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アストロクイーン ―月駆ける乙女たち―  作者: まじとも詩
第一章 宇宙探索者ショーンとアストロノイド・アテナ
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第3話(6)宇宙軍の錯綜

◆エピローグ-1 海賊幹部その名はハングマン◆

月面都市ルナデトロイト。

企業幹部や上級市民のみが居住を許される高級分譲区画。

   その一角に、ひときわ無駄に大きな邸宅が建っていた。

   白を基調とした外観。

   セキュリティは過剰なほど重ねられ、

   しかし内部はどこか下品な装飾に満ちている。


この邸宅の主――ハングマンは、

   広い執務室の中央で苛立ちを隠そうともせず、

   指を机に叩きつけていた。

  「……クソが」

   低く、粘つく声。

   高級スーツに身を包み、

   表向きは“やり手の実業家”を装っているが、

   その目の奥にあるのは隠しきれない焦燥と猜疑心だった。


2ヵ月前までは、すべてが順調だった――

極秘ルート。

   宇宙軍の最新兵器――

   新型移動要塞ヴァルゴの運用テスト情報。

   スケジュール、航行ルート、宙域マップ。

   金とコネと裏切りを惜しまず使い、

   ハングマンはそれらを手に入れ、

   先手を打って要塞を奪取したのだが。


「……ロックだと? ふざけるな……!」

   起動直後に作動した多重システムロック。

   解除不能。

   操作不能。

   ただそこに“存在するだけ”の、巨大な鉄屑。

   組織内ではすでに囁きが始まっている。

     ――あの男、やらかしたらしいぞ。

     ――派手に動いたわりに、成果ゼロだとか。


ハングマンは歯噛みした。

  「このままじゃ……俺が笑い者だ」

   そこで思いついたのが、裏サイトでの人材募集だった。

   名目は穏やかに。

     ――在宅傭兵。

     ――ドローン運用補助・プログラム解析。

   軽い気持ちで網を張った。

   大した期待などしていなかった。

   だが、ほどなくして一件の応募が届く。


シャッテ・ホルスタイン。

  「……小娘じゃねえか」

   最初は鼻で笑った。

   だが形式的に行った入団試験で、空気は一変する。

   ドローン操縦実技――トップ成績。

   反射神経、判断速度、空間把握能力。

   どれも異常な数値だった。


「……まさか、な」

 半信半疑で出した“おまけ問題”。

 要塞ヴァルゴの第一段階ロック解除。

 それを――

 シャッテは、あっさりと解いてみせた。

「……当たりだ」

 思わぬ成果に、ハングマンは浮かれた。

 破格の契約。

 特別待遇。


そして――軽率にも、アドミニスター権限の一部を与えた。

   それが、致命的な判断ミスだった。

   シャッテは、監視業務にすぐ飽きた。

   そして彼女は、解除作業を放置したまま、

   要塞の別機能を解析し始めた。

      ステルス機構。

      偽装通信。

      外部観測誤認プログラム。

              ――幽霊船。

彼女は自分の担当時間にだけ、要塞を商業航路へ“散歩”させていた。


ハングマンは気づかなかった。

   彼は別の悪事で忙しかったからだ。

   そして――事件は起きる。

   謎の船に要塞が発見され、

   裏ルートで入手した軍用ドローン戦闘機6機が撃墜された。


「誰だ! 誰が余計なことをした!」

   激高したハングマンは、勢いでシャッテを解雇した。

   だが翌日、遅すぎる事実に気づく。

  「……完全解除の鍵は、あの女だった」

   彼は即座に方針を変えた。

   拉致して従わせる。


ハングマンは部下にメッセージを送ると安らかな眠りについた

――「全員、明日俺のところに来い」


◇◇◇

◆エピローグ-2 宇宙軍の錯綜◆

ショーンが月面都市ルナトキオを出航した、

   その日のことだった。

   ギルド長ゴーツは、私室の暗号回線から、

   一つの部署へと短い通信を入れる。

宇宙軍情報二課――対外監視と裏任務を専門とする部署だ。

  「……餌は撒かれた」

   それだけを告げ、通信は切られた。


数時間後。

   情報二課の指揮室で、キャメロ中佐は即座に命令を下す。

   任務に就いたのは、ベテランのモリソン大尉だった。


「今回の作戦はお前らで交替シフトを組んで遠距離監視だ」

   部下三人は鹿つめらしい表情で直立している。

  「期間は最大で五日間。

   監視対象は民間船【ドレッドレッダー号】、

   乗員の船長ショーン・マクスヴェイン16才と

  【アストロノイド】アテナN3」

      船長若いっすね、

      というかE級って初心者ですよ、

      アストロノイドのNって普及タイプの登録記号じゃん

てっきり軍・研究用のギリシア文字かA~Fの高級タイプと思ってたわ

ざわつく部下たち


未熟者のお守りかよ、この言葉にモリソン大尉は叱咤する

  「勘違いするな。

   真の目的はここに現れるかもしれない“例の幽霊船”だ」

   ひゅっと空気が変わる。緊張する部下たち。

  「幽霊船が出現した場合、

   任務を“民間船の監視“から”幽霊船の尾行、

   並びにあわよくば、駐留先の発見もしくは特定“へと、

   即座に切り替える」

「いいな?監視はするが護衛はしない」

   モリソンは吐き捨てるように言った。

