第3話(3)
ギルド長ゴーツからの依頼を受け、
鉱物探索を装った”幽霊船”探しをすることになったショーン。
危険宙域“コーラル・クラスタ”で、彼の冒険が始まった。
◆コーラル・クラスタに潜むもの◆
「アテナ……おはよう、監視は大丈夫?」
「だんなさま?
おはようございます。まだ、起床時間10分前ですよ?」
「うん、アテナのおかげで快眠できたからね」
少し照れながら、感謝の気持ちを口にする。
依頼任務の初日とあってか、
昨晩、なかなか寝付けなかったショーン、
アテナのアロマ合成吐息と膝枕パルスケアという、
最強コンボのスキンシップケアで、
ショーンは快眠と心地よい目覚め、
それとともに、朝から活力が溢れているのだ。
「小惑星の監視は大丈夫?」
「あら、お忘れですか?」
手を口元にあて、くすりと悪戯っぽく微笑むアテナ。
「オートクルージング中は、メイドモードでも
見張りくらいは問題ございません。
宇宙船中枢AIがレーダーとセンサーを、
常に監視してますのでご安心を」
「そうだったね、昼夜通して索敵活動助かるよ」
「ふふっ、そうおっしゃって下さると
頑張りしがいがございますね」
それよりも♪
と、朝食のトレイをずいっと差し出すアテナ。
「今は朝食の方が大事です。
朝のスタートから甘やかすのは、わたしの最重要任務です♪」
アテナの良い香りの吐息がふわりと耳元にかかる。
メイド・アテナが、ぴたっと背後から寄りかかり、
ショーンの頬にふにっと柔らかい胸を押し当てつつ、
フォークを口元へ
「はい、あーん」。
ショーンはテーブルで朝食を取りながら、
夜間の監視結果と今日の予定を聞くことにした。
アテナは既にアストロノイド・モードとなり、
“おはようのハグ”を済ませ、ご機嫌モードである。
「それでは、まず昨日の出来事を簡潔に。
小惑星帯“コーラル・クラスタ”採掘調査の名目で
ルナトキオを一昨日出航、昨日の昼ここに到着、
早速ランダム・マイニングテストを80回実施し
一日目を終了しました」
ちなみに調査成果は微小でしたね、と苦笑するアテナ。
「夜間は最重要のお仕事。
キャプテンを癒しモードで優しくケア、
とても有意義なひと時を頂きました」
「そ、そこは公式記録から削除で!」
焦って体温と心拍数が上がったショーンを、
即座にパルスケア始めながらアテナは説明を続けた。
「失礼しました。
キャプテンが就寝中、わたしは
アストロノイド・モードで夜間の監視を先ほどまで実施
結果は、“船影、不審なセンサー作動、通信、
全てゼロ、異状なしです」
「ありがとう。
アテナのスリープモードはいつにする?」
「そうですね、
今は省エネモードで52時間連続仕事中です。
なので、20時間以内にメンテナンスカプセルで
2時間の休息を予定中です」
「分かった。じゃあ今日もよろしくね」
「はい!」
◇ ◇ ◇
コーラル・クラスタ──
そこは、小惑星帯の中でも特に不安定な区域。
航行管制区域の境界を示すビーコンさえ霞むほど、
大小さまざまな岩塊が黒い沈黙の海に漂っていた。
アテナは船外センサーアレイに直結リンクし、
まばゆい金属光沢のスキャナーユニットを
軽やかに操作していた。
すらすらと動く指先は、ほとんど演奏家のそれだ。
「次はここの鉱物密度を解析しましょう……
うん、ニッケル合金が主成分ですね。
レアメタル含有は0.5パーセント未満、採掘候補から外します」
淡々とした声が船内に響く。
しかしその目は楽しそうにモニターを追いかけ、
スキャンの度に頭の獣耳がぴくぴくと小刻みに動いた。
「アテナ、なんか楽しそうだね」
「え? 楽し──い、んでしょうか?
