第7話(4)
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■海賊ファミリーの陰り
海賊ファミリーの中枢は、重苦しい沈黙に包まれていた。
かつては喧噪と嘲笑が渦巻いていた広間だが、
今は誰一人として無駄口を叩かない。
理由は明白だった。
寡黙なる実戦部隊の要、
無頼のチャリオットが宇宙軍に捕縛されたまま消息不明。
そして、その引き金を引いた幹部――
激高のハングマンは、見る影もなく精彩を欠いていた。
ルナシカゴの裏社会を束ねるには、あまりにも頼りない。
それは、
この場に集められた幹部全員が、口にせずとも理解していた。
玉座に腰掛けるエンプレスは、不機嫌そうに脚を組んでいる。
いつもの妖艶な笑みは消え、
感情を削ぎ落とした冷たい視線だけが、場を支配していた。
「……聞いてもらえますか」
低く、遊び心の欠片もない声が響く。
それだけで、空気が一段冷えた。
「海賊ファミリーは、しばらく組織の基盤作りをやり直します。
少し時間かかっても、大きく成長するつもりやから
……みんな、気張ってや」
それは“猶予”であると同時に、“選別”の宣告だった。
「そこでやけど――幹部を、二人に絞ります」
ざわり、と空気が揺れる。
「叡智のマジシャン。
不遜のハーミット。
二人が、ウチの両翼を固めますんで……
よろしく頼みます」
マジシャンは余裕たっぷりに肩をすくめ
ハーミットは静かに頭を下げた。
勝者の立ち位置を、疑いもしない仕草だった。
そして。
エンプレスの視線が、ハングマンへと突き刺さる。
「激高のハングマン。
あんたは、ルナシカゴを離れなさい」
「――なっ」
「観光地ルナウズマサに拠点を移して、そっちを任せます。
人口は少ないけど、観光客は多い。
新しい稼ぎ、ちゃんと作ってきてや」
ハングマンは顔を歪めて声を荒げる。
「え? あんな人口一万人そこそこの場所、
全然儲からないじゃないか!」
間髪入れず、マジシャンが口を挟んだ。
「観光地でしょう。
旅行客から搾り取るくらいのイメージを持たないと」
淡々とした口調が、逆に痛烈だった。
続いてハーミットが、見下すように笑う。
「優秀な部下を大勢失ったのだろう?
なら、新たな部下を育てて、しっかり再起を図り給え」
上から目線の忠告に、ハングマンは言葉を失う。
反論する力すら、もう残っていなかった。
その様子を見て、海賊たちは確信する。
――ああ、もう終わりだな。
かつて激情で恐れられた男は、完全に転げ落ちたのだった。
「それともう一つ」
エンプレスが、淡々と付け加える。
「無頼のチャリオットはんが、どこに捕まってるか調べて。
見つけたら……脱獄させて欲しいわぁ」
軽い口調とは裏腹に、拒否権は存在しない命令だった。
会合は、それで終わった。
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同じ頃、別室。
幹部たちを待たされていたジェッドは、
壁面モニターに映るニュース映像に目を留めていた。
画面の中で紹介されているのは、今注目を集める若き探索者チーム――
『ニアサイド』。
その中に、一人。
見覚えのある少女の姿があった。
「……シャッテ、だと?」
探索者チームの優秀なエンジニアとして、
名前と顔がはっきりと紹介されている。
ジェッドは目を細めた。
「女スパイじゃなかった……か」
一瞬、読み違えたかと歯噛みする。
だがすぐに、口元が歪んだ。
「いや……軍関係者に近い存在、という線は外れていないな」
探索者ギルド。
宇宙軍。
そして、ニアサイド。
点と点が、静かに結ばれていく。
「……いずれ、追い込んでやるさ」
独り言のように呟いたその声は、ひどく冷たかった。
海賊ギルドの内部で、権力の形が変わり始める。
同時に、次なる火種もまた、静かに芽吹いていたのだった。
◇ ◇ ◇
■エピローグ1
ルナウズマサの朧牡丹
「観光地とは言え、しけた街だな、おい!」
柄の悪いビジネスマン風の男が、
取り巻き30人を連れて夜の繁華街を練り歩く。
海賊ファミリーの落ち目幹部、ハングマン。
先週から部下を送り込み、
ここルナウズマサの繁華街の一角に拠点を構えた。
かつて100名いた部下は、めっきり減ってしまい、
それでも忠誠心が高い30人が残って、
ボスを盛り立てようと意気盛んだ。
(まず、あちこちで難癖つける、出て来た野郎をぶち絞める)
つまらない算段だが、本人は極めて真面目だった。
(あとはここらの元締めまで辿り着いて、一気にシマを乗っ取る)
こんなとこ、どうせ雑魚しかいねえだろうしな
ガラだけじゃなく、口も悪く、
素行も悪い集団、繁華街の店は早々に早じまいした。
張り合いのねえ・・・ん?
