第3話(4)マックス・サイト
小惑星帯に球状要塞が潜んでいた
中から、軍用一級戦闘機のドローンが10機現れ、
ショーンの船ドレッドレッダー号に襲い掛かって来た。
「こちらに向かって急速接近、包囲陣形を展開中です」
アテナの声が震えた。
「ショーン。責任、取ってくださいね!」
「えっ、どの責任!?」
「もちろん全部です!!」
小惑星帯の静寂は砕かれ、戦闘の幕が上がった
ドレッドレッダー号は全速で移動要塞から距離を取って行くが
ドローン戦闘機の方が遥かに速く、
包囲されるのは時間の問題だった。
「さすがに10機は多いな……アテナ、あれ行く!」
「承知しました……ショーン、お願いします」
ショーンは踵を返して、船の上部区画へ走った。
ドレッドレッダー号、唯一の武装兵器レーザータレット
アテナはタレットと宇宙船との有線接続リンクを最速モードで展開した。
ドレッドレッダー号のタレットは、
当初は武器では無かった。
幼い頃のショーンが、
四百年以上昔のアニメ「――の城――」を見た時に
「お祖父ちゃん!あれ乗りたい!」
と、珍しく我儘を言った、思い出の――
有線有人タレット――
ショーンはタレット座席に座り、システムを起動させる。
アテナへゴーサインを送る。
「有線ケーブル20メートルです。お気をつけて」
アテナはそう言うと、
ドレッドレッダー号からタレットを打ち出した。
ウイーーンとケーブルが伸びる。
ショーンはスラスターを器用に操作し、完璧な姿勢制御。
知らない人がみたら、
これが手動操作だと言っても誰も信じないだろう。
「ショーン、外部回線良好です。…………気をつけてくださいね」
「もちろんだ。アテナ、状況説明を」
「会敵20秒経過、
敵ドローン戦闘機10機が急速に相対距離を詰めてます。
後方六時に4機、三時方向と九時方向に3機ずつ」
ショーンはタレットの窓越しに、ざっと三つの方向を見渡すと、
三時方向に見える3本の細い筋をじっと視た。
「アテナ、三時のが0.3秒遅い。
包囲は気にせず、九時の3機を潰す」
全てを理解したアテナ
「了解です、キャプテン」
指示通りに九時方向へ進路を向けた。
◇ ◇ ◇
ショーンの眼は、普通の人間の視力とはまるで異なる。
二才で罹った病──
網膜神経層の異常発達を促す奇病──
によって、彼の視覚は歪な進化を遂げた。
解像度は人類の測定限界を超え、
目を凝らせば望遠鏡にも顕微鏡にも匹敵する。
わずかな色差すら、彼には数値のように理解できた。
なにより、
世界が常にスローモーションで流れているように視える。
高速で飛ぶ弾丸さえ、
空中でゆっくりと回転して見えるほどだった。
だが視界が細密であるほど、
脳への負荷は増大する。
幼いショーンは、ただ物を見ているだけで脳疲労を起こし、
突然昏倒することが日常茶飯事だった。
このままでは四才になる前に、視覚処理中枢が破綻する──
そう告げられ、祖父も父も、
ショーンを溺愛する姉も、必死に彼を支え続けた。
そしてある日、症状は消えた。
家族の祈りか、それとも彼自身の生存本能か。
ショーンは無自覚のまま、視覚情報を圧縮し、
負荷を逃がす術を身につけていた。
超視界──【マックス・サイト】
後世の人々がそう名付けた能力は、
彼が生き延びた証そのものだった。
◇ ◇ ◇
そして今。
小惑星帯の闇の奥に隠れていた、
ほぼ完全に背景に溶け込んだ球状要塞。
そのホログラムの“揺らぎ”を、ショーンだけは感じ取っていた。
ただ、それを言語化できなかった。
あまりにも視えすぎる世界は、
他人には説明のしようがない。
だから彼はいつものように、
無意識に向けた “なんとなく” の一撃 を放ったのだ。
「……行ける」
ショーンはタレットを操作し、九時方向から接近中の3機と対峙した。
◇ ◇ ◇
「ショーン、2機が挟み撃ちの連携運動です」
「じゃあ逆に誘い込む!」
ドローン2機のレーザーが交差し、
光が小惑星に吸い込まれる。
ショーンはその狭い隙間へと滑り込み、
ドローンたちを背後へ誘った。
小惑星の回転軌道が迫る。
岩塊が反転し、巨大な影をつくる。
「──今だ!」
ショーンはケーブルの遠心力を利用し、
あり得ない速度で展開、
小惑星を迂回しようとした一機をタレットレーザーで撃ち抜き、
更に一機を小惑星への衝突に追い込む。
爆炎が小惑星の裏側で咲いた。
「敵2機、撃墜!」
「ショーン、すご……!」
アテナの声はわずかに高く震えていた。
次の瞬間、残る1機がショーンのタレットに突っ込んできた。
「させません!」
アテナがショーンの盾になるように船体をひねると、
敵のレーザーは防御シールドに無力化される。
アテナの素早い判断でケーブルがシュッと縮み、
ショーンのタレットはぴたりと戻り、
防御シールドでしっかり守られる。
「もう一度出します!」
アテナが再びタレットを打ち出すと、
ショーンは完璧な角度で制御しつつ、
瞬撃一発、
紫の閃光が走り、九時方向のドローン3機は全滅した。
◇ ◇ ◇
「次は?」
ショーンの問いにアテナは即答する。
「六時方向の4機が縦列編隊中。
高度なシンクロ包囲攻撃と予測します」
その4機が、一秒の狂いもない同時射撃を取ってきた。
「エンジン狙いのピンポイント同時着弾です。
強引なシールド貫通破壊!?
