第7話(1)
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■ホイットニー博士
ヴァルゴを睡眠状態で保護、
リンクの強制切断による要塞の機能停止という裏ワザで、
作戦が完了した。
しかし、それと同時に、
眼を使いすぎたショーンはまたも気を失ってしまい、
アテナに運ばれて一足先にヴァルゴを離れることになった。
シャッテは、要塞システムを操作した経験を買われて
エマの補佐役として、今少し要塞に残る事となる。
「後で合流するからね」と言って一旦チームを離れる。
コンコルド号のクルーはエマとシャッテの護衛として同じく滞在。
アテナは、作戦中はコンコルド号のアストロノイドである
ファントマとプライベート・リンクをしていたので、
リモートでレッドレッダー号を運んでもらっていた。
アテナはショーンを運びつつ宇宙船に戻り、すぐに看護、
一路ルナトキオへ帰還する。
◇ ◇ ◇
翌日、ドレッドレッダー号はルナトキオに到着。
だが、ショーンは目覚める気配がない。
船はそのまま、宇宙港に停泊し、
メイド・アテナがバイタル薬やパルスマッサージで、
懸命にショーンの看護をしていた。
そして更に、次の日の午後。
ピンポロポンポーン、
これは来客ではなく、クルーが帰還した時のアラーム。
シャッテが無事に戻って来たのだ。
ドレッドレッダー号の前部エントランスハッチを開き、出迎えるアテナ。
だが、そこにはシャッテの他にもう一人、
ホイットニー・タンハウザー博士が一緒に訪問したのだ。
「ただいま、アテにゃん!」
ハイタッチで挨拶するメイド・アテナとシャッテ。
ショーンがまだ目覚めないことを二人で心配していると、
「コホンッ」と咳払い、、
慌ててアテナがリビングルームに通して接客する。
シャッテがくつろぐ中、
ティーセットと手焼きのクッキーをホイットニーに振る舞うアテナ、
ふと気づくと、ホイットニーの顔が紅潮している。
「キミ、ひょっとして、あのアテナ?」
何気なく肯定すると、いきなりホイットニーが迫って来た。
「ええ?君ってフォームチェンジ出来るの?
それって貴族の好事家しか使ってない“贅沢”機能だよ?
その機能だけでAIヒューマノイド2体購入できるからね。
私も初めて見たよ」
「それにしても、あの戦闘力、あの操船技術で、
フォームチェンジして家事までするって?
聞いたことないよ、万能じゃないか!
普段の冷静さは何処へやら、ホイットニーの剣幕に押され、
アテナは少し怯えてシャッテの影に隠れる。
が、その仕草もホイットニーには観察ポイントだ。
「その表情変化だって、
普及型とはとても思えない豊かさだ、とても信じられない」
ホイットニーがわなわなと震えながら、さらに迫る。
「ねぇアテナ、制御AIの階層構造どうなってるの?
表情筋アクチュエーターは有機系?
反応曲線見たいんだけど! センサーの分光帯域も教えて!
あとメンテ履歴と内部ログの――」
技術者特有の“研究対象を見つけたときの目”でアテナに迫る。
「えっ……あの、ええと……」
「ホイットニーさん、ちょっと距離感を……!」
シャッテがびっくりして止めようとするが、まったく止まらない。
「嫌ですわ! そんな……無理です、内部構造のデータなど……!」
アテナは胸部を押さえて後ずさる。
だがホイットニーは、それを追いかけながらさらに質問の雨を降らせた。
「なんで!? どうして拒否するの!?
新型アーキテクチャでしょ!?
解析したいに決まってるじゃない!」
とうとうアテナが切れた。
「もう!ホイタン、しつこいですわ!」
「え?」
空気が止まった。
「……ホイ……タン?」
ホイットニーが呟く。
「その呼び方……」
ホイットニーの声が震えていた。
口をついて出た呼び名、アテナ自身は全くの無自覚のようだ
いったい誰が語った言葉なのか?
沈黙が続いた。
不意に、「今日はもう帰るよ、アテナ、失礼したね」
ホイットニーは、ふらふらと帰り支度をする。
エントランスまで無言で見送りに出るアテナ
「それじゃあ」
ゆっくりと外に出るホイットニー、
アテナが宇宙船に戻ろうとした
その時、考え事をしていたホイットニーは突然、
「またね!ニィヴェ!」バイバイと大きく手を振った。
まるで、友達に向かってするように元気良く
それにつられて、
「はい、またです」小さく手を振ってバイバイするアテナ
胸の前で小さく両手でバイバイする……あれは!
間違いない!
やはり、彼女の仕草……
ホイットニーは、彼女が最後にくれたメッセージを思い出す。
気が付けば、内なる思いを抑えきれず、ホイットニーは全力で駆けていた。
◇ ◇ ◇
研究所に戻り、デスクの端末からサーバーにアクセス、
6年前のメッセージ・アーカイブからそれを見つける
ホイタンへ
明日は木星探査初日、こちらの景色は壮観ですよ。
面白いことを発見したので論文書きました。
何かコメントあればよろしくです。
おやすみなさい。
ニィヴェより
その後すぐに、『第一次木星探索部隊』は全滅した。
この知らせを聞いて、ショックで、すっかり忘れていた。
大事な親友からの最後のメッセージ
ホイットニーは意を決して、添付された論文に目を通す
「やっぱり、そうなんだ」
そこには、ホイットニーが気づいたこと、
疑問に思ったこと、
知りたかったこと、全てが書かれていた。
長い夜になる──
ホイットニーは自らがやらねばいけないことを考え始めた
モニターに映った論文のタイトルが、とても眩しく見えた。
『研究論文
アストロノイドの自我獲得に関する研究
理学博士 ニア・ヴェイン』
◇ ◇ ◇
■世界の鼓動(前編)
ネットワークニュース特集
――アストロクイーン選抜戦・制度改革
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――こちらは、ルナ・ネットワークニュースです。
人気女性キャスターが微笑みとともにオープニングの挨拶を飾る。
本日のトップニュースは、
アストロクイーン選抜戦のレギュレーション大幅改定についてです。
宇宙軍本部は本日、
次回開催となる第4回アストロクイーン選抜戦において、
これまでの制度を根本から見直すことを正式に発表しました。
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アストロクイーン制度は、
三年に一度行われる、
人類圏最高位の艦隊統率者としての特別選考です。
その目的はただ一つ――
未だ達成されていない木星圏深部探索遠征の踏破。
およそ一万隻に及ぶ艦隊を、
単一の意思と判断で統率・運用する存在として、
アストロクイーンは不可欠とされてきました。
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しかし、
これまでの遠征は、いずれも不本意な結果を残しています。
初代アストロクイーンによる第一次遠征は、
木星圏到達後、艦隊は消息を絶ち、
全滅と判断されました。
第二代による第二次遠征では、
探索部隊の半数を喪失。
その過程で、
木星周辺に存在する敵性集団が初めて確認されました。
第三代アストロクイーンによる第三次遠征では、
遠征そのものは失敗に終わったものの、
敵性集団に関する詳細な情報を持ち帰ることに成功しました。
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こうした成果と犠牲を踏まえ、
宇宙軍および統合研究機構は結論を下します。
「これまでの選抜基準では、足りない」
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今回発表された制度改定の最大の特徴は、
一般アストロノイドへの門戸開放です。
これまで、
アストロクイーン選抜戦への参加資格は、
宇宙軍、もしくは研究所からの推薦を受けた
限られたアストロノイドのみに与えられていました。
推薦枠は、
宇宙軍8名、研究所8名――
計16名。
その16名によるトーナメント方式で、
クイーンは選出されてきたのです。
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しかし、第4回選抜戦では、
この構図が大きく変わります。
推薦枠は14名に縮小。
代わって導入されるのが、
一般アストロノイドによる予選ラウンド方式です。
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予選への参加登録者数は、
現時点でおよそ一万人。
半年間にわたり、
通常の宇宙船業務や探索、輸送、警備といった
実務の中でポイントを獲得。
最初の三か月間を予選一次ラウンドとし、
上位200名が二次ラウンドへ進出します。
さらに三か月間の選抜を経て、
最終的に6名のみが本戦出場権を獲得。
推薦枠14名と合わせ、
本戦出場者は合計20名となります。
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宇宙軍は今回の改定について、
「理論、血統、所属ではなく、
実戦における統率力と判断力を評価する」
とコメントしています。
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この制度改革は、
アストロクイーン選抜戦史上、
最大規模の転換点となる見込みです。
後半では、
この変更が現場や民間に与える影響について、
詳しくお伝えします。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




