第4話(4)海賊ジェッド
西暦2381年。
この時代、地球と月、そして宇宙コロニーを結ぶ交易航路は発達し、
宇宙は冒険の場であると同時に、
誰もが暮らす「生活圏」となっていた。
人口100万人の月面都市【ルナトキオ】行きの
【月面都市鉄道】に乗り込んだ少女、シャッテ。
目指すは、宇宙探索者ショーンのもと――
これは、月面都市を舞台に繰り広げられる、
少し先の未来を夢見るファンタジー。
◆ジェッドの暗躍◆
ハングマンと張り合う海賊幹部【ハーミット】、
その腹心ジェッドは、
ハングマンの邸宅に戻り彼に謝罪する。
自ら先陣を切って負傷した助っ人に対しハングマンは、
後は俺たちがヤルからしっかり休んでくれ、
と深く感謝した。
こうして上手く現場を離れたジェッドは、
部下に準備させた高級車両、
【フロート・リムジン】に乗り込み、更に暗躍し始める。
(あの女は危険だ……)
こんな失敗は、ジェッドにとって初めてだった。
まさか自分が出し抜かれるとは……
「シャッテ・ホルスタイン、必ず見つけ出す……」
二度も出し抜かれるわけにはいかない
「女の痕跡……女の痕跡……女の痕跡……」
ジェッドは己のプライドを砕かれた恨みで必死に探し回る。
そして、遂に、
襲撃の少し前、ビルの遥か上空を高速で飛行する、
オートキャブの映像ログを見つけ、
乗客にシャッテを発見。
「ちっ!もうルナシカゴを離れてるのか!
……この女、すげえな」
俺を出し抜く危機察知能力、そして鮮やかな逃走手段
……だが、行先は分かった。
ジェッドはボスのハーミットに連絡、
ケジメをつけたい相手がいると、
ルナトキオに行くことを伝えるのだった。
◇ ◇ ◇
◆シャッテ、ルナトキオに着く◆
午前0時を少し回った。
ルナシカゴ発ルナトキオ行きの【月面都市鉄道】
その最終便は、定刻通り到着した。
土地勘の無いシャッテは、
辺りと人の流れを確認しながら、ゆっくりホームに降りる。
人々が出口へ流れ去るにつれ、構内の照明は段階的に落とされ、
月面都市の薄明かりだけが、やけに遠くに感じられた。
(……まずは、情報よね)
駅構内の案内板で、宇宙探索者ギルドの位置を確認する。
それだけで、胸の奥が少し落ち着いた。
まず何処か泊まろう、それで明日の朝から――
そう考え、駅近くの安全そうなホテルにチェックインする。
鍵を閉めた瞬間、ようやく息を吐いた。
「……今日は、ここまでね」
気づけば、ルナトキオは朝の時間になっていた。
朝食を軽く済ませ、フロントに「連泊で」と告げてから
シャッテは外出する。
歓楽街の朝は、驚くほど静かだった。
昨夜は賑わったであろう表通りも、
嘘のように、人影はほとんどない。
通りの店先では何十台もの作業ドローンが、
低い機械音を立てて行き交い、
店先に立つ店員型ヒューマノイドは、
無言で指示を送っている。
隣の店のヒューマノイドが出て来ても、
互いを認識しただけ、
挨拶もない。
主人である人間たちは、まだ眠っている時間だ。
(……結構、いい街)
生まれも育ちも【ルナシカゴ】のシャッテにとって、
この整然とした都市は新鮮だった。
区画は分かりやすく、
探索者ギルドまではまっすぐ歩いて20分だった。
ギルドに入ると、粘っこい視線が一斉に集まった。
小柄な体に不釣り合いなほどのプロポーション。
目元の強さと、可愛らしさが同居した顔立ち。
いつものことだ。
シャッテは気にせず受付へ向かう。
「宇宙探索者の
ショーン・マクスヴェインさんの
居場所を教えて欲しいのだけど」
だが、受付は一瞬だけ反応し、すぐに事務的な表情に戻る。
「申し訳ありません。その質問にはお答えできません」
即答だった。
「……そっか」
これ以上聞いても無駄だと悟る。
ギルドを出たところで、軽い声が背中にかかった。
「やぁキミ、人探しかい?」
男が二人。
爽やかを気取った笑顔が、やけに軽い。
「結構よ。忙しいの」
シャッテは足を止めず、
≪警察コール≫を表示した端末をひらひらさせて歩き去った。
◇ ◇ ◇
その日は、宇宙船発着ポートを中心に見て回った。
「……なかなか、いい景色ね」
透明ドーム越しに、小さな地球が浮かんでいる。
巨大な船影が月面へ降り、白い粉塵が外縁をなぞる。
だが、当てずっぽうで停泊中の宇宙船をいくら探しても、
“ドレッドレッダー号”の名は、当然見つからなかった。
夕方、歓楽街へ立ち寄り、簡単な夕食を済ませた帰り道――
その視線に気づく。
(……朝の、あの二人)
距離を保ち、自然を装ってついてきている。
「……ちっ」
路地を曲がった瞬間、全力で走った。
階段を上がり、非常通路を抜け、
エレベーターのボタンを押して、
――でも乗らずに、こっそりビルを出る。
息が切れ、ホテルの前まで戻った頃、
ようやく気配は消えた。
◇ ◇ ◇
次の日――
チェックアウトした直後だった。
出口を出た瞬間、進路を塞がれる。
「シャッテ・ホルスタインか?」
男が三人。
(……名前、バレてる?しかも増えてるし)
即座に踵を返し、人の流れを逆走した。
◇ ◇ ◇
◆獲物を狩るジェッド◆
その日、朝一番の列車で、
海賊ジェッドは、ルナトキオに到着した。
シャッテらしき人物が泊っているホテルを
あっと言う間に突き止めると、
ジェッドは部下三人とホテルの傍で待ち伏せする。
そして――
(……出て来た!……ん?……あ、あれか?)
