表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

第4話(1)

ショーンが受けた依頼任務は、誰もが予想もできない結果に終わった。


いきなり目の前に姿を現した移動要塞。

逃げる間もなく始まったドローン戦闘機との交戦。

そして、要塞は“幽霊船”に擬態し、宇宙の闇へと姿を消した。


宇宙海賊、在宅傭兵、宇宙軍、要塞ヴァルゴ、そしてアストロクイーン。

ショーンとアテナは、今日もまた新たな事件の扉を開く。

◆極秘プロジェクト◆

わずか二分間とはいえ“超高速視認”を使った反動で、

   ショーンはあれからまる一日昏睡し続けた。

   メイド・アテナが祈る気持ちで懸命に看病し、

   翌日、ようやく目覚めると、散々にアテナに

   泣かれ、怒られ、そして甘やかされた。


おかげで今はすっかり回復したのだが、

   まるで計ったように、宇宙探索者ギルドから連絡が届いた。

   大至急来て欲しい──

   ショーンとアテナN3がギルドを尋ねたのは、

   その日の午後だった。


◇ ◇ ◇


受付のヴァレッタに案内されたのは、奥にある重役会議室だった。

   扉が開くと同時に、ピリッとした空気が頬を刺す。


既に席に着いていた三人。

   左にギルド長ゴーツ── 腕を組み静かに構えている

   中央に不満顔の男性軍人── 三十代前半の背の低い小太り

   右に研究者風の女性── どこか既視感のある、知的な眼鏡美人

   更には壁際に立つ三人

   黒髪を肩まで伸ばした女性士官と、その左右に護衛兵が二名


ショーンとアテナが一歩踏み入れた瞬間──

  「……ほう」

   中央の軍人の目が、あからさまにアテナへ吸い寄せられた。

   興味と別の下心を見事に混ぜた、軍人にあるまじき視線で。


「ショーンそして、アテナ。

   今回は実に良くやってくれた。

   我々はその働きを高く評価している。」

   ゴーツが威厳と重厚さが掛け合わさった口調で話し出す。

この前とはまるで別人、こちらが通常モードなのだろう。

  「こちらは宇宙軍の方々だ。

   当時の状況を確認させて欲しい、と頼まれてな。

   本日はご足労頂いたのだ」


どうやら、ゴーツ議長の役目はここまでなのだろう。

   後ろに控えていた女性士官がスッと前進して敬礼する。

  「初めまして、キャプテン。 説明役のエマ・ソーンです」

   透き通った良く通るアルト声、細身で引き締まった体つきだが、

   軍服越しでも判る堂々たる腰のラインが印象的だった。


すぐに、目の前の男性軍人を紹介する。

  「こちらは宇宙軍第三戦略部の

   コリント・リセットウッド大佐です」


(公式データベースにアクセス、コリント大佐で検索開始……)

   アテナは人物プロファイルを迅速に進めた。

      大都市ルナロンドの名門、リセットウッド家現当主の実弟──

      三十三才、独身、軍士官学校の成績は中の下──

      家名の威を借り、恐喝や暴行など未遂を含め事件多数──

      背は低く小太り。運動能力は低く、栄養過多と慢性的な寝不足。


   アテナの内部評価は、瞬く間に負の領域へと傾いていく。

   身体を舐め回すような、薄気味悪い視線。

      女性への嗜好は過剰──胸、腰、脚。

   名前を聞いてからわずか二秒で、

   アテナは人物プロファイリングを終了した。

      結果:ショーンに悪意を向ける確率──99パーセント

      威嚇や難癖──95パーセント

      暴力行為──88パーセント

   アテナは結論付ける。

     (ショーンへの敵性個体と判断。

      警戒レベル赤。緊急時行動方針──排除)


