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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第一章 宇宙探索者ショーンとアストロノイド・アテナ
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第4話(2)暴走、その舞台裏

粗忽者コリントの暴走から、ショーンはアテナを守り切った。


二人にとってそれは、大事に至らぬ小さな事件――

ほんの少しだけ、日常に刺激を添えるスパイスに過ぎなかった。


しかしその出来事は、

ショーンに小さな成長の実感を、

アテナに甘く複雑な感情を残していく。


そしてこの事件を、

エマとゴーツは別の視点から振り返ることになる。

ドレッドレッダー号への帰り道

   二人は、並んでゆっくりと歩いていた。

   ギルドを出てからずっと無言の二人。


ショーンが倒されたあの瞬間、アテナはすぐに気づいていた。

  (……お芝居ですね)

   マックスサイトを展開しているショーンが、

   あんなにも遅く、見え見えの一撃を受けるはずがない。

   顔をぶつけて出血?それこそありえないのだ。


それでも、彼は受けた。

   自分の前に立ち、盾になった。

  (……ありがとうございます、ショーン)

   言葉にはしなかったが、その感情は確かに胸に残った。

   守られる、という行為の意味を、アテナは理解している。


「……夕ご飯、何にしましょうか?」

   アテナは日常のトーンで、にこっと微笑んだ。

  「本日は……オムライス、などはいかがでしょう」

  「いいな、それ」


ショーンが即答すると、アテナはいたずらっぽく微笑んだ。

  「では――」

   彼女はスッと一歩前に進み、ショーンの前に出て振り返る。

  「胸ポケットの、ソレをくださいな」


ショーンは一瞬だけ照れたように目を逸らし、

   胸ポケットからケチャップのチューブを取り出した。

  「よろしく」

  「ふふ……お任せください、キャプテン」

   受け取った瞬間、アテナの表情が柔らかくなる。

   ショーンも、少しだけはにかんで笑った。


戦いの後、いつもの二人の距離に戻る。

   それが、何よりの平穏だった


◇ ◇ ◇


バタン――

二人を見送った後、会議室に残った三人の雰囲気が一変した。

   ふーっとため息をつき椅子に座り直すゴーツ。

   面白いものを見た、眼鏡の端をくいっと上げて

   笑みを浮かべるホイットニー。

   そして、先ほどまでコリントが座っていた椅子――

      ではなく、ショーンの座っていた椅子に

      ぽすんと腰掛ける、エマ。


「上手くいった様ね」

  「はい、お二人ともご協力有難うございました」

   にこりと微笑み感謝を述べると、

   エマはキリッと顔を引き締める。

「コリント大佐は別室にて既に逮捕、収監場所へ護送中です」


一連の出来事は、すべてエマの描いた筋書き――

   目的はただ一つ。

   内通の疑いが濃いコリントに、決定的な“ボロ”を出させること。

  「結果は期待以上です。

   収監中は“軍人の特権”が凍結されますので――

実は先ほど、

   コリント邸の家宅捜査を開始したと連絡を受けました」


ターゲットに証拠を消す間も与えぬエマの手腕――


(おいおい、おっかねぇ女だなぁ)

   ゴーツは平静さを装うため、

   何も知らされないままに、

   主役を演じた人物について語り出した。

「しかし、最初のあれは見事だった」

   ゴーツは振り返って語り出す。


――――――

「ええ? 要塞が奪われた?」

   ショーンの素っ頓狂な叫びに、視線が一斉に集まった。

        ――――――

コリントの関心をアテナから自分へ逸らし、

   同時に“目障りな小僧”としてヘイトを取る大げさな演技。

「ショーンの狙い通り、事が動いたな」


――――――

「では……俺が破壊したドローンの弁償請求に来たのですね?」

   盛大に、空気が揺れた。

        ――――――

エマもまた、別の場面を振り返る。

  (あの一言で、場の空気を和ませつつ、

   相手に半人前だと侮らせたわ)


あまりに計算された一言だと思い、ゴーツに質問する。

  「……事前に打ち合わせは?」

  「ない。完全にアドリブだ」ゴーツは即答した。

エマは内心で舌を巻く。

  (切れ者……いえ、これは天性ですね)


――――――

ショーンは腕を組み、わざとらしく考え込む

「そもそも、どうやって奪われたんでしょうか?

