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第5話(2)

西暦2381年。

この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、

宇宙は、冒険の場であると同時に、

誰もが暮らす「生活圏」となっていた。


これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、

少し先の未来を夢見るファンタジー。


朝食後――

「それじゃ昼まで、各自がやれることをやっていこう」

  ショーンはトレーニングルームで日課のトレーニング。

メイド・アテナは、シャッテを格納庫に案内し、

  作業ドローン6機の管理者権限を設定する。

  「これで私がマスター、シャッテさんがサブオーナーですね」

  「サンキュ♪それじゃ初期設定して軽く動かしてみるね」

  

逃走中に拾った古代遺物の“ゴールマッパー”をシャッテが

  装着すると、視界にモニター画面4面と4個のマウスポインタが

  浮かび上がった。

  続いてシャッテは、持参したカバンからお気に入りの

  入力端末を取り出した。

  「じゃじゃーん♪

  両手操作の“クワッドマウスパッド~♪”


板形状のマウスを起動させると、シャッテの繊細な指の動きに合わせて、

  4つの画面の、4つのマウスポイントがススッと動き回る。

  「リード!表示画面は見やすくて、マウスの応答性も良い感じよ♪」

  シャッテはピアノ演奏者よりも速い指先タッチで

  両手で4個のポインタを操作し、4画面でそれぞれ同時に

  4種類のプログラミングを開始した。


プログラムを書きながら、シャッテは“ゴールマッパー”を自慢する。

  「アテにゃん、これがわたしの相棒!

  超優秀なVRナビゲーター“リード♪”よ」

  シャッテは昨日、既にゴールマッパーを紹介していた。


(これが太古の遺物………確かに何か未知の素材が使われています)

  アテナのスキャナセンサーが“アンノウン(分析不能)を示す。

  「シャッテさん、それでショーンに悪用したら処分しますからね」

  妹メイドモードにも関わらず、アテナは低く重厚なトーンで警告した。

  「まかせて♪ショーンはわたしがリードと守るから♪」

いえ、それは私の役目、いえいえ私です~

何だかんだで二人は気が合うようだ。


◇ ◇ ◇


ショーンは一人、黙々とトレーニングを続けていた。

  祖父直伝の整体体操と体幹制御訓練、

  柔軟体操から始まり、全身のストレッチと関節の可動域を確かめる。

  続いて体幹を鍛える倒立、そこからブリッジ歩行、

  一本足での上体回旋。

2時間かけてルーチンメニューを粛々とこなす。


――宇宙探索者に必要なのは、筋力やパワーじゃない。

  重要なのは、関節動作の速さと精密さだ。

  祖父はそう教えてくれた。


重たい作業や力任せの仕事は、アクチュエーターやロボットが担う。

  人間に求められるのは、わずかな指先や手首の動きを、

  寸分違わず“意図”として伝える能力だった。

  視覚で捉え、脳内でイメージし、関節を誤差なく動かす。

  その入力を受け取った制御AIが補正し、

  ロボットは達人のような動きを実現する。


トレーニングの後半、ショーンは、

  《神経動作補助装置アシスト・アクチュエーター》を装着して、

  自身の動きをロボットアームに同期させる反復演習を始めた。

そして、その訓練の仕上げ――

  “アシスト”を装着したショーンは、

  異なる角度から飛来する物体を視認し、

  弾道予測と関節加速の補助を受けながら挟み取る――

  訓練用の金属ブロックを。


だが――問題は、ランダム性だった。

  訓練用フィールドでは、意図的に“想定外”が混ぜ込まれる。

  落下物の質量、形状、反射率、回転方向。

  すべてが事前データから外れている。

キン――

  天井ユニットから、何かが不意に落ちてきた。

  ショーンは一瞬、動きを止めてしまう。

(……重さが、読めない)

  視認はできている。

  弾道予測も、遅れて補正が入る。

  だが「掴むか、弾くか、避けるか」

  その判断が、ほんの一拍遅れた。

  落下物は指先をかすめ、床に叩きつけられた。


「くっ……」

その音に、記憶が引きずり出される。

――祖父の話だ。

  宇宙船が小惑星帯を抜ける最中、

  何度も船体をかすめ、何度も外装を失った。

  一度など、進路上の岩塊を読み違え、

  衝突で推進器が半壊したこともあったという。

  

