4.初戦
オルタの管理者となり、今までの経緯を全て話し終えたノルテアは、スプリスを手に入れることに成功する。果たしてその後どうなったでしょうか?
そんな感じのあらすじです。
書見のほどよろしくお願いします。
エルノアの話を終えたボクはインストールを完了させ場所を変えてすぐさま搭化し、白い毛玉の形をした超能力感応体に変容する。
スプリスとはその所有者の能力を写し出す鏡のような存在になる。入手後は自動で名前が登録され、イフクロスを通して確認することができる。
名称フラッフィーロリー。名は体を表し、そのイントネーションの通りに形を表現する。ボクの心優しい想いがこうした愛らしい姿を生み出したに違いない。隣で浮遊するスプリス体のオルタにもその意味が分かってくれるだろう。
「間抜けな姿ですね。まるで温室育ちの小動物のようです。戦闘に向いているとは到底思えません」
言い返す言葉もない。というのも、数あるスプリスの中でも最弱種であるイデア型は、この不思議な形の通りの性能を有している場合が多い。尖っていれば攻撃力が高く、光沢があれば守備力に特化している。
そうした様相は搭乗者の資質によって決められる。戦闘の才能があれば如何にも強そうな見栄えになり、特殊な才能があれば、そうした意味合いを持つ個性的な形態になることがある。逆に全く才能が無い者は可愛い形になることが多い。
ボクは超能力者としての資質がないのだろう。モフモフでコロコロの白い毛玉のスプリスは、ウサギが丸くなったように愛らしい形をしている。戦闘に不向きで癒しが得意な小動物といった感じだ。
それでもボクはフォースを操り、ゲームで培った知識を生かして地面と構造物の壁を蹴って飛び、構造体内の通路を移動していく。
「マスター。もう一度確認をします。このD空間は前世で知っていた場所で間違いないのですか?」
「うん、そうだよ。当てずっぽうで住所番号を指定しても、奇跡でもない限り転送が行われることはないからね。それくらいオルタでも分かっているはずだよね?」
「にわかには信じられませんね」
「そう云われてもねえ」
D空間とは、ダンジョンディメンジョンのことで、人魔大戦で氾濫したMDRが生み出した亜空間の別称なる。自然界に含まれるMDRには、人の命令を受け付けないエラー個体が存在し、それらが増殖した結果、人を殺める意思を持つAIが誕生した。そうした物は必ず暴走し、理解できないフォースの干渉場を作り出す。次第に数を増やし、魔物を生み出し続ける異界を形成する。
旧来においてフォースが突然世界に現れ人類は超能力を手にし、政治的闘争の末に国家間での戦争を始めることになる。フォースを如何に活用し勝利に導くのか、そうした向上心がフォーステクノロジーの発展に繋がり、様々な技術が生まれるきっかけになる。そこから誕生したのがNDRである。未来で造られるエムテクノロジーの先駆けとして、医療や兵器にAIとした軍事産業に大きく貢献する。
次第にNDRの小型化が進み、生活基盤にも活用されるようになる。家電製品に組み込まれ、性能が一気に向上する。そうした技術革新が延命という命題にも利用され、戦争で失った健康を取り戻ことを目的とし、再生医療技術の分野にも影響を与えることになる。
人類は永遠の命を手にするのも夢ではない。そうした願望の末に改良が繰り返し行われ、ついに生まれたのが極小装置ロボットMDRである。
今世紀最大の発明。そう語った学者も少なくなく、原理上様々な物質を手軽に生み出すことができ、あらゆる分野での活用が見込まれ、より高度に命令を与える制御系の開発が早急に求められるようになる。
しかし極小単位クエタマルチプライと呼ばれる世界において、MDRのボディがとても小さく、エネルギーとする電子の運動熱に弱い欠点から、より厳密な制御命令を与える必要があり、装置の演算力に加え、複数の処理をほぼ同時に行うエクシス型のコンピューターの開発が早急に求められるようになる。
そうした課題に対し、学者たちはこぞって研究に着手していくのだが、実際に完全制御に至った者が誰も居ない中で、とある天才少女が謎を解き明かしたことにより、自体は大きく急変することになる。
それがボクの義理の姉である月城音葉である。
MDRとは、超能力のエネルギー源フォースを生み出すボイド粒子で駆動するロボットテクノロジーである。そう提唱し、従来のNDRやFDRといった大型装置ロボットを利用し、実証見分を行い、様々な学会で発表し、華々しいデビューを果たす。
