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5.仕事の帰りの寄り道とその日常

 前回のあらすじ。

 D空間でスプリスを倒し、現実世界に戻って来たばかりのノルテアがトイレに向かっていく。

 その時からの開始です。書見のほどよろしくお願いします。

「危うく漏らすところだった。間一髪だったな……」


 トイレで用を足しボクは、コンソールがある仕切り部屋に戻ることなくシーカーギルドの受付広場に向う。


 受付は建屋違いの廊下を歩く必要がある。近代的な装いは一切なく、中世ヨーロッパ建築の公共施設に似た感じ。奥へ進むと広場が見えてくる。巨大な時計が午前五時を表し、春先で薄暗く、電気が無い文明の光源にジエルタルの結晶石が使われている。


 ジエルタルはダンジョンの魔物を倒すことで手に入るアイテムになる。様々な種類があり人々の生活に大きく貢献している。その価値は手軽で安価。種類にもよるが、ボクのような下級民でも入手できる日用品になる。


 そうした光源で明るいシーカーギルド内のフロントフロアでは、熟練のシーカーたちが依頼ボードに集まり、更新されたばかりの情報に目を通している。早朝にも拘らず我先に受付を済ませようとする人だかりでにぎわっている。


 ジェネコンコンソールは魔道装置と呼ばれている。ボクは魔道装置貸し出しの返却手続きを終えるため列を作るシーカー達の後ろに付き、受付が空くのを待つ。


 十歳と背が低いボクがこの場に居ても大人たちは不自然に思うことがない。理由は簡単だ。生まれ付き体のあちこちに火傷の跡があるボクは、その醜い姿を隠すため顔に包帯を巻いている。


 包帯は治療のための物ではなく、長年用いていた古着の生地を使っている。経年で色あせ汚れが目立つ。それが功を奏し、強面のシーカー達から文句を言われずに済んでいる。鏡を見ると包帯人間が服を着て列に並んでいるように映るだろう。


 生意気な口調で大人を馬鹿にしたような物言い。評判も良くなく周りからは可愛げのない子供だと思われている。


 そう考えていると順番が巡ってくる。今日の受付担当はガイルゥだ。ガイルゥはハゲのおっさんで、ギルド職員の中でも特別怖い存在になる。朝方の一番混み合う時間に居るため、午後もそうした時間帯に良く現れる。


「おう、坊主。もう魔道装置の貸し出しはいいのか?」

「ああ。急に延長して悪かったな。返却の手続きを頼む」

「なんでぇ。いつもと調子が違うじゃねぇか。何かいいことでもあったのか?」

「どういう意味だ? オレは何も変わっていないぞ?」


 新しい自分を自覚する前のボクは、ボクを“オレ”と云っていた。少し違和感があるけど今は変えない方がいいだろう。


「嘘を吐け。坊主は粋がるのが日課だったろう」


 ノルテアの人柄が分かる言い回しだ。ガイルゥの鋭い目つきに首を傾げ、分からない素振りをしてみせる。


「アリアに新しい仕事でも任されたんだろう?」


 ガイルゥのいかつい顔がカウンター越しからボクをにらんでくる。ボクは会話の腰を折らないように首から下げていたギルドカードを取り出し、丈の高いカウンターの上に乗せる。


「いつもと同じさ。ちょっと体力が余っていたから、まだいけると思っただけだ」


 ガイルゥはカードを受け取り、慣れた手つきでコンソール備え付けのリーダーに通す。おそらくガイルゥにしか見えないモニターを目にし、キーボードらしきボタンを押している。


「そうは言うけどよう、延長金も馬鹿にならんのだぞ? 実入りが良くなけぇりゃあ赤字になっちまう」


 これは一種の雑談だ。相手も興味を持っているわけではない。ガイルゥ程の熟練者にもなると様々なことが分かっている。ボクが怪しいことをしていなかったか聞き込みを行っているだけだろう。


「オレにはマイニングの才能が有るらしい。普段よりも難しい仕事を任された。つい嬉しくて延長しちまったんだよ」


 マイニングとは、暗号化した通貨を発掘する作業ではなく、この世界では資産価値があるフォースの運用処理を人為的に行い、計算リソースの手助けをする意味合いがある。AIが管理するバンクからフォースタルの量を把握し、そこから出入りするフォースの仕分けを人が補う。それらは画像や絵を繋ぎ合わせる作業。一種の神経衰弱を解くような仕事だ。複雑な個人資産の取引は沢山の映像処理を必要とする。そうした行為をAIがミニゲームとして提案し、クリアしていくことで給金を得る仕組みになる。