前方に一人の女性。
ルナウズマサらしく和服姿の黒髪女性が、
繁華街の大通りにスッと立つ。
黒地に真っ赤な牡丹の絵柄が様になる
頭にはアストロノイドと識別する獣耳。
地面まで伸びた黒髪はツインテール。
綺麗に2本にまとめられ、
風もないのに、何やら怪しく揺れている
足は裸足で雪駄を履く、とても古風な出で立ち
そして目を引く、両手にそれぞれ携えた二振りの太刀
「私の名前は、朧牡丹。
失礼だが、あなた方は旅行客か?」
よく通ったソプラノボイス、見た目より優しい口調だった。
「あん?誰だオマエ、
俺たちゃ今日からこの街を仕切るハングマン一家だが?」
用心棒らしきアストロノイドが様子を見に来たらしい
どうやら上手く釣れたな
あとはアレを適当に痛めつけて、ボスのところに案内させよう
「ちょうどいい、オマエのボスのところに案内しな」
「断る」
「あ?」
「あなた方にはこの町を速やかに去っていただこう」
「あ?ゲラゲラゲラ、おもしれえ!」
「じゃあ、力ずくでやってみな!」
「てめえら、外装ひん剝いてぐちゃぐちゃにしな!」
「……警告を無視したと、判断、
これより制圧モードに移行する」
牡丹は小さく呟いた
「ダンスビート・殲滅モード」
ルナウズマサの夜が一瞬激しく揺れ、そして静かになった。
◇ ◇ ◇
■エピローグ2
ニア・フロンティア計画
ホイットニーは、研究室に一人きりだった。
深夜、月面研究区の窓越しに地球が浮かんでいる。
机の上には、いくつもの論文データ。
その中心に置かれているのは――
理学博士・ニア・ヴェイン
『人格定着処理理論と自律進化型AIへの応用』
ホイットニーは、すでに結論を知った。
だが、科学者として、それを「証明」しなければならない。
ホイットニーはニアの研究記録を洗い出した。
かつて、個人資金を投じて開催した
『AIヒューマノイド学習機能促進プログラム』
その実験に参加した民間協力者たちへ、
一人ひとり、丁寧にインタビューを重ねていく。
「家族みたいでした」
「失敗しても、励ましてくれた」
「夢の話を、一緒にしたんです」
記録を重ねるほど、傾向は明確になった。
――ニアの理論を組み込まれたアストロノイドは、
単なる模倣ではなく、
“想い”を獲得している。
家族。絆。後悔。願い。
それらを“概念”ではなく、“実感”として。
ホイットニーは、静かに息を吐いた。
「……君は凄いね。私から勝ち逃げかい」
翌日。
研究所上層部に向けて、
彼女は新たな計画書を提出する。
――ニア・フロンティア計画。
次世代アストロクイーンの設計・育成・運用。
共同開発者:ニア・ヴェイン
その成功被験体にアテナN3の名が挙げられる。
計画書は即日、承認された。
その夜。
ホイットニーは再び、窓辺に立った。
青く輝く地球を見つめ、微笑む。
「アストロノイド新時代の幕開けだね……ニィヴェ」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
今回で第1章が終わりとなります
第2章はアストロクイーン選抜戦、ようやく小説タイトルの回収に入ります。
現在執筆中、近日更新予定です。
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