第6話(2)要塞奪還作戦
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は、冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
■ 海賊ファミリー
――時は3日前に遡る。
すなわち、幽霊船が民間貨物船を襲い出す前日。
海賊ハングマンは、
その日もルナデトロイトの豪奢な邸宅で、際限なく苛立っていた。
シャッテ・ホルスタイン――
あの女が現れてからというもの、俺の人生が狂い始めた。
失敗!失敗!失敗!
あまつさえ、大ボスに頭を下げて、助けを乞い、
借りたくもないライバル、ハーミットの助力まで受けたってのに。
あの女、自分の部屋に爆弾だと?
俺は20人の精鋭を失った……
残った部下全員でルナシカゴ中を探し回ってるが、
全然、見つからねぇ。
ハーミットの部下ジェッドは、
あれは一流の女スパイだ、と言ってたな……
「畜生!一体、どうすりゃいい?」
その時、デスクの緊急コールが鳴り響く。
げぇぇ!こ、こんなときに……いや、こんなとき、だからか……
それは、海賊ギルドの大ボスからの呼び出しであった。
連絡メッセージを受け取ると、
ハングマンは急ぎ、幹部しか知らない
【ルナシチリア】の秘密のアジトへ向かうのだった。
◇ ◇ ◇
ハングマンがアジトに到着すると、
他の幹部達が既に縦に並んで立っていた。
“無頼”――厚い胸板の男が、無言で腕を組む。
“不遜”――痩せた男が、影のごとく気配を消している。
「お久しぶりっす“激高”のハングマンさん」
仮面が張り付いたような笑みを浮かべて、
“叡智”のマジシャンが話しかける。
「ふん!」軽くあしらうと、
ハングマンは当然のように、列の一番前へ並んだ。
”激高”のハングマン――それが今までの序列だから。
ほどなくして、側近に周りを囲まれて大ボスが現れた。
“風雅”のエンプレス――
齢100才を超えるとはとても思えない、妖艶な美女
「“激高”はん、相当に苦労しとるかや?」
「い、いえ、余裕です」
「そうかえ、でもジェッドが怪我して戻ったそうやし」
(マズい、ジェッドは大ボスの“お気に”だった)
エンプレスは目を閉じ、少し考える所作。
ぱっと目を開き、妖艶な笑みを浮かべて、ぽんっと手を叩く。
「ここらで序列弄って、気分転換でもしようやないの」
全員に緊張が走る。
「まず――“激高”はん?」
「ウス!」(よし!俺はまだまだ行ける!)
「例の要塞の権限のアレ、ウチに寄こしーや?」
「え?!」
ツカツカと側近二人がハングマンを挟み威圧する。
「――早よ」
「……」
ハングマンは、
無言で要塞システムのアドミニスター権限コードを渡す。
「ん……“叡智”はん、これ使って派手に暴れたい言うてたな?」
「はい!!」
「んじゃ、はい……因みに、どうやるんか説明したって?」
“風雅”のエンプレスは、
コードを無造作に“叡智”のマジシャンへ差し出した。
「はっ!」
「お前ごときに、要塞のロックを解除できるとは思えないが?」
せめてもの負け惜しみを吐くハングマン。
「でも動かせてたでしょ?