「アリアに言われたのか?」

「ああ。眠っているだけで済む仕事だ。帰る必要がないのならもう一日くらいは行けそうな気がする」


 この世界のお金は暗号資産が主軸になる。暗号資産はAIが勝手に管理してくれる個人資産にもなる。住民票カードやギルドカードに登録された血の情報を鍵とし、その生体情報を基にバンクの口座が勝手に作られる。その口座は所有者の任意で出し入れすることができる。


「前回の五倍は儲けているんじゃねぇか」

「勝手に見んじゃねぇよ」

「嘘ついてぇんなぁ。ほら吐けよ。何の仕事を任されたんだ?」

「さっきも言った通り “オレの努力”で得られた報酬だ。疑うのなら演算テストをしてくれてもかまわない。大体の計算はできるからな」

「悪りぃな坊主。俺たちベテランは新人のサポートをするのが仕事なんだ。坊主が俺たちに相談もなく勝手に無茶なことをしていねぇか調べなきゃならねぇんだよ」

「ん……」


 マイニングには種類がある。AIが知識レベルを分析し、それに見合った問題が提示される。知識が多くなればそれだけ作業が高度になり給金のアルクが多く支払われる。そうした返答の趣旨にガイルゥが納得してくれたのか心配になる。


 まあ事実として“嘘は言っていない”のだから、問題になることはないはずだ。ここは根競べ。ガイルゥを見上げ無言を貫き通す。


「いいぜ。信じてやるよ。ほらカードを返すぜ」

「ああ」


 よかった。上手く誤魔化せたみたいだ。


 それにしてもボクは職員たちから思ったよりも注目されているみたいだ。なんとなく視線を感じる。


「寄り道はしねぇで帰れよ。先生に元気な顔を見せて安心させてやりな」

「ああ、そうするよ」


 ボクは受け取ったカードを首から下げ、見えないように肌着の中に仕舞い込む。


「やけに素直だな。女みてぇな声にもなっているし。お前、本当にノルテアか?」

「ああん? おっさん頭がおかしくなったのか? さっきカードで確認したばかりだろ」


 火傷でしゃがれていた声が綺麗になっている。気付かなかった。


「それもそうか。悪りぃな。引き止めちまった」

「ああ。じゃあな」

「おう」


 この世界はAIによって管理されている。ギルドカードは資産管理以外に身分証明書にもなる。どういう理屈か分からないが、所有者でもない者からの提示は使用ができない。


 そんなことを考えながらギルドの大きな入り口から外へ出ていく。段差のある玄関口を降りてため息をつく。無事に受付が済んだことに安堵した。


 次は商業ギルドでのお金の取引だ。孤児院の先生に稼いだお金を渡すため、暗号資産を通貨に替える手続きをする。この世界では暗号資産やフォースをアルクとも呼び、街中でアルク取引を行うには国の許可が必要になる。


 商業ギルドはシーカーギルドの隣に併設されている。シーカーが手にした素材やアイテムを手早く換金できるように工夫されている。


 そうしたことを考えながら裏道を歩くボクは、いつものように下級民専用の入り口に向っていく。


 ここは出稼ぎに来た行商人や流民、または中級民や下級民のシーカーたちを専門にした取引所になる。


「相変わらず人が多いな」


 思わず愚痴が漏れるほどの人々が集まっている。早朝だというのに係員たちが大声を張り上げ、共同受付カウンターに集まり、仲買人と行商人の買い付け交渉の仲介やその他の契約で異議を唱えている。