これは予測演算による包囲パターンです。」
「なかなか分かってるね。でも──俺の方が速い!」
視界の中で、
敵の弾道もレーザーの残光も小さな点にしか見えない。
それがどこに向かうのか、
次の瞬間どこへ回避すべきか──
ショーンの脳裏に“未来の座標”が自然に浮かんだ。
直感というにはあまりに精密。
計算というにはあまりに速すぎる。
彼はタレット胴体をくるりと反転し、
連続の三射を放った。
一機。
また一機。
さらに一機。
ほとんど同時、すべて一発で。
残光の尾が三つの弧を描き、ドローンは爆炎の花へと変わった。
「ショーン……全部一撃で……眼は大丈夫ですか?」
「うん、まあ……なんとか?」
「自分で疑問形って……ああ、心配です……」
アテナは一刻も早く“全力癒しケア”をしなければ、
という思いで、
“謎の要塞”などというイレギュラーを、迅速に処理すると心に決めた。
◇ ◇ ◇
破壊を免れた六時方向残りの1機は、
制御エラーでも起こしたかのように
“ふらふら”と後方に後退し、
三時方向のドローンと合流した
残り四機か──
ショーンはとどめとばかりにスラスターを動かそうとする。
「ショーン、要塞に変化が」
「えっ?!」
流石のショーンも目の前のドローンに気を取られ過ぎていた。
後をを振り返り驚くショーン。
「はい、要塞はステルスの応急処置を済ませたようです」
確かに要塞はステルスモードに移行しようとしていた。
が、上手く機能していないようだった。
おかしなホログラムがダブついて見える
「あれは……幽霊船です──」
アテナの言う通り、
この間の幽霊船に良く似たホログラム画像が、
要塞の回りにノイズのようにチラついている。
「アテナ、映像は?」
「ご心配なく。ドローン襲撃のあたりから座標トレース、
録画継続中です。
あ?……
残ったドローン4機が要塞に収納されました。
推進装置駆動を確認、
要塞……いえ、幽霊船はこの宙域を離れる模様です」
「危機は去ったかな。それじゃあ、タレット回収よろしく」
ショーンは“ちょっと使いすぎた”と思ったが
“家族と家を守れたんだ”
そう思い、満足して深い呼吸で息を整え、
ゆっくりと目を閉じた。
「幽霊船、レーダーから突如消失、
消える直前のベクトル予測より、
近隣宙域への離脱97パーセント」
「危機は回避できた、と思われます」
しかし、ショーンからの返答はない。
途端、
シートを離れるや、
スラスターダッシュでアテナが向かうと、
ショーンはタレットシートで
すーすーと寝息を立てていた。
「……守って頂けたことに、心からの感謝を」
アテナはそっと頭を抱き寄せ、
むぎゅうっ、豊満な胸でハグ、
よいしょ!
お姫様抱っこでショーンを運ぶ。
そっとベッドに寝かして、首筋を甘噛み。
いつもの処方薬、
”バイタルケア特殊回復液”が、彼の疲れた脳に染み渡った。
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E級探索者
キャプテン・ショーン・マクスヴェイン
小惑星帯で希少メタルの採掘調査中に、
偶然、
幽霊船に偽装した謎の巨大物体と遭遇。
緊急回避行動を行い、離脱に成功。
即日、ギルドへ報告した。
ギルドはこの情報を元に、
この宙域一帯を、『最大危険区域』として公表した。
こうして、E級探索者の幽霊船事件は、
『不慮の遭遇案件』としてファイリングされた。
======== 次回更新へつづく ========
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




