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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第二章 アストロクイーン選抜戦
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第4話(1)準決勝前日

西暦2382年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。

昨日の準々決勝で民間アストロノイドが3名共に勝ち上がった。

今日は休養日。

明日の準決勝を前のひととき。

これはそんなお話である。


◇ ◇ ◇

■リズ先生

「……悪くない額だな」

ブリット・コバーンは、傍らに立つ秘書ヒューマノイドのリズA3へ、

無造作にメッセージ端末を放る。

「俺の分も合わせて、シャッテ嬢に渡して来い。

怖い思いをさせちまったからな。

せめてこれくらいはしておきたい」


リズはショーンやシャッテ達の滞在するホテルを訪問した。

重力制御の行き届いた静かなロビーを抜け、

リズはシャッテ達の泊まるロイヤルスイートルームを訪ねる。

ドアが開くと、顔を出したのはシャッテ本人だった。

「シャッテさん、先日はご苦労様でした。

 それと明日はヴァルキリーC9さんが準決勝ですね。

 応援します。」

「リズちゃん、いらっしゃい。

 ありがとう。

 こっちこそ危ないところを感謝してます」


シャッテはリズを部屋へ通すと、【チーム・ニアサイド】を紹介する。

まず、メイドアテナや、ルキことヴァルキリーC9を紹介。

そして、ショーンのことを、

「未来のだんな様よ!」と言いかけるが、

アテナの視線にビクッとして、

「未来のだ…大英雄よ!」と、誤魔化して事なきを得た。


「連絡を差し上げた通り、例の襲撃者たちは、

 海賊ファミリーの一味でした。

 こちらがその報奨金です。

 コバーン様が代表して受け取りましたので、

 受け取りのサインは不要です」


相当な金額が提示されていた

シャッテが感謝と了承の意思を伝えると、リズはすぐ送金した。

「どうぞご確認下さい」

「ありがとう。でも海賊退治って、実は美味しいのかしら」

「あまりお勧めしませんね」

「今回はとてもレアなケースです。

 普通は仲間が報復に来ると思ってください」


リズはメンバー全員に、

昨日起こった大規模海賊狩りについて情報を提供する。

「実は、ルナロンド周辺で略奪や強盗が多発していたのですが、

 昨日、準々決勝の朝早く、犯人グループのアジトが発見されたのです。

 すぐに大規模な討伐部隊を編成され、大規模掃討戦が行われました。

 犯人は海賊ファミリーで、主犯格の幹部ハーミットとその部下、

 400人を逮捕しております」


「それは凄い数ですね。突入部隊の皆さんは大丈夫だったのですか?」

横で聞いていたショーンが質問する。

「ご心配くださり恐縮です。実は宇宙軍の方にご支援いただきまして、

 アジトの防衛システムを無効化できておりました。

 突入部隊の被害は極めて軽微だったと伺ってます」

「それは良かった」


なるほど、それで忙しいゴーツさんがここに来ていたんだな。

ショーンは一人納得した。

「アストロクイーン選抜戦の最中ですから、宇宙軍としても

 盛り上がりムードに水を差す行為は容認できなかったのでしょう」


「シャッテ様、一つ注意点がございます」

「え?何かしら」

「襲撃のリーダー、海賊ジェッドだけは、未だに逃走中なのです」

シャッテはショーンの袖をキュッと掴む。

「彼の消息はこちらで継続しておりますが、今後ともご注意ください。


そう言うとリズは、メイドアテナが淹れた紅茶を口にした。

それを見ていたアテナは、ほぅと感嘆する。

「リズさん、とても所作が優雅ですね。」


その時、ルキが一歩近づき、リズの姿勢や立ち居振る舞いをじっと観察する。

「ままシャより、動きが優雅」

「ちょっとルキちゃん!ひどくない?(ショーンがいるのにぃ)」

だが、ルキの評価は止まらない。

「歩き方、綺麗。話し方、丁寧。色々無駄がない。どうやるの?」

唐突で横柄な問いかけだった。

それに対して、リズは立ち上がると、見本を示して丁寧に答えを返す。

「ルキさん、基本は三つです。

 姿勢、動作と動作の間、視線。

 まず背筋を伸ばし、顎を引き、相手の目を正面から捉える」


ルキはその場で真似をする。

ぎこちないが、飲み込みは早い。

「あれ?……なんか、ルキちゃんが大人に見える」

シャッテが小さくつぶやく。


「行儀作法と事務能力は、秘書の社会的戦闘力ですから」

社交界の挨拶でポピュラーなポーズを見せるリズ。

「アストロクイーン選抜戦に出場するあなたにとって、

 決して無駄ではないでしょう」

ルキはそのポーズも真似て見せる。

(あら、ルキさんはとても飲み込みが速いのですね)