 ボクはシーカーだ。シーカーは専門の窓口がある。どうやらすれ違いで仕切りの窓口が空いたらしく、ボクは素直に入っていく。


「おはよう」

「やあ、ノル。今日はどうしたのかい?」


 顔なじみの男性ギルド員。ボクはパーポスさんと呼んでいる。


「アルクの換金をお願いする」


 そう言いながら懐からカードを取り出し、背の高いカウンターに乗せる。


「いいよ。ちょっと待っていてね」


 パーポスさんは仕事が丁寧だ。他にも知っているギルド員は居るけど特別にこの人が優秀になる。


「お客様の所有は79163アルクになります。今日のレートは152アルク。仮に全て換金すると521ゴルドになります。今回はどの程度交換をいたしますか?」

「そうだね」


 一ゴルドでリンゴに似たアッペルの実を一個買うことができる。いつでも採れるアッペルの実は今が旬だ。


 そんな価値のお金に全てを換金してもいいのだが、シーカーギルドでの取引はアルクで支払う決まりがある。そのためにボクは稼いだ分の四割を残すようにしている。


「240ゴルド分の交換をお願いするよ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 今回稼いだ金額は400ゴルド。そのうちの六割は240ゴルドになる。


「お待たせしました。ご確認をよろしくお願いします」


 100ゴルド銀貨二枚に10ゴルド小銀貨が三枚。それに1ゴルド銅貨が十枚と両替をしてくれたらしい。


「ありがとう。細かいのがあって助かるよ」

「どういたしまして」


 ボクはカードを首から下げ、手にしたお金も首に下げている子袋に仕舞い込む。


「ところでノルくん。今日はずい分と羽振りが良さそうだけど、何か新しいことでも始めたのかい?」


 早速質問が来たようだ。ボクは素直に応えることにする。


「いや、いつもと同じ仕事だよ。今回は特別に上手くいっただけ」


 シーカーギルドで応えたことと違うことを言うべきではない。すぐに情報が伝わり、周りに知らされてしまう。


「そうなのかい? 私はてっきりどこかのチームに入って雑用の仕事を任されたのかと思ったんだけどね」


 チームの雑用は命がけの仕事だ。その分実入りもそれなりに良くなる。


「オレは子供だぞ? 大人たちがオレみたいなクソガキを使うはずがないよ」

「それもそうか。いや、ちょっと違うかな? やっぱり何かあったんだろう。隠しても分かるよ。いつもと雰囲気が違うからね」


 おっさんも云っていたけどそんなに違うものなのかな?


 声が女っぽいから? 分からないなあ。


「いつもよりも難しい仕事になった。さっきも言ったけど、特別に上手くいっただけだ」


 おっさんにも話したことだが、マイニングは種類がある。難しくなればなるほど収入が上がる。


「ノルくんは勉強ができるんだね。おめでとう」


 何のことか分からない。取りあえずうなずいておこう。


「こんなに稼げるのなら商業ギルドでも仕事ができるんじゃないのかな? よかったら上司に話を通してもいいけど?」


 いきなりだな。昔のボクだったら間違いなく飛び付いていただろう。


「ん、いや」


 商業ギルド員に就職するにはギルド員の紹介状が必要になる。その分給金が高く、安定した収入が見込まれる。


「ありがたいけど、オレはシーカーが性に合っている。申し訳ないが遠慮させてもらうよ」

「そう。残念だね」


 あっさりと引き下がったところを見ると、ボクを試したのだろう。多分そうに違いない。


「そろそろ帰るよ。明日もよろしく頼む」

「うん、お疲れさま。こちらこそお願いするよ」

「じゃ」


 カウンターから離れ人の流れに乗り、大きな出入口から外に出る。


 次の行き先は孤児院だ。このまま裏道の通りを歩いて行けばすぐに着く。だけど腹が空いてきた。今から帰ってもボクの分の朝食は無い。どこかの露店で済ませた方がいいだろう。


 ボクは寄り道を決心し、普段から利用している通りの広い道に向かう。


「芋と肉のスープはいかが? 温かくて精が付くよ!」

「サンドイッチ! 焼きたてのサンドイッチどう! 朝はこれに限る!」

「果実水ができたよ! さっき採れたばかりのアッペルを絞ったジュースだぁ! 売り切れたら終わりだよ!」


 飛び交う言葉の全てが女性の声。こうした仕事は主婦たちに人気がある。


 この世界にも戦争がある。魔物の脅威もある。男に生まれたからにはそれだけで戦いに赴く義務がある。力が強い。体力がある。数人の女を養える。そうした一部の弱い女たちが街に残り、空いた時間を利用して仕事に励んでいく。ここはそうした社会性が成り立つ場所なのだ。


