第1話(3)
日付が変わり、16才になったショーンに二通のメッセージが届く。
第一のメッセージは【送信元:市民局】
第二のメッセージは【送信元:アレックス・マクスヴェイン(予約送信)】
ショーンの亡くなったお祖父ちゃんからだった。
第一のメッセージ
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■市民ステータス更新通知
ショーン・ヴェイン 様
本日、午前0時をもって、あなたの市民IDにおける
【未成年】区分を【民間成人市民】へ切り替えました。
※自治権限レベル1 に昇格
ご当主アレックス・マクスヴェイン氏から
申請/中断中の、”当主変更手続き”を再開し受理致しました。
あなたは家名を継ぎ、
これよりご当主、”ショーン・マスクヴェイン”として
全ての遺産と権利を引き継いだことを、ここに証明致します。
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「……本当に成人……したんだ」
言葉がこぼれた。
アテナは胸に手を当てて喜びを溢れさせる。
「おめでとうございます……!」
その声は涙を含み、誇らしさと愛しさが混ざっていた。
そして、第二のメッセージが自動的に開かれる。
それは、”ビデオレター”だった。
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■予約遺言メッセージ
送り主:アレックス・マクスヴェイン
再生日時:ショーンが成人した直後
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画面に、
懐かしい祖父の姿が映った。
あの優しい笑顔。
でも強い意思が宿った静かな瞳。
『ショーン、成人おめでとう。』
一言目を聞いた瞬間、僕の喉が詰まり、呼吸が浅くなる。
『このメッセージが届いている頃、わしはもういないだろう。
寂しい思いをさせた。すまん』
その言葉だけで涙腺が一気に緩む。
『わしは若い頃から宇宙商人として身を立て、
宇宙探検者ギルドの第一期として活躍した……
火星の地下に大迷宮を発見したときなんか、
みんなで大騒ぎしたもんじゃ。
楽しい思い出じゃのう』
それ知ってるよ――
ショーンは何回も聞かされた武勇伝を想い返し、
少し懐かしさが蘇った。
『でもなぁ、ショーン……
わしは幼いお前とアテナと、
3人でゆったりのんびり旅した頃が、
実は最高に楽しい想い出なんじゃよ』
僕もだよ、お祖父ちゃん!――
ビデオレターに向かって、
思わず心から感謝するショーンを、
アテナは聖母のような眼差しで優しく見つめ、
そっと背中から抱きしめた。
『お前が子どもの頃から、
ワシはずっと言っていただろう。
“強く生きろ”と。
だがそれは、ただ強くなれという意味じゃない。』
『強くなる方法を、自分で選べる大人になれ
――そういう意味だ』
祖父の声は穏やかだった。
温かくて、胸の奥深くに染み込む。
『ショーン、お前は賢くて優しい。
きっと自分らしい方法を見つけて強くなる。
だが、その力は……
誰かを守るために使って欲しい。
それがマクスヴェインの誇りだ』
映像が一瞬揺れる
祖父は微笑んだ。
『アテナを頼れ。あれはお前だけのために生まれた』
『ずっとお前と共にある……大切な家族だ』
アテナが震え、ショーンの手をぎゅっと握る。
『最後に――
今日から、お前は正式にドレッドレッダー号の船長だ。
遺産相続の手続きを済ませなさい。
ここに表示される”相続承諾書”へサインを』
『ショーン。誕生日おめでとう。
大人になったお前を、わしは誇りに思う』
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映像はそこで終わった。
誰も喋らなかった。
船の駆動音だけがわずかに響く。
アテナがぽつりと呟いた。
「……おじい様……」
その声は、まるで本当の肉親を送った孫娘のように震えていた。
ショーンはアテナの手を包み、静かに言った。
「サイン、するよ」
ショーンは指でしっかり署名した。
◇ ◇ ◇
数秒の後、ドレッドレッダー号の内部照明が一斉に明るくなる
――ゴウン……低い起動音がいつもより大きく響く。
中枢AIから新たなメッセージ。
――船長権限をショーン・マクスヴェインに変更しました
――【アストロノイド】アテナの主従リンクを再設定しました
「……再設定?」
アテナが一歩、ショーンに近づき
――まるで祈りを捧げるように、膝をついた。
「……だんなさま」
その呼び方に、ショーンの胸の奥が熱くなる。
彼女の瞳が、深い緑の光を宿して揺れている。
「今日この時より……アテナは正式に、だんなさまにお仕えいたします」
ショーンは思わず手を伸ばし、彼女の頬に触れた。
「アテナ。そんなに畏まらなくていいよ。今まで通りで」
「……はい。それではお仕事の時は“だんなさま”で、
プライベートの時は……」
アテナが身体を寄せてくる。
甘い、くすぐったい距離。
「これからも“おにいちゃん”と呼ばせてくださいね……♪」
胸に強い鼓動が広がった。
「もちろんだよ」
「……嬉しい……」
アテナの瞳が潤んでいる。
そのままショーンの肩にコトンと頭を預けた。
「おにいちゃん……今夜は、その……
添い寝……よろしいでしょうか……?」
その声は、震えるほど甘くて優しい。
ショーンは小さく笑って、彼女の手を取った。
「うん。一緒に寝よう」
「……! はいっ……!」
アテナは嬉しさを隠せず、獣耳をぴくぴく揺らしている。
メイドだけど、妹みたいで、恋人みたいで、大切な家族だ。
「おにいちゃん……お誕生日おめでとう……」
ショーンは彼女の頭を撫で、目を閉じた。
