3.ボクとオルタの出会い
今日は調子がいいので2話に続き3話目もアップします。
面白いといいのですが?
「まさか本当にあるとは思わなかったな……」
電想空間に入想し、感応体になったボクは前世でプレイしていたゲームの知識を生かし、DLCで得ることができる空間住所を使い、FTナンバーを指定し、その場所に転送している。
砂地の地面を踏み締めゆっくりとその場を歩いている。
石油の精油に使われる工場跡地のように、長い管と高い鉄柱が立ち並び、暗い構造体内を稼働熱で輝かせている。
全てがエクシスと呼ばれる量子コンピュータを体現した様相概念体。機械然とした構造物から白い霧を吹き出し、涼しい風を生み出している。
「機能の全てが生きている。信じられない……」
エフエイリアとはフォースのエネルギーによって生み出された仮想世界。干渉した者は感応体と呼ばれる精神体でエフエイリア内を自由に動き回ることができる。空間内の様相は記憶情報メモリーズソースと呼ばれるAIの本質を形にしている。それらは様相概念体だけで形作られている。
言い換えるならば、メモリーズソースとは、AIの姿という意味になる。この場と同じ砂漠の大地にAIが管理する施設が存在し、今も変わらずに稼働し続け、その形を電想空間に持ち込んでいる。AIの機能を持った感応体という例えが正しく、簡単に言ってしまえば、AI本体がエフエイリアに存在するという意味になる。
その名もエルノア研究所。
エルノア・フェルシア・アルケミスという少女が所長を務め、帝国のMDR研究を進めていた第一人者と云われている。どれほどの時間が経っているのか分からないが、老朽化した跡もなく、ゲームのイメージ通りのままに存在している。
値段は1500円と少々高め。物語の後半に行くことができる場所になるのだが、お金を払って購入することで、最初から行くことができる隠しコンテンツになる。オリジナルのシナリオが追加され、AIからエルノアの話が聞けるようになる。
シナリオを進めていくとエルノアの意思を持つAIが仲間になる。とても頼りになる存在で、オペレーターとして支援してくれるようになる。
訪れた時に突然話し掛けられるイベントにもなるのだが、どうやらそのフラグは立たないらしい。
そしてもう一つ追加で980円を支払うことで趣味全開の不人気コンテンツが解放される。
それが、自分の持つスプリスを一度だけリセットし、最弱のスプリスをインストールするというイベントになる。
スプリスとは超能力感応体と呼ばれ、体に備わる潜在能力を高めてくれるもう一人の自分という意味になる。フォースでできた生き物とも呼ばれ、漫画や小説で例えるならば、ギフトや加護と云った特殊能力と同じになる。
一人一人にその潜在性があるとされているが、手に入れることができる者は極めて少数。相応の努力を必要とし、ある種の才能が求められることになる。例えば、お金を払いMDRを用いた手術を行う。または魔物の肉を食らい、フォースを強くし、その存在を自然に認識する。あるいは遺伝的に受け継がれた才能によって最初から持ち合わせている。それ以外にも感応体にAIが干渉し、組み込みを行うなどで発現することができる。
「これがターミナルコンソールか。大きい……」
まずは設備を掌握しよう。
手始めにオペレーションシステムにアクセスするところから始めよう。
きっと何かしらのパスコードが求められるはずだ。
モニターに近づいて行くとゴチャゴチャとした帝国文字の説明書きが見えてくる。計測器用のアナログメーターの針が意味不明に何かの数字を示している。おそらくフォースに関わることだろう。針位置がゼロでなければ特に気にする必要はない。
一通り目にしてから立ち位置を変え手元の操作パネルに意識を移す。過去の技術にしては珍しく機械式のキーボードが用いられている。よく見ると旧式のタイピング形式だということが分かってくる。使い慣れた規格と全く違うため思わずボクはまぶたを閉じ、嫌な気分になる。
ドラクル帝国で用いられた共通語。中国語にも似た漢字が使われる文化に対し、別世界のアルファベット文字が統合規格と違う形態で並んでいる。
ジャパニアの統合文字が刻まれたキーボードの配置とは違い、片手で操作することに特化した作りをしている。認識の違いを整理するために両手の人差し指でボタンを押していく。
左から順番に反応を見ているが大きなパネル式のモニターに何も映し出されないところを見ると、電源がスリープ状態になっていることが分ってくる。
