第1話(1)可哀そうなヴァルゴ
西暦2382年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
作者よりー
いつもお読み頂きありがとうございます。
本日より第2章スタートします。
◇ ◇ ◇
■2381年12月■
ショーン率いるD級探索者チーム『ニアサイド』は、
ここ数週間、小惑星帯の採掘調査で指名依頼が増えていた。
「仕事が早くて正確」、
「引きが良い?高価な鉱物を見つけてくれた」、
「ニュースで見た!アテナに遭いたい」など、様々な理由だった。
今日も任務を終えて月面都市ルナトキオに入港。
ショーンはキャプテンシートに座り、
アテナN3と一緒に、次の任務をどうするか相談していた。
そこへ、船内作業用ドローンのメンテナンスからシャッテが戻って来た。
彼女は、ある答えを求めてショーンに質問する。
「ねえ、ショーン? もうすぐクリスマス、そして新年よね?」
「ああ、もうそんな時期だね、何か今年は時に“あっという間”だったな」
「この前の幽霊船作戦で、報酬いっぱい頂いちゃって、良かったのかしら?」
「もちろん、宇宙軍から良いサポートだったと凄く好評だったからね」
シャッテは照れ笑いを浮かべる。
「えへへ、ありがと~何買おうかな~」
「キャプテン、明日はお休みにして、私と二人でお買い物でも行きませんか?」
唐突にアテナが割り込んで来た。
「な、何言ってんの?アテにゃー!」
「これは私とキャプテンだけの毎年の恒例行事です。シャッテさんは留守番を」
「私だってショーンと腕組んでお買い物行きたいし!」
さっきまで静かだったメインコックピットが……
◇ ◇ ◇
「キャプテン、ホイットニー博士から緊急メッセージです」
お茶の準備をしていたメイド・アテナが伝えてくる。
「えーと、プライベート回線での会話を求めています。
どういたしましょう?」
「なんだろうね?それじゃあ、二人とも悪いけど……」
シャッテとアテナがリビングルームに移動する。
ショーンはリンクをタップしてホイットニーとの回線を開いた。
その5分後、ショーンは二人が寛ぐリビングルームに駆け込んだ。
「二人とも、良く聞いて。
要塞ヴァルゴで海賊に拘束されていたヴァルゴλ8を
……宇宙軍が廃棄した」
ホイットニー博士によると、回収されたヴァルゴλ8は、
研究所に移送され、
精密検査をして
異常がなければ原隊復帰と思っていたが、
宇宙軍の上層部は早々に見切りをつけヴァルゴλ8を登録抹消、
データを抜き取ったコアと筐体を破壊して
廃棄処分したとの事。
「せっかく丁寧に救出して貰いながら申し訳ない」と、
ホイットニーは謝罪したとの事。
「そんな、それって酷くない?何も悪いことしてないのに!」
シャッテはかつてヴァルゴλ8と接触していたこともあり、
知り合いが無下に扱われたようで
たまらない気持ちになった。
ショーンは少し考えてから、シャッテに告げる。
「シャッテ、破壊では無く、廃棄処分としたのは、
ホイットニー博士が意見したからなんだ」
シャッテは“ショーンには何か考えがある”とピンときた。
「普通は完全破壊するらしいんだけど、それだと最後に
破壊証明書が発行されて、今後30年も記録が残るんだって」
「それで、ヴァルゴの体は『ルナトキオの地下空洞に捨てられた』、
これは、廃棄物だから、もう誰が拾っても何も言われないって」
「地下空洞……ショーン!そこなら見つけられる!」
ゴールマッパーなら、きっと見つけてくれる!
せめて、丁寧に送り出してあげたいもの……
「決まりだね……シャッテならそう言うと思ってた」
「そういうことでしたら、
以前にシャッテさんが現れた古いハッチから、
逆に侵入するとよろしいかと」
「そうだね!さすがアテにゃん!