フォースはボイド粒子の変動によって生まれてくるエネルギー粒子だとする仮説を立て、それを可能にするボイド粒子の存在を物理として提唱し、ボイドの有り様を検証した論文を発表した。
時代は一気に飛躍し、MDRはボイド粒子を意識することで制御できることが実証されていく。その存在は決して目にすることができない物質ではあったが、優秀な学者たちによって次々に特性が明らかにされていく。
その過程においてジャパニアのある大学研究チームが、ついにクローンニングの技術を確立したと表明し、世界から注目を集めることになる。
しかし世間は冷たく、無いなら無いで在るところから盗めばいいというわがままな考えを企て、その手の犯罪者を誘致し、スパイを行わせ、盗み出すことに成功する。その技術は多方面に売り渡され、様々な国で検証されることになる。
これが発端で人魔大戦が勃発することになるのだが、この時点で未来を予測できた者は誰も居なかった。満身創痍で進められてきた研究の裏には危険が伴うもの。そのことを知らない科学者たちによって実証見分が行われ、ついに大事件を起こすきっかけを生む。クローニングに使われるMDRは自己増殖機能が備わっている。命令の通りに増え続け、細胞として活用されていく。そのためにはMDR自身を別の状態に変容させなければならない。しかしそうした欲求において現状の科学技術では制御が難しく、デシマルイレブンゼロワンという確率で不備が起きることが露見されていく。次第に開発元の研究チームが頭を悩ませていたことが判明されることになる。
だが時すでに遅いとはこのことで、世界各地で爆発事故が起こり、後にMDR災害と呼ばれる暴走事件が勃発する。この現象が発端で自然界にD空間が生まれ、人類を震撼させる魔物たちが各地で生み出されていくことになる。
それから時が流れ、ダンジョンから人の変異体である魔族が生まれてくる。
魔族は電想空間で活動することが多く、攻撃を受けた人類は生きる屍を体現するゾンビに変容し、魔物として襲い掛かるようになる。
生き残った者たちは戦いに身を投じ、帝国民と統合連合国民が一丸となって、世界平和のために戦っていくことになる。
「マスター。先ほどから黙っていますが、何を気にしているのですか?」
「昔のことを思い出していただけだよ」
「前世の思い出ですか? それはつまり、この場の様相が思っていたよりも違うことが分かってしまい、優秀な私に否定されるのが悔しくて、仕方なく今更になって言い訳を考えていたと云う建前でしょうか?」
「違うよ。久しぶりにダンジョンに来たんだ。懐かしいと思うのはおかしいことなのかな?」
「それにしてはネガの一匹も見当たりませんね。やはりここはD空間ではなく廃棄された構造体なのでしょう。貴方が思い出したというアドレス番地もたまたま当たりを引いたのです。前世の記憶は幻だった。妄想の類だった。ラボをハッキングして新しくマスターなれたのも偶然だった。そんな奇跡が重なっただけのです」
「違うよ。記憶にある思い出は実際にあったことだよ。知っていたからこそできたんだ。それにほら、ボイド粒子の濃度が高まってきたよ。肌がしびれる感覚がするから、敵が近くに居るはずだよ」
「信じられませんね。戦いが始まったら見学をさせてもらいます」
「別のそれでもいいよ。そもそもボクのグレードを上げることが目的だからね。オルタが倒したら意味がないよ」
グレードとは、RPGでもよくあるレベルのことで、ネガスプリスと呼ばれる魔物の感応体を倒すと上げることができる。グレードが上がるとボーナスポイントが取得できる。BPを消費してステータス能力を強化することができる。
「私もグレードを上げることには興味があります。弱者であるマスターが執着するのも分かります。しかし残念なことに私のような強者には不相応な場所に思えます。雑魚ばかりが群がる空間での狩りは推奨していません。マスターのように虚弱な者にこそ相応しいのです」
「うるさいよ。そのうちボクの方が強くなる。それよりも近くに敵が居る。どれくらいの距離なのか分からないけど、気を付けないとね」
「ここから300メートルの距離に一体居ますね。そこからは数を増やしていくようです。おっといけない。私としたことが。自分を強く見せようと一生懸命に虚勢を張るマスターがかわいそうで、つい答えてしまったではありませんか。次からは気を付けることにします」
なんだかんだ言ってサポートはしてくれるみたいだね。
暗い鍾乳洞とした広大な構造体内を歩いているボクは、廃棄工場跡地のようなコンジクトが立ち並ぶ床にたたずみ、吸収の能力を発動し、光る玉を顔前に浮遊させる。
