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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第二章 アストロクイーン選抜戦
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第3話(2)準々決勝の朝 

西暦2382年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。

■チーム・ニアサイドの朝

6時を告げる時計の音で、ショーンは二日ぶりに目を覚ました。

すぐ横には、二日続きで寝ずの看病をしていたメイド・アテナ。

「だんなさま……おはようございます。」

  「……おはよう」

「ご気分はいかがですか?どこか痛みなどございませんか?」

  「ん?あぁ……俺、熱出てふらふらしてた。

   ごめんアテナ、ありがとう」

「どんでもございません。

 それより、まずはバイタルチェックいたしますね」

アテナは何事もなかったように、いつもの日常ルーティンをこなす。


少しして、気配を察知したのか、ルキがひょこっと顔を覗かせる。

「ショーン、起きた?」

  「ああ、ルキ、おはよう」

「ん。ままシャ、呼ぶ」


パタパタパタパタ!


「ショーン!おっはよー!元気になった?」

シャッテが勢いよく飛び込んで来て、部屋は一気に賑やかに。


「シャッテさん、少しお静かに」

「あー!アテにゃん、ショーンにべったりくっついて!ずるい!」

「これはバイタルチェックと、パルスマッサージを施しているだけです」

「ヒ-リング作用です。そして役得です。

 そうそう。

 ルキ?昨日教えたようにマッサージを」

「ん。ままシャ?

 ルキが膝枕、するよ?」

「え!ルキちゃんマッサージ出来るの?」

3分後、シャッテはルキの膝枕で至福のマッサージを受けて蕩けていた。


ホテルの豪華なモーニングが部屋に運ばれ、

ドリンクサーバーをワゴンを運んで来た給仕担当が、

その傍らでじっと出番を待つ。

「そういえば!