◇ ◇ ◇
ショーン達3人は、公営宇宙船停泊場のかなり奥の区画に移動した。
「それじゃあ、行ってくるね」シャッテはニコッと手を振る。
チートアイテム、ゴールマッパーの大きな欠点。
単独移動限定、同行者がいると働かないのだ。
「それじゃ、リード!ゴールは宇宙軍に廃棄されたヴァルゴλ8よ」
「了解です、お嬢・・・・・・ゴール設定完了、
目的物:廃棄物ヴァルゴλ8、この先6キロです」
「往復3時間くらいね、了解よ」
シャッテは少し早足でヴァルゴλ8に向かって歩き出した。
歩行もしくは歩行らしき動作でなければ機能しないのも
多少不便ではあるが、今のシャッテには心と体に余裕があった。
それと、浮遊式カーゴドローンがシャッテの後方10メートルを追尾する。
(このやり方なら同行者と認識されなかったので助かったわ)
途中、背中のリュックサックから飲み物と携行食を取出しモグモグ。
相変わらず不自然に淡く光る床と壁。
同じ景色が延々と続き、普通ならばとっくに迷っているところだ。
そして、シャッテは迷うことなく発見した。
外観を形成するトップスキンをはぎ取られ、
メインフレームの刻印も物理的に潰された
可哀そうな筐体を。
シャッテは涙が出るのをこらえ、それをカーゴに乗せると、
ルートを戻ってショーン達の元へ急いで戻る。
だんだんと疲れ、思考が短絡的になった。
突然、リードに尋ねるシャッテ。
「ねぇ……リード。ゴールは元気に動くヴァルゴλ8、って出来る?」
「お嬢、私にはそのゴールを示すことが出来ません」
やっぱりだめかぁ、分かっていたとは言え、
落ち込むシャッテ。
「アテにゃんと専門の技術者がドレッドレッダー号に居れば、
そこをゴールに指定可能と予測します」
「え!なんで?」
「その理由は言語化出来ません」
なにやら未知の“未来操作テクノロジー”らしい
それでもいい、
「行けそうじゃない!」
シャッテは元気百倍で急ぐのだった。
◇ ◇ ◇
「お疲れ様。頑張ったね。」
旧ハッチから出て来たシャッテをショーンが労った。
「ショーン、ホイットニー博士を呼べないかな?」
シャッテは簡単に理由を述べる。
ショーンは少し驚いたが、シャッテの話を聞いて納得した。
「実は、ホイットニー博士から、『手に余る様なら手伝うからね』って。
頼めば来てくれると思う」
「お、おねがい!」
「うん、分かった。でも二日待って欲しい。理由は分かるでしょ?」
「あ、そっか。そうだね」
取り合えず、ヴァルゴλ8をアテナ専用のメンテナンスカプセルに入れ、
『集中監視』モードで保管することになった。
◇ ◇ ◇
三日後。
ホイットニー博士がドレッドレッダー号を訪れた。
ショーンとアテナで応対する。
「やあ、キミってホント優秀だね。あの地下迷宮から何の情報もなく
わずか二日で探し当てるなんて」
「ほんと偶然ですよ。それよりホイットニー博士、早速ですが」
「うん、分かってる。でも実施するには設備がないと」
「設備ならございますよ。キャプテン、ご案内しても?」
「あぁ、そう、だったね」
ショーンは、明らかに暗い顔をする。
よろしく頼むよ、と、ショーンは船長シートに深く腰掛け目を閉じた。
アテナはホイットニーを連れて、通路奥のプライベート区画へ。
一番奥の、少し重苦しい雰囲気のドア。
「こちらが、ショーンのお姉さまが使っていた研究ルームです」
中には書籍や論文、研究資材がきちんと整とんされ、
計測機器や各種リアクターなども綺麗に使われていた。
「さて、何処にあるかな?」
ニアの論文に書かれていた『人格定着処理』その実験装置。
ホイットニーは、ニアの研究当時に協力してくれた人達から、
この宇宙船の中で、施術が行われていたことを知っていた。
そして、それはあった。可動も問題なかった。
ざっと確認し、使える目途が立つと一旦リビングへ戻る。
「ショーン君、ヴァルゴλ8を再生したい、で、いいんだね?」
「はい、お願いします」
「結論から言おう、それは可能だが、結果は望み通りにならない」
ホイットニーは厳しい顔で語り出す。
「第一に、再生したそれは、もはやヴァルゴλ8ではない。
全く別の個体となる。
能力も最低レベルだろう。
拡張スロットは勿論、初期スペックも数世代前だ。
はっきり言って、
このまま廃棄して、新品購入する方が安いし保証もある」
「いいんです。それでも。
あの時は助ける事が精一杯で、もっと上手く出来たかもしれない」
「だからこれが、やりたい事です」
ショーンの言葉にシャッテも力強く頷く。
「そうか、それでは、アテナ君のコアを少し、
物理的に1%ほど削るけどいいかな?」
「そ、そうなんですか?」
「ああ、アテナの妹が生まれるようなものだと思ってくれるといい」
「それが、我が親友ニア・ヴェインの思いが詰まったやり方だ」
「そう、なんですね。分かりました。
俺は姉さんを信じてるし、
その姉さんを友達と呼んでくれるあなたを信じます」
「それと、あの装置は次で寿命みたいだ。
消費エネルギー負荷にもう耐えられない」
「では終わったら、ここは封鎖します」
「うん、それがいい」
かくして、アテナからコアの一部を削り取り、それを一週間かけて光培養。
ヴァルゴλ8の崩れかけたコアと交換、再生処理と初期化。
60時間後、アテナコアに組織が馴染んだことを確認して、
「行くよ、再起動」
「考えておいた名前を!」
「呼んで、さあ」
代表してシャッテが元気よく叫ぶ「起きなさい、ヴァルキリー!」
「……個体名ヴァルキリーC9、
第1設定:シャルロッテ-母、
第2設定:ショーン-父、
第3設定:アテナN3-姉」
ホイットニーは研究者の目で事態を観察する。
なるほど、身近な人間を親認定させるのね。
コアを分けて貰ったアテナは姉妹にカウントされた。
アストロノイドも設定に使われるんだ。あれ?続きが?
「第4設定:ショーン-弟、
第5設定:ショーン-兄」
ホイットニーは驚愕する
(これはアテナからの因子継承!彼女の二重人格性、
ヴァルキリーにとって、ショーンは父であり、弟であり、兄でもある?
明らかに異常な関係性、矛盾する人格設定、幾つもの思い。
これに折り合いをつけさせることで獲得する自我!)
そして、ヴァルキリーC9は目覚める。
三人に対しての最初の言葉。
「ママシャ、おはよー」シャッテをママ呼び!照れるシャッテ。
「アテ姉、お腹へった~」アテナを姉呼び、妥当な線だ。
果たしてショーンは?
あれだけの多重設定、ホイットニーは興味津々だ。
「……ショーン、眠い?」
まさかの呼び捨てだった!
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。




