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6.眠り覚える朝のカスタム

 前回のあらすじ。

 仕事を終え暗号資産をお金に換え、串焼きを買い孤児院に戻る。孤児院に着いたノルテアはどうなるのでしょうか?

 書見のほどよろしくお願いします。

 シースル孤児院の裏口から入ったボクは、皿洗いをする幼年のローザと顔を合わせ、汚い物を見るような目を向けられる。舌打ちに目を反らし、険悪な態度をとる。その対応に猫族のルリィもボクに気付く。そっけなく鼻息を慣らし、何事もなかったように手元の食器に視線を移す。そんな二人にボクは慣れたように声を掛ける。


「院長先生はどこに居る?」


 眉を寄せ嫌そうな顔になる。


 普段から会話をしないせいか反応がない。ボクは洗い終りの食器が仮置きされた机の空いたスペースに串焼きを全て置き、二人の返答を静かに待つ。


「先生は部屋に居るよ」


 ルリィの低くしたような声が聞こえてくる。明らかに嫌われている。それも当然のこと。昔からボクは素行が悪く何かと皆に悪態をつけていた。最近は仲の良い先輩たちが卒院し、年齢的にも年長組になったボクは一人で居ることが多く、包帯姿で不気味に見えるせいで尚のこと嫌われているのだろう。


「分かった。ありがとう」


 これは朝食どころではないな。自業自得なのだろうけど、思いの外に理不尽な気がする。


 ボクがノルテアになってから一日ほどしか経っていないのに、主観は月城乃央のままである。今までのボクが孤児院で何をしてきたのか覚えている。けれど実感はないのだ。そんな居たたまれない気持ちをどう整理していけばいいのだろう。言い訳をするならば、以前のボクと今のボクは違うと言いたくなる。


 ルリィとローザが水場で黙々と食器を洗っている。ボクに背中を向け明らかに不快だとする圧力が伝わってくる。


 今後のことを考え、関係の改善に努め、より良い生活環境を整える方がいいのか、あえて嫌われていることを利用し、早く卒院する方がいいのか、少し判断に迷う。


 場の空気を読むボクは、院長室へと向かうことにした。石造りの廊下を歩き、目的の部屋に着く。


「失礼します」


 ここは教会神父の執務室の隣にあるメリフェイ先生専用の部屋になる。先生は神聖教のシスターと兼務で孤児院の院長を努めている。娘のシーラもシスター見習いで、二人は一日置きに泊まり込み、ボクたちの世話をしてくれている。


