第5話(1)
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路が発達し、
宇宙は、冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
海賊ジェッドの追跡から逃れる中、
シャッテは月の地下大空洞へと転落した。
そこで彼女が手にしたのは、
古代遺物――『ゴールマッパー』。
そして、ついに。
宇宙探索者ショーンとの邂逅。
運命が交差したその瞬間から、
物語は新たな波乱へと踏み出す。
第5話、開幕。
「ショーン、こちらの方は……どなた?」
「いや……知らないけど……」
シャッテは俺の胸に顔を埋め、泣きじゃくった。
「うぇええぇ……ショーン……やっと見つけだぁ……」
その瞬間、アテナがスッとシャッテを抱きかかえた。
「ヒッ?!」
「キャプテン――ひとまずドレッドレッダー号に戻りましょう」
見た目より力持ちのアテナは、
有無を言わさず小脇にシャッテを抱えて、
ずんずんと船に戻る。
一人取り残されたショーンは、仕方なくペンギンポッドに乗り込んで
ペタペタと後をついて行った。
ドレッドレッダー号に到着すると、
アテナはシャワールームにシャッテを案内する。
「あなた、ずいぶんと汚れて髪もベタベタですわ。
汗の臭いも。ご自分で気になりませんの?」
言われてハッと気づき、真っ赤になるシャッテ。
すぐさまシャワールームを借りるのだった。
アテナはメイド姿にフォームチェンジして、
シャッテの脱ぎ散らかした服を洗濯ドローンへ押し込んだ。
「なんだかトラブルの予感です……旦那様に寄ってくる娘は、
油断ならないです!」
◇ ◇ ◇
およそ30分後
髪を乾かし洗濯された服を着たシャッテが、
メイド・アテナに連れられ、
リビングルームに顔を見せた。
向かいの来客用ではなく、長ソファに座るショーンの隣に
ぽすっと腰かけて、アテナからドリンクを受け取る。
一息ついて、
ようやく、シャッテは自己紹介を始め出した
「わたしはシャッテ・ホルスタイン!17才よ」
「生まれも育ちもルナシカゴ!ショーンは行ったことある?」
「えー!昔、お祖父さまと!じゃ、すれ違ってたり?ふふっ」
「ゲームとか好きね、プログラムは得意よ」
「宇宙船で暮らしてるんだぁ、素敵ね」
軽い会話で盛り上がるショーンとシャッテ。
だが、話が長くなるにつれ、
横で給仕をしているメイド・アテナの表情が険しくなる。
(まるで、デートでイチャイチャしてるみたいです!)
こほん、と咳払いひとつ。
「それで、シャッテ様は旦那様にどのようなご用件でしょうか?」
アテナはここに来た目的を簡潔に述べよ、と催促する。
「そうそう、なんか助けって、どうい事です?」
「あ、そうだった!」
シャッテはショーンの方に体を向けると、その腕に
しがみつくように抱きつき、上目遣いで懇願する。
小柄な体に場違いなほど豊満なスタイル。
「助けてください!ショーン!あなただけなの、頼れるの……」
「ふぇっ」
「旦那様に何するんですか!!」
アテナが強引に割って入る。
「痛~いっ!……」
アテナがシャッテの体を押さえつける
ショーンは、とにかく話を聞かせてと、優しく問いただす
だが、さすがのショーンも、シャッテ話を聞くにつれ、
とんでもない娘がやって来た、と驚くのみである。
シャッテの長~い武勇伝を要約すると、
ネットで在宅傭兵の募集を見て応募、
⇒試験で高得点取って好待遇で採用、
⇒追加の問題を解いて要塞のロック解除、
⇒アドミニスター権限でステルスシステムに侵入、
⇒幽霊船の偽装アドイン、
⇒迎撃ドローンにシンクロ攻撃プラグイン
そしてついに、ショーン達との遭遇に話が及ぶ。
「それでね、ショーンのビーム一発でぇ、ステルスシステムが
ダウンしちゃって、要塞が実体化しちゃったの」
「なるほど。そこでドローンを使って襲って来たのですか?」
気がつくと、アストロノイド・アテナN3にフォームチェンジしている。
「ご、ごめんなさい!!てっきり無人探索船と思い込んじゃって」
「謝って済むようなお話ではありませんよ」
「うえ~ん!ほんとうにごめんなさい!」
軍警察に連絡しましょう、そう進言するアテナを
ショーンは柔らかな表情で諫める。
「待つんだアテナ。 シャッテ、まだ話は済んでないよね?」
「僕に助けて欲しい事って何?」
シャッテは気を取り直して全てを打ち明ける。
任務失敗、即、傭兵を解雇されたこと。
(……自業自得ですね)
自分を負かした人が気になって調べたこと
(……ストーカーですね)
映像からドレッドレッダー号とショーンを見つけたこと、
(……調査能力、侮りがたいです)
逢って話がしたいと思い、ルナトキオまで来たこと
(……決断力と行動力、ぶっ飛んでますね)
何故か、自分の部屋が爆破されてしまったこと
(……それは予想外の展開です)
朝から変な奴らに追いかけられ、リサイクルセンターで
謎の地下空洞に落っことされたこと
(………………)
あちこち探して、やっと出口にたどり着いたこと
(………………なんという)
なるほど、ショーンは軽くうなずく
「大変だったね、諦めずに良く粘ったね」
「うん! わたし、頑張ったぁ~! ふぇーん」
またまた、ショーンに抱きつき、泣き出すシャッテ。
ポンポンと頭を撫でるショーン。
「シャッテ様、素晴らしいです。
良くぞ、それだけのトラブルを………」
ショーンにポンポンされてシャッテに軽い嫉妬のアテナ。
「ぐすっ………ありがとう、”アテにゃん”!」
「………アテナです。シャッテ様」
「えー?可愛いのに~!