  「ギルドで忠告はされている。

       逃げ切れなかったら……自己責任だ」


監視二日目。

闇に沈む航路の先で、事態は一変する。

   何もないはずの宙域に、

   球形の巨大構造物が唐突に浮かび上がった。

  「……おい、聞いてねぇぞ。あんなの」

   モリソンの声が低くなる。

   幽霊船――そう呼ばれてきた存在とは、明らかに形状が違う。

   部下たちは判断を仰ぐが、モリソンは即断できずにいた。

     「艦長……あの距離だと、民間船が――」

     「沈みますよ、助けないと」

     「幽霊船じゃないなら、介入すべきです」

     「でも……戦闘機10機。10対1は無理です」

「うむぅ……」モリソン大尉ですら僅か時間、判断しかねていた。


あっという間に2分が経過した。

   その間に起きた出来事は、情報二課の全員にとって、

   想定外という言葉でしか表現できなかった。


ドレッドレッダー号は、襲撃して来たドローン機を迎撃、

   2分間で6機を撃墜した。

   球形の移動要塞が残機をまとめて撤退を始めた時、

   彼らはようやく、

   要塞が幽霊船に擬態するという想定外の事実に直面した。


「なに?……終わった?」

   誰かが呟いた。

   沈むと思った民間船は、無傷のまま航路を進んでいる。

  「冗談だろ……」

  「うちのエースでも、あれは無理なんじゃないか?」

  「それより最後!あれ幽霊船に見えたわ!」


とんでもない事になったと、モリソン大尉は頭を抱える。

   だが、やはりと言うべきか、彼は優れた指揮官だった。

  「無駄口はそこまでだ!民間船は無事だった、

   それで終わりだ」

     「民間船の戦闘ログは俺が管理する!

      お前らは忘れろ!

      いいか、絶対に外で喋るんじゃないぞ!

                   あれは……ヤバい」

「これより任務を“幽霊船の尾行”に切り替える!

   ハンス!幽霊船の航行ログの解析

   ルートのトラッキング予測にフィードバック!

                それでは追跡を開始する」

 

◇ ◇ ◇

 

モリソン大尉は部下達と徹夜で幽霊船追跡を完遂。

   その結果を、膨大な報告書としてまとめ上げ、

   上司に提出した。

その報告書と現地の撮影映像をチェックして、

   キャメロ中佐は絶句した。

   これは一大事だ!彼は上層部へ駆け込んだ


三日後、情報二課の提出した報告書を元に、

   宇宙軍「第四次木星探索遠征軍」の緊急会議が招集された。

議題は二つ。

一つ目は極秘プロジェクト不祥事関連。

   移動要塞プロジェクト、

   その試運転準備中に、

   何者かによって要塞が奪い取られた、という前代未聞の不祥事。

   要塞は発見された。

   幽霊船に擬態させられていたという、極めて不名誉な形で。


会議室に、ざわめきが走る。

  「と言うことは?――」

   報告官は一拍置き、言葉を続けた。

  「要塞【ヴァルゴ】の内部に、

   彼女が凍結されている可能性は極めて高いと推測します」

次期アストロクイーン候補、

  【戦略級アストロノイド】ヴァルゴλ8

   その名が告げられた瞬間、会議室は凍りついた。


二つ目の議題は、さらに波紋を呼ぶ。

民間船ドレッドレッダー号の操縦者、アストロノイド・アテナN3

   一部の委員が、鼻で笑った。

  「N? 普及品ナンバーかね」

  「記録の誤差じゃないのか」

だが、次に映された戦闘映像と数値データが、

  空気を一変させる。

   ・襲撃開始から3分間、完全無傷で航行を維持

   ・精密な船体制御と、高度なシールド展開精度

   ・旧式レーザータレットで軍用ドローン戦闘機と会敵し

    2分間で6機撃墜

   ・しかも百発百中という、あり得ない命中率


「……離れ業だな」

「本当に普及タイプか?」

「軍用ですら、ここまでの反応速度と精度は……」

困惑、激しい議論、技術的進歩性、やがて一つの結論が導き出される。

 ――量産ラインが偶然生み出した十億分の一の奇跡――


そして、自然と話題は船長へ向かった。

 ――船長は十六歳、E級探索者――

  「新米以下、話にならない」

   誰かが断じる。

  「優秀なアストロノイドに未熟な船長とは嘆かわしい」

   あちらこちらで沸き起こる嘲笑、

   その評価に、だれも異論はなかった。


――会議が終わった後

   静まり返った廊下で、一人の男が唇を歪めていた。

   コリント・リセットウッド。

   要塞プロジェクトの責任者にして“うつけ者“。

  「……未熟な船長、か」

   彼の脳裏には、別の計算が浮かんでいた。

       ――優秀な物は、相応しい持ち主のもとへ。

その裏にある私欲と卑しさを、彼自身だけが自覚していた。


次代の頂点を決める祭典――

   第4回アストロクイーンコンテストは、刻一刻と近づいている。


誰もが、まだ知らない。

   一体のアストロノイドを巡って、

      世界が急転していくことを

   この時嘲笑された少年が、

   人類史上初となる偉業を成すことを

      静かに、確実に――歴史は動き出した



======== 次回更新へつづく ========

 



この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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