第7話(2)
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■世界の鼓動(後編)
ネットワークニュース特集(後半)
――宇宙探索者ギルド・注目の若き記録
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続いて、
宇宙探索者ギルドから届いた、明るい話題です。
今週、ギルドが発表した最新の昇格記録により、
史上最速でD級探索者へ昇格した人物が確認されました。
年齢は、16歳。
探索者登録から、わずか2か月。
これまでの最短記録を大幅に更新する、
異例のスピード昇格となります。
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その名は、
ショーン・マクスヴェイン。
現在は、
自身が率いる探索者チーム
『ニアサイド』のキャプテンとして活動しています。
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ショーン氏は、
ルナトキオにおいて都市管理会社に勤務し、
若年ながら現場運用やトラブル対応の経験を積んできました。
16歳の誕生日を迎えると同時に、
宇宙探索者として正式登録。
使用する宇宙船は旧式ながら、
探索者ギルドの創設と発展に大きく貢献した
故アレックス・マクスヴェイン氏の愛機――
ドレッドレッダー号。
そう、
ショーン氏は、
アレックス・マクスヴェイン氏の孫にあたります。
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さらに、
彼の父親は、
かつてS級探索者として名を馳せた
故ダイ・マクスヴェイン氏。
探索者界において、
その名を知らぬ者はいないと言ってよい存在です。
この家系背景から、
「探索者界のサラブレッド」と評する声も少なくありません。
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しかし、
ショーン氏の評価を決定づけたのは、
名門の血筋ではありませんでした。
それは――
確かな実績です。
記憶に新しい、宇宙軍による幽霊船討伐任務。
この極めて危険な作戦において、
ショーン氏は民間協力者として参加。
宇宙軍突撃部隊に先んじ、
およそ三六〇〇年前の逸話から着想を得たという、
いわゆる――
『トロイの木馬』作戦。
貨物に偽装する形で幽霊船内部への侵入を成功させ、
船内に潜伏していた海賊ファミリーの戦力を無力化。
さらに、
幽霊船の中枢システムを停止させることで、
宇宙軍突撃部隊の突入を可能にしました。
ここで、軍事評論家のコメントです。
「正直に言って、
あの作戦は“正規軍なら採用しない”類のものです」
そう語るのは、
元宇宙軍戦術研究部所属、軍事評論家のレイモンド氏。
「失敗すれば、
侵入した民間協力者は即座に捕捉、
脱出経路は存在せず、
幽霊船内部での全滅はほぼ確実でした」
「しかも相手は、
正体不明の海賊ファミリー、
民間人など何とも思わない最悪の環境です」
レイモンド氏は元宇宙軍だけあって奇策は好みでないようだ。
「貨物に偽装して侵入するという発想自体は古典的ですが、
それを実行する胆力と、
内部構造を読み切る理解力がなければ成立しない」
「はっきり言えば、
正規軍の基準では“無謀”に分類されます。
成功したのは、結果論でしょう」
「少し宜しいでしょうか?」
話に割り込んできたのは、
戦略分析官であり、
民間と軍の共同作戦を数多く監修してきた、
安全保障コンサルタントのミリアム氏だ。
彼女は反論を述べていく。
「確かに危険な作戦ではありましたが、
“無謀”と切り捨てるのは正確ではありません」
「軍の公式コメントによれば、
彼が紛れていたのは、極めて高価な貨物の中でした」
彼女は軍関係者から偽りのない貨物データを見せる。
「新素材試作品、
秘薬サンプル、
余剰スペースに、試作救命ポッド
そして、研究用メンテナンスポッド
特に違和感が感じられない貨物構成です」
「そして、乗員は、操船クルー6名とアストロノイド2体
このような少人数、普通は何も出来ません」
「海賊という存在は、暴力的であると同時に、
非常に打算的です」
「高額品と登録されているコンテナ、ただ一個を、
いきなり艦載レーザーで破壊する――
そんな行動は、利益を失う可能性が高すぎて選ばれない」
「つまりこの作戦は、海賊の“残忍さ”ではなく、
金銭欲と心理を前提に組み立てられていた。
敵を力でねじ伏せるのではなく、
行動原理そのものを利用した作戦でした」
さらに、ミリアム氏はこう続けます。
「加えて重要なのは、
この作戦が単独行動ではなかった点です」
「かの有名な高速補給艦、
コンコルド号を作戦に使うことで、
あたかも、『貴重な研究サンプルを緊急輸送しているぞ』、
そのように幽霊船内の海賊どもに印象付けています」
「しかも、コンコルド号は迫真の演技で、
幽霊船から逃げ回った挙句、後方から接触され損傷、
やむなく荷物を手放したように立ち回りました。
宇宙軍を負かしたというこの成果で海賊は油断し、
コンテナは疑われること無く潜入出来たのです」
「軍との密なコミュニケーションが取れていたことは
言うまでもありませんが、これを現場で遂行した
ショーン氏は、衝動的な発想ではありません。
むしろ、潜入方法を幾通りも考え、その中から、
