15.身体休めに朝の鍛錬
前回のあらすじ。
電想空間でボス部屋を攻略し、大きくグレードを上げたノルテア。オルタから報告を聞き、フロア管理者のメッセージを知る。その後どうなったのでしょうか?
書見のほどよろしくお願いします。
「兄ちゃん、起きてよ! 兄ちゃん!」
「起きろ~! 起きろ~!」
うるさいなあ。
「ノル兄ちゃん! 遊ぼうぜ!」
「うん、遊ぶ~、遊ぶ~!」
この声はアルムとベイか。ボクはベッドから身を起こし、声のする方向に意識を向ける。
「どうした? こんな早くから」
「早くないぞ! もうすぐ朝の恵みの時間だぞ!」
「そうだ~、そうだ~!」
やけに今日は馴れ馴れしいな。最近毎日串焼きをお土産に持って帰り、餌付けしたせいだろう。
「なあ、兄ちゃん! 遊ぼうぜ!」
「遊ぶ~、遊ぶ~!」
「ボクでいいの?」
「兄ちゃん以外に誰がいるんだよ」
「そうだぞ~」
どうやらボクが怖いと感じていないらしい。
「分かった。遊びなのか分からないけど、最近体を鍛えているんだ。良かったら二人とも見ていくか?」
「うん! よく分からないけど、いいよ!」
「みる~、みる~」
「じゃあ支度をするからな。少し待っていて」
とは言ったものの服を着替えるだけで、下着姿になり、替えのズボンと上着を身に着ける。
梯子を下り、外にある井戸に向かう。
墓地を掃除するときに使う水場になる。誰も居ないので裸になりやすい。体を洗うのにも苦労しなくて済む。
上着とシャツを脱ぐ。包帯を取る。顔を洗う。
病は不潔から。普段から綺麗にしておかないとね。
「兄ちゃん、顔隠しの布を取ったのか?」
「お~?」
「まだだからな。歯を磨いてからにしたいから」
ブラシを持って口に入れる。清潔にしないとね。ゴシゴシ、ゴシゴシ。
「えっ? ノル兄ちゃんなのか?」
「うわぁ~……」
そりゃ驚くよな? 顔が傷跡だらけだし。
手早く歯磨きを済ませ、包帯を巻き直す。ブサ面は隠すのに限る。
「待たせた」
「何で顔を隠しているんだ?」
「うん、うん」
「今見たよね? 周りに迷惑が掛かる。巻いておいた方が無難なんだよ」
「お~?」
「何かよく分かんねぇけど、なんとなく分かるよ」
「だろう?」
身だしなみを整え、その場から移動。さっそく朝の日課である筋トレを開始しよう。
「畑の空き地に来てどうするんだ?」
「体を鍛えるんだよ」
「ベイもやる~!」
ベイは犬族の獣人だ。犬族は体を使うのが好きらしい。なぜか嬉しそうに尻尾を振っている。
「やってみよう。アルムもどうだ?」
「おう! やる!」
「よし!」
まずはフォースを手に集める訓練からだ。腕の筋肉を鍛え、同時にフォースを素早くまとわすことができるようになる。
これも記憶にある乃央の知識。月城家秘伝の“月影流”武術になる。
「すっげ、光っている……」
「お~」
持続していくことがコツになる。フォースの発散を少なくし、手にまとわせ続ける。
そのまま軽く握り、両脚を開く。ゆっくり拳を前に伸ばしていく。
正拳突きの構え。徐々に空気が弾ける音が響いていく。その反動が筋肉に負荷を生む。
「すっげ、すっげ!」
「ベイもやる~」
「無理はするなよ。適度に力を抜いて行けよ」
「こう?」
「えい! えい! えい!」
突き八十回。今はこの程度しかできないけど、そのうち一万回はやってみせる。
「もういいぞ」
「終わりか?」
「ああ、次は足の訓練だな」
「お~」
手と同じく足にフォースをまとわせる。さっきと同じように発散を少なくしていく。
「また光っているな……」
「すごい~」
光るのは未熟の証明。知っている人が見ればすごいなんて言わない。
そのまま背筋を伸ばし、軽く飛び跳ねる。
「ふっ、ふっ」
一メートルほど浮かび上がる。それを何度も熟す。慣れてくると二段飛びができるようになる。より短くなるよう調整し、浮かび上る高さをコントロールする。弱き力を制し強き力を発す。月影流武術の格言になる。
「オレもやる!」
「ベイも~」
三人でしばらくジャンプを繰り返していく。
「そろそろ終わりにしよう。二人ともよく頑張ったな」
「オレ、まだまだできるよ」
「ベイもできる~」
「これ以上は危険だ。足に負担が掛かる。二人はまだ幼いんだ。無理は絶対にダメだよ」
「だったら次は何をするんだ?」
せっかく二人が居るんだ。普段できないことをしよう。
「ボクの訓練を手伝ってよ。これから体を光らせるから、光っている所を教えて欲しい」
「いいぜ!」
「ベイも頼むな」
「うん!」
フォトンを制する者は柔剛を制す。月影流は力よりもコントロールを重視する。他の流派は覚えていないけど、ボクは父から幼少より叩き込まれている。
輝きの強さで消費を無駄にする。その性質を極限まで抑えるために、二人に手伝ってもらう。
全身にフォースをまとわせる。ボクは未熟だ。必ず光を帯びてしまう。
「いっぱい光っているよ~」
「だな!」
瞑想の構え。立ったまま瞳を閉じ、体の力を抜く。フォースの淀みを意識し、頭から足元に流動させる。
ボクは右回りが得意だ。体中に流れるフォースを右回転に捉えていく。“発”に至り“精”とす。フォースを最大限に放つ行為を“発”と呼び、今のようにコントロールすることを“精”と呼ぶ。
発は誰にでもできる。だけど精は難しい。しかし精を極めた先に発があると云われている。その境地こそ極意。極めればフォースを自在に操ることができるようになる。
「手と足が光っているよ~」
「だな!」
普段から意識しているせいだろう。さっきの感覚に慣れ、手と足に力が入り過ぎている。
ボクは徐々にフォトンの流れを抑えていく。完全に調整された状態になるまで意識を研ぎ澄ます。
「右足~」
「腹も!」
落ち着け。思い出せ。月城乃央の記憶を呼び起こせ。フォースの流れを意識し、新たな脈を作り出そう。流れを細かく分岐しろ。
「いい感じ~」
「いや、背中が光っているぞ!」
あと少しだ。体中が軽くなる感じがする。この覚えこそが精の極意、“泰”である。泰に至ると浮力を得る。“体重があたかも無くなったように”感じられる。足先を地面から浮かばせ、重力に逆らおう。
「兄ちゃんが浮いた!」
「すごい~」
これで初段の域だ。師範代になるためには足を地に吸い付かせ、軽重一体を身に着ける必要がある。
だが今はこれで十分。この感覚を頭に叩き込ませ、状態を維持していこう。
強くならないと話が進まないよね。