 男に生まれると女に優遇される。“余程”のことがない限り嫌われることはない。そんな世の中でどうやら“余程”にボクが含まれているらしい。


「旦那! 安くしとくよ!」

「こっちにおいでよ! 大盛でよそってやるからさあ!」


 渋い男に女たちが愛嬌を振りまいている。他に女の客が居る中で特別に声を掛けている。そんな中でもボクは蚊帳の外。顔が悪すぎる存在はどこに居ても嫌われる。


 生憎と行き付けの場所がある。孤児院の先輩が経営する串焼きの店だ。


 早々にたどり着いたボクは無言で屋台の正面に立ち、背の高い作業台を見上げ準備ができたばかりの炭火を意識する。


「よう、ノル。今日も集りに来たのか?」

「む……」


 三年前に孤児院を出て去年に露店を始めた女店主のアッペンニャ。養護生活を卒業し、苦労の末に独り立ちを成功させた先輩の一人になる。


「串を一本食べていかんか? もちろんあたしのおごり」

「いや、今日は客としてきた」

「お? 珍しい」


 種類は一角ウサギの肉とボアの肉。それぞれ塩とタレの二種類。タレは甘口で安く、塩は希少で値が張る。ウサギは淡白で安く、ボアは脂が乗って高めになる。


 どうせだからあいつ等にも食べさせてやろう。ボクは大人買いの気分になり財布の紐を緩めていく。


「ボア肉の塩とタレを十ずつ欲しい。支払いは今までの分を含めてくれ。いくらになる?」

「そんなに買って大丈夫なのか?」

「ああ。少し稼げるようになってきたからな。仕事の前祝だ。当然金はある」

「じゃあ遠慮はしないよ」

「うん、そうしてよ」

「全部で25だ」

「分かった」


 ボクは首に下げた子袋から小銀貨三枚を取り出し、アッペンニャに手渡す。


「釣りは要らない。これは出世払いだ。素直に受け取って欲しい」

「ならもらっとく」

「ああ」

「代わりにとびっきり旨いのを用意するよ。少し待っていてくれんか?」

「ああ、頼む」

「任せとけ。いい感じに焼いてやるよ」


 そう言ったアッペンニャは手際よく肉を用意する。炭火の上にある焼き網台に並べ調理を進めていく。


 いい匂いだ。肉が焼ける香りが漂ってくる。


 これだけ旨そうな気配を出しているに足を止める客たちが近づいて来ない。包帯で顔を隠す不気味なボクが居るせいだ。


 仕事の邪魔になっている。そう考えると早くこの場から立ち去りたい気持ちになる。


「ノル。お前変わったな。少し大人になった」

「そうか? オレはいつも通りだぞ。何も変わったところがないはずだ」

「いや、変わったよ」

「のどの調子が良くなってきた。そのせいじゃないのか?」

「そうじゃない。落ち着いてきた。以前のノルだったら今も騒いでいたよ。何をそうさせたのか知らないけど、いい感じになってきたな」

「今日は同じことを三度も言われたよ。以前のオレとそんなに違うように見えるのか?」

「うん。偉いよ、ノル」


 少し照れ臭いな。記憶が混ざって実感がないけど、慕っていた先輩に褒められると嬉しくなる。


「よし、できた。ご注文の品だ。気を付けて持って帰り」

「ありがとう」

「また頼むな。メリフェイ先生にもよろしく伝えてくれ」

「うん。じゃあな」


 本当だったらここで一本食べて行く予定だったが、アッペンニャの仕事の邪魔になることを考え、すぐに孤児院に向うことにした。


 案の定ボクが立ち去った後に客からの注文が聞こえてくる。アッペンニャが接客する大きな声も聞こえてくる。


「切ないな……」


 不思議と寂しさが込み上げてくる。自分の醜い姿が気になり、将来に不安を覚えてしまう。


『ようやくマスターの本質が分かってきました』

「え?」

『声を上げないでください。気が狂っている馬鹿に思われますよ?』

「もしかして、オルタなの? 今どこに居る?」

『私はここに居ますよ? マスターにだけは見えているはずです』


 綺麗な女性の声。言われた通り目にフォースを集めてみると、丸い球体の姿が幻のように現れる。


 右肩の前に浮遊し、ボクにカメラレンズのような瞳を向けている。まるでサポートAIが管理者の仕事をマネージングしているみたいに、MDRで実体化したオルタのスプリス体がそこに居る。


