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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第二章 アストロクイーン選抜戦
38/47

第2話(4)ルナロンドの深き闇

西暦2382年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。

ジェッドは胸ポケットから銃を取り出すと

シャッテの眉間に狙いを定めた――


(はやく泣き叫べ……)

   それが見たくて堪らないジェッド。

   最後通告とばかりに

   狙いを定め――命乞いの声を待つ


「ふうん?わたし死んじゃうんだ?

   でもぉ、

   処女のまま死ぬなんて少し悲しいわ」

内心震えが止まらないが、精一杯強がるシャッテ。


「ねえ、イワン?あなたどう思う?

   殺す前にわたしを抱きたいと思わない?」

  「あ、あぁ、そうさな」

   唐突に名前を呼ばれて、

   イワンはつい、素で答えてしまった。

   「え?なんで?」海賊たちは目の前の女にざわつき始める。


「ジェフ、あなたは?……ゴードン?キミは?……」

   シャッテは男たち全員の名前を呼んでいった。

   何度も、返事が返ってくるまで。


ジェッドは訳が分からなくなった。

   どうして名前を知っている?

   命乞いもせず、全員の名前をさらっと呼んで、

   自分が欲しいか問う女。

   思考が短絡化し、力が抜け、

   銃を持つ手がだらりと下がった。


◇ ◇ ◇


「やれやれ、すっかり酒が不味くなった」

   奥でひっそりと酒を煽っていた男が、立ち上がった。

   ヨタヨタとゆっくり歩いてこっちに来る。


「??誰だ、てめえ!」

「さっきから何だ?

   レディ一人を大勢で囲んで。

   みっともねえ。

   ここは神聖なカジノだ。

   そのテーブルでやるのはブラックジャックだけにしときな」


背が高い細面の中年男。

   テンガロンハットとサングラスがよく似合っている。

   ラフなポロシャツに革チョッキ、そしてジーンズ。

   紳士というよりタフガイ。

   昔のガンマンあるいは、ナイフ投げの名手のような風貌だ。

   鋭い眼光がサングラス越しに全員を射抜く。


中年男がゆっくりと近寄ってくる、まるでスキが無い。

   海賊たちを目でけん制しながら、

   縛られているシャッテを開放して後ろに庇う。


「さて、俺とゲームしようじゃないか?」

   男は海賊たちに向かって提案する。

「ブラックジャックだ。俺が勝ったらこの娘は連れていく。

   お前らが勝ったら、まあ、好きにすればいい」


「戯言を!関係ねんだよ!」

   先走った一人がスーツの内ポケットに手を入れる。

   が、一瞬にして、その手にナイフが突き刺さっていた。

「?!うがぁ!」

   ピリピリとした殺気が辺りに立ち込める

   奥から出て来た男を目の前にして、

   普通なら気が動転するところだ。

だが、シャッテは気づいた。

  (この人、お酒臭くない……全部お芝居だ) 

   この人は味方だ、とシャッテは直感した。

   であれば、ここは見ているしかない。

   シャッテは大人しく事態を見守ることにした。


◇ ◇ ◇


「皆さま、当カジノをご利用いただき、誠に有り難うございます」

   唐突に、

   奥に居た女性ディーラー風のヒューマノイドが

   カウンター越しに話し出した。

   素っ頓狂な声に、

   全員が一斉にビクつき、カウンターの方を注目する。


「まもなく閉店の時間でございます。またのご利用をお待ちしております」

女性ディーラーがぺこりと頭を下げる。

と、同時に――


カジノが消灯、

   辺りは暗闇に包まれる。


それと同時に、

   大勢の治安維持部隊がなだれ込んで来た。


◇ ◇ ◇


「悪かったね。助けが遅れて」

   サングラスにテンガロンハットのタフガイ、

   ブリット・コバーンは、深々とシャッテに頭を下げた。


「いえ、有難うございました。おじさま!」

   強がってはいるが、

   シャッテは先ほどのやり取りを思い出し、

   今になって震えていた。


「シャッテ様、こちらへお座りください。

   どうぞ、温かいお飲み物です。

   コバーン様は如何なさいますか?」


先ほどの

女性ディーラー型ヒューマノイドの優しさが染み渡る。

  「リズ、俺はコーヒー、ブラックで」

  「かしこまりました」


シャッテはミルクたっぷりの紅茶を淹れてもらい、少し落ち着いてきた。

「シャッテ様、差し支えなければ、先ほどの録音データを頂けますか?」

「あ、流石リズちゃん、気づいていたんだ」

  もう、ちゃん呼び。

  リズは気にしないが、横でコバーンがククッっと笑う。


「シャッテ嬢、あらためて自己紹介を。

   俺はブリット・コバーン。

   大会運営から秘密裏に雇われた探偵だ。

   君はとても目立つね。

   おかげで初対面の俺でもすぐ分かったよ。

   ホント、()()()()()()()()――」


ブリットはニヒルな笑みを浮かべた。

「これからはあんまり目立つ行動は気をつけると良いかもな。

  あと、こいつは雑用係のリズだ」

「コバーン様、何度も申し上げますが、

  “雑用係”という職制は、この世界には存在いたしません。

  シャッテ様、私はコバーン様の秘書ヒューマノイド、リズA3です」


「いいんだよ!俺に秘書はガラじゃねえ」

シャッテは二人のやり取りでほっこりした。

(なんだかお父様とお母様みたい)

