第3話(2)
幽霊船の航行ログをギルドに提出したショーン。
なんと、本部から探索者ギルド長が、ショーンに面会を求めて来た。
依頼を頼みたい。
表向きは採掘調査、だが実際は、幽霊船を探すことだった。
多額の報酬と評価を示され、果たしてショーンは危険なこの依頼を受けるのか?
「そうそう、幾つか補足説明もせんとな?」
「五日間で成果が出なくても失敗にならない。
仮に”幽霊船を発見したり、遭遇してしまったら”
攻撃はしない。
深追いもしない。
危ないと思ったら、すぐ逃げてヨシ」
ゴーツは、指を一つ一つ折りながら慎重論を述べていく。
「尾行して足取りを追う――これも禁止だ」
「……随分、慎重ですね」
「当たり前だ」
ゴーツは即答した。
「相手は“幽霊”じゃない……可能性が高い」
ショーンが、視線を上げる。
「裏で糸を引いてる――謎の組織がいると考えておる」
室内の空気が、静かに重くなる。
「だからな、相手は怪異じゃない。人間の集団だと思って行動しろ」
「それが一番、賢明だ」
ショーンは“なるほど”と目を閉じ、ふむふむと考えだす。
そのやり取りの間、アテナは一切、口を挟まなかった。
ただ静かに、ショーンの斜め後ろに立ち見守っている。
――内部演算、静かに進行。
(リスク評価開始)
(任務失敗時の損失:中)
(情報取得成功時のギルド貢献度:大)
(総合期待成果値:プラス)
数字だけを見れば、答えは明白だった。
それでも――
アテナの思考の奥に、別の感情が滲む。
(……危険な領域に近づく、それだけで)
だが、その感情は表に出さない。
ショーンが、息を吐いた。
「すみません、
駆け出しの俺では“今のお話”では判断がつきません」
「……そうか」
ゴーツは若いゆえの軽率さが無い事に“好し”と思い、
若いこその積極性が無い事に“ふむ”と寂しく思った。
だが、ショーンは「ちょっと失礼します」
と、ゴーツに言うと
信頼する相棒の方を振り返った。
「アテナ、“今の話”からリターンとリスクを簡潔に頼む」
きゅん!……
アテナの胸の奥が異常なビートを奏でた
(サッと振り向いて、
スッと目を合わせて、“決めセリフ”……ああぁ!)
蕩けて崩れそうになる表情をギリギリ抑えたアテナ、
一瞬で元に戻り、ここぞとばかりに助言を始めた。
「まずリターンは、
ギルドからの破格の報酬、
依頼任務達成のプラス評価、
結果次第で達成ポイント上乗せが期待、
以上三つほどございます」
そうだね、軽く頷くショーン。
「次にリスクですが、
幽霊船が人為的である場合、
関係勢力はこちらの行動をすぐに監視し始めると予測、
その場合、
調査時間が長引くにつれ、襲撃を受ける確率は
跳ね上がると考えます」
「また、その組織が“宇宙海賊”の場合は、
好戦的な性格の可能性が高く、
当該区域に侵入した途端に襲われるかも知れません」
腕を組み、目を閉じて静かに集中するショーン。
「……じっとしてる“エサ”より、
動き回ってる方が――ずっと美味しそうに見えるな」
(ぬ?!)
小柄なショーンの小さなつぶやきが
巨漢ゴーツを大きく動揺させた。
(そういうことですの!)
アテナは思惑に気づくと、ゴーツを一瞬キッと睨みつけ
スンっ、とすぐ冷静になる。
(再計算して最適解を準備しないと)
「ゴーツさん、現地で俺たちに指示とか飛んで来ますか?」
「んんっ!?
……いや、自分達で最善と思うやり方で構わんよ」
「最後にもう一つ確認させてください。
もしも、
逃げられないと判断した場合、応戦しても?」
「も、もちろん。逃げ切れないと思ったらだが」
「その場合の船の修理、武器の補充なども?」
強く二度頷くゴーツ。
「であれば、この依頼受けたいと思います。
よろしくお願いします」
ショーンはにこやかに承諾した。
動揺が続いていたゴーツだが、
ショーンの決断を聞くと
いつもの調子を取り戻すように立ち上がる。
“ありがとう、助かる”と言うや、
彼は少しだけ俯いて黙り込んだ。
パッと顔を上げ、にかっと笑う。
「よし、話は終わりだ。後は担当と詰めてくれ。
但し、出発は早めでお願いしたい」
ショーンは立ち上がり、深く一礼した。
「……ありがとうございました」
◇ ◇ ◇
ショーン達が部屋を出ると、ゴーツは椅子に深くもたれて
ふーっと息をはいた…………
「アレックス……お前の孫は……」
誰が駆け出しだって?
とんでもねえ!
アイツ、入ってきたときはオドオドしてたのに
あっという間に自分が“エサ”だと気づいちまった。
しかも、アストロノイドに頼るふりしてごまかした。
まるで百戦錬磨のベテランの洞察力、駆け引き。
……そうか!
六才の頃からアレックスと旅してんだっけな。
「……孫を見事に磨きあげたんだな」
納得して独り言ちるゴーツだった。
◇ ◇ ◇
ギルドの受付で受注処理を済ませ、
船に戻って出発準備を整える二人。
ひと段落ついたところでアテナがショーンに尋ねた。
「キャプテン、先ほどのやり取りですがギルド長の思惑に?」
「ん?うん
“アッあれだ!”とピンと来たよ。」
「魚釣りは色々と性格が出るからね」
あれ?何のお話でしょう?
戸惑いつつも、祖父との想い出話を語るショーンの嬉しそうな顔が
“大好物”のアテナは、自らの疑問をスルーする。
ショーンが語ったのはお祖父ちゃんと行った、
“本物の養殖魚釣り”が楽しめる娯楽施設での出来事。
「エサがあっさり取られちゃって全然できなかったんだ」
「そうしたら『ショーンはのんびりタイプじゃな!
ここの魚は人慣れしてるから手強いぞ!』って。
お祖父ちゃんはすぐ竿を動かすタイプなんだって!
なんか面白いよね」
まだ話が見えて来ないアテナ、
だがお祖父ちゃんの声マネをする
ショーンが激ラブで魅入っている。
「竿を動かして釣るときのコツとかあるの?
って、聞いたら」
「お祖父ちゃんが、
『それは、自分がエサになったつもりで、
美味しそうに動き回るんじゃよ』
って教えてくれたんだよね。」
アテナは一瞬だけ黙り込み――
やがて、静かに理解した。
「……そうすると、
私が長く留まると危険だと指摘した、その対策で?」
「……うん、何か良い理由ないかなぁって考えてて、
“これだ!”って」
(ギルド長の腹黒さ、気づいた訳ではないと……)
「それは良い判断でしたね」
不穏な思惑に気づかなくとも最善手を打てた、
アテナは今回はそれで納得した。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません




