第6話(3)
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は、冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■コンコルド号と幽霊船
海賊ギルド幹部“叡智”のマジシャンは、
幽霊船に擬態したままの移動要塞【ヴァルゴ】を、
自分のアジトから遠隔操作していた。
やり方は至極簡単、
宇宙航行管制センター【ゼロリンクオメガ】から
ハッキングした“現在航行中の”宇宙船群データを、
お手製の立体商業マップに表示させ、
ひたすら船のシンボルをクリック。
積み荷データを見て、目標を決めたら、
その船を“移動先”に指定するだけ。
最初こそ、おもしろ楽しくやってたが、
今はもう飽きて部下に丸投げしていた。
1日目は、まさに”入れ食い状態“、
数百億クレジットの稼ぎにご満悦だったが、
2日目は殆どの貨物船が、
ビビッて運航をキャンセルしていたのだ。
だが、マジシャンは焦らない。
「いつまでも続くわけないねん。
どうせ待てば、物流活動は再開するでしょ」
◇ ◇ ◇
んー?
いたいた、来た来たぁ!
宇宙軍が誇る、超高速補給艦【コンコルド号】
積み荷は、おお!レアメタルや研究用の最新秘薬、これこれ!
スピードに自信あるから、幽霊船など気にもせん、てか?
マジシャンは先日までの成功体験から、
自分が“優秀な狩人”にでもなったような気分だった。
「宇宙軍自慢の駿馬を狩る、これは気持ちええで!」
マジシャンは得意のルート計算でコンコルドを追跡し、
接触するポイントを割り出す。
「うん、2時間後に行ける、さぁ、楽しい狩りの始まりや!」
マジシャンは、不気味な笑みを浮かべた
そして、2時間後――
【コンコルド号】アストロノイドのファントマF4が非常事態を発した。
「キャプテン、
後方より巨大な質量物質が急速接近中です」
それまで和やかだったチームに緊張感が一気に伝わる。
「予定通り、プライベートリンクでアテナN3に連絡してくれ」
「承知いたしました」
「時間はどのくらいだ?」
「はい、およそ1分後に衝突されます」
「よし、現在の速度60パーセントから70パーセントへ上げろ」
「お前たち、オオカミに気づいて必死に逃げるウサギの役、演じ切るぞ!」
はい!と応じる部下3人。
話の流れとは言え、今回、こういう大役に抜擢された。
普段は裏方的な仕事しかない情報部2課。
全員がやる気マックスだった。
「衝突対策オーケーです!」
「エンジン部ダミー爆破も準備完了!」
「コンテナ射出とSOSコール、いつでも行けます!」
ファントマが状況変化を淡々と告げる。
「キャプテン、こちらに合わせて相手も速度を上げました。
衝突予測時間早まりました。あと18秒です」
「ファントマ、サイドスラスター最大!
左右に大きくケツを振れ!
10秒前よりカウントダウン!」
モリソンは追われて必死に逃げるウサギをイメージして指示を出す。
上手く当ててくれよな――狩人さんよ
「カウントダウン開始10……9……8……
アテナさんから演算結果が届きました。
衝突2.16秒前に100%に加速して右回避が、
最小被害と予測」
「許可する。その通りやってくれ!」
「……4……3……スラスター最大、右に回避
……1……0」
「衝突する!……」
◇ ◇ ◇
「どかーん!はい、終わりー」
マジシャンは苦戦することなく、
宇宙軍の有名な高速艇コンコルド号に要塞を衝突させた。
タイムラグ無く送られてくる映像を見て、満足げに頷く。
コンコルド号は後部エンジンが豪快に爆発する。
激しく横回転しながら、
積み荷と思しきコンテナが1個放出される。
そして、
SOSコールを放ちながら、商業航路を大きく外れていった。
その1分後、
コンコルド号ははるか彼方に消え去り、
幽霊船が漂流中のコンテナの近くまでゆっくり近づいた。
コンコルド号、思ったより大したことなかったわ