シャッテには何故か、亡き両親の面影が二人とダブって見えた。


こうしてシャッテは、

ひとまず物騒な事態からは距離を置くことができた。


保安局で色々と調べられ、結局終わったのは夜遅くだった。


ホテルに帰るとみんなが心配して出迎えてくれた。

 「アテにゃん、ショーンは?」

 「今日は一日眠っていましたよ。

   おかげで顔色がずいぶん良くなりました」

シャッテは深く安堵し、

ジャケット裏の胸ポケットの奥、

【ゴールマッパー】リードを、ぎゅっと握りしめた。


◇ ◇ ◇


保安局の喧騒が一段落した後、簡易オフィスの一角で、

リズが静かに報告を行っていた。


今はもう、ディーラー姿ではなく、

   普段の秘書の姿に戻っていた。

   身長は170cm、外見年齢は25才。

   ナチュラルブラウンのショートヘアに

   スモーキー・ヘーゼルの瞳。

   ダークワインレッドの極細フレームが、

   知的さをさらに際立たせている。

襟をピシッと留めた白いシャツに、

   TPOと、その時々のオシャレ気分で選ばれるリボンネクタイ。

   紺のタイトスカートとシックなスーツを爽やかに着こなす姿は、

   主人であるコバーンとは、服装も雰囲気も真逆。

   それなのに、二人が並んでも違和感がまったくないのが不思議だった。


「――拘束された海賊は全員、身元確認と証拠確保を完了しました」


「ただし……」

一拍、間を置く。

「リーダー格ジェッドは、取り逃がしました」


コバーンは椅子に深く腰掛けたまま、表情を変えない。

ただ、指先でコーヒーカップの縁を軽く叩いた。

  「……やっぱりな」

   落胆でも怒りでもない。

   むしろ、どこか納得した声音だった。

  「悪なりに勘だけは一流だ。

   ああいう奴は、必ず逃げ道を残す」


「では、指名手配を――」

「いや、いい」

コバーンは短く遮る。

  「追わせるな。今は騒がせるだけだ」


「あいつは“消える側”に回った。

   いずれ、別の場所で処理される」

リズは一瞬だけ首を傾げたが、それ以上は踏み込まない。

「承知いたしました」


コバーンは視線を上げ、静かに続けた。

  「それより――」

  「方針を変更、シャッテ嬢の極秘警護を、

   俺の最優先事項とする」

   リズはその言葉の意味を即座に理解する。


更に、コバーンは少しためらったが、

今更だなと思い、指示を増やす。

  「今後は、彼女たちに“美味しい仕事”を回せ」

  「怪しまれない形で、な」

  「承知いたしました。輸送、護衛、調査……」

  「自然に繋げます」

  「それでいい」


リズが指示内容を整理して、最後に確認する。

「それは、この選抜戦の期間中、でございますね?」

  「いや、ずっとだ」

「はい?」

  「これは、そうだな、俺が死ぬまで、だ」


リズの瞳が、わずかに見開かれる。

  「ついでに、その時はリズ、お前は彼女に仕えろ。

   命令だ。

   俺の死後は彼女がオーナー。自動相続に設定しとけ」


「……承知しました。では、これまでの最優先事項はキャンセルで?」

  「おう、全部、彼女を中心に回せ」


リズは即座に処理を開始する。

その動きは、まるで“以前から決まっていた手順”のようだった。


リズはミッションファイルを変更する。

 前ホルスバーン伯爵夫妻のご息女捜索は、本日をもって終了とする。

 新たな任務は二つ。

 一つ、シャッテ・ホルスタイン嬢への永久的な極秘警護

 一つ、彼女への金銭的支援、ごく自然に


少し考えて、リズはもう一つ書き加えた。

 次の主人となる彼女と、そのアストロノイドを、

 トップレディとして磨き上げる。

 そのための教育プログラムを自然な形で仕組むこと。


(……見つけるのに、時間がかかりすぎた)

コバーンはテンガロンハットを深く被り、椅子にもたれてまどろんだ。

(二度と、こんな目には遭わせない)

  

その言葉は、誓いのように、低く落ちた。


日付はすでに変わって夜中の2時。

   あと10時間で、

   8名のアストロクイーン候補者たちが激突する。

   運命の二回戦、準々決勝は目前だった。



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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