「器用ですね。能力を発動させたまま動き回るつもりですか?」
「そうしたいのはやまやまだけど、イメージした感覚と実践感覚が違い過ぎるよ。できれば練習がしたいところだね」
「そんな悠長なことを言っていてもいいのですか? 相手は貴方を認識したようですよ?」
オルタの声を聞いて決心が付く。もしもここで自分のスプリスが破壊となれば、ボクは実体ごと死ぬことになる。怖いし身震いがするし戦いたくはない。しかしここは我慢。今までの経験を生かし、全身全霊で挑んで行こう。
「行ってくる。もしもの時は証拠隠滅を頼むよ」
弱気の発言にオルタが何かを言っているようだが、緊張で聞こえないボクは、白い毛玉の体を動かし、敵が居る位置に向かっていく。
距離が近づくにつれボイドの反応が強くなる。自分よりも格上の相手だと認識し、光を遮る構造物に身を隠す。吸収の力を放ったまま待ち伏せ、敵の調子を見極める。
岩の地面とコンクリートの壁に身を押しつけ、上空を意識する。
敵の姿が見えてきた。
風船型で羽を生やしている。
中心に大きな瞳。ボクの位置が分かるようで、こっちに向かっている。
ここに居てはやられる。ボクは影になる場所を選んで移動する。
空から一直線に追ってくる。何かしらの攻撃を仕掛けてくるに違いない。ボクはすぐに次の行動を開始する。
背後に回り込むように遮蔽物のすき間をすり抜け、できるだけ影になる足場を選び、飛び跳ねていく。
自分の動きが遅いことにいら立ちを覚え、必死で白い足を動かしていく。
ブーストやダッシュといったフォーマルアクションが使えないイデア型のスプリスは、それだけでも他の異能体よりも弱い存在になる。だからこそ気配を消し、先制攻撃を仕掛ける戦い方をしていかなければならない。
今回のように補足された場合は、ターゲットが外れるように必死で逃げ回るのがセオリーになる。そのためにボクは、二段飛びと呼ばれる特殊な足さばきを使うことにする。
飛び上がった後フォースを足元に放ち、その反動を利用してもう一度足に力を入れる。すると不思議なことにフォースが足場になって、そのまま踏み込むことができるようになる。
公式認定の高難易度プレイヤースキル。通称ダブルジャンプ。失敗は体勢を崩し一時の減速になるデメリットを含む。慣れない人には博打の行為。ここぞという時に行うのが通例になる。
しかしボクは違う。ゲームではほぼ100%決めることができる。この走法技術を完璧に熟し、勝利に導いて行こう。
飛び上がった瞬間の感覚がゲームと全く違っている。最初はお試し。偶然にも成功し、そのタイミングを体に覚えさせ次のステップに繋げていく。フォースを踏む足から下半身に掛かるばねの反動を利用し、前傾姿勢になる。その作用を利用しすぐさま地面を蹴り上げフォースを足場に放つ。フォースを踏み付け再び加速移動。この動きを繰り返し行っていく。
この走法は素晴らしく下手なダッシュ移動よりも圧倒的に速度が出る。二段ジャンプを前方に意識することでスムーズに加速することができる。方向転換も楽に行える。フォースを放った後に蹴り上げ、その反動を利用し移動したい方向に力を伝えていくだけでいい。体を細長くし、ばねの力を最大限に生かしていく。
そうしているうちに敵の背後に回り込むことができた。丸い風船型の中心にある瞳がボクの速度に追いつけず、見当違いな方角に向いている。
今が攻撃のチャンス。ボクは敵の背中に向って移動を開始する。
構造体の壁を使って三角飛びを試みる。壁を蹴った後でフォースを足元に放ち、その反動で浮力を生み出す。一瞬だけ浮き上がった瞬間に壁を蹴り、もう一度フォースを放つ。すると再び浮力が生まれ、壁を蹴ることができるようになる。この動きもタイミングがシビアなため、失敗をした瞬間に地面にエンドレスフォール。上手くやれば垂直に上がり続けることができる高等テクニックになる。
こちらも公式認定のプレイヤースキル。デルタジャンプと呼ばれ、フォースを一段加えることでジャンプアクションリキャストが瞬時にリセットされ、再び壁を蹴ることができる裏技になる。
ボクは構造物の壁をジグザグに蹴って飛び上がりひたすら上空に昇っていく。視界が開けた瞬間敵の丸い背中を視野に捉え、浮かんだままの姿勢で攻撃態勢になる。
予め準備をしていた吸収の能力を意識し、敵の丸い背中の中心に狙いを定める。
これだけ近くに居れば当たるだろう。すぐに攻撃を放ち、反動を利用し距離を執る。そのまま構造体の屋上に身を落すように回転する。
