅――


「次々とポーンのロスト確認!これは激しい!」

黒いポーンとそれ以上の白いポーンが光の粒となって弾け飛ぶ。


「うおおおおお!」

観客席が一気に沸いた。


実力者のレオだが、300機が700機に完全包囲されると厳しかった。

激しい激突の結果、数分でレオ前衛300機はオールロスト、

ルキ機700機は200機ロスト。

「これは凄い!ルキ選手が残りポーン800機、

 レオ選手は700機になりました!

 試合時間15分経過、これは壮絶な展開だ!」


◇ ◇ ◇


レオは後方での陣地獲得を切り上げ、その400機を大きく前進させる。

フィールド中央で中衛と合流させて、全700機で大きな紡錘陣形を整えた。


一方、ルキは、800機で横長の台形陣を自陣近くで布陣した。


既に20分が経過、残り10分。

獲得陣地はルキ38万に対してレオ55万

依然としてレオ優勢であった。

レオの方が陣地を獲得し、数的不利も問題ないように思われた。

だが、

(やられた借りは返さないと、ですね)


レオ700機が紡錘陣形で中央をガンガン進み、ルキ布陣へ迫ってきた。

「レオ選手の紡錘陣形は突撃向き、強固で圧も高い!

 これは流石に、ルキ選手は分断され押しつぶされるかぁー?」

レオとルキ、双方の部隊が肉薄する。

互いにぶつかり合い、再びポーン同士の戦闘。

ルキの台形陣はレオの紡錘陣に突っ込まれ、真っ二つに分断された。


(やりました。先ほどは見事誘い込まれましたが、

 今回は上手くいきましたね……え?)

だが、真っ二つにされたルキの部隊は合計800機のまま、ロストしなかった。

(わざと二つに分かれた?)


左右に400機ずつ分かれた黒の軍勢が、急速にサイドに移動する。

観客席がざわつく。

「え?分断されたんじゃ……?」

「終わりだろ?」


しかし。

左右に分かれた400機が、それぞれのフィールドサイドをどんどん前進した。

一斉加速、急速前進。

黒のポーンが、フィールド両サイドの空地を黒く染め上げて駆け上がった。


実況が一瞬止まる。


「……あ」

観客の何人かが立ち上がる。

「そっちか!!」


ドオオオオオオオ!!

スタンドが揺れる。

「端を総取りだ!」

「中央は囮だったのか!」


解説のコサック氏もしばし言葉を失ったが、ハッと我に返っ解説する。

「これは……レオの中央突破分断を逆手に取りましたね。

 フィールド両端には空白地が大量に残っていました。

 鮮やかな逆転の一手です」


レオは小部隊に編成し、

薄く横に伸びたルキ部隊を後方から猛追する。

レオ部隊が物凄いスピードで追いついてくる。

時間と共にルキ部隊は徐々に数を減らしていった。


残り時間5分。

獲得陣地はルキ58万に対してレオ57万

遂にルキが逆転した。


◇ ◇ ◇


ルキは両サイドの空白地をほとんど平らげると、

全軍を分散させて、細かな取りこぼしの回収に専念する。

「ああーっと、ここでルキ選手は逃げ切り体勢だ。

 残り時間5分。

 残っている空白地は5万、ですが、

 フィールド全体に細かく点在していますので、一度の大量獲得は難しいぞ~」


ピーター氏の実況で、会場の熱気は最高潮に。

「残り時間3分を切りました!

 逃げ切るか、ルキ選手、仕留めるか、レオ選手!」


互いのポーンがぶつかり合い、両軍ともに消耗していく。

空白地の獲得数はレオが追い上げカウンターが刻々と積み上がる。

57万5000

58万7000

59万――


観客が数字を叫び始める。

制限時間あと一分。

ルキとレオ、共に部隊を散開させてスコアの上乗せを図る。


そして。

「ああーっと!ここでタイムアップです!終了です!」

どよめく大観衆。

「獲得スコアは、

 ルキ選手が59万7000

 レオ選手が60万1000!

 大接戦の末、レオ選手のギリギリ再逆転勝利です!」


沸き起こる大歓声。

(結果はともかく、内容は完敗です)

不甲斐ないとレオは思ったが、ふと横を見ると、

負けたはずなのに、自分のチームに手を振っているルキがいた。

レオはつい、色々と言葉を交わした。


数分後――


「……そうですか。今日が初めてですか」

「だからスタート直後は動きがぎこちなかったのですね」

「あの戦術はどうやって?――ゲームから応用した、と?」

レオは一瞬、目を細めた。


「そう。ルキのママ、ゲーム得意だよ。ルキはいつも負ける。

 ……レオはみんなとゲームして遊ばないの?」


少しの沈黙。

ルキの素朴な疑問に驚き戸惑うレオ。

(遊ぶ?ゲーム?それは生産的ではありませんね。

 だが何故でしょう。

 その言葉に惹かれます)


そして――

突然、肩を震わせる。

「ふふふ……それで、あそこまで来るとは」

普段ほとんど笑わない彼女が、無邪気な子供のように笑った。


「レオ、楽しかったね」

ルキがレオを見て微笑む。


「そうか……ええ、そうですね。これが楽しい、なんですね。

 ルキ、今度そのゲームを教えてください」

「ん、じゃあ一緒に遊ぼ」

「はい、一緒に」


こうして、準決勝第一試合はレオの辛勝に終わったのだった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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