「ぶつかること自体はな、珍しくない」

  祖父は、そう笑っていた。

  「大事なのは、“最悪の事故”だけは起こさないことだ」

  船が裂けない角度。

  コアに衝撃が伝わらない姿勢。

  推進剤が漏れない向き。

  完璧な回避じゃない。

  成功でもない。


ただ――生き残るための選択。

今ほどデータも揃っていなかった時代。

  操縦は人間、AIは補助。

  ミスをすれば、死ぬのは人間だった。

  今は違う。

  アストロノイドは失敗できる。

  その経験は蓄積され、共有され、即座に最適化される。

  だが、人間は――違う。


失敗は命取りで、

  他人の経験をそのまま“自分の反射”にはできない。

  だからこそ、祖父は言った。

  『人間はな、工夫して強くなるしかない』

  『間違えたまま、生き延びる方法を覚えろ』

ショーンは、ゆっくりと息を吐いた。

  完璧じゃなくていい。

  正解じゃなくてもいい。

  最悪だけを、避けろ。

  もう一度、構える。

今度は――

迷っても、止まらない。

ショーンは息を整え、もう一度構えた。


◇ ◇ ◇


午後。

ドレッドレッダー号のリビングに、来客を知らせるチャイム音が響いた。

  「……来たみたいだね」

  ショーンが言うより早く、アテナが来客認証を終えていた。

  「キャプテン。

   宇宙軍エマ・ソーンとホイットニー博士がお見えですです」

  「有難う、通して」


ハッチが開き、二人の女性が姿を現す。

  一人は、以前にも顔を合わせたエマ・ソーン。

  きっちりとした軍用ジャケットに身を包み、表情はいつもより硬い。

  もう一人、軽やかな足取りで入ってきたのはホイットニーだった。

  相変わらず気楽そうな笑みを浮かべているが、その目は鋭い。


「改めまして、昨日は大変なご迷惑をお掛けしました。

  軍関係者が民間人を突き飛ばし怪我を負わせるなど、

  あってはならない行為、改めて謝罪いたします」

  深々と頭を下げるエマとホイットニー

   「あ、大丈夫ですよ?気にしてませんし、それに……」

   「知ってますよ。ふふっ、お芝居、上手なんですね」

    優しく微笑むエマ。


「でも、その名演技で当のコリントは完全に騙されてたね」

  ホイットニーが話を引き継ぐ。

「ショーンくん、アテナN3が撮影した映像を提出して貰えるかな?

 証拠として軍裁判所に提出したいのでね」

  ショーンはアテナを見て軽く頷く。

  アテナは、既に用意しておいたメモリーチップを手渡した。


「ところで、そちらのお嬢さんは?」

エマはさっきからシャッテの事が気になっていたのだろう。

  奥の方で目立たなく佇んでいた筈だが、シャッテは

  その美少女っぷりと不釣り合いな豊満ボディに、男性のみならず

  同性でも、否応なく目を引かれる


「あ、わたしですか?シャッテ・ホルスタイン!17才です!」

  聞かれてもいないのに歳をアピールするシャッテ。

  「えへへ、ショーンの彼女でーす♪」

  「え?」驚くエマだが、ショーンも驚いていることに気づく

  (またこの娘は!)一瞬でアテナが沸騰する。

  「い、いやいや!何言ってるの、シャッテ?昨日会ったばかりで……」

  (ショーン、そこは全否定しないと!)


アテナは、可愛い弟に“悪い虫”が寄って来た!と心配する姉モードだ。

  (……なんだ)少しホッとするエマ。

  面白いものを見つけてニマニマしてるホイットニーだったが、

  「そう、悪いけど。仕事絡みの話なので」

  部外者は席を外してもらえるかしら?と、冷静に話を進める。


「あ、今日からエンジニアとしてショーンに雇われました」

  「シャッテさん、そのくらいで」アテナはかろうじて冷静だ

  「キャプテン、お茶を入れて参ります。シャッテさん、お手伝いを」

  「はい、アテにゃん!」

  アテナは頭を抱えながらシャッテを引きずってキッチンへ向かった。

  そして、この場の全員が気づき始める。

シャッテにはトラブルメーカーの香りがすると。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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