リズはルキの学習能力の高さに少し驚いた。


このやり取りを見ていたショーンは、リズに向かって頼みごとをする。

「リズさん、ルキ、ヴァルキリーC9は再生アストロなのですが

 基本スペックが高く、まだまだ成長することが可能です。

 良かったら、今後、定期的に色々と教えて頂けますか?」


「ショーン様。過分な申し出を頂き恐縮いたしますわ。

 実は、我が主人から、

 期待の新人【チームニアサイド】と、

 より良い関係を結ぶよう指示を受けております。

 正式な業務契約、という形は如何でしょうか?」

ショーンは二つ返事で同意した。


◇ ◇ ◇


さっそくリズが契約書を作成、契約成立となった。

一連の流れを、またもやルキはジッと見て学ぶ。

シャッテが苦笑する。

「なんか、ルキちゃん、お弟子さんだね……」

アテナは静かに告げた。

「良い機会です。この際、シャッテさんも教わりなさい」

「ええ?何言ってんのよ、アテにゃん!」


リズは、“これは機会が巡って来ましたわ”と、賛同を示した。

「わたくしには、お客様を優雅におもてなしするシャッテ様と

 それを傍で見て惚れ直す、未来のだんな様が目に浮かびますわ」

殺し文句であった。

「!…わたしもやる。よろしくね、リズ先生!」

「リズ先生、ルキにもよろしくして」


「わかりました。お二人とも、今後ともよろしくお願いいたします」

答えたリズは、自身のデータベースをこっそり更新した。

例の極秘ミッションに進展あり。

『次の主人となる彼女と、そのアストロノイドを

 トップレディとして磨き上げる。

 本日更新。

 二人の先生になりました。第一段階完了』


◇ ◇ ◇

■傭兵チャールズ・ブロンクス

リズが事務所を出ていったあと、

ブリット・コバーンは、一人の男と会っていた。

「チャールズ、まだ傭兵やってたんだな」

男の名はチャールズ・ブロンクス。

2メートルを超す頑強な体躯、ボサボサのショートヘア。

大きくゴツゴツした手は、片手で敵兵の首を絞め上げたこともある。

彼は傭兵だった。

50年以上、あらゆる戦場を戦い、生き残ってきた。


「ああ……これしか出来ないからな……あの秘書はいないのか?」

「お前と会うから外出させた」

「ああ……裏の仕事か」

「そういうこと。聞かせる必要はねえ」


コバーンはカード型の端末を渡す。

「これで連絡してくれ。こっちからも情報を渡す」

「ああ……それで標的は?」

「海賊ファミリーのジェッド、本名バレンティーノ」


チャールズ・ブロンクスの太い眉がピクリと動いた。

「ああ?……小物じゃねえか」

「泳がせている。背後のボスまで、組織まるごと頼む」

「ああ……デカいな。報酬は?」

「前金を入れといた。依頼達成時にその3倍」


振り込まれた金額を確認しチャールズは少し驚いた。

「ああ?……いいのか?」

「……」

「ああ……弟の絡みか」

「それは聞くな」

「ああ……わかった、すべてオーケーだ」


「もう一つ」

コバーンは活発そうな女性のホログラムを見せた。

「この娘を、俺は全力で保護すると決めた。覚えていてくれ」

「ああ?……ああ……見つけたのか」

「……」

「ああ?……無視かよ……」

「俺と違って全然汚れちゃいねえ、俺に何かあったら頼む」

 チャールズ・ブロンクスは、

了解した、とでも言わんばかりに、手を上げて部屋を出て行った。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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