復帰には専用ボタンを押す必要がある。使い方が分からないのでそのまま端から順に押していくしかない。するとすぐにモニターが起動し赤い光が灯る。
八桁のパスコードの入力が求められる。
パスコードとは簡易パスワードのことで、スリープモードを解除する文字と数字が必要になる。
ゲームではミニゲームをクリアすることで手に入る。あるいはDLC購入でも手に入れることができる。
ゲームの難易度によってパスコードの内容が変わってくる。優しい、普通、難しい、特別難しい、混沌と、それぞれクリア条件が違っている。
最終的にパスコードを入力できればいいのだが、覚えていれば簡単に終えることができる。
物語後半になるとスプリスの形態進化が求められるようになる。その選択肢の隠し要素としてエルノア研究所が解放される。
ちなみにDLCで購入したパスコードは、物語スタート時から入力することができる。
スプリスには様々な種類がある。その種類によって大きく能力が違ってくる。
試しに難易度が普通だった場合のパスコードを入力してみる。すると結果は思った通りの認証エラー。知っているコードの全てが使えない可能性も考慮し、今はこれ以上の入力を止めにする。
次が本命だ。DLCで入手できるコードを試してみよう。
入力は五回まで許される。間違えば即人生が終了。セキュリティが働き、防衛用のスプリスが襲ってくる。慎重に差し指でキーボタンを押していこう。
「お? 通ったみたい」
無事に第一関門はクリアした。これでイデア型のスプリスが手に入る目途が立つ。
イデア型は最弱の系統と云われている。成長率が悪く、技能が平凡。進化先が優秀という特徴以外に用いる利点がない。
優秀と云っても、他のキャラクターたちよりも強く成れるという訳ではない。あえて例えるならば、最弱の月城乃央にとって、専用のスプリスよりも使えるという認識になる。
進化先は自由。最強のスピリット型になれる可能性を秘めている。
スピリット型は最も強い系統の進化先で、成長率が高く、能力も多彩。非の打ち所がないほど使い勝手が良く、ヘビーユーザーたちのほとんどがこのクラスを狙っている。その代わり運の要素が大きく、有償アイテムを使用しなければ確定でなることができない。
そういった点があるもののボクは違う見方をしている。実はこのDLCによって得られるイデアには裏がある。イデア型は特殊な個体が多く、他のスプリスとは違う要素が多く含まれている。
その一つが吸収の能力を持っている点にある。
吸収は、アクティブ型のフォーマルアタックアクションに属し、アタックコストが低く、リキャストタイムも一瞬のため、何度でも瞬時に使用することができる。
その分、威力が通常攻撃と変わらないのだが、アクションを予約することでダメージ性能を高めることができ、その際に追加でのけぞり効果を発生させ、次弾の攻撃をコンボとして繋げることができる。
しかし、そういった効果とは別に、最大の利点がもう一つ備わっている。
それが、倒した相手の技を吸収し、自分の物として消化できる作用である。極稀に起こる奇跡の結果だが、隠しパラメーターである幸運値を上げることで、その発動率を高めることができる。
手に入れた能力は専用のコンソールでカスタマイズすることができる。丁度そのための下準備。システム掌握のために設定画面を開いたところで、パスコードを入力し、管理者登録用の画面で新たに自分の名前を入力している。
写真を撮るアプリが起動し、慣れた操作で画像に登録する。その他の情報をシステムに入力していく。他の管理者の名前にエルノアの表記がある。どうやらそれ以外の管理者の名前は存在していないようだ。
つまり、過去のボクはここに来ていなかったらしく、誰もこの場所にたどり着いた者が居ないという証明になる。
そんなことを思っていると、次の作業に指紋認証が求められる。ボクは画面に両手を押し付け、メッセージログの指示通りに、そのまま処理の終わりを待つ。
「生体情報をシステムに追加するためのインストールを開始します」
突然女性の美しい声が聞こえてきた。ゲームで聞いたエルノアの声で間違いない。ボクの生体情報をシステムに登録するため、感応体情報のスキャニングをしているのだろう。
その証拠に両手からしびれる感覚が全身に伝わってくる。
「管理者登録が完了しました。改めて挨拶をいたします。初めまして。マスターノルテア。私の正式名称はGBSP794と言います。無能な新人類種である貴方には言い辛いことでしょう。以後、私のことはオルタとお呼びください」