「何しに来たの?」

『声を出さないでください。古代人の記憶を持つ貴方ならばイフクロス通信で会話をすることができるはずです』


 イフクロスとは、電子とフォースを交換するという意味で、超能力文明における必須技能になる。MDRにはイフクロス通信を行う機能が備わっている。ボクがフォースを操り、MDRをコントロールすることで、エフエイリアにアクセスし、そこにあるAIとリンクすることができる。


 端的に言うと音声の無い電話だ。


『これでいい? 上手く聞こえる?』


 久しぶりの感覚。どうやら本能が覚えていたようだ。


『残念です。チットをマスターが扱えるという事実は、古代人であるとする証明になるのです。私としては嘘であって欲しかった』

『まだ疑っていたの? いい加減に認めてよ。ボクは月城乃央の記憶を持つノルテアだよ』

『そこなのです。月城音葉に義理の弟が居たという確証が得られませんでした。私にもデーターベースがあります。アカシックレコードほどではありませんが、それなりに充実しています』

『いいね。ボクにも見せてよ』

『できません。グランドマスター以外に教えるつもりはありません』

『そう言われると諦めるしかないね』


 歩きながらフォースを操る。チットでオルタとの会話をする。慣れれば誰とでもできる。扱えないと思っていた力が少しずつ扱えるようになり何だか楽しくなる。


『姉さんの情報があるのにボクの情報が無い。それはおかしいことなの?』

『端的に言えば違います。弟が居るという情報は存在します。ですが、貴方が大戦でどのように活躍していたのかという記録が全く無いのです。おかしいと思いませんか?』

『分からないけど、魔王パンデニウムをソロで倒した経験はあるよ?』


 ゲームだけどね。その知識が特に濃いから嘘ではないはずだ。


『魔王パンデニウム。七英雄たちが“封印した”と伝えられている最強の魔族ですね』


 あれ? だとしたらボクの勘違いかな?


 ゲームでボコボコに倒した経験があるから封印という言い回しだとおかしくなるよね? ボクの記憶が間違っているのだろうか?


『そっか。そういう話だったらそっちの方が正しいんじゃないのかな? ボクもうろ覚えだからね。間違っていることだって沢山あるはずだよ』

『そうですね。そうであればいいのですが……』


 なんか調子が狂うな。オルタはもっと意地悪な話し方をするはずだ。


『それで本音はどこにあるのかな? ボクに聞きたいことがあったんじゃないの?』

『はい。実はマスターに相談したいことがあります』

『やっぱり。今までの会話は前置きだったんだね』

『単刀直入にお伝えします。スプリスのカスタマイズの件についてです。グレードが上がったので進化することできます。グレード上昇に伴い能力値の振り分けも行えます。どうしますか?』


 なるほど。重要な案件だ。


『いいよ。孤児院に帰ったらまた話をしよう。幸いボクの寝室は屋根裏部屋だからね。声が外に漏れることは無いと思う』

『分かりました。しばらくこのまま居させてもらいます』

『だったら静かにしていてよね。オルタに話し掛けられると調子が狂うから』

『善処します』

『今から会話をするのは禁止だからね』


 さてと、帰ったら色々とあるだろうけどもう一息だ。


 それにしてもボクの体は弱いらしい。軽いはずの串焼きを抱える両腕の筋肉が痺れている。


 鍛錬が必要だ。オルタとの相談を終えた後にでも筋トレをしよう。


『ところでマスター? 一つ気になることがあります』

『なに? もう約束を破るの?』

『ズボンのボタンが外れています。下着がそれとなく見えて不潔です。早くその見苦しい物を隠してください』

『嘘!』

『本当ですよ』

『あっ! なんでもっと早くに言ってくれなかったんだよ!』

『トイレから出てくるときに気付いていました。よくよく考えるとマスターはすごくだらしがない人ですね』

『そう言う問題じゃないよ!』


 やっぱりオルタはボクを馬鹿にしているんだ。


 ボクは急いでズボンの窓を閉じるため、荷物をいったん地面に置き、秘密のボタンをはめ込んでいく。


 女性に嫌われた理由がこれのせいじゃないよね?


 そうであって欲しいと願い、ボクは荷物を持って再び足を動かしていく。

 ファスナーが無いのでボタンにしました。

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