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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第一章 宇宙探索者ショーンとアストロノイド・アテナ
22/32

第5話(3)ショーンは駆け引き上手

西暦2381年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は、冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


シャッテをエンジニアとして迎え入れ、ショーンは船長としての

役割と責任を徐々に自覚していく。


そんな折、昨日の騒動の事もあり、エマ少佐とホイットニー博士は

事態の悪化を招かぬよう誠意を見せようと、二人だけでドレッドレッダー号を訪れた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。


お茶を飲みながら、エマはその後の出来事を話した。

   新型要塞開発プロジェクトは中止となった事。

   責任者コリント大佐は民間人に暴行を加えた罪で拘留中。

   「異常な興奮状態だったことから、違法薬物の使用を疑われ、

   念のため彼の家の家宅捜索を行ったわ。


それで、違法薬物は見つからなかったけど、その……」

   言葉を切り、

   少し赤らんで、

   ためらい、言葉を選ぶエマ。

「コリント大佐が、その、夜の女性を自宅に招いて、その結果、

   プロジェクトの計画書が全てコピーされ持ち出されていました」


コリントは内通者ではないか?

   と、エマは疑っていたのだが、

   まさかのハニートラップに引っかかっていた。

   しかも、コリント自身は気がついていなかったという――


「そうだったんですね。でも内通者がいる可能性は消えませんね」

「ええ、その通り、引き続き洗い出しをしているわ」


◇ ◇ ◇


話はつづく。

  「それで本題ですけど、実は幽霊船の居場所が分かりました」

   エマは持ってきたモニター端末を開いて映像を見せる。

   100年以上前に廃棄された、宇宙コロニーがあり

   そこを海賊ギルドが住み着いているのだ。

  「幽霊船はその廃棄コロニーに入っていったのよ」

エマは一呼吸おいて話を続けた。

  「さて、今日の本題なんだけど、

   移動要塞の場所が分かった今、早急に取り戻す必要があります」


ホイットニーが、ここから先は私が説明しましょう、と

  「状況を整理しましょう。

   移動要塞ヴァルゴは現在も幽霊船に偽装して見えている。

   何故、姿を隠さないのか?

   これが最大の疑問なの」

   ホイットニーは周りの反応を伺いながら話を進める。


「幽霊船に擬態するのは明らかに海賊の追加装備、

   恐らく、ステルス機能を利用した、高度なアドインプログラム。

   だから、消えなくなったのは、ステルスシステムに障害が発生して

   海賊には修復できない事態に陥った。」

「それは俺たちが切っ掛けでしょうか?」


「うん、その可能性は極めて高いね……ん?」

   ホイットニーは青い顔で俯くシャッテを見逃さなかった。

  「シャッテちゃん?何か気づいたの?」

   心当たりがありすぎて、どうしていいか分からなくなったシャッテ。

   ホイットニーの振りに、ぷちパニックでつい口走ってしまう。

  「いえ、そう言えばパッチ切り忘れてたな~って……あ!」


一瞬。

誰も、言葉を発しなかった。

   ホイットニーの眉が、ぴくりと動く。

   エマは、ゆっくりとシャッテを見る。

「……今、何て?」

   こういう時、人は本性が出るのだろう。

   シャッテは言い訳が下手なのを自覚していた。

   だから、正直に話す。


「あの……私です。

   要塞の第1段階ロックを解除して、

   幽霊船の擬態パッチ作って実装して

   商業航路を幽霊船で徘徊してたのも、私です」

悪気のない、むしろ少し誇らしげな口調だった。


「在宅傭兵のアルバイトで、たまたまロック解除出来ちゃって

   要塞のアドミニスター権限貰って

   続きやれ!って……

   だけど、

   中から【ヴァルゴλ8】ってアストロノイドから、

   “これ以上解除しないで”って頼まれたの……」


エマはくるりと後ろを向くとコッソリと通信。

  (調査依頼、『在宅傭兵募集について』……

   ……闇サイトでデータ痕跡あり?海賊ハングマン?了解)

   エマは元に向き直ると少し厳しい顔で告げる。

  「嘘じゃなさそうね」


エマは色々と考える。が、新たな情報が多すぎてまとまらない。

  「つまり、あなたは意図しないけど、結果的に海賊に協力したと?」

  「ちょ、ちょっと待って!」

   ショーンが、ほぼ反射で割り込んだ。


◇ ◇ ◇


(まずい。この流れは……まずいぞ)

   心臓が跳ね上がる。

   頭が、猛烈な速度で回り始める。

   お祖父ちゃんが言ってた“ケンカの仲裁”の極意を想い出す


――ショーン、

   口は災いの元って知っとるかの?