これは作業ですけど……ショーンが
隣にいるから、でしょうか?」
「そっちか」
ショーンは苦笑しながら、
アテナの肩越しにホログラムパネルを覗き込む。
帯電した小惑星の影が、
航法灯の光に照らされてゆっくり流れていく。
依頼された手前、形式だけでもやっとくか──
と、始めた小惑星帯の成分調査だったのだが、
意外なことにアテナが“ハマって”しまい、
結構な時間をここで費やしていた。
◇ ◇ ◇
「しかし、単調で飽きない?
こんな岩のスキャンなんて」
「飽きませんよ?
だって、未知の鉱石が眠っているかもしれませんし。
……良かったら、ショーンも一回やってみます?」
「え、やっていいの?」
(やっぱり♪
やりたくて“うずうず”してたの、バレバレですわ)
「もちろんです、さあ、どうぞ」
アテナはスキャンシートにショーンを座らせ、
操作法を説明する。
「はい、ここをタップすると照準制御が──」
「おっけーおっけー、そういうのはだいたい分かる」
ショーンはアテナの手元から操作スティックを受け取り、
にやりと笑った。
「じゃあ俺の実力を見せてやるか……
まずは、あそこだ!」
「え?その方向に小惑星はありませんよ?──」
言い終わるより早く、
ショーンはスティックを乱暴にひねり倒した。
レーザーサーチャーが青白く閃き、
光線は小惑星と小惑星の狭間──
完全な空隙へと一直線に射出される。
その瞬間、空間が“破れた”。
黒い宇宙に、あり得ない光の歪みが走る。
まるでそこだけが液体のように揺れ、溶け、
そして剥がれ落ちる。
「──ホログラム解除信号を感知!」
アテナが悲鳴交じりで叫ぶ。
船の中枢AIから乾いたアラーム音が重なる。
虚空に、巨大な球状の構造物が姿を現した。
外殻に刻まれた格子状パターン、
脈動する紫のエネルギーライン。
小惑星帯に溶け込むように“偽装”していたことは明白だった。
「うわっ、なんか出てきた……?」
アテナは目を瞬かせ、
状況変化について行けず、少しの間固まっていたが、
ショーンの場違いな第一声にハッと我に返った。
「“なんか”じゃありません。
巨大な球状要塞です。
敵性の可能性96パーセント。
ショーン、どうしてあそこに撃ったんですか?」
「いや……なんとなく?」
驚愕、呆然、そしてかすかな──
尊敬と畏怖の混じったアテナの瞳。
アテナはショーンを振り返る。
「出現した球状要塞を対象に解析開始します」
「先ほどの隠蔽は、
宇宙軍”特Aクラス”のステルスシステムに酷似していました」
「ショーン……
先ほどの的中確率、後で一緒に計算しましょうね?」
そのやり取りを嘲笑うかのように、
球状要塞の表面が赤く発光し始めた。
「緊急離脱モード、この場を離れます」
ドレッドレッダー号は180度大きく回頭、スラスター全開。
一瞬船体は大きく揺れ、
アテナはショーンの腕を掴んで体勢を支えた。
球状要塞の一部が開き、
そこから黒鉄色の影が連続して飛び出す。
「何か来たぞ?!」
「軍用一級戦闘機相当。しかも単独行動ではありません……
編隊戦闘用のドローンが10機です。
……こちらに向かって急速接近、包囲陣形を展開中です」
アテナの声が震えた。
その震えは恐怖というより、状況の過酷さを
正確に理解できる“知性の震え”だ。
10機の機影は瞬く間に散開し、
小惑星帯の奥深くへと潜り込みながら
ドレッドレッダー号へ包囲経路を形成しはじめる。
まるで、逃がす気がないと告げるように。
「ショーン。
責任、取ってくださいね!」
「えっ、どの責任!?」
「もちろん全部です!!」
小惑星帯の静寂は砕かれ、戦闘の幕が上がった。
======== 次回更新へつづく ========
次回更新予定:2026年1月12日(祝)です
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
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