“最も安全と思しき方法を”を選び取った、
ここに見えるのは少年というよりも老練さです」
キャスターを始め、スタジオは、
後から分かってくる顛末の緻密さに
少しの驚きとヒーロー感を感じ始めていた。
「なるほど、宇宙軍は彼に命を賭けさせたのではなく、
海賊の行動原理を読み切った上で彼の能力にベットした」
「この冷静さは、とても十六歳とは思えませんからね」
キャスターは締めの言葉を述べる。
「二人の専門家の評価は分かれています。
しかし共通しているのは、この作戦が偶然ではなく、
明確な意図と理解のもとに、
宇宙軍と民間協力者が連携して遂行されたという点ですね」
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女性キャスターが再び原稿を読み始めた。
「この一連の行動は、
民間人としては極めて異例であり、
作戦全体の成否を左右したとして、
宇宙軍内部でも高く評価されています。
特に、宇宙軍ナンバー2のショーリ提督からも、
正式な場で
「影の功労者」
として言及されたことも確認されています。
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D級探索者昇格後、
ショーン氏は新たにチームを結成。
チーム名は、
『ニアサイド』。
その名には、
「人々のそばで、共に働く」という理念が込められていると
関係者は語っています。
若さと実績、
そして確かな現場判断力。
今後、
この名前を耳にする機会は、
さらに増えていくことになりそうです。
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少しのCM休憩を挟み、ルナ・ネットワークニュースは続く。
ここで、キャスターが身を乗り出した。
「さて、皆さま――ここで、スクープです」
一瞬、スタジオの空気が張り詰める。
「ショーン・マクスヴェイン氏の一連の活躍。
その裏には、
一機のアストロノイドの存在がありました」
背後の大型スクリーンに、新たな映像が映し出される。
「探索者登録初日。
ショーン氏の成功を妬み、
武装した暴漢十名が彼を襲撃。
この時、
わずか数分で全員を制圧・捕縛したのが、
アストロノイド《アテナN3》です」
「武力特化タイプですな?」
スタジオの評論家が口を挟む。
だがキャスターは、
その言葉を制するように続けた。
「――いえ、話はまだ続きます」
映像が切り替わる。
「その後、
ショーン氏が宇宙軍と協力な関係を築くきっかけとなったのが、
海賊が不正に入手した
軍用ドローン戦闘機10機による襲撃事件」
「この際も、
アテナN3は、
数分で六機を撃破」
「しかも――
母艦となる宇宙船は、完全無傷」
スタジオがざわめいた。
「そして、
記憶に新しい幽霊船事件」
「ショーン氏と共に貨物に隠れて潜入し、
彼を守る“囮役”として、
海賊27名と幹部1名を、
単独で無力化していたのも、
このアテナN3だったのです」
「これは……」
先ほどの評論家が、言葉を選ぶ。
「索敵能力、
操船技術、
近接戦闘――
「これはハイブリッド型ですな。
しかも完成度が非常に高い」
その瞬間。
「――実は、さらに特ダネがございます」
キャスターが、
興奮を抑えきれない声で言った。
「当局筋から、
アテナN3の別の姿の映像を、
極秘入手しました」
映し出されたのは、
柔らかな微笑みを浮かべる、
メイド姿のアテナだった。
「アテナN3は、
フォームチェンジ機能を有していることが判明」
「アストロノイド評論家の方、
この意味は――」
指名された評論家は、
息を呑んだまま答えた。
「……これは、
一部の好事家しか手を出せない
超高額オプションです」
「この機能だけで、
普及型アストロノイド
三体分以上のコストがかかる」
「総合的に見れば、
少なく見積もっても
五体分相当の価値」
「正真正銘、
超プレミア級の万能型です」
スタジオがどよめく。
そして――
キャスターが、最後の一報を投じた。
「そして、
先ほどお伝えした
アストロクイーン選抜戦・民間予選ラウンド」
「――どうやら、
これだけのパフォーマンスをアテナN3は、
“民間代表第1号では?”との噂で持ち切りです」
「おお……」
報道フロアから、
抑えきれない声が漏れる。
「いよいよ、
チーム『ニアサイド』から、
目が離せませんね」
画面が暗転し、
ニュースは次の話題へと移った。
◇ ◇ ◇
そのニュースを、
ドレッドレッダー号のリビングで見ていた三人。
しばらくの沈黙の後、
ショーンがぽつりと口を開いた。
「……チーム名さ」
シャッテとアテナが、振り向く。
「“ニアサイド”にした理由、
言ってなかったね」
「世間的にはさ、
“身近な存在”って意味でいいんだと思う」
そこで、ショーンは少しだけ声を落とした。
「でも俺にとっては、
姉さんがそばにいるって意味なんだ」
アテナは、
何も言わずに聞いている。
「いつも一緒なんだ。
姉さんも、
父さんも、
もちろん……じいちゃんも」
シャッテは、
思わず胸に手を当てた。
(……なにそれ。惚れ直すんですけど)
アテナは、
その言葉を胸の奥で反芻していた。
――死者を尊ぶ、とは。
――想いを繋ぐ、とは。
それは、
記憶ではなく、
共に在り続けることなのだと。
彼女は、
静かに理解していた。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