瞬間、アテナの立ち位置が、僅かに前へと移動した。

   ショーンを庇うように。

   “弟を守る、頑張り屋のお姉ちゃんモード”──起動


◇ ◇ ◇


「それでは、説明を始めます」

 司会進行役のエマの凛とした声が、会議室を一瞬で締め直す。

  「本日は軍の秘密プロジェクトに関わる

   緊急案件について、船長に協力をお願いしたくお越し頂きました」

   壁面スクリーンに、黒い巨体の立体映像が映し出される。


あの移動要塞だ。

  「2ヵ月前より新型要塞の極秘プロジェクトが進行しており、

   責任者はこちらのコリント大佐、

   技術責任者はホイットニー博士。」

    「軍研究所のホイットニー・タンハウザーです。よろしくね」

     気さくな感じで好感が持てる笑顔だ。


「要塞の名称は、【移動要塞ヴァルゴ】

   その操縦者は、戦略級アストロノイド【ヴァルゴλ8】

   彼女は軍用アストロノイドとして、

   最大級の艦隊運用と指揮伝達能力を有しており、

   宇宙船の操縦のみならず、一人で数万隻の艦隊運用が

   可能なのです。


なにやら大きな事件らしい。ショーンは自然と身構えてしまう。


「宇宙海賊を殲滅して、商業航路の恒久的な安全確保。

   その実績で、来年行われる選抜戦で、

   『第4代アストロクイーン』に選ばれる筈でした」

 

アストロクイーン……3年ごとに選ばれるアストロノイドの頂点

   大艦隊を統率する守護者して、

   人類未到の【木星探査】初攻略が期待される存在──

スケールが大きく、ショーンはゴクリと唾を飲み込んだ。


「ですが、テスト航行の準備中、

   何者かによってこの要塞が奪われたのです」


「ええ?要塞が奪われた?」


ショーンが素っ頓狂な声を上げ、みんなの注目が集まる。

  「小僧が……」舌打ちし悪意を向けるコリント。

  「はい。初期設定中で自律航行モードがオフだったため、

   超大型の貨物船数隻で牽引、持ち去られてしまいました。

   付近の宙域で必死に捜索しましたが、現在まで発見には至らず……」


「ところが先日──あなた方が遭遇した“幽霊船”、

   あれこそがヴァルゴだったのです」

 とんでもない事実を語るエマ。

「あろうことか軍要塞にあのようなふざけた偽装を施すとは」

   場の空気がどんどん重くなる。


「ですが、あなたはそれを見事に看破し、

   交戦、

   ドローン六機を撃破、

   そしてヴァルゴを撤退に追い込みました」

 

◇ ◇ ◇


「そんな……それじゃ……」

 ショーンはガバっと立ちかけ、大げさに背もたれに沈み込む。

 全員が注目する。

「では……俺が破壊したドローンの弁償請求に来たのですね?」


なにやら、盛大に空気が揺れた。


そんな的外れなショーンの返しにも、

  (いい感じで大ボケ!

   場の重苦しさを解きほぐす絶妙の間です!)

   どこか美点を見つけては“ウチの弟サイコー♪”

   独りドヤるアテナ。


「いえ、あのドローンは略奪者が独自に搭載したもので

   あなた方に責任はありません」

   ショーンは胸を撫で下ろす──

   一喜一憂する姿にエマは“くすっ”と微笑を浮かべた。


「さて、ここまで詳細を説明したのは、

   あなた方の能力を高く評価したからです──

   率直に申し上げると、あなた方に、

   ヴァルゴ追跡と鹵獲作戦への協力をお願いしたいのです」


エマは深々と頭を下げた。


ショーンは腕を組む。

  (えぇ……どうする

   ……こういうときは藪をつつくと面白いかな?)

  「そもそも、どうやって奪われたんでしょうか? 

   貨物船を数隻って、前もって知っていなきゃ無理そうだし

   情報の漏洩や内部協力者の疑いは?」


エマは淡々と質問に答える。

  「恐らく実行計画書が漏洩したのだと思われます。

   奴らはどうやって超機密情報を入手したのか?

   それが分かれば、足取りも掴めそうなのですけど」


ど、どうしようかなぁ……と、妙に悩み出すショーン

   報酬が……探索者として……いやギルドがそもそも……

   十数秒ほどショーンは決めかね、全員に沈黙の波が漂う。

 

◇ ◇ ◇

◆コリントの暴走

「おいおい!なんだお前は!

