第4話(3)シャッテの旅
自分を打ち負かした相手――宇宙探索者ショーン。
シャッテの行動力は、彼女を月面都市ルナトキオへと導いていく――
【月面都市鉄道】で楽しい旅。
いそいそと準備するシャッテは、自然と気分が高揚する。
その旅の扉が開くとき、物語はさらに大きく動き出す。
◆シャッテの旅◆
ルナトキオに行って、ショーンに逢おう!
シャッテ・ホルスタインは旅支度を急いだ。
宇宙探索者かぁ、16才でなれるって凄いよね
どんな人かしら?
優しい人だといいなぁ
早々に荷物をまとめると、
シャッテはエレベーターで一気にマンションの地下へ。
地下のビジタースペースで、
待機中のオートキャブを見つけると
5秒で乗客予約、さっと乗り込み、目的地を叫ぶ。
「ルナシカゴのデスプレインズ駅まで全速で!
あと10分で、ルナトキオ行き最終便が出ちゃうの!」
「それでは、最短ルートで向かいます。
割り増し料金となりますのでご確認ください」
シャッテは端末から、承認をすかさずタップ。
オートキャブは通常より高度を上げ、”ハイウェイモード”へ。
標準ルートを使わず、
目的地まで一直線に飛行する最短ルートを交通局へ申請、
5秒で許可が下りると、
建物のはるか上まで一気に上昇し、
制限速度の2倍で直線飛行。
──3分で駅に着く。
精算確認も早々にシャッテは飛び出し、勢いそのままで走り出す。
あと1分──
ギリギリで乗り込み──シャッテはようやく息をついた。
「……っはー……間に合った……」
ルナトキオ行き最終便はゆっくりと動き出し、
ドームの隔壁を通り抜けると一気に加速、
本線チューブへ合流した。
ルナトキオかぁ
……初めて行く街って楽しみね。
その瞬間だった。
ドォンッ!ズズゥン!!
大きな振動が車体を揺らす。
「な、何!? 隕石?」
列車のモニターに緊急速報が流れる。爆発事故かしら?
「…………え?」
現地映像がモニターに映るとシャッテは言葉を失った。
高層マンションの一角──
あれれ?ウチのマンションぽい?
シャッテの住んでいた部屋は、階層ごと破片を
巻き散らして吹き飛んでいた。
膝が震え、座席に崩れ落ちる。
「あそこ……私の部屋……」
理解が追いつかない。
だが、爆発の中心は明らかに自分の居室だった。
(私……狙われてる?)
シャッテは必死に思考を巡らせる。
(ひょっとして傭兵の? でもなんで?……)
ルナトキオまでは3時間──長いようで短い
生き延びるための思考時間。
「……あ」
シャッテは突然、顔を覆った。
「幽霊船パッチ……消し忘れてる……!」
ショーンから撤退している際中にシフト交替の時間となり
プログラムを消す間もなくログアウト、そのまま解雇されていた
何だか分からないけど要塞絡み確定だよね──
ヤバ……絶対報復だコレ!
説明して許してもらえるかなぁ?
いやいや無理じゃない?
ああもう……どうしよぅ──
震える手で座席を握りしめ、シャッテは決意する。
「……絶対逢わなきゃ」
ギルド名簿に載っていた穏やかな顔の船長を思い浮かべる。
(ショーン……あんたのせいなんだから!)
訳も分からず“家無し娘”になってしまったシャッテは
もう前へ進むしかなかった。
◇ ◇ ◇
◆ハングマンとジェッド◆
宇宙海賊ギルド幹部の一人、ハングマンは、
シャッテ・ホルスタインを拉致して、軍の新型要塞
【ヴァルゴ】のロックを解除させるつもりだった。
さっそく、百人の部下を招集し、シャッテの自宅を襲撃させた。
ところが、
「ああ?! 登録住所が、存在しない、だとぉ?!」
黒曜石のようなツヤを放つテーブルに、彼は拳を叩きつけた。
「ふざけるなぁ!!」
部下が恐る恐る答える。
「ここは……廃棄区画です。半年前に封鎖されています」
シャッテはこれまで天涯孤独、波乱万丈の人生だった。
独りで身を守る術に長けている彼女は、傭兵契約のときも
自分の身を守るため、ID情報の偽造を施し提示していたのだ。
だってぇ、何かあったら怖いじゃない?
彼女は“辿り着けない個人情報”を、最初から用意していたのだ。
「……クソ共がッ!!