   当事者同士が話をぶつけ合うと、こじれ易いんじゃ。

   それよりも、第三者を間に立てて、

   両方の言い分を聞いて落ち着かせることが必要じゃよ――


「シャッテ、どうして傭兵ギルドに入ったの?」

  「え?えっと、面白そう?在宅で楽そう?1日6時間で簡単そう?」

「実際どれくらいやったの?」

  「3週間と4日だから、25日間ね」

「実績は凄いけど、傭兵としては見習い期間中だね」


ここでショーンは、エマの方に向き直る。

  「エマさん、“見習い”の立場なら、組織の事は、

   何も知らされてない可能性がありますね?」

   ショーンの言い分は間違ってない、エマは小さく頷く


ショーンはもうひとつ、指摘する。

  「シャッテ、いつロック解除を出来たんだい?」

  「あ、そか……エマさん、私がロック解除したのは、

   入団テストのとき。 

   それがテスト問題として出されたからです」

シャッテはショーンの質問の意図が分かり、

   はっきりと被害者側のエマに真実を述べる。


(ショーンくん、君って……健気……)

   エマは小さく微笑んだ。

「キャプテン・ショーン、

   そしてシャッテさん、

   あなた達の主張を認めます。

   シャッテ嬢は傭兵入団のテスト問題を解いただけ。

   目的も明かされないまま、交替勤務で要塞監視を任された」


エマは少し熱っぽい目でショーンを見つめる。

  「見事な仲裁ですね……若いのに立派よ♪」

  (この!言い方にエロス混じってますわ!)

   ピキッと笑顔にヒビが入るアテナ。

  (……でも、残念ながら、ショーンは“そう言うのに”鈍いんです)


(よし、チャンスだ!)

鈍いと評されたショーンだが問題解決の好機は逃さない。

   アテナの方を振り返ると、指でサインを送り、にこりと笑う。

  「アテナ、ここまでの流れを整理して。

   感情とは切り離して、

   双方の罪と、現実的な弁済方法を示してくれ」


(あああぁ~ショーン……)

   何やら下腹部が熱いと感じるアテナ。

(ショーン……しゅきぃ!)

   完堕ちしたシャッテ。

(えええ?かっ、かっこいい)

   仕事を忘れ、見惚れるエマ。

(キミ達、目がハート……ショーン、恐るべし)

   ひとり冷静なホイットニー。


◇ ◇ ◇


瞬時に戻ったアテナ、コホンと咳払いひとつ。

  「シャッテ嬢が宇宙軍へ与えた罪ですが、

   まず、要塞の自衛ロック解除と幽霊船への擬態追加。

   これらは軍資産の無断使用・無許可改造に該当します。

   密情報関連の罪にも問われるかも知れません


「次に、商業航路の風紀を乱した罪。

   ステルス機能を使って、擬態した幽霊船を操作、

   交易航路を徘徊、人々の不安を煽り、

   商業業務の乱れを誘発した可能性。

   しかし、こちらは実質的な被害届、損失事実は確認できません」


「ロック解除は雇用前に、テスト問題を解いただけ

   幽霊船擬態は、海賊の指示ではなく、シャッテ嬢の独断。

   これは結果としてステルストラブルを誘発し、

   海賊の要塞運用阻止と、

   宇宙軍が要塞奪還できる機会を創出しており

   功績として認められるべきと判断します」


ショーンが、これまたみんなで決めていた決意を示す。

  「エマさん、経緯はどうあれ、

   シャッテは今や、俺たちの仲間、家族です!

   俺は家族の事を、何においても守ります!

   シャッテの罪は全て俺が受けますので、

   正当な採決を希望します」


ショーンが気迫のこもった眼差しをエマ達二人に向ける。


ホイットニーは一瞬たじろいで、(どうしようか?)とエマを見る。

ズギュン!!

   ハートを射抜かれたように、

   エマはさっきよりも恋する乙女の顔を覗かせて固まっていた。

(ダメだ、こりゃ)


そして、アテナが用意していた〆の一言。

  「ちなみに、キャプテンが罪に問われるような事になった場合、

   私はアストロノイド規制法に基づく行動を敢行します」


一瞬で、我に返るエマ、ホッとするホイットニー

  「キャプテンを守るため、

   “栄えある宇宙軍大佐”様が、私たち民間人に対して、

   行った、不当な扱いについて、私は速やかに

   刑事・民事両方の訴訟を起こす行動を選択します」


「アテナ、大丈夫だよ。

   今回は“喧嘩両成敗”が最適解だと思う。

   きっと二人も理解してくれるよ」


(その通り、完敗だわ)

   ホイットニーは隣を見て、決断をエマに求める。


沈黙。

やがてエマは、ふっと息を吐いた。

  「……分かりました」

  「え?」

  「シャッテさんのこれまでの行いは全て不問とします」

先ほどからずっとハラハラドキドキしてたシャッテに

  ようやく安堵の笑みがよみがえる。


「その代わりですが」

   すぐにショーンは頷く。

  「アテナ、映像データをこの場で全て消去しよう」

   キャプテン命令にアテナは即座にデータを消去

   ショーンは自分の覚悟を誠意で示した。

エマは小さく微笑んだ。

 

◇ ◇ ◇


二人が帰り支度をしていると、

   エマの携帯端末に緊急コールが。

   応対したエマに緊張感が走る。

   ちょっと失礼、ホイットニーに相談するエマ。


固い決意を秘めて、エマはショーン達に向き直った。

  「キャプテン・ショーン……状況が動きました」

   エマはそう切り出すと、短く息を整えた。

  「幽霊船が、商業航路で民間船を襲い始めました――」



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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