 貨物船を数隻って、前もって知っていなきゃ無理そうだし。

 情報漏洩や、内部協力者の疑いは?」

        ――――――


ゴーツは説明する。

「アイツ、

   自分の役割も分からずに、直感で事件の急所に気づいた。

   ――コリントは、何かを隠している

   だから、“藪をつついてみよう”と考え、揺さぶりをかけた」


「……ええ」エマも頷いた。

「コリントの表情が一瞬歪みました。

   私も、あそこで確信しました」


面白そうに話を聞いていたホイットニーが、ふと疑問を口にする。

――――――

ど、どうしようかなぁ……と、

必要以上に悩む素振りを見せるショーン

        ――――――

「あそこは少し、わざとらしかったかな。

   コリントは沸騰寸前だったけど、

   もっとスマートにやれたんじゃ?」


「いいえ」

   エマは小さく首を振った。

  「そこは少年らしくて微笑ましかったわ

   切れ者すぎると、逆に恐ろしく見えますから」


そして、決定的な追い込み場面――

アテナの前に立ち、「アテナは家族です!」

   庇うように両手を広げたショーン。

   その姿はまるで、

   姉を悪者から守ろうとする弟のようで。


(……あ)

   エマは胸の奥が、妙にざわつくのを感じた。

   母性本能が、激しく刺激されたのだ。

   まだ独身、23才のエマは“年下好き”――

   初対面からショーンは“どストライク”だった


「あ、そうそう」

   ホイットニーが呟く。

  「正当防衛を成立させるためとはいえ、

   ショーンくん、

   倒されて出血してたけど、大丈夫かな?」


「ああ、そうでしたな……ぶふっ」

   唐突にゴーツは思い出し笑いをする。

  「なぜ、笑うのかしら?」

   既にショーンの味方ポジのエマが怪訝な表情を浮かべる。

  「あれはな……」


ゴーツは肩をすくめる。

  「ショーンの祖父で、ワシの悪友アレックスが、

   ケンカでよく使ってた手だ。

   ケチャップを口に含んで、派手に怪我したように見せる。

   相手を動揺させ、油断させるためのな」


――本当に、祖父のこと何でも真似しやがる。

   困った孫だわい――

ゴーツは少しだけ羨ましいと感じた。


◇ ◇ ◇

◆シャッテの追跡◆

ショーンとアテナが巻き込まれたこの事件より、

時を遡ること数日前。


月面都市ルナシカゴの外れに建つ高層マンションの一室。

   少し前まで”在宅傭兵”だった

   シャッテ・ホルスタインは、

   デスクの前で腕を組み、眉間に皺を寄せていた。


「……見つからない。

   あのパイロット、軍関係者じゃないの?」

   宇宙軍データベースをひっくり返したがヒットなし。

   所属なし。階級なし。訓練歴すらない。


旧式の無人タレットを有人向けに改造し、

   あれほど鮮やかに回避・反撃してきた人が、

   民間人とは信じがたい。


「はぁ……詰んだわ」

   疲れ果てたシャッテは、そのまま浴室へ向かった。

   湯船に肩まで浸かると、

   ようやく思考が少しずつ緩んでいく。


ぽちゃん、と足先で湯を揺らす。

  (……幽霊船モードで遊んでたとこまでは順調だったのよね)

   ぼんやりと湯気に煙りながら、

   どうでもいい昔話のような記憶が蘇る。

在宅傭兵の交替シフト、

   だが、何も起きない毎日。

    ──それは、本当にただの暇つぶしだった。


借りたアドミニスター権限で、ステルスシステムに

   擬態パッチを追加。

   外見を「なんちゃって幽霊船」に偽装して

   商業航路をうろつかせてキャッキャしていた。

   もちろん、誰にも言ってない。

   怒られるに決まってるから。


(そう言えば……

   後ろから突っ込んできた宇宙船あったなぁ……)


ぶつかりそうで初めて焦ったという記憶が蘇る

  湯の中でシャッテの身体がピクリと動いた。


「……似てた」

 遭遇した二隻の船影が重なった。


反射的に湯舟から立ち上がる。

  「あの時のログ……!」


◇ ◇ ◇


タオルを適当に巻き付けただけの格好で、

   シャッテは端末に飛びついた。

   幽霊船モード中の航行ログ

   ──非開示フォルダを開く。


「……あった!」

   追い抜かれたときの側面画像に

   民間船のコードを示す刻印──

   刻印コードを照会……ヒット!


《ドレッドレッダー号》

 

「企業?」「施設?」「協会?」──

 ──宇宙探索者ギルド・ルナトキオ支部の名簿

            絞り込み──


「……いた……いたいたいた!」

   画面に表示されたのは、

   船長【ショーン・マクスヴェイン】の名前と顔写真。

   思わずシャッテは拳を握りしめた。

  「見つけたわっ!!」


シャッテは【月面都市鉄道】の運行ダイヤを確認し、

「ルナトキオ行き、最終便、まだ間に合うわね!」

服を着ると、シャッテは旅支度を整え始めるのだった。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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