ジェッドは、シャッテを凄腕スパイと思い込んでいるので、
年齢も詐称してる筈と考えていた。
(17才の出来る手口じゃねえ、もっと上だ)
だが、ホテルから出て来た女は、スキの無い動きはともかく、
(スゲェ!どう見ても“17才”にしか見えねえぞ!
だが、あの体つき……俺には分かる!
間違いなく30才だ……どうやって盛ってんだ?)
(やはり女は魔物だ……)
ジェッドは、ひとり納得した。
「シャッテ・ホルスタインか?」
ジェッドは部下と三人で囲もうとしたが、
シャッテは瞬間、
くるりと身を翻して逃走した。
「チッ、速いな。……だが“それでイイ”」
(鬼ごっこの方が、断然楽しいよな……シャッテさん)
こうして、シャッテの逃走劇は、早朝のルナトキオで静かに始まった。
◇ ◇ ◇
シャッテは声をかけられた瞬間、直感で”逃げる”を選択した。
人気のないビルの路地裏を縫うように駆ける。
シャッテはベストな選択は何かを思考する。
市民センターも警察も、位置は真逆。
ビルはどこも閉まっている。
――なら、公共施設しかない。
ルナトキオもルナシカゴと同じ構造だ、
シティの構造を支える造りは規格化されている。
シティ中心に、天井まで繋がってそびえる建築物
【センタータワー】
エネルギーとリサイクルを司る24時間稼働の公共施設。
目指すは中央エリアね。
インフラとリサイクル施設が集中する区画だ。
金属と廃材の匂い。
騒音が足音をかき消す。
だが――追跡は止まらない。
走っている横に、背中越しに
男たちの姿がシラチラ映る。
男の一人が端末で何か話しているのが見える。
背筋が凍る。
(こわい……)
とにかく、逃げるしかない。
◇ ◇ ◇
追跡し始めてすぐ、ジェッドは確信した。
逃げ足は速そうだが、俺たちの勝ちだ
数で囲って終わり――
だが、ジェッドは、今の状況を楽しみたい、と思ってしまった。
せっかく、ここまで追って来たんだ
すぐに狩っちゃあ勿体ないってもんだ。
ジェッドは部下に指示、同じ速度で並走しろ
姿を見せて少しずつ近づけ
追われる者のプレッシャーかけろ、と
どうせなら、建物に追い込んで、
前からやりたかったことも試そうか――
「……ああ。今、中央へ向かってる。
試作品の誘拐ドローンを頼む――」
◇ ◇ ◇
シャッテは何とか【センタータワー】付近までたどり着く
「どこか、入り口は?」
リサイクルセンター入口。
1台の搬入車両を見つけ、
迷わず後部ステップに飛び乗った。
場内を進む車両に掴まりながら、息を整える。
――そして、外を見て、気づいて凍りつく。
外から、3機の中型ドローンがフェンスを越えて飛んで来た。
円盤状の筐体の側面、四方向に突き出すように、
妙に厳つい太いアームが4本。
――まるで、四本腕の蜘蛛が、
獲物を絡めとって仕留めるかのようだ。
(……あれって、人間くらい余裕で捕獲して運べるよね!)
ようやく入口を見つけると、車両を飛び降り
シャッテは建物の中に飛び込んだ。
奥に進むと、広い通路に出る
通路は車両が通れるほど広かった。
さっきのドローンが行動するには、十分すぎる空間。
(……狭い通路を選んで下へ行こう)
地下第1層から第2層、そして第3層へ。
静かに、慎重に――
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