「ありがとう、アテナ。これからも頼りにしてるよ」
「はい……ずっと、おそばにいます……」
――こうして、ショーンの成人の日は
アテナに暖かく祝福され幕を閉じた。
◇ ◇ ◇
◆宇宙探索者ギルド・ルナトキオ支部◆
翌朝――
ショーンは、アテナの癒しに満ちた時間のおかげで、
驚くほどすっきりと目を覚ました。
身体に残る疲労はなく、むしろ胸の奥が静かに温かい。
ベッドルームを出ると、
すでにダイニングには朝食の香りが広がっていた。
テーブルの上には、こんがり焼けたトースト、
ハムエッグ、湯気を立てるポタージュスープ、
そして野菜ジュース。
いつもの定番メニュー
その真ん中に、今日はひときわ目を引く一皿が添えられている。
「こちら、アテナ特製でございます♪」
プレーンオムレツの表面に、
赤いケチャップで描かれた小さなハート。
見た目は可愛らしいが、
卵の厚みと焼き加減からして、
確実に、“ガツンと来る”、スタミナ仕様だ。
「気合い、入ってるね……」
「はい! 本日は大切な一日ですから」
そう言って胸を張るアテナに、
ショーンは苦笑しつつも完食した。
食後、身支度を整えながら、
ショーンは、昨日から胸の奥に
引っかかっていた件について切り出す。
「アテナ。例の件なんだけど……対応、お願いできる?」
一瞬も迷わず、彼女は頷いた。
「承知しました。大至急、調整に入りますね」
数分後。
再び現れたアテナは、どこか満足げな表情をしている。
「かなりピーキーな設定にはなりましたが
……だんなさまでしたら、問題なく使いこなせます。
保証いたします」
「……そこまで言われると、逆に怖いけど」
「大丈夫です♪」
そうして出発の時間。
「いってらっしゃいませ! どうか、お気をつけて」
朝から元気いっぱいの声に背中を押され、
ショーンは船を後にした。
目的地は、中央街にそびえる【宇宙探索者ギルド・ルナトキオ支部】
路地の角を曲がり、ショーンの姿が見えなくなるまで、
アテナは見送りをやめなかった。
「……だんなさま。ご武運を」
小さく呟いたその声は、まるで祈りのように優しかった。
だが次の瞬間、
アテナの表情がきゅっと引き締まる。
「さっそく準備しないと……ですね」
既にその目つきは“ほんわか妹モード”ではない。
すると、
何かの光がアテナの身体を一瞬だけ包み、
その姿がすうーっと大きく伸びた
――まるで、丸まって力を溜めていた体が大きく伸びるように。
◇ ◇ ◇
【宇宙探索者ギルド・ルナトキオ支部】は巨大で、
中央街の中心にどっしりと構えている。
威圧感すらあるその建物を前に、
ショーンは一度だけ深呼吸した。
自動ドアを抜けるとすぐ、
〖案内〗の札を胸につけた若い男が声をかけてきた。
「キミキミ! ここは宇宙探索者ギルドだが、何か用かね?」
鋭い視線が、値踏みするようにショーンを上から下まで走る。
(……久しぶりに来たけど、なんか雰囲気変わった?
客商売なんだし、最初からそんな圧出さなくても……)
「宇宙探索者の新規登録に来ました」
そう一言告げた瞬間、男の表情が一変した。
「おお!
それは失礼しました!
どうぞどうぞ、奥の受付へ!」
猫なで声の急転換に、
ショーンは一瞬だけ戸惑いながらも奥へ進む。
奥の受付エリアには、昔と変わらない空気があった。
受付の女性が、柔らかな笑顔で迎えてくれる。
「新規登録ですね。では、市民IDをご提示ください」
年齢、性別、市民コード。
健康状態、犯罪歴の有無。
書類審査は驚くほどスムーズに進んだ。
「はい、書類審査は問題ございません。
続いて宇宙船および
アストロノイドの登録確認を行いますので、
船の認証キーをご提示ください」
ショーンはドレッドレッダー号の認証キーを提示した。
「――お待たせいたしました。
【宇宙探索者】新規登録に問題ございません」
続いて、ギルド規約の説明が始まる。
ギルドIDの発行。
ランク制度と依頼の受注・完了報告。
達成ポイントと月末集計、ランキング。
ID紛失時の自己責任。
淡々と、しかし要点は明確だった。
「何かご質問はございますか?」
ショーンは、シティ内で宇宙船を移動させる方法について尋ねる。
「シティ交通局から市内航行許可証を取得すれば問題ありませんよ」
「航行速度・高度、停泊スペースの確保は
航行ルールを守って下さい」
「目的のない周回航行、無届け作業は禁止」
「火器使用は原則禁止。
ただし、生命の危険がある場合の正当防衛は、
事後報告により認められます」
(よし・・・)
手順を確認できたショーンは、分かりました、と頷いた。
「では、最後に初心者講習を受講していただきます」
子供の頃、面白がって何度も聞いた内容だ。
それでも義務は義務。
ショーンは素直に受講室へ向かった。
======== 次回更新へつづく ========
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
【アテナの特殊スキルについて①】
本編をお読み頂くと、『何で次の日スッキリしてるの?』
という疑問が湧きますよね?
これは小説の中の設定、
生活支援型ヒューマノイド、メイドアテナのコモンスキルによるもの
と、お考え頂けると大変有難いです。
スキル名:ナイトブレス–スリープメロウ(NightBreath–SleepMellow)
個人専用・夜間/静音ケアモジュール(休息目的)
指先からパルスマッサージで(頭・首・肩・背中など)
緊張を解き、疲労・精神ダメージの回復をサポートする。
更に、対象に密着、リラクゼーション効果のある
アロマを含んだ吐息を近距離で放出、
優しいメロディの囁き・歌で睡眠導入
運用例:膝枕、ソファでの密着座り、ベッドでの添い寝など
効果: 眠りの質を大きく向上させ、翌日の集中・気力を最適化させる