 ねえ、ショーン?」

シャッテはショーンに告げ口する。

「アテにゃんてば、

 今日あなたが目覚めなかったら、

 準々決勝は棄権するって言ってたのよ?」

「当然です。私の最優先事項はキャプテンの安全と健康ですから」


ショーンに関して、いつもアテナはぶれない。

「そうか、今日はもう準々決勝なんだね……

 競技内容は公開された?」

「はい、サーティーンフラッグスです」

「そっか~、じゃあ今日の観客は大声援かもね」


「サーティーンフラッグスって有名なんだ?知らなかった」

「シャッテさんはご存じありませんか?人気競技ですよ」


アストロクイーン選抜戦以外でも、毎年定期的に開催されている、

スポーツ競技のようなものだという。


◇ ◇ ◇


「ルキ、ルール教えて欲しい」

「それでは、ルールと勝利条件を説明しますね」

アテナは丁寧に説明する。


アテナは一度、表示されている競技概要にさっと確認してから、

ルキへと向き直った。


「まず、使用するのは小型宇宙船です。

 機体は全員同一仕様で、大会側が用意します。性能差はありません」

 そう前置きして、指先で空間投影されたマップを示す。


「競技エリアは、ルナロンドのドーム外。

 直径5キロの球形空間に、

 小惑星が100個、ランダムに配置されています。

 この空間自体も大会が用意したものですね」


 小惑星帯の全体像が拡大され、二つのポイントが点灯した。

「スタート地点はイーストゲートとウエストゲエート。

 競技者は分かれてスタンバイします。

 双方、同時に出発します」

 次に、アテナはフラッグのアイコンを表示する。


「小惑星のいくつかには、フラッグが設置されています。

 全部で十三本。

 探知技術を使って、どこにあるかを見つけ、回収するのが基本ルールです」


 ここで一拍、わざと間を置いた。


「……ただし、この競技が人気なのは、

 それだけではないからです」


 ルキの視線を確認してから、アテナは続ける。

「サーティーンフラッグスでは、

 相手への攻撃や妨害が、明確にルールで認められています」


 淡々とした声で、しかし内容は物騒だ。

「船体をぶつける。

 進路を塞いで、小惑星との衝突に誘導する。

 あるいは、自分のスキルで、相手の船にダメージを与える」

 すぐに補足する。

「武器や装備は一切の持ち込みと使用が禁止されています。

 ですが、それ以外の手段は、かなり自由度が高いですね」


アテナはグッと力こぶを見せて、

「たとえば、パワーに任せて相手の宇宙船エンジンを殴って壊す、

 これはオーケー。

 逆に、相手本人への直接攻撃は禁止、即負けとなります」

「うわ、アテにゃん絶対やりそーじゃない?」

「シャッテさん?それはどういう意味です?」


ショーンの「キミたち仲がいいね」的な、

ほっこり視線に気づき、

アテナはコホンと間を置いて、肝心の勝利条件を一つずつ示していく。


「勝利条件は、次のいずれかです」

 表示が切り替わる。

「一つ目。

 フラッグを7本、先に回収すること。

 次に。

「二つ目。

 相手を船から落とすこと」

 ルキが反応する前に、三つ目を続ける。

「そして三つ目。

 相手の船を航行不能にすること。

 例えば、エンジン・スラスターを破壊するなどですね」


 すべてを示し終え、アテナは静かに締めくくった。


「一見すると、フラッグを集めるだけのシンプルな競技に見えます。

 ですが、勝利条件が示す通り、

 相手をどう妨害し、どう追い詰めるか、

 というバトル要素こそが、この競技の本質です」


 そして、わずかに微笑む。

「フラッグ重視でいくか。

 妨害で相手を潰しにいくか。

 あるいは、その両立か」

「どのプランで勝利を目指すか――

 そこに、選手それぞれの個性がはっきり表れる競技なんですよ」


「どう?ルキちゃん、分かった?」

「ん……その勝利条件だと同時があり得る」

 アテナは、我が意を得たり、とルキを褒める。

「ルキ、その通りです。

 ちゃんと理解している証拠ですね」


「例えば、自分の宇宙船が大破したと同時に、相手が船から落下。

 この場合は審判団がビデオチェックで判定します」

「本当に同時ならば両者ドロー。

 そこまでの獲得フラッグが多い方が判定勝ちです」


ルキが理解した、と頷く。

「もう一つ、忘れてはいけないこと。

 フラッグ7本獲得、これは最優先の勝利条件です。

 例えば宇宙船が大破して負けそうでも、

 判定が確定する前ならば、

 フラッグを7本集めれば逆転勝利となります」


「なんか逆転勝利って、激アツよね!」

なにやらフラグらしき言葉をかけるシャッテだった。


◇ ◇ ◇

■宇宙軍チーム ブリーフィングルーム

「それでは、本日の準々決勝に向けて、

 キミ達の対戦相手を確認し、

 どのような戦術で対戦するか私に説明してもらいたい」


今回の選抜戦宇宙軍チームを率いるのはオッペンハイマー大佐。


7人を本戦に送り込みながら、

一回戦突破は3人と不本意な結果を嘆いている。


「まずは、シュプリンガーν6。

 相手はあのキャンサーγ2だ。

 今回から民間予選が追加すると聞いて、

 キミ達も真っ先に思い浮かべた相手。

 一二星座アストロノイドの一人だが、どうかね?」

「はい、彼女につきましては……」


シュプリンガーν6が話し出す中、

ゆっくりとドアが開いて、ユル・ブリン少将と、

その後ろから、アストロノイド・レオΘ0が入室した。


「閣下、私はこれにて失礼します」

レオは一礼して、チームスタッフ達の輪に合流した。


審査員でもあるユル・ブリン少将は、

この場ではオブザーバーとして参加。

第三者の視点で傍聴、状況把握と中立的な助言役として立ち回る。


そのはずだが、圧力が半端ない。

彼は終始腕組みをして全体を見渡すだけだが、

与える緊張感は想像を絶する。

とは言え、アストロノイドの彼女らには、緊張感など無縁ではあるが。

「遅れてすまない。続けてくれ」


シュプリンガーν6は一礼して、話を続ける。


その最中、

オッペンハイマー大佐が静々とユル・ブリン少将に近づいて耳打ちする。

「少将閣下。レオΘ0ですが……」

「大佐、緊急任務を受け入れてくれて感謝する」

「は、はい。彼女なら大会の合間でも充分にご期待に応えたことでしょう」

「うむ、その通りだった」


シュプリンガーν6は型通りの傾向と対策を述べ、再び一礼した。

(悪くないが独創性はない)

ユル・ブリンは、じっと考えるるだけだった。


「それでは、次にセンチュリオンβ1。

 キミの相手は民間代表、1回戦2位のアテナN3だ。

 相手の分析結果と対策を述べてくれ」


「はい、アテナN3は大会当初からメディア露出が多く、

 また、宇宙軍との共同作戦参加など、

 非常に話題性のあるアストロノイドです」


「型式は古く、4世代ほど前。

 始めは一般普及型と誤認されていましたが、

 再調査の結果、完全なオリジナル設計、

 しかも個人による手作り生産機であることが判明しています。

 識別コードも普及機のNではなく、開発者の名前由来でした」


「彼女の得意技は手足に仕込んだ高周波ブレードと高周波インパクト。

 軍用ではなく、

 医療用デバイスをチューンアップして高出力にしています」


ユル・ブリンがピクリと眉を動かして反応した。

「センチュリオンβ1、それらの情報から

 どのようなスペックが考えられるかね?……と、すまない大佐」

彼はつい質問してしまった。


「いえ、小官も同じ質問を考えておりました。

 センチュリオン、少将閣下の質問に速やかな回答を」


「はい、あの年代では現行世代にも遠く及ばない筈なのですが、

 これまで蓄積した戦闘ログからは、

 一二星座アストロノイドに準ずるスペックと

 言わざるを得ません」


「すると、前オーナーの故アレックス・マクスヴェイン氏が、

 その都度、最新性能にアップデートしていたと?」


「はい、民間アストロノイドの長所は、

 その職種と経歴の多様さに加えて、

 様々なパーツを組み換える自由度です。

 これらの後改造が、スペックを大幅に底上げしていると分析します」


「それでは、本日のサーティーンフラッグスでは、

 どのように立ち回る予定かね?」

「はい、露出が多いのが彼女の弱みです。

 既に性能データは数値化出来ており、

 一回戦で見せた彼女のログから、行動パターンを予測して……」


傾向と対策が論じられる中、

ユル・ブリンは、一回戦のアテナの行動を思い返していた。


あのアストロノイドは、出番前の他者の演技を見ながら、

  何かを考えて、

  何かをインストールしているように見えた。

彼にはその所作が、アストロノイドとはとても見えなかった。


誰にも聞こえないように呟く。

(先ほどの後改造の話。もしも、あのアストロノイド自身が、

 自ら進んで行っているとしたら?

 さっきの医療用デバイスも、

 必要に迫られて戦闘対応型へ組み替えたのだとしたら?

 そしてそれは――今、この瞬間にも……?)


彼は予測する。

(もしも自ら成長する事が出来るアストロノイドならば、

 今日の彼女は圧勝する可能性がある)


ブリーフィングが終わるまで彼の思考は止まらなかった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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