ハングマンさんが出来てんなら、ワイも行けるでしょ?」
マジシャンは大型スクリーンを使って、自らの計画を話し出した。
「要は、出来ないことを出来るようにするんじゃなく、
今出来ることで、どうやったら儲かるか、これですやん!」
「ワイ自慢のハッキングツール、
“よ!お目が高いね!オメガピーピング”
これで、航行中のエサの中でも、
“特に美味しいヤツ”を絞り込むんすよ」
「ヴゥーーン」
全員の目の前に、大型のホログラムスクリーンが浮かび上がった。
スクリーンに5隻の宇宙貨物船団。
「これがエサ達で、ホイホイッと」
手書きの幽霊船が出現、
5隻の宇宙貨物船団に向けて移動、
「ドドン!っと」
幽霊船に重なった一隻にバツ印、潰された。
積み荷を示すように、小さな◆印が幾つか周りに散らばった。
「幽霊船て言っても中身は丈夫な球状要塞、
そこらの船よりずっと頑丈なんで、
ぶつかっても向こうが壊れるだけですわ」
「分かってると思いますが、まあ、全部潰さなくていいんすよ?」
“叡智”のマジシャンはニヤーッと笑う。
「これは脅しっす、残った船は積み荷を置いて逃がします。
次からは姿見せただけで、観念して積み荷落とすでしょ!」
要塞のイラストから、
小さな*印が幾つか現れ、積み荷を示す◆印を要塞内に運ぶ。
「周辺に散らばった積み荷は、回収班がペロリっす」
「ほほぉ」感嘆し、くすくす笑い出すエンプレス
「しっかし、この幽霊船ギミックてぇ、作ったの誰なん?」
「マジ天才っすね!」
マジシャンがハングマンを見てニタリと笑う。
「羨ましいですわ。こんな逸材、そうそう居ませんでぇ?」
「このビジュアル!ムネトキっすねぇ!」
マジシャンはどんどん早口になり、悪意の圧も膨れ上がる。
「これって、結構前から徘徊しとったヤツですやん?」
「ワイはかなり前から知っとったでぇ?幽霊船の噂」
「そんな前から!こんなイイ物!使わないなんて……」
「あああぁ、勿体な~い!!」
「ヒラメキ?応用力?」
「ハングマンさ~ん?ボケんといて下さいよ?」
「お前!!」散々煽られ、ハングマンが遂にキレた
「ええやないの?」
エンプレスがパチパチと拍手して称賛を贈る。
マジシャンは、鼻につく気取ったポーズで、
エンプレスにお辞儀した。
「みんな、気張ってやァ!
んーと……“無頼”はん、積み荷の回収、手伝ったって」
「承知した」
“無頼”のチャリオットは“ドン”と分厚い胸を叩いた。
「それじゃあ、これが成功した時の序列、発表するでぇ?」
「ドゥルルルル――」側近の一人がドラムロールを奏でる。
エンプレスは、こういう細かな演出が好みのようだ
「序列順に、“無頼”、“叡智”、“不遜”、“激高”なぁ?」
つまり、一言で言うと、
ハングマンが一番上から一番下まで落っこちた、だけ。
――だがそれは、
指揮権・取り分・発言力、その全てを失う宣告だった。
ほな、今日は解散なぁ――
ヒラヒラと手を振りながら、エンプレスが退室する。
マジシャンとチャリオットは打合せのためか二人揃って退室。
終始無言だった“不遜”のハーミットは、
小さく呟くと、消えるように退出。
「あの小娘、キミには荷が重いようだから、
探してボクが頂くよ――」
――ハングマンは呆然としていた。
小娘?
今更どうでもいい
彼の握りしめた、その手の中で、
もはや意味を失った認証端末の画面が、静かに消えた。
◇ ◇ ◇
■ 要塞奪還作戦
ショーンやエマ達が立案した『要塞奪還作戦』が、
軍上層部に承認されてから、わずか3時間後――
ドレッドレッダー号、
そして、宇宙軍最速の補給艦【コンコルド号】――
シンと静まり返ったルナトキオの出航ポートで二隻が並び、
そのクルー達は出航準備に忙しかった。
エマはショーン達に、今回サポート役の軍人を紹介する。
「ショーン、
こちらは君たちのサポートと私の護衛を務めてくれる、
チーム・モリソンの皆さんです」
「初めまして。船長のショーン・マクスヴェインです。
よろしくお願いします。
こちらは操縦アストロノイドのアテナN3です」
アテナが静々とお辞儀する。
「それから、彼女は……」
「エンジニアのシャッテ・ホルスタインです!よろしく、おじさま方♪」
「ああ、よろしく。
今回の作戦で高速船の船長を務めるモリソンだ」
モリソンは部下3人を紹介、
みんなで握手を交わし合い、意識を合わせていく。
「ショーン、計画書に目を通したが、大丈夫なのか?
かなり危険を伴うと思うのだが」
「俺たちは大丈夫、むしろモリソンさんの方が危険なので
どうか、気をつけて下さい」
ふと、アテナを見ると、
コンコルド号操縦のアストロノイド・ファントマF4と
アストロノイド式コミュニケーションを取っていた。
手を取り合う二人のアストロノイド、
会話はない、
互いに見つめ合うこと1分。
何事もなかったようにアテナはショーンの元に戻っていった。
「キャプテン、ファントマさんとプライベート・リンク、OKです」
「ん、順調だね」
ショーンは頷いた。
こうして1時間後、要塞奪還計画のカギを握る2隻の宇宙船が、
ルナトキオの出航ポートを揃って発進した。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




