8.商売に勝つには品を知る
前回のあらすじ。
魔物のスプリスを倒し、解析の力を手に入れたノルテアは、能力を利用しお金を稼ぐ方法を思い出す。果たして無事にお金を稼ぐことができるのでしょうか?
書見のほどよろしくお願いします。
朝から昼下がりまで掘り出し物を探していたボクは、商業ギルドの裏口の通りを歩いている。
運がいい。パーポスさんが居る。
昼食に向かう業者が多い中休みの時間帯。おかげでシーカー専用の窓口に人の気が無く、すんなりと入ることができた。
「どうも」
「やあノル。こんな時間に珍しいね。アルクの換金かい?」
「いや、今日は別の用事で来たんだ」
「別の用事? もしかしてその手に持っている物がそうなるのかな?」
「ああ」
ボクは背の高いカウンターに集めた掘り出し物を置いていく。
「何だい? それは」
「全て“適正価格”で買い取って欲しい」
「買い取りの手続きをするのかい? どこで手に入れたのか知らないけれど、ここでの価値は原価と同じだよ? それでもいいのかい?」
「ああ」
「分かった。触れるけど、いいよね?」
「頼む」
並べ置いた四つの品をパーポスさんが一つ持ち上げ、備え付けの大きいルーペで確認する。
「うーん。私には良し悪しが分からないね。鑑定士にお願いしてもいいけれど、手数料が掛かる。作業の方が高く付いて現物の価値がタダ同然になるかもしれない。それだけならまだいい。品物の価値によって手数料分丸ごと損失になることもある」
それでいい。ここで鑑定士が現れないことには始まらない。
「ノルの判断に任せるよ。専門家に頼んで調べてもらおうか?」
「ああ。頼む」
「おや? 即答だねえ。自信があるのかい?」
「当然だろう。そうでなかったら持ってこない」
「だよね。じゃあさっそく呼んでこよう。少し待っていてくれるかい?」
「ああ」
パーポスさんがカウンターから離れどこかへと歩いていく。
その間にボクは解析スキルを使い、目の周りにフォースを集め、さっき買い取った商材を調べる。
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〈名称〉[変な色の古いポーション]
〈評価〉[C+]
〈名称〉[価値が在るのか分からない謎の鉱石]
〈評価〉[B-]
〈名称〉[古代文明の歴史を感じさせる変な形の剣]
〈評価〉[C]
〈名称〉[見ているだけで気分が悪くなるマーブル色の生地]
〈評価〉[A]
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浮かび上がる八つの文字。言葉通りの様相だと見て分かる。
これらを選んだ理由は一つ。起点になるゲームでの知識を活かした結果になる。
バトル後の探索パートで手に入る掘り出し物の名前は直球に表現されることがない。高く売れる物は意味不明な名前になる。この鉄則において、評価が高い物は必ず売れる物であるという不文律がある。稀に価値が低いアイテムをつかまされることがある。それでも外れが無いのが理由になる。
ましてやゲームが現実となった今だ。値引き交渉ができる。店主たちはそれなりに変な物だと認識があったらしい。どれも銀貨で買える品物になる。
パーポスさんが初老の男性を連れてきた。余り見掛けない顔だ。おそらく普段は表口に居るのだろう。表口は上級民や貴族や大商人たちが立ち入る場所。立派な背広にセンスの良いネクタイをしている。
「優秀なお前の頼みだからな。多少は融通する。しかしこの子が依頼主なのか? 仕事だから仕方がないが、客は選んだらどうだね?」
「いえいえ、私はこの子を信じていますよ。最近は特に期待をしているんです。オンテさんの眼鏡にも叶うはずですよ」
「だといいがね」
白髪で薄毛の身だしなみが整った男が、首から下げた眼鏡を装着し、商業ギルド用のコンソールにカードを通していく。
しばらくしてボクが用意した、“変な色の古いポーション”を手に取り、目元まで持ち上げ瞳を凝らす。
「ほお……」
評価に指標があるのか、細める目元が鋭く、小瓶を横に回し中の状態を見ている。
背後から心配そうに眉を寄せるパーポスさんを見てボクも心に焦りが生まれてくる。言ってしまえば見切り発進。出費の銀貨七枚を越えなければ次がない。価値が無ければ信用を無くし二度と鑑定士と関われなくなる。場合によっては料金が高く借金になる恐れもある。そう考えると緊張しない訳がない。
「うむ」
白く濁った液体ビンを見て納得の様相顔で首を縦に振り、机の上に置き、“謎の鉱石”を持ち上げる。
「これも……」
備え付けのジエルタルに近づけ青い結晶の輝きを確かめている。反射光の明るさを仕切りに気にし、納得がいったようにうなずきを見せる。
「ふむ」
剣身がS字に曲がる“変な形の剣”の持ち手を両手で支え上げ、刃先を平行にし、目線の高さでじっくりと目を細めている。
「素晴らしい」
ひとしきり角度を変え何度もうなずき、机の上に静かに置く。次に“マーブル色の生地”に手を付け、同じように持ち上げる。
これが最後の品。畳んである布の表面を広げ、繊維が細かいことを確認するように顔を近づけている。
「む、なんと繊細な」
何が繊細のか分からないが、縫い目が気になるのか、目元の高さまで持ち上げ観察している。