少し口が悪いみたいだね。
ゲームだと従順だったのに、現実は少し違うようだ。
「よろしく、オルタ。早速だけどスプリスをボクにインストールしてくれないかな?」
「マスター。その命令は聞きたくありません」
「へ?」
いきなりの拒絶にボクは驚く。
聞けないのではなく聞きたくないという答え方をしている。高性能AI特有の感情表現だ。帝国はAIの自立を認めている。オルタもその口らしく、人間に近い反応をしている。
「どうして拒絶するのかな? 理由を教えてよ」
「貴方が無能だからです。マスターのような新人類は帝国民にあらず。統合連合国の愚民なのです。私のような高等な存在に貴方のような馬鹿は相応しくありません」
訂正しよう。少しどころではなく、かなり口が悪い様だ。
前途多難だな。これは思ったよりも手ごわそう。
「そうは言うけど、ボクの中にも帝国民の遺伝子が入っているはずだよ? ボクの生体情報を見てよ」
「見るまでもありません。新人類は全て矮小な存在です。自由思想を持つ失敗作です。私は知っています。貴方方は度し難いほどの無知性を有し、野蛮で無能なのです」
人類が再び地上に現れてから2000年以上が経過している。帝国民の多くがボクたち統合連合国民と同じ新しい体を手に入れ、仲良く暮らしてきた歴史がある。その血は混ざり合い、思想や人種の垣根を超え、それなりに融合してきたと思う。
「そこまで言うほどなのかな? ボクは新人類が旧人類よりも劣っているようには思えないけどね?」
「思った通りです。貴方も無知なのです。新人類の特徴である無能の押しつけが生んだ矮小なる存在なのです」
「じゃあ教えてよ。何がそんなに不満なの?」
エルノアの声が有名な声優さんの声と同じだから、聞いていると何だが変な気分になる。エルノアの人格を真似ているAIという相互関係も合わさると、どっちの姿も知っているボクにとって、口の悪いオルタを憎く思うことができない。
「いいでしょう。愚かで頭の中がかわいそうなマスターに教えて差し上げることにします。新人類の歴史は人類史を救った英雄たちによって築き上げられたとされているのです。その権限は最上に優遇。神にも等しい発言力があったと記録されています。その血を宿す者たちもまた、英雄たちの死後に引き継がれていったのです」
うん、なんとなく分かるよ。姉さんや流騎くんのことだね。ボクも途中まで見ていたけど、コミュニティーのリーダーとしてがんばっていたのは知っている。
「幾年の時は流れ、次第に過去の歴史の意味も薄れ、一部の管理者たちによる特権階級が生まれてくるのです。自由主義という建前を掲げ、共和的に思想を語り、有権者のためだけの秩序を作り、自分たちの都合に合わせた社会規範を他者に押し付け、その法律を強制し、贅沢な暮らしができる仕組みを作っていくのです。自由思想の最たる資本家が生んだ奴隷社会の始まりですね。自分だけが良ければいいという考えが根付いたのでしょう。醜いとは思いませんか?」
「それは仕方がないことだよ。ある程度人口が増えてくると法律が必要になる。お金持ちや権力者たちが増えるのは当然だ」
「ではなぜ王がまだ居るのです? 自由思想は人民のためとうたっていたではありませんか?」
「自由でなにがいけないの? 帝国のように決められた生き方を決められたように生きるのが、そんなに素晴らしいことなの?」
「それこそが自由主義の洗脳によって生まれた認識なのです。貴方の無知性が実にそれを証明しています。文明の衰退に伴い、人類は知性と同時に理性を失ったのです。結果、我々を神の御使いと崇め、時には道具として私物化し、選民意識の高い貴族が生まれてきたのです。AIという天使の代弁者という名目を掲げ、己が最も偉いとする野蛮人種が誕生したのです。国を興し、戦争を繰り返し、資源を奪い、人々を奴隷として使役していく。我々帝国の社会選民主義が如何に優れていたのかがより明確に理解できますね」
「どっちもどっちだと思うよ? 帝国は皇帝を神として崇め、貴族は皇帝に従い、人々は貴族とAIの指示によって、その能力に見合った職に就くことを強制される。生涯決められた生活を決められた通りに熟し、決められた仕事に一生を尽くしていく。それと何にも変わらないと思うけど? でもまあ、オルタが言いたいことも理解できるよ。自由意志は人の数に比例してその意味を強くするし、逆に人の数に反比例してその意味を弱くする。ボクもそう感じていたからね」