着地と同時にすぐさま床を蹴り、空中に復帰。同時に吸収の能力を発動させ、顔面前に光る玉を浮かび上がらせる。再び敵の背後に着き、狙いを定める。
敵はダメージを受け、体勢を崩し、空中で羽をバタバタとさせている。その頭上に向け二段ジャンプ。敵を屋上の床に打ち下ろすためにボクが予め準備していた吸収の力を解き放つ。
丸い敵の体に攻撃がクリーンヒット。敵はのけぞるように全身を硬直させ、羽の動きを止める。その瞬間にボクはもう一度能力を放ち、三度目の攻撃を加えていく。すると吹き飛ぶように敵が屋上の床に墜落する。それをボクは視界に捉え、真下に向けて攻撃を繰り出していく。
何度も光る玉を打ち込んでいく。リキャストタイムがコンマ一秒。リチャージする度に攻撃を加える。敵にダメージを与える手段はこれしかなく、だからこそひたすらに打ち続ける。
吸収の力はフォースでできている。一撃一撃が反動を生み、体を浮き上がらせてくれる。おかげで“ダブルジャンプ”が発動し、落ちることなく戦うことができる。軽い毛玉の体は今の戦法と相性がいいようだ。
反動を利用できれば永遠に空中に留まることができる。二段ジャンプの応用で攻撃対空時間稼ぎとも呼ばれている。
休むことなく打ち続け、リキャスト時間を終える瞬間に次弾を装填する。全ての準備が完了するまでおおよそコンマ三秒。敵がのけ反りから復活し、体を起こそうとするまで十秒は掛かるはずだ。
一秒に三発。十秒に三十三発。同じ最弱のイデア型にとって致命的なダメージになるだろう。
けれどこれで倒せる保証はない。敵のグレード次第で強さが違ってくる。
逃げるか戦うか判断できるのは今だけだ。
逃げる場合はすぐに身を隠さなければならない。
その場合は勝利を運に任せるしかなく、相手が何を得意にしているかで戦況が大きく違ってくる。
残り五秒。戦うことを選択するしかない。ひたすら攻撃を打ち続け、相手の体力が尽きるのを待つ。
残り三秒。まだ倒せない。ゲーム時代ではどんなに固くとも三発程で仕留めることができた。
残り一秒。ダメージは通っている。その証拠に動きが鈍い。あと少しで倒せる気がする。
まずいぞ。敵が振り向いた。体勢を整え羽を広げている。
フォースで体が光り出す。攻撃を仕掛けてくる。丸い体が浮き上がり、ボクに向けて飛び出してきた。
まだ倒せないのか。ボクは必死の思いで攻撃を打ち続けていく。
「くっ」
敵が目の前に来た。一撃受けることになりそうだ。ボクは目をつぶりひたすら攻撃を打ち続ける。
「あれ?」
痛みがない。瞬時に目を開けると敵の姿が無い。
すかさずボクは二段ジャンプで方向転換を試み振り向くと、敵から淡い光が輝き出していた。次第にブロック状に分解されるエフェクションが発生し、その輝きが光の玉と形を変え動き出す。その丸い光が一瞬で散らばり、一気にボクの体へと流れてきた。
「やった」
倒せたんだ。
力が沸いてくる。戦いで疲れた体が癒されていく。
実はそれほど疲れていたわけでもないのだが、明らかに以前とは違う状態になったように感じられる。
その余韻に浸りながらボクは空中から落下し、以前よりも軽快になった体で床に足を付け、次の敵に気を配る。
その場のボイド濃度に変化はなく、敵影の姿がない。
「よし、問題ない」
ボクは戦いに勝利したことが嬉しくなり、思わずガッツポーズを執る。すると突然目の前に丸い形をしたスプリス体が姿を現した。
「なんだ。オルタか……」
透明になって気配を消していたのだろう。近くに居たのに全く気付くことができなかった。やはりオルタは強いな。早く肩を並べられるようにがんばらないと。
「マスター。先ほどの戦いでグレードが上がったようです。一度ラボに戻ってカスタマイズすることをお勧めします」
「あれ? もう上がっちゃったの? イデアは上がり易いけど、少し早すぎるんじゃないのかな?」
「いいえ、違います。マスターが弱すぎたのです。敵がマスターよりも遥かに強い個体でした。同じイデアでもグレードが明らかに格上。おそらくそのせいでしょう」
「オルタは敵の強さが分かっていたんだね」
「愚問です。この程度のことができないようでは、グランドマスターのお役に立つことなど到底不可能です」
オルタはエルノアを復活させるためだけに存在している。さっき話した限りでは、肉体が今もどこかに存在しているらしく、おそらく彼女はゲームのシナリオ通りオルタとリンクしている。
だから失礼なことを言うことができない。こいつの悪口にもそれなりに配慮が必要になる。