お前ら、どいつもこいつも揃って使えねぇなぁ!」
ひとしきり悪態をつき部下たちを罵倒、ようやく落ち着いて
ハングマンは、低く唸った。
「……なんでIDが偽装できる?」
(一般人に、そんな真似ができるはずがない)
助けが必要だ──
これ以上時間は掛けられない。
そう判断したハングマンは、
“大ボス”に助力を求めることにした。
大ボスに連絡、事の顛末を話して謝罪し助けを求めると、
意外なことに、大ボスは“頑張ったな”と、ハングマンを労った。
そして、“引き際を見極めるのも出来る男の証だ”
と、ボスはハングマンの頼みを承認、
すぐに助っ人が応援に来る手筈となる。
よしよし、とほくそ笑むハングマンであった。
◇ ◇ ◇
助っ人が来るのを待っていたハングマンは、
ほどなくして、その助っ人がここに着いたことを知る。
お、もう来たじゃねえか……
運が向いてきたと喜ぶハングマン・
だが、その助っ人は──
(むぐぅ!よりによってコイツかよ……)
ジェッド・カノン。
武闘派が幅を利かせる海賊の中では、貴重な頭脳派だ。
海賊内でも一目置かれ、重要な仕事を幾つも成功させてきた。
その手腕から、大ボスのお気に入りとしても知られている。
ただ、マズい事に、
ジェッドはライバルマフィアのメンバー。
仲の悪い、幹部ハーミットの忠実な部下だった。
ジェッドは屋敷に入るや、挨拶もそこそこに仕事に取り掛かかった。
(なるほど、住所が偽装されている……まあ、逆に辿れるけどな)
彼はシャッテの偽ID情報に隠された真実を探り出す。
操作履歴、認証情報、使用した端末の特定……
「……見つけた」
表情を変えず、本当の住所までたどり着く。
流石の手際の良さ、ハングマンは大喜びで
“ささやかな感謝の気持ちだ”とジェッドに多額の金を手渡す。
ジェッドは無言で受け取ると、すぐ部下に全額渡した。
「お前らで分けろ、ハングマンさんに感謝しろよ」
それよりも、とジェッドはハングマンに提案する。
“相手は手ごわい、すぐ向かうべきだ”
“襲撃部隊の編成は多めがいい”
“部隊の指揮は任せてくれ”
テキパキと準備を進めるジェッド、ハングマンは心強かった。
ジェッドをリーダー、彼の部下が3名つき従い、
ハングマン手練れの部下10人が、武装装備で出発した。
◇ ◇ ◇
そして4時間後──
ルナシカゴの外れに建つ高層マンションに、
ジェッド率いる武装集団がシャッテの部屋を強襲した――
だがそこは、もぬけの殻だった。
つい先ほど、“ショーンに逢える!”と、
るんるん気分で
シャッテはこのマンションを出て行ったのだ。
ただ、この行き違いは完璧すぎた。
まるで、誰かが一手先を読んでいたかのように。
「……やっぱりな」
室内をササッと見回したジェッドは、確信する。
生活感はある。
だが、重要な端末も、データも残っていない。
(これは、プロの手口だ)
そう結論づけると彼は、真の命令を実行に移す。
彼のボス、ハーミットの狙い――
それはハングマンの弱体化
(ハングマンの部下が消えれば、責任はすべてこの女に向かう)
ジェッドは“部屋に何か手がかりが残っているかも?”と、
ハングマンの部下、全員に家捜しをさせる。
そして、そっと自分の部下にだけ、“退避しろ”、
そう告げると、
あろうことか、シャッテの部屋を自分で爆破した。
ズドドドド! ズドォーーン!!
自分も爆風でギリギリ負傷するよう、計算して爆弾をセット。
結果、
ジェッドは軽く怪我を負い
……ハングマンの部下は全滅した。
◇ ◇ ◇
「ハングマンさん……す、すみません……やられました。
女の部屋は空っぽでした。
しかも、入った途端、部屋が爆発しました」
ジェッドはハァハァと痛みを堪えながら連絡した。
連絡を受け青ざめるハングマン
ジェッドは更にこう告げた。
「何処かの組織の”凄腕女スパイ”の可能性は?」
ハングマンに疑われないよう、女に意識を向けさせる。
それを聞いた途端、ハングマンは、口角を歪めた。
全て合点がいった。
「なるほど……
だから《ヴァルゴ》のロックを、一段階だけ解除してみせたか」
ジェッドにまんまとミスリードされ、
ハングマンは残った部下たちに向かって
即座に命令を下す。
「必ず三人一組で動け。
遠くにはまだ行ってない筈だ!
ルナシカゴ中をしらみつぶしに探せえぇぇ!」
(――追い込み作戦、第一段階・終了――)
ジェッドは負傷した体を、自分の部下に支えられ現場を後にした。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




