第1話(4)
成人となり宇宙船とアストロノイド・アテナを祖父から相続したショーンは、憧れの職業”宇宙探索者”の資格を取得すべく、宇宙探索者ギルド・ルナトキオ支部を訪れた。
――講習は、動画とナレーションで30分ほどだった。
オープニングは宇宙開拓の歴史。
月面最初の”100人基地”が、わずか80年で”100万人都市”に。
その発展の歴史を、ドラマチックに魅せてくれた。
続いて【宇宙探索者ギルド】の歴史。
活発化する交易航路の整備、月面都市間鉄道の敷設工事、
9つの月面都市と24基の宇宙コロニー建設事業、
次々とギルドの成果が語られる。
……来たぁ!
ショーンのお気に入りの場面。
第一次火星探索、
その最大の功績は、
地下に巨大迷宮を発見したこと。
その記念写真に、”どんなもんじゃい!”
と言わんばかりに、ガッツポーズを決める男……
若きアレックス・マクスヴェインの姿が映し出される。
(ふふ……お祖父ちゃん、ここで同じポーズするから、
周りの人クスクスしてたっけ)
子供の頃に頼んで何回も見に来た……
豪快に笑いながらも、少し照れていた祖父の横顔、
親指を立てて、二人で笑い合った記憶が蘇る。
だが――
時代は進む。
今から6年前の2375年
第一次木星探索、遠征部隊
全滅。
死亡者名簿が早送りで流れる。
”S級探索者ダイ・マクスヴェイン”
そして、
”ニア・ヴェイン博士”
忘れられない二人の名前を嫌でも見つけてしまう。
(お父さん……お姉ちゃん……)
忘れ難い想い出がフラッシュバックした……
それは、聞きたくなかった歴史だった。
ショーンは俯き、拳を握りしめていた。
◇ ◇ ◇
「――はい、これで登録完了です。
キャプテン・ショーン・マクスヴェイン」
スタッフの声が現実に引き戻す。
「これであなたは宇宙探索者です。
ランクはE級スタートとなります」
写真付きのギルドIDカードを受け取り、
表記を確認して胸ポケットへ。
胸が、熱くなる。
……だが、その瞬間。
(あいつ、16歳だってよ)
(船とアストロノイド持ち? どんなコネだ……)
ざわめきが、耳に刺さる。
(……今日は、早く帰ったほうがいいかもな)
ショーンの胸に、
小さな、
――しかし確かな、不吉な予感が芽生えていた。
◇ ◇ ◇
ギルドを出た、その瞬間だった。
ショーンは、
四方からゆっくりと距離を詰めてくる人影に気づいた。
(……やっぱり、か)
胸の奥に芽生えた嫌な予感が、はっきりと形になる。
だが、理解した瞬間にはもう体が動いていた。
ブーツのスラスターを起動。
ドレッドレッダー号とは真逆――
包囲が最も薄いルートへ、ショーンは滑るように走り出す。
(一、二、三、……)
視線を走らせながら数える。
(……八人か)
そして、やはり――先頭にいるのは、サンドガス。
鬼の形相で、こちらを睨みつけながら追ってくる。
何か怒鳴り声を上げ、一斉に距離を詰めてくる男たち。
初動回避は成功した。
平日の昼間。
中央街とはいえ、人通りはまばらだ。
(向こうは、速度重視……)
アテナに調整してもらったスラスターブーツは、
加速特化。
直線での瞬発力と近接回避に全振りした、かなり尖った仕様だ。
碁盤の目のように整然と区画された通り。
ショーンは曲がり角ごとにフェイントを入れ、
直角に進路を変える。
だが、相手は数を活かし、分散しながら包囲を狭めてくる。
(……うまい)
大きな広場へと続く通りに差し掛かったとき、
ショーンは右手側に立つ男に気づいた。
ギルドに居た《案内》バッジの男だ。
(ギルド職員……?)
一瞬の迷い。
だが、他に選択肢はない。
男の前で止まり、助けを求めようとした――
その瞬間。
「おいおい! 何やってんだよ! サンドガス!」
苛立った大声が響いた。
(……え?)
心臓が跳ねる。
「す、すまねえ……テーナさん」
サンドガスが、情けない笑みを浮かべた。
(……テーナさん?)
次の瞬間――
背後から、強烈な衝撃。
「――っ!?」
タックルされたショーンの身体が宙を舞い、
テーナの足元へと吹き飛ばされる。
「コイツ、すばしっこいわ」
声の方向の、空気が揺らいだ。
ステルス迷彩が解除され、巨漢の男が姿を現す。
「モンヤさん! 流石っす!」
周囲の男たちが、下卑た声を上げる。
倒れたショーンの腹に、容赦なく足が乗った。
踏みつけてきたのは、テーナだ。
気がつけば――完全に囲まれている。
「しょ~んべ~ん!」
サンドガスが、ナイフを抜き、歪んだ笑みを浮かべた。
「ひゃはは! 今日まで待ってたんだわ。
お前を“始末”して、宇宙船とアストロノイドの所有権……
ぜ~んぶ頂くためになぁ!」
「……っ」
ショーンは、歯を食いしばりながらテーナに問いかける。
「……あんた、ギルド職員じゃないのか?」
「さあ? どっちだっていいだろ」
テーナは肩をすくめ、吐き捨てる。
「お前ら、さっさとやれ。
ギルドIDと船の認証キー、
全部奪っちまえ!」
号令と同時に、男たちが一斉に飛びかかった――
だが――
ショーンは、動揺した“フリ”をしていた。
(……あそこだ)
一瞬で周囲を見渡し、隙を探る。
巨漢のモンヤと、サンドガスの間――
ほんのわずかな空白。
完全に囲まれる、その直前、
スラスターを最大噴射。
「――っ!」
一気に間合いを抜け、
ショーンは細い横道へと滑り込んだ。
「ちっ……チョロチョロと……まあいい」
テーナは舌打ちしつつも、余裕を崩さない。
「慌てるな。この先は広い空き地で行き止まりだ。
脇を抜かれないよう、じっくり詰めていけ」
そこは――その通りだった。
広場に追い詰められ、ショーンは再び包囲される。
だが。
「……これで、正当防衛成立かな?」
小さく独り言ち、不敵に笑う。
「はい――録画良好です」
通信越しに、澄んだソプラノ声。
「テーナ!モンヤ!サンドガス!
あなたたちを――
暴行および強盗未遂で警察に突き出します」
力強く宣言したショーンは、右手を高く上げると
パチン、と指を鳴らす。
すっと息を整え、叫ぶ。
「――アテナ!!!」
その瞬間。
上空五十メートル。
【アストロノイド】アテナが、彗星のように降下した。
地面に激突する寸前、スラスター噴射――
華麗にバランスを取り、衝撃を殺して着地する
ショーンの前へ、庇うように――
そして、静かに、
しかし、圧倒的な存在感で立ちはだかった。
======== 次回更新へつづく ========
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