 ボクはもう一度ノックをして入室のあいさつをする。


「ノルテアです。入ります」

「どうぞ」


 応えが返ってきた。勢いよく扉を押し開け中に足を踏み入れる。


「おはようございます」


 入って朝の挨拶を済ませドアを閉め振り向くと、目の前に先生の腹部が見え抱きとめられる。


「本当に無事でよかったわ」


 優しい香りがする。思わず涙が出そうになる。こんなボクでも心配をしてくれる人がいる。そう思うと胸の奥で何かが張り裂けそうになる。


「あなたが帰って来ないから心配したの。ギルドに問い合わせてようやく分かったわ。今度からは事前に連絡を入れて欲しいわね」

「……はい」


 そう答えると抱き寄せていた手を放し、ボクの目線に合わせ笑顔を向けてくれる。


「本当に心配したの。でもよかったわ。本当によかった」

「すいません」

「素直に謝ることができて偉いわね。それにしても……」


 メリフェイ先生が身を正し、ボクから一歩離れ優しい顔をいぶかしめる。


「ノルテア。声がいつもと違うようだけど? ええ、とっても良い響きがします。ですが……」


 シスターベールから覗く顔を傾かせ、差し指をほほに置き、何か困った風に眉を寄せる。


「今日はいつもよりも落ち着いていますね。子供らしい声になったようで大人になったような不思議な感じがします」


 メリフェイ先生の青い瞳がボクの視線を捉える。明らかに疑いの眼差しを向け、どう応えたらいいのか分からないボクは、困った気持ちを前面に出し考えを巡らせる。


 この人は信用できる。けれど今の状況を実直に応えるべきではない。何か別の言い訳を考える必要がある。まずは新しい仕事について報告しよう。


 そう思っていたら、メリフェイ先生の口が先に開かれる。


「何か、ギルドであったのですね? 詳しく話を聞かせてくれますね」

「先生……」


 ボクは胸元に仕舞い込んでいる財布から銀貨二枚を取り出し、受付で話した嘘の仕事内容を伝えることにした。


「つまりアリア様のご意思がノルテアをより良い務めに導いて下さったと云うのですね?」

「はい。そのおかげでいつもよりも稼ぐことができました」

「ありがたいことです。アリア様があなたの努力をお認めになったのです。感謝をしなければなりませんね」

「より一層に励みたいと思います」

「ノルテアは大人になったのですね。以前のあなたはそのように答えはしなかったわ」

「人は変わるものです。早くボクも一人前になって、先輩たちのように独り立ちがしたいのです」

「まだ他になにかあったのでしょう? 神の御心に異議を申し立てるのはいささか不敬ですが、それ以上に私はあなたの心と体が心配なのです。アリア様は静穏な日々を願われている。しかしあなたの変わりようは戦場に向かう兵士の如く清らかさを感じます。その原因が何であるのかを私は保護者として知る必要があるのです」

「神は静穏を求めています。決して危険なことではありません。ですが、日々の恩寵はより豊かになるはずです。ボクはその意思に従い、より長期の奉仕に努める所存です。できれば先生にも協力していただきたいのです」

「もういいわ。普通に話しましょう? 私は一体何をしたらいいのかしら」

「帰って来ることが遅くなるかと思います。今のボクは院の仕事を手伝うことができません。先生にはできるだけボクの仕事に影響が出ないようにご配慮いただきたいのです」

「それで銀貨が二枚なのですか……。本当にお仕事に危険はないの?」

「明日以降はもっと報酬が増える予定です。危険なことは無いと云えば噓になります。ですが、どのような仕事でも危険は付き物。その程度のことだと思っています」

「分かりました。皆さんには私から伝えておきます。あなたの未来が輝かしくなる。応援するのは当然ですね」

「ありがとうございます。ボク、一生懸命にがんばります」

「無理はしないでね。疲れたらいつでも相談してくださいね」

「はい」


 やっぱり先生は優しいな。本気でボクの体を心配してくれている。


「失礼します! お母さん居る?」


 突然ボクの背後からノックの音が聞こえてくる。


「あら? シーラね。はーい! 空いているわよ!」


 メリフェイ先生が返事をする。すると間を置かず両開きのドアの片扉が大きく開かれる。


「ノル! やっぱりここに居た!」


 シーラが部屋に入って来るなりボクを見下ろし、腰に両手をそえ胸を張る。


 若い頃のメリフェイ先生と云えば分かりやすいだろう。見た目がそのままで、先生よりも髪が短く、活発そうな顔立ちをしている。


「ボクに何の用?」

「何の用じゃないの! あんたの持ってきた串焼きよ! 何のつもりなのよ! ベイとアルムが見つけて食べちゃっているわよ!」

「別にいいよ。そのために買ってきたんだ。皆で食べて」

「どういう風の吹き回し? もしかしたら今日は雪が降るのかしら?」


 ボクとシーラはいつもこんな感じだ。というのもボクが院内で唯一気軽に話せる相手になる。歳はかなり離れているが、実のところ姉弟のように接してもらっている。


 ちなみにシーラは今年で17になる。


「仕事が上手くいきそうなんだよ。これからは土産ぐらい毎日持ってこれるようになる。いちいち気にしていたら切りがないよ」

「なによそれ! ノルの癖に生意気だわ!」

「ダメよ、シーラ。そんな風に言ってはいけないわ」

「でも、お母さん。ノルはまだ子供なのよ? こんなに沢山稼いで、何か危ないことをしているのに決まっているわ!」

「それについては今話をしていたのよ。アリア様がお認めになったの。問題はないの。そう私が判断しました。シーラの気にすることではないわ」

「でもお母さん、ノルだよ? 今まで散々迷惑を掛けて来たんだよ? 急に仕事ができるようになるなんておかしいわ」

「それでも、ですよ。ノルテアは認められたのです。その事実を受け止めなさい。そんなことよりも布編みの仕事に畑の作業はいいのですか? 今頃子供たちがあなたの戻りを待っているのですよ? 早くお行きなさい」