スピード上げたり、左右に振ったり、見え見えだっつうの
あっけなかったわな、
まあ、ただ速いだけってことか。
「念のため……」
彼は放出されたコンテナの識別コードをチェック、
自らがゼロリンクオメガからハックした情報と照合する。
(よし!このコンテナに間違いない。お宝、ゲットや)
マジシャンは海賊ファミリー専用チャットで
“積み荷回収よろ~”
要塞にいる“無頼”チャリオットに連絡した
チャリオットさん、“叡智”さんから
積み荷を回収するようメッセージ来ました
「よし、全員、いつも通りバシッと動け!」
チャリオットの部下、精鋭30人は直立不動で一糸乱れぬ敬礼で応じた
かくして、コンコルド号が落とした積み荷は、何の疑問も持たれず
幽霊船の中に運び込まれたのだった。
幽霊船の内部に収納された宇宙軍の輸送コンテナ
最新素材や秘薬など幽霊船を出し抜いて運びたかった数々のお宝
ゆっくりとコンテナの扉が開く。
そこにあったものは、
“まるっこい、愛嬌のあるペンギン着ぐるみ”が2体、
奥にアストロノイド用メンテナンスカプセル
「「「はっ??」」」
海賊たち全員があっけにとられる中、
コンテナの陰からひとつの影が“ひゅっ“と飛び出した。
高く上がった影は、くるくると海賊たちの背後に回り込み、
床にふわりと舞い降りた。
そう、アストロノイド・アテナが現れ、決めの口上を述べた。
「あなた方海賊をこれより拘束します」
◇ ◇ ◇
「なんだぁ?罠か?!」一瞬怯んだが、チャリオットは動じない。
「全員、囲め」
海賊たちは一斉にアテナに向かっていった。
「ダンスビート・アタックモード」
「バースト(舞爆)ぶばく!」
アテナの体からもの凄い量の水蒸気が立ち上る。
立ち上った水蒸気はあっという間に冷えて氷の粒になり、
格納庫は瞬く間に霧がかった。
「ミラージュ(舞幻)ぶげん!」
視界の悪い霧の中で、アテナが肩のサーチライトを明滅させると、
その姿が幻のように、霧に映っては消え、消えては移ろい、
海賊たちは幻に翻弄され、アテナへの攻撃がすべて空振りだった。
それとは逆に、スラスター加速でアテナが右へ左へ切り返す度に、
海賊の部下たちは手刀や蹴りで意識を削られていった。
「壁沿い、角へ、頭上注意」
チャリオットが短く腹心部下に指示をだす。
「はい!お前ら!壁使って角に追い込むんだ!
頭の上飛んで逃げるから注意しろ」
銃火器は持ち込めていないが剣や戦斧、原始的な武器で襲い掛かる
「この野郎!白兵戦なら数が多いこっちが上なんだよ」
「そうですか。でも、1分で16人減りましたけど?」
「「「 え!! 」」」
霧が消えて来た。
海賊で立っているのは14人とチャリオットだけだった。
「さあ、残りまとめてどうぞ」
◇ ◇ ◇
幽霊船の索敵レーダーギリギリ範囲外。
衝突時の衝撃を上手く緩和できたコンコルド号は、監視任務に
切り替えていた。
「おお!すげえ、すげえ」
「やはり、あのアストロノイドは規格外だな」
幽霊船に運び込まれたコンテナには、カメラドローンが積まれていた。
送られてくる映像をファントマF4が受信。
コンコルド号はエンタメ特等席と化していた
モリソン大尉たちはアテナの華麗なステップと、
的確に繰り出す一撃必殺を食い入るように見つめていた。
「お前なら手刀、掌底、蹴り、どれなら耐えられる?
「ええ?手刀の首筋、
掌底の顔面、
蹴りの延髄かぁ
いやいや無理無理!全部一撃で気絶だって」
「お前だって武術の心得あんだろ?上手く立ち回れるんじゃね?」
「あのなあ?武術は相手の呼吸読んで間合い掴むけど、
ヒューマノイドは電気駆動だから呼吸が無いだろが?
だから間合いが掴みにくいし、
そもそも、全力殴り合いを30分維持出来るスタミナお化けで、
痛覚も無し、せいぜい数手打ち合うのが関の山だな」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