   そんなに悩む事じゃないだろう?」

   目の前で真っ赤な顔をしたコリント大佐が

   苛立ちまじりで大声を放った。


「はっきり言おう。

   キミは別に必要ないんだよ?

   E級半人前の小僧君!

   要はだな、そこのアストロノイドを軍に引き渡せば

   すべて解決するのだよ!」

 コリントは勝手に話を進め出した。


「無償でね!!!」

   再び、ねちっこい視線をアテナに向け、

   鼻息が荒くなるコリント。


「アテナN3──キミの戦闘ログを見た。

   いやぁ実にすばらしい!

   索敵能力、反応速度、操船技術、照準精度、全部だ!

   見た目も素晴らしい

       ──使い心地も良さそうじゃないか!くくっ」

 スケベ根性も出て来るコリントは暴走が止まりそうにない。


アテナは無言で小さく頭を下げたが──

   その眼からハイライトが完全に消えている。

ショーンは上目遣いでか細い声を上げる。

  「──あの……それは無理です。アテナは僕の――」


ショーンが言い終わるより早く、バンッ、とテーブルを叩く音がした。

  「もういい!時間の無駄だ!

   エマ!

   譲渡承諾書をまとめろ!すぐに接収する!」

いきなりの急展開、

   コリント大佐の横暴に全員固まっている。


つかつかとアテナの方に歩いて来るコリント

「アテナは家族です!」

両手を広げてコリントの行く手に立ちはだかるショーン


「どけ!この半人前がぁ!」

   コリントの荒々しい腕が、ショーンの胸元を突き飛ばした。


ドタドタァッ!

   背後の椅子に身体を打ちつけ、床に転がるショーン。

   口の端からこぼれる赤い血

   それをグイっと拭い、よろよろと立ち上がるショーン。

   口の周りが真っ赤に染まっている。

アテナはクワッと目を見開き、何かに必死に耐えていた。


◇ ◇ ◇


「ちょっと待って、大佐!」

   それまで傍観していたホイットニー博士が立ち上がる。

  「アストロノイド規制法をご存じないの?

   船長を守る特別な権利が、アストロノイドには許されている」


突然、法の解釈を始める博士。

  「ねえ、アテナ?……

   あ・な・た・は、

   今のコリント大佐の言動、全て録画しているわね?」

  「証拠が揃っているこの状況で、

   コリント大佐の“罪状”を教えてくれる?」


般若の形相で今にも爆発しそうなアテナだったが、

   こちらの意図に気づいて、助け舟をくれた

   ホイットニー博士に感謝の一礼をすると、

   静かに語り出した。


「コリント氏は、我が船長に対して明らかな暴言と威嚇、

   そして今、暴力行為を加えました。

   従いまして、

   彼には脅迫罪と暴行傷害罪の適用が妥当と判断します」


小声で「ダンスビート・アタックモード」

   と、つぶやくと

   アテナの周囲の空気が異様な回転を始め、

   会議室に小さな竜巻が巻き起こる。


「よって、この時点より、わたしの行動は全て正当防衛です。

   これより制圧モードに移行。コリントを捕縛します」

   ほんの一拍、間を置いて。

  「――今ここで自首するなら、情状酌量の余地はありますが?」


「くっ……この……」

   ワナワナと震えるコリント。


「……大佐、ここは秩序ある場。

   ご退出をお願いします。

   護衛兵!

   大佐をVIP室へお連れして」


エマは控えていた護衛兵二名に指示を出し、大佐を退出させた。


「キャプテン・ショーン、この度はご迷惑をお掛けし

   大変申し訳ございませんでした。」

エマは深々と謝罪する。


「お疲れでしょうし、

   こちらも混乱しております。

   今日はこのままお帰り頂いて結構です」


会議は中止、

   後日、仕切り直しさせて欲しい――

   頷くショーン。

   二人は静かに会議室を後にした。


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