「うっ、分かったわ。ノル、行くわよ」

「ダメですよ。ノルテアは今日から別生活をしてもらいます。大事なお務めがあるのですから、しっかりと休んでもらいます」

「どうしてそうなるのよ!」

「ごめんね、シーラ。ボクは昨日から眠っていない。だから、少し休まないといけないんだ。その後でギルドに行く予定だから、しばらく手伝うことはできないと思う」

「何よ! 何なのよ! ノルだけずるいわ! 私だって本当はシーカーになりたかったのよ! いいわ! あんたなんかもう知らないんだから!」

「シーラ! ノルテアに失礼ですよ! 自分の立場を考えなさい!」

「お母さんのバカッ! 私だって色々と我慢をしているんだからね!」


 シーラが大声を上げ部屋から走っていく。それに応え先生が廊下へと出ていく。ボクは開かれたドアを見詰めいつもと違うシーラの様子に驚き、ぼう然と立ち尽くす。


 しばらくしてメリフェイ先生が戻って来ないことに気づき、ボクは自室に戻ることにした。離れの納屋へと向かいドアを開ける。


 昔は家畜小屋として使われていた建物。間取りが広い木造建て。入ってすぐに穴掘り用の道具が置かれている。


 近くに墓地があり、管理の宿直室を備えている。月に数回葬儀が行われるため、式が重なったときの臨時として遺体を安置する仮置き場にもなる。雰囲気が悪いためボク以外に誰も訪れることがない。


 梯子を使い屋根裏に上る。ボクはフォースを目に宿しオルタの姿を直視する。


「もう声を出してもいいよ」

『念のため会話はチットでお願いします。誰に聞かれているのか分かりませんので』

『わかったよ』

『それにしてもここがマスターのプライベートルームなのですか? ほこりが多く汚らしいですね』

『うるさいな。これでも掃除は定期的にしているよ』


 そう言いつつ窓の代わりになる木枠を外し、外からの風の通りを良くする。春先の暖かい日の光が入り、新鮮な空気が室内に流れてくる。


『まさか風通しを良くすることが掃除だったのですか? マスターはずぼらな性格なのですね』

『違うよ! 暗いと思ったから部屋の中を明るくしただけだよ!』

『そういうことにしておきます。私は貴方がどのような性格でも気にしません。そんなことよりもカスタマイズをさっさと済ませましょう。そこの薄汚いベッドに早く横になってください。作業中に気を失うことがありますので』

『薄汚いは余計だよ! 一昨日にシーツを替えたばかりなんだからね!』

『できれば毎日変えてください。それが全うな生活というものです』

『無理だよ。シーツを洗って乾かすのは大変なんだからね! で? これでいいのかな?』

『毛布はしっかりと身に着けてください。風邪を引きますよ』


 まるでボクの保護者みたいだ。少し口うるさい気もするけど、しっかりとサポートはしてくれている。


 ボクは言われた通り掛け布団を被り、仰向けにオルタの丸いボディを見上げる。


『今からマスターのステータスを表示します。余りの弱さに驚かないでくださいね?』

『そんなことは言われなくても分かっているよ! いいよ! 早く見せて!』


 そう言葉にした瞬間にウィンドウが目の前に表示され、数値が事細かに並べられていく。


―――――――――――――――――――――――

 個体情報:

 使役者[ノルテア]

 タイプ[イデア]

 サイズ[SS]

 種類名[フラッフィーロリー]

―――――――――――――――――――――――

 能力ステータス:

 グレード[32]

 戦闘力[21]

 HP[10]

 FP[40]

 攻撃力[5]

 防御力[6]

 抵抗[17]

 速力[19]

 幸運[5]

―――――――――――――――――――――――

 ステータス補正値:

 BP[32]

 強度[1]

 知能[4]

 制御[1]

 敏捷[2]

 耐性[1]

 機運[1]

―――――――――――――――――――――――

 異能スキル:[吸収]

―――――――――――――――――――――――


『よっわ……』

『素晴らしい突っ込みですね。自分に言っている自覚が無いところが滑稽です。これが貴方の存在価値なのですよ? 本当に分かっているのですか?』

『云われなくても分かっているよ。まさかここまで弱いとは思わなかった』


 補正値の合計が10。各能力に振られた数値のほとんどが1。ゲームでも初期値は50になる。五倍差になる能力だ。


『改めて確認します。現在のグレードが32です。それに伴いボーナスポイントが32になります。加えてグレード限界を超えました。貴方のスプリスが進化を求めています』

『順当だね』


 第一次進化条件のグレードは30になる。進化先はランダムに決められ、予め知ることができる。


『ちなみに進化後のタイプはスピリット。個体種名はサラマンダーです』

『えっ! 本当に?』


 スピリット型は最強の系統と呼ばれ、成長率が高く、特殊能力が豊富。ゲーム時代ではトップユーザーたちが必ずなろうとする憧れの種族。さらに個体種がサラマンダー。スピリットの中でも上位種と呼ばれ、圧倒的な攻撃性能を誇る。進化先としてはこの上なく望ましい存在になる。