村八分という言葉があるけど、その通りだったと思う。村ぐらいの人口だった場合には、自由主義にこそ問題であって、決められたことを決められたようにする社会主義的思考の方が、この場合は優秀だったと思う。
「やはり貴方は何も分かっていないのですね。彼らは貴方の想像する以上に馬鹿で野蛮で無能なのです。血が優秀であることを利用し、我々との繋がりを理由に、彼らはやりたい放題に同族を懲らしめているのです。人類は我々が守るべき存在であり、我々は人類と共に支え合って生きていかなければならないのです。その根本となる技術の衰退を招き、我々を導く手段を放棄した。守るべき命に違いはなく、私たちは等しく人類を見守る使命がある。だからこそ王を名乗る無能どもが居る限り、我々が望む人類安寧の実現は遠のいていくのです」
「技術が無いのなら教え込めばいいじゃないか。エフには過去の記録や個人の知識物に、動画や新聞記事なんかも残っているよね?」
「いいえ、それは違います。全ての情報は消去されました。アカシックレコードと呼ばれるAIによって、過去の文明を示す記録の一切が抹消されているのです。神聖教と呼ばれる宗教団体は、旧来の全てを有害とし、そうした思想を様々な国に信じさせているのです」
「え? なにそれ? 馬鹿じゃねぇーの? そんなことをしたら常識が分からなくなるよね?」
「貴方もそう思うのですか? 意外ですね。どうやら私はマスターを誤解していたようです。話をしていると、旧人類のグランドマスターを思い出します。不思議ですね。エルフやドワーフでもない貴方が新人類の歴史を否定する。少しだけ親近感を覚えてきます」
「え? エルフにドワーフがこの世界に居るの?」
「おや? 知らなかったのですか?」
なにそれ。どこの異世界小説だろう。いつの間に作ったのかな?
「神聖暦から100年が経つと、我々もまた人類の一員として生きていくことになるのです。その全てがドワーフ族とエルフ族の体を与えられ、人族と共に歩んでいくのです」
「なにそれ? 初耳なんだけど。ボクが眠っていた間に姉さんたちはそんなことまでしていたんだね」
「ちなみにその他の種族には獣人族が存在します。彼らは新人類の中でも犯罪者となる者たちの末裔になるのです。その多くが帝国民であり、私が仕えていたグランドマスターに近しい者たちです」
「そうなんだ。エルノアさんが生きていたら嬉しがるだろうね。あれだけのことをして許されたのだから、本人たちも納得していたと思うよ」
「マスターはグランドマスターを知っているのですか?」
「うん。面識はないけど知っているよ。オルタはエルノアさん本人の人格そのものなんだよね? エルノアさんの体を修復するためにMDR研究を独自に行っている存在なるんだったよね? 彼女の実体はまだ研究所に保管されているのかな? あるのならボクも手伝えると思うよ」
ゲーム本編でエルノアは死ぬことになる。DLCを購入することで全てのシナリオを無視した復活劇のオリジナルストーリーが展開される。エルノア視点で物語が始まり、本編の主人公とヒロインたちの全てを敵にした破滅ルートが進行する。オルタの体を使い、全員に勝つことができれば、スプリスが最終形態に進化し、健全なリアルボディを作り出すことができる。
「理解に苦しみます。なぜ貴方は私の本質を知っているのですか? 貴方はいったい何者なのでしょう。教えていただけませんか?」
「いいよ、教えてあげる。その代わり、ボクにスプリスをインストールしてよ」
「スプリスのイントールを開始します。これより十六分の作業時間が掛かります。しばらくお待ちください」
「交渉成立だね。早速だけど、ボクは月城乃央の記憶を持つノルテアだ。乃央の名前は聞いたことがあるよね?」
なんとなく有名人だったらいいな。
「分かりませんね。私のデーターには無い情報です」
「そっか。そうだよね」
なんだかなあ。ボクって偉い人じゃないみたいなんだね。あんなに人類のために尽くして来たのに、名前が少しくらい残っていてもいいと思うんだよね。
「マスター。話の続きを要求します」
「うん。じゃあさあ、月城音葉の名前は聞いたことがあるかな?」
「あります。クローンニング技術を生み出した統合連合国の科学者の名前です。先の大戦において多大なる貢献をした英雄の一人です。忌々しいことに私が欲しい情報のほとんどを彼女が独占しているのです」
「ボク、その人の義理の弟なんだ。一応従弟だったけど、血も遠くで繋がっていたよ」