不気味な色をした青と赤のマーブル柄。離れた場所から見ているだけでも気分が悪くなる。それを気にした様子もなく鑑定士は真剣な眼差しでうなずき眉を寄せている。
「うむ」
静かに物品をカウンターに置き、ボクに一度視線を合わせ、背後に居るパーポスさんに振り向く。
「中々の物を見せてもらった。それなりの価値がある物だと保障しよう」
「本当ですか?」
「うむ」
「では、どれくらいになるのでしょうか?」
「その前に一つ聞いておきたい。これらの品はどこで手に入れたんだね?」
パーポスさんと話をしていた鑑定士がボクににらみを利かせてくる。眼鏡を外し、鋭い目つきになる。
「ノル。すまないが盗難品の防止のために必要なことなんだ。商業ギルドの規則になる。決して疑っている訳じゃない。だから応えて欲しい」
「ん……」
ここで駆け引きしてもいいのだが、悪目立ちするのもよくない。だからと言って下手に出るのも違う気がする。ボクは鑑定士をにらみ返し、強気の姿勢になる。
「パーポスさんに免じて応えるよ。オレは盗んだり奪ったりはしていない。そこにある物は全て買い取った物だ」
「どこで買った?」
「そこまでは言えない。オレはこんな顔だからな。調べればすぐに分かる」
幼い頃に負った火傷の跡が目立つため、顔に包帯を巻いている。毎日巻き付けているせいで忘れがちになるのだが、傍から見ると印象が強いだろう。
当然買い付けた店主に聞けばすぐに分かること。それでも“店で買った”とは言わないでおく。
「言え」
「断る。オレも商売がしたいからな。飯のタネになりそうなことを簡単に教える気はない」
しつこいな。目力を強めるボクは、明らかに強気の姿勢を装う。見上げるように男としばらく見詰め合う。
「そうか。……まあ、いいだろう」
鑑定士が突然に眉を落し、肩の力を抜く。ゆっくりと息をつき口を開く。
「生意気な坊主だ。だが、悪くはない」
「だったらどうする?」
「21000ゴルドだ」
「ん?」
「おお、すごい……」
パーポスさんが驚き目元を大きく開いている。ボクはあえていぶかしく顔の表情筋を強め、けん制の意思を示す。
本音は驚いている。金貨21枚だ。日本円にして300万円に相当する。一年は暮らしていける金額になる。そうした大金を数時間で稼ぐことができた。嬉しくない訳がない。
「納得がいかないかね?」
「鑑定結果を詳しく聞いてみないことにはなにも分からないからな」
「伝えてもいい。だが料金はしっかり取らせてもらうぞ?」
「意趣返しのつもりか?」
「正当な取引だ。わしも商売のタネだからな。簡単には教えられん」
「なるほど」
詳しく教えない代わりに金を取るつもりはない。一見して良心的な取引にも見えるのだが、その本質はボクに向けたメッセージが込められている。
正しい評価による査定額であるのかは聞くまで分からない。鑑定士はあえて結果を伝えないで自分を信用できるのかという試しをボクに仕掛けている。
さてどうする。この額で即決してもいいのだが、要は信用を取引するようなもの。仮に鑑定士が嘘をつき適正価格でない場合は足元を見られ、今後の取引に支障が出ることになる。
無難に鑑定料金を支払うのもいいだろう。その場合は普通の顧客として見られるようになる。場合によっては“どうでもいい相手”と思われる形で落ち着くことにもなる。
しかしそれだと面白くない。できれば好印象を持たせ優先してもらいたい。鑑定は時間が掛かる。そうなると流動的に売り買いされる掘り出し物が手に入る機会が減ってしまう。
交渉で値を上げてもいい。だが間違った対応だった場合のリスクも大きい。その場合は信用を確実に失うことになる。ここは素直に自分のカードを切るのが最上の対応だろう。
だが仮にそうなるとどうなる? マネをされ、情報が飛び交い、すぐに対策が講じられる。
それでは早期にお金を稼ぐことができなくなる。この世界の情報は俊足だ。商人たちの口伝で他の場所にすぐ伝わるだろう。
やはりここは別の方法を取るべきだ。さて、どうする。
『マスター。よろしいでしょうか?』
『なに?』
『鑑定結果の内訳を説明します。劣化MDRポーションが1000ゴルド。粗悪なミスリル鉱石が3800ゴルド。ディスブレイスソードが15000ゴルド。魔物避け効能布が1200ゴルドになります』
『そうなの?』
『合計21000ゴルド。適正価格だと判断します』
『知っていたなら早く教えてよ』
『私に聞かなかったマスターが悪いのです』
『むう……』
『怒っても無駄ですよ。無能なマスターが悪いのです』
『分かったよ。参考にさせてもらう』
「――さあどうする? わしはどちらでも構わんがね」
納得したボクは首を縦に振り、続きを口にする。
「全面的に信用する。その額で買い取ってくれ」
「ほお……」
「へぇ、さすがはノルだね。私が見込んだ通りだよ」
「ダメか?」
「坊主。わしはオンテ・デルメット・ボーヤングだ。お前さんの名前を教えてくれ」
「ノルテアだ」
「ノルテア……か、覚えておこう。今後ともよろしく頼む」
「ああ。こちらこそだ。よろしく、オンテさん」
ボクは握手を交わし、新しい出会いを祝福した。
これでお金の心配がなくなりました。
多分……。




