第6話(5)要塞、赤く染めて
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■ドローン蜂
天井が高い四角く大きめの部屋。
行き止まりのように見えるが奥には扉がある。
不意に、天井方向から空気が震える音
静かに降りて来て周囲を飛び回っている感じだ
――ぶん。
――ぶぶん。
――ぶぶぶん。
空気が、震えた。
姿は見えないのに多くの羽音、多数の飛来物が空中を飛ぶ音
「うわぁ、蜂ドローンかよ~103匹も飛んでるし。
みんな、毒針付きだから気をつけて」
脇腹の打撲の痛みが引いてきたようだ。
ショーンの顔色が良くなっている。
蜂ドローン達が群れでアテナを襲い始める。
どうやら、何者かの指図で
こちらの最大戦力をしとめるつもりらしい。
数で攻められるとアテナでさえ、見極められない。
ひと刺し、ふた刺しされ、瞬間、動きが止まってしまう。
ほんの一瞬、思考が鈍る。
(――判断を誤れば、私でもピンチかも)
(二人が刺されると非常に危険です)
「ここは――」
私に任せて先に進んでください、これが正解だ。
かなりのダメージを覚悟する。
ショーンが一歩前に出た。
「ここは俺に任せて。
アテナはシャッテとカプセルを守ってくれ」
アテナが一瞬だけ迷い、すぐに頷く。
「どうかお気をつけて……姿さえ見えれば後はわたしが」
ショーンは“余裕、余裕”にっこり微笑むと、
次の瞬間。
「要塞、赤く染めてやろう!」
古い映画のタイトルをもじって呟くと、
ショーンはニヤリと笑みを浮かべて飛び出した。
◇ ◇ ◇
蜂ドローン最大の欠点。
それは、ヒットアンドウェイ。
攻撃対象に接近して針を刺して、速やかに離脱する。
つまり、蜂ドローンは必ずショーンに近づかなければならない
不可視の蜂の群れが、ショーンに襲い掛かる。
だが、全て、紙一重で躱される。
蜂は攻撃アルゴリズム通りに、
次の攻撃のためクルリと反転、速やかに離脱する。
ショーンは、去り際の隙を逃さず、「はっ!」――
隠し持っていたケチャップボトルを握って絞る
ピュッ。
不可視だった蜂が、
次々と“赤く染まっていく”。
ピュッ。ピュッ。ピュッ。
(これ、全然怖くない……
向こうから勝手に俺に向かってくる
アテナにもシャッテにも危険が及ばない、
これなら頑張れる!二人を守れる!)
(はぁ…はぁ…ああ、ショーン)
アテナはピンチに登場したマイ・ヒーローに目が釘付けだ
「アテナ?今のうちに!」
「――了解、流石です、ショーン」
すんと乙女の眼差しから相棒の顔に。
次の瞬間。
「ダンスビート・アタック・モード」
「スティング(舞穿)ぶせん!」
(ショーンはドローン蜂の軌道が線で見えているのですね。
だから、通り道にケチャップを落とすだけ)
アテナは自分では真似できないショーンの美技に興奮しつつも
目に負担をかけさせてる自分を恥じた。
“不甲斐ない”
彼を前に出させてしまった、その一点だけで。
(……嫌だ。
彼が前に出るのも、
それを止められない自分も)
ケチャップで赤く染まった蜂たちは、
もはや逃げ場を失っていた。
スティング、その名のとおり、蜂顔負けの突き刺しスキル
ショーンのマーキングで百発百中
わずか1分後。
全機床に落とされ、沈黙したドローンの残骸。
「キャプテン、全機殲滅です……」
アテナが言う。
ショーンはケチャップボトルをポケットに仕舞って、肩をすくめた。
「じゃ、行こうか」
(うん、時間が短かったし、まだ行ける)
(ああ、確認したい。でも急がないと。
信じましょう。眼はまだ大丈夫ですよね?)
(ショーンもアテにゃんもカッコよ~
わたしお荷物?
いやいやショーンが、必要って言ってくれてたし!
わたしだって絶対役に立つんだから!)
床に散らばる赤い斑点を後に、
三人は何事もなかったかのように先へ進む。
静けさが戻った通路をペタペタと歩く音だけが響きだした。
◇ ◇ ◇
コンコルド号・ブリッジ。
映像を見ていたチーム・モリソン。
次の瞬間。
「ぶっ……!」
「ケ、ケチャップ!?」
「反則だろそれ!」
ブリッジが爆笑に包まれる。
「なんだよあの少年!」
「天才かよ!」
だが。
モリソン大尉だけは、笑っていなかった。
モニターを、
食い入るように見つめている。
「……器が違う」
「え? 大尉?」
モリソンは、低く呟いた。
「あの少年がステルスを看破しているのは分かった」
「だが、それだけじゃない」
沈黙。
「ハンス、たとえ見えていてもお前に出来るか?
一刺しでも食らえばヤバい毒針。
それを前にあれだけ体が動くんだぜ?」
ハンスも、はっと、ようやくモリソンの言葉を理解した。
「大尉、自分にはたとえ見えていても、
いえ、見えているからこそ
恐怖と緊張でまともに動けないと思います」
うむ、モリソンは小さく頷いた。
「あのアストロノイドの戦闘力は、規格外だ。
だがな……」
ケチャップで染まった空間を思い出す。
「あの少年の胆力そして集中力、同格の規格外ってことだ」
様々な修羅場をくぐって来たモリソンにも、
これほど高次元で完成しているバディは記憶になかった。
◇◇◇
マジシャンの苦肉の策、
システム中枢へ簡単に進めないよう広い空間を隔壁で区切り、
隔壁自体をドローン化して,
常にどこかの隔壁が動き、
流動的に形が変わる迷路エリアを仕込んでいた。
しかも、少し進むだけで目の前が急に閉じる。
刻々と時間が過ぎ、あっという間に3分が過ぎた。
「ショーン、隔壁移動アルゴリズムを解析したのですが、
第三者が監視しながら、ギリギリでリモート指示で
目の前の壁を塞いでいるようです。
(マズいぞ、ここで時間をかけるほど状況が悪くなりそうだ)
すると突然、ペンギンからついにシャッテ登場。
既に太古の遺物、ゴール・マッパーを装着している。
「ここは出番ね、私たちに任せて頂戴!!リード行くわよ!」
「了解です、お嬢、ゴールを設定してください。」
「ゴールは、要塞で苦しんでいる、アストロノイド・ヴァルゴλ8!!」
「・・・・・・ゴール設定完了、
目的物:アストロノイド・ヴァルゴλ8、
この先システム最深部に発見、距離200メートル」
「足が遅い、ペンギンはここまでね。サンキューぺぎぺぎ!」
お別れの投げキッスをするシャッテ。
シャッテはどんどん進んでいく。
マックスサイトの反動で意識が飛びかけているショーンを
メンテナンスカプセルに座らせ、
アテナが浮遊カプセルを押しながら後ろから遅れずついていく。
どんどん、進んでいくシャッテ。
「アテナ、スモークだ」「了解です。良いヒラメキですね」
アテナがふーっと水蒸気を放出し、辺りはまた靄に包まれる。
「これで隔壁を動かすための映像は見えなくなったね」
マジシャン、
「くっなんも見えへんがな。
まあ、向こうもこれじゃ迷路なんて抜けられないでしょ」
だが、「ここ?」シャッテが確認、「はい、7秒後」
・・・3・・・2・・・1・・・ゴゴゴゴゴ
目の前の壁が移動した。
すぐ先に扉が見える。三人は遂にシステム中枢に到着した。
はあ!!何で分かるんや?・・・終わった・・・
アジトで突っ伏すマジシャン
チームモリソン
「ありゃ無理ゲーだろ」
「ペンギンじゃ遅い」
「お、中から出て来た」
「なに、なに?どうして進めるの?」
「一度も止まらねえ」
「あ、スモーク?なんも見えねえわ」
「なんか、あのアストロノイドが凄いって思ってたけど、
3人ともぶっ飛んでるわ」
システム中枢にたどり着くと、ヴァルゴλ8を確認する3人。
やはり、ヴァルゴλ8は拘束され、
無理やり命令を実行するように電磁パルスを浴びせられ続けていた
「酷い・・・電磁苦痛はアストロノイドにも有効です。
2日間以上、拷問を受け続けている状態で、心身共に破綻を来たしています。」
アテナはケーブルを切断し、
持ってきたアストロノイド専用メンテナンスカプセルにヴァルゴを寝かせた。
システムを起動し、
睡眠モード
そして状態診断・メンテナンスモード
ヴァルゴの意識が眠りに落ちた瞬間、
要塞の全機能が停止状態となり、メインハッチが開いたままになった。
エマ・ソーン率いる特殊部隊が要塞内に侵入、
システム要所を制圧。
モリソン大尉率いる部隊が海賊たちを全員捕縛した。
幽霊船の擬態は静かに消え、
灯の消えた無機質な球状要塞が商業航路に漂うだけだった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