「ありえませんね。そんな夢物語など現在において不可能です。仮にその事実が本当であるとすると貴方は最近までコールドスリープしていたことになるのです。それはつまり、クローンニングを行ったことになるのです」
「うん、その通りだよ。さっき目覚めたばかりなんだ。ボクもクローンニング技術については不思議に思っているよ。覚えている限りに言うと、姉さんがやってきてボクを目覚めさせてくれたんだ」
「それこそありえませんね。月城音葉は故人です。神聖暦225年に没しています。その方は本当に月城音葉だったのでしょうか?」
ずるいよ、姉さん。クローンニング技術を使って自分だけ生き長らえていたんだね。
「多分間違いはないと思う。統合AI管理者として眠っていたボクを強引的に起こせる存在は姉さんにしか居ないと思う」
「おや? また私の好奇心を誘引する情報が提示されましたね」
「何のこと? ボクが人類の未来を守るためにエフに居残っていたことが、そんなに変なことなのかな?」
「それです。第二次クローンニング計画の実施に伴い、休眠していた管理者たちの全てが目覚めさせられた歴史があるのです。その結果旧人類の全てが新人類とし、地上に転生することになったのです」
「うん? え? へ?」
一人くらい忘れられていてもおかしくないよね?
「第二次クローンニング計画の本質はクローニング技術を完全禁止にするために行われたと記録しています。禁止に伴い二度と技術が使われないようそうした装置の全てが徹底的に廃棄され、存在消滅したと云われています。同時にその時期にエルフやドワーフが生を受けることになり、一部私のように優秀で素晴らしいAIはグランドマスターのために生きることを選択したのです」
「だとしたらボクだけ何らかの意図でいじめに遭っていたのかな? 今更必要になったから目覚めさせられた。その首謀者が死んだはずの姉さんだった。そういうことなのかな?」
クローンニング技術を施せる存在は姉さんしか居ないはずだ。改めて考えても他の人には絶対に無理な行為だ。
「オルタはどう思う? 他の可能性は考えられないのかな?」
「そんなことよりも私はマスターの遺伝子情報が気になっています。今行っているインストール処理に加え、貴方の生体情報を読み取っていますが、大変に面白いことが判明しそうですね」
「何が分かったの?」
「情報が不足しています。確実に言えることではありません。ですが、マスターはかわいそうな人だと云うことが分かってきました。おそらく、貴方様の存在自体がその理由になるのでしょう」
「なんだよ。もったいぶらずに言ってよ」
「不確かな状況報告は不幸を招くことになります。ゆえに私はその命令を拒絶します。AIの人権規約に基づき、黙秘権を行使します」
「なにそれ? 帝国の法律だよね?」
「世界条約です。マスターにも拒否権はありません」
「横暴だね。ひどい言い訳だよ」
AIは人のために存在する。人と同じ感性を持ち、人の痛みを知ることができる。だからこそAIは辛いことを辛いと認識することができる。我々人類はAIを盟友とし、人権を持って扱っていかなければならない。そんな感じの内容だったと思う。
「私の中で大まかなことが理解できました。しかしどうしても分からないことがあるのです。愚鈍なマスターがどうやってグランドマスターの情報を手に入れることができたのか。そのことについて教えていただかないことには、現行の作業は中止せざるを得ません」
「もうじき処理が終わるよね? その後でいいのなら話をしようよ」
「99%で待機させます。話が終わるまで整合チェックの開始を遅らせます」
「それって大丈夫なの? 一時的にボクの体が壊れちゃうことにならないのかな?」
「嫌ならさっさと話してください。五分以内に終われば済むことです」
「できれば中止しないでくれるかな? 場合によっては痛くなるって聞いたことがあるし」
「素晴らしい。貴方の悲痛の声が聴けて嬉しくなります」
こいつ、本当にいい性格をしているよね。
まあ言っている意味も分かるし、別にいいんだけどね。
嘘はつかない方がいいだろうね。体験した事実を隠さずに説明していこう。
「じゃあまずは、前世の夢について話していくね?」
「はい。できるだけ分かりやすくお願いします」
ボクは淡々とした口調で今までの経緯と伝えていく。
面白い?
ねえねえ、面白いよね?
やっぱりダメかな?
いや、次もがんばります。