ねぇ、ショーン?“アテにゃん”て、良くない?」
吹き出しそうになるのを必死に堪えるショーン。
何度言っても“アテにゃん”呼びするシャッテに、
とうとうアテナは根負けした。
「もういいです………
あなたの粘りと頑張りには敬服いたしますわ」
「確かに。すごくバイタリティあるよね」
ショーンも同意する。
「俺もシャッテみたいに、諦めずにチャレンジするべきだな」
褒められて嬉しいシャッテ。
「ふふん。実はね?
わたしには“秘密のおまじない”があるのよ~♪
もうダメって思ったときは、それ叫ぶと元気出ちゃうんだ」
(“リード”にも巡り合えたし………)
「えへへ。 ショーンには教えちゃうね」
「小さいときに路地で迷子になっちゃって、そのとき
“あーちゃん”って、おじいちゃんが助けてくれたんだけど」
少し遠い目をするシャッテ。
ドキッとするショーン。
「“泣いてもいいが、あきらめちゃ終わりぞい!”って
励ましてくれたの」
「………」
「そのおまじないはね~」
ショーンが小さく呟く
「意思あるところに道はひらく………」
ポカンとショーンを見るシャッテ。
「なーんだ、知ってたのか~♪
私だけって思ってて~♪なんかハズ~♪」
ショーンは、懐かしい記憶を思い出して、
後ろを向いて少し涙ぐんだ。
◇ ◇ ◇
「ちょっと失礼するよ、ゆっくり休んでて」
そう言うと、シャッテをリビングに残して、
ショーンはアテナを伴いコックピットに場所を変えた。
「アテナ、分かってると思うけど、
俺はシャッテを絶対助けたいと思う」
「ショーン、立派な判断です。 私も彼女を応援しますわ」
アテナは即答する。
「彼女は恋敵ですから。
ここで恩を売ってアドバンテージを勝ち取ります」
言うや否や、
すっとショーンの背中に手を回し、
きゅっと抱きしめるアテナ。
「さっそく、問題点を整理して対策を考えましょう」
その後、三人は、ショーンの立場、
アテナが軍に奪われるリスク、
シャッテの抱える問題を洗い出し、
自分たちはどう動くべきか相談した。
終わった後、アテナは振り返る
(よくこれだけ、トラブルが集まって来たものです)
でも、頑張るしか無いですね、一人決意した。
◇ ◇ ◇
翌朝、ドレッドレッダー号の船内に、
やわらかなアラーム音が流れる。
ショーンは、目を開けると、
瞬間から、昨日とは少し違う空気を感じ取っていた。
(昨夜は話し合いで疲れたけど、
アテナの癒しでぐっすり爽やかだ)
対策は上手くいくと思うけど、
考え込むショーンの耳に、軽やかな足音が近づいてくる。
「おはようございます、だんなさま。
朝食の準備が整いました♪」
振り返ると、そこにはエプロン姿の
メイド・アテナが立っていた。
いつもの銀髪は軽くまとめられ、
柔らかな笑顔が朝の光に映える。
ダイニングには、すでにシャッテの姿もあった。
「おはよー、キャプテン!」
昨日までと違い、
彼女は同じ型のジャケットを羽織っている。
ショーンたちが着ているものと同じ物だ。
昨日の相談で、シャッテは
ドレッドレッダー号エンジニアとなったのだ。
「うん、似合ってるね」素直に褒めるショーン
「えへへ。アテにゃんが用意してくれたの」
少し照れながら、シャッテは胸を張る。
その様子を、アテナが満足そうに見守っていた。
「既製品では全然ダメでしたの………お胸とお尻が。
で、シャッテちゃんの体型に合うよう、
2サイズアップの品で
ダボダボの部分を詰めて、
頑張って直しました♪」
「シャッテちゃん、
さっそく本日から、作業ドローン6機と
タレット武器3基のメンテナンスをお任せします」
ぺこりと頭を下げるアテナ。
「うん、任せて! わたしハードも得意よ!」
朝食は、焼き立てのパンとスープ、簡単な卵料理。
派手さはないが、身体に優しく、
これからの一日を支える内容だった。
朝食の最中テーブルサイドの端末が静かに点灯する。
「だんなさま、
宇宙探索者ギルドよりメッセージを受信しました」
表示されたメッセージは簡潔だった。
――昨日の続きをお願いしたいとのことで、
本日14時に、
ドレッドレッダー号を訪問したいとのことです。
訪問者はエマ・ソーン中佐と
ホイットニー・タンホイザー博士です」
「昨日、普通に対応してくれた二人だね。
向こうから出向くってことは、
“アテナを奪いません”、という意思表示と思っても?」
「はい。それで問題ございませんね」
「うん、午後から承知すると返事しておいてくれるかな?」
「かしこまりました」
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