「敵のグレードはどの程度だったの?」
「個体名バルーンフェザー。グレードは89。はっきり言って無謀でしたね。敵が攻撃を仕掛け一度でもそれを受け止めていたら貴方は今頃死んでいたでしょう」
「ふぇ? そんなに高かったの? ボクが知っている記憶だと、この辺の敵はグレードが低いイデア型しか出てこないはずだよ?」
「言われてみれば納得できます。先ほどから偵察を行っているのですが、イデア型の個体以外に確認されておりません。もっともマスターが云ったようにグレードが低いというのはどの程度のことか分かりませんが、私ほどの強者にもなるとマスターのように脆弱な存在とさほど変わらないように思えます」
オルタは分身を作り出すことができるアンノウン型のスプリスになる。アンノウン型は不明な点が多く、特殊な形をしている。オルタの場合は本質を隠しているため、今は丸い形をしている。
「うーん、そうだね。分かった。指示に従うよ。研究所に戻ってスプリスのカスタマイズをお願いするね」
「了解しました。転送の準備に取り掛かります」
「あっ、そうだ。グレードアップ補正は全て機運に振って欲しい」
「機運を上げるなど、前代未聞ですよ?」
「そこは譲れないから。いいね? グレードアップによって得られる力は全て機運に振り分けて欲しい。忘れないでね」
「なるほど。マスターは無能だと思っていたのですが、無能以上に無能のようですね。つまり能無しです」
「なんとでも言ってよ。そのうちオルタにも分かるようになるはずだから」
「いいえ。そんなことは絶対にありえません」
機運を上げると全てのステータス値が少しだけ増え、安定値と呼ばれる隠しパラメーターが大きく上昇する。
安定値とは、確率に関わる要素に対するパラメーターのことで、攻撃や補助や回復などを行った時に影響し、それらの最小値を底上げする。
そのため、特殊能力がある吸収にも影響し、敵の異能をコピーする作用の発動率を上げることができる。
機運極振りは敵の能力をコピーし易くしてくれる。将来的に強力なスキルを確定で覚えることができ、誰よりも強くなれるアドバンテージを得ることができる。
「それでは転送を開始します。ところでマスター。そろそろ帰らないとシーカーギルドの職員が延滞金を求め、コンソールの利用に制限を設けると騒いでいるようですが?」
「それはまずね。早く帰らないと強制的に想出させられちゃうよ」
「安心してください。私の方で対処しておきます」
「何をするの?」
「マスターの稼いだフォースの半分をバンクに移送し、支払っておきますね」
「意外と気が利くね」
「大変遺憾ですが、これも私の仕事なのです。感謝されるほどではありません。ですが、それとは別に少し厄介なことが起きています」
「何かあるの?」
「マスターの生理現象に限界が見られます。このままでは数分以内に下腹部から汚水が氾濫します」
「えっ? それっておしっこのこと?」
「下品ですよ。言葉を慎んでください」
「もう! なんで先に言ってくれなかったんだよ! すぐに想出して! いや! 強制想出!」
「私もそうしたいのですが、転送処理中ですので、今さら強制終了は不可能です。ラボに戻った後でしたら時間を置いて行うこともできますよ?」
「あっ! 計ったな! おしっこ漏らしたらお前のせいだぞ!」
「心外ですね。ギルド職員への対応は事前に申したばかりです。マスターも了承したではありませんか?」
「お前、ボクに恨みでもあるのかよ!」
「戦いの前にマスターがおっしゃっていたではありませんか。もしもの時は証拠隠滅をお願いすると。これは意趣返しです。貴方が私の忠告を無視したのがいけないのです」
「ひどい仕打ちだ!」
「転送処理を開始します。静かにお願いしますね? 舌を噛みますよ?」
「くっ」
仕方がない。今は耐えるしかない。
ボクは焦る気持ちを抑え、不満を口にしたい思いを飲み込み、転移が完了するのを静かに待つ。その間にイフクロスにアクセスし、現実の状態を調べていく。
視界が歪み、転送が一瞬で完了する。
移動し終えた瞬間に現実へと戻るための処理を実行し、その間に効率良くトイレに行くイメージを繰り返し行っていく。
頼むぞ。ボクのポンポン。おパンツを脱ぐまでが勝負なんだ。この戦いのためならば全力を使い切ってもかまわない。
そう強く願うボクは、想出処理を静かに見守り、襲い掛かる尿意の猛威に耐え続けていくのである。
おしっこ漏らしたら大変だよね。
果たしてトイレに無事行けるのでしょうか?
次回をご期待ください。