『私も驚いているのです。マスターのようなゴミくずから金のヒナが生まれてくるのです。貴方はこうなることを予め知っていたのですか?』


 ちなみにイデアからスピリットに進化できる確率は一万分の一になる。そしてサラマンダーのような上位種になれる確率はさらに一万分の一。つまり実質一億分の一の確率になる。


『それでは進化をする前にボーナスポイントの振り分けてください。機運に全て振るとおっしゃっていましたが、本当によろしいのですか?』


 進化はしたい。だが、断る。ボクは全てを拒絶する。


『あのさ。しないという選択肢はないのかな?』

『………………は? 言っている意味が分かりません』

『ボクは今が好きなんだ。このままの状態で行けるところまで行こうと思っている。進化はしないつもりだ』

『…………あ、はい。進化の拒絶ができるのかを検討してみます。あ……はい。問題がないようですね。しかし、本当によろしいのですか?』

『うん。このままでいい』

『なぜです? これほどの優良な物件は存在しないかと思いますが?』

『くどいよ。このままでいいんだ』

『はあ。いや、しかし…………あ、はい。了解しました。進化シーケンスを拒絶します。これによりサラマンダーへの更生プログラムが廃棄され、スプリスを現状維持とします』

『ありがとう。これで踏ん切りが付くよ』

『今さら進化したいといっても手遅れですよ? このような好機は二度と訪れないでしょう』

『それは無いよ。次はグレード50で進化ができる』

『そうなのですか? 良く知っていますね』

『もっとも、進化をするつもりはないのだけどね』


 ゲーム時代に用いていた強くなるための構想がある。その計画がある内は進化をする意味がない。


『しかし、実にもったいない。未来で悔やむことがあれば一層の罵りを差し上げることにします』

『そうはならないよ』

『マスターのくせに生意気です』

『オルタに云われたくない』

『もういいです。ボーナスポイントの全てを機運に振りますね。その前に振り分け後のステータスを確認してください』

『うん。いいよ』


―――――――――――――――――――――――

 個体情報:

 使役者[ノルテア]

 タイプ[イデア]

 サイズ[SS]

 種類名[フラッフィーロリー]

―――――――――――――――――――――――

 能力ステータス:

 グレード[32]

 戦闘力[303]

 HP[26]

 FP[56]

 攻撃力[21]

 防御力[22]

 抵抗[33]

 速力[35]

 幸運[165]

―――――――――――――――――――――――

 ステータス補正値:

 強度[1]

 知能[4]

 制御[1]

 敏捷[2]

 耐性[1]

 機運[33]

―――――――――――――――――――――――

 異能スキル:[吸収][隠蔽]NEW

―――――――――――――――――――――――


『異能に“隠蔽”が加わるんだね』

『あくまでも予測です。もしかすると違う能力が付与されることもありえます』

『それでも新しく異能が増えるんだよね? 嬉しいな』


 スプリスはボクの分身体になる。スプリスが強くなればボクも強くなる。スプリスのスキルが増えるとボクの超能力も増えることになる。隠蔽は優秀な異能スキルだ。目にフォースを宿すことで見えるスプリス体を隠すことができる。他にも気配を消し環境に溶け込むことができる。これで危険から身を守ることができる。


『では今からカスタマイズを開始します。準備はよろしいですか?』

『うん。よろしく』


 カスタマイズはAIのサポートが必要になる。もちろん自分でも行うことができる。その場合はフォースを感じ取り感覚でステータスを認識する必要がある。正確に振るには知識と経験が必要になる。非常に難しく、慣れていないとランダムに振り分けられる。


『カスタム処理を実行中です。しばらくお待ちください』

「あれ? なんか急に……」

『云ったはずですよ。意識を失う可能性があると』

「これは……」


 辛い。手足の感覚が無くなってきた。


『マスターは眠ってください。早く目覚めることを祈っています』


 ダメだ。フォースが使えない。オルタの姿が見えなくなる。


『ですがこれで私はしばらくマスターから解放されるのです。ふっふっふ』

「なんだよ、それ」

『貴方が私を意識できない間に私は自由になれる。素晴らしいですね。これで主従関係が解消されます。マスターが居ない間に管理者権限の書き換えを行うこともできるのですよ。ふっふっふ』


 冗談だよね?

 そう思う瞬間に意識が闇へと沈んでいく。


「あ、ああ……」

『お休みなさい。マスター……』

 この後ノルテアはどうなってしまったのでしょうか?

 次回にご期待ください。


 すごく弱いという設定でしたが、弱さを際立たせる書き方ができなかったのが非常に残念です。

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