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12.アースバング戦その三

 前回のあらすじ。

 アースバングとの死闘。ようやくFPを減らし、セオリー通り攻撃を通すことができるようになる。

 一撃一撃が一ダメージ。そんな戦いで死にそうになるが、必死で堪え続けていく。その戦いぶりは紙一重。一撃でも受ければ次はない。そうした戦況でこの後ノルテアはどうなるのでしょうか?

 書見のほどよろしくお願いします。

「はあ、はあ……」


 ようやく。ようやく戦いが終わる。敵から離れ解析に目を凝らすボクは、白く丸いボディを動かし息を切らす。


―――――――――――――――――――――――

 個体情報:

 種類名[アースバング]

―――――――――――――――――――――――

 能力ステータス:

 グレード[8532]

 戦闘力[13030324]

 HP[1025/10000]

 FP[0/5500]

―――――――――――――――――――――――


 リミット時間まで四時間ある。HPの残り一割を与えれば勝つことができる。


 集中力が切れる今が最も慎重になる時。パターン化された攻撃を確実に熟していく。


 何度目になるか分からないクリティカルヒットが確定する。のけ反りが発生し再び吸収撃を打ち続ける。同時に足元にフォースを放ち、反動を利用しバックステップを刻む。


 一回に付き平均75のダメージを与えることができる。後14回繰り返せば倒せるはずだ。


「――えっ?」


 突然、ボクの攻撃が通じなくなる。


 どうしたのだろう。必ずダメージが通るのけ反り効果があるにも拘らず、防御力耐性によるダメージ無効と同じ状況になった。


 続けて打ち込んでいくが、フォースが四散する。ボクは危険を感じ、逃げるを選択する。攻撃の手を休め、背後に向け移動を開始した。


 一度地面に足を着けダブルジャンプで加速移動。突然敵の様子が変わり、茶色い乳白色の皮膚が赤く燃え上がる。


「おいおい。こんなの聞いていないぞ」


 ボクは瞬時に解析で敵の状態を調べる。


―――――――――――――――――――――――

 個体情報:

 種類名[怒りのアースバング]

―――――――――――――――――――――――

 能力ステータス:

 グレード[8532]

 戦闘力[16140152]

 HP[998/10000]

 FP[5500/5500]

―――――――――――――――――――――――


「暴走モードが発動した? 馬鹿な!」


 暴走モードとはボスエネミー特有の状態異常で、HPが一割を下回るときに発生し、強力なバフ効果を身に着ける。HPとFPの最大値以外のステータスが大きく上昇し、より強力な個体へと昇華する。


 しかもFPが回復する。これは反則としか言いようがない。暴走モードは現実の特殊モンスターだけが発現する現象になる。本来電想空間(エフエイリア)内のボスには適応されないはずだ。


 やはりゲームとは違うというのだろう。認識を改める必要があるな。


「まずいぞ。攻撃が来る」


 咄嗟にボクはデルタジャンプを使い、壁伝いを垂直に昇っていく。


 何かとてつもなく強烈なフォースの気配がする。遅れて地面を揺らす轟きが聞こえてくる。一番高い所に登り遠くを見るように景色を見渡す。


「おいおいおい。どうなってぇんだよ!」


 グランドインパクトが砂地の全てを破壊し尽している。


 逃げる場所はどこにもない。天井まで登ったのは正解だった。砂地になる全てが全方位に揺れている。しかも敵の攻撃に終わりはなく、念動力のホールドストライクが岩々を持ち上げる。


 その数、通常時の数倍にもなる。赤いオーラを身にまとう巨体の周りに無数と浮かび上がる岩のコンジクト。その全てがボクに向かっている。


 このままだと死ぬ。


 フォースを使いダブルジャンプ。足場を生み出すために仕方なくアースバングに吸収撃を放ち、反動を利用し空中闊歩。敵はアースブロックを使い、茶色い守りを展開。反撃のフォースの弾がドォンドォンと激しく音を立て、逃走先の背後に打ち付けられていく。


 おいおい。まるで大砲並みの威力があるじゃないか。砲弾車の800ミリフォトン砲と変わらないだろう。


「こんなの避け続けられるものなのか?」


 しかも暴走前よりも動作が機敏になっている。攻撃速度が格段に上がったように感じられる。


 でもやるしかない。ボクは必死の思いで戦いの継続に身を任せる。


 それから一時間が経つ。セオリー通りFPの完全消費を狙い、攻撃から逃れ続けている。


 ようやく敵の動きにも慣れてきた。FP消費の状況を確かるためフォースを目に宿す。


 さてFPの残りはどれだけになっただろうか?


―――――――――――――――――――――――

 個体情報:

 種類名[怒りのアースバング]

―――――――――――――――――――――――

 能力ステータス:

 グレード[8532]

 戦闘力[16140152]

 HP[998/10000]

 FP[5500/5500]

―――――――――――――――――――――――


「ん? んん?」


 ちょっと待て。一瞬で分からなかった。もう一度確かめてみよう。


―――――――――――――――――――――――

 個体情報:

 種類名[怒りのアースバング]

―――――――――――――――――――――――

 能力ステータス:

 グレード[8532]

 戦闘力[16140152]

 HP[998/10000]

 FP[5500/5500]

―――――――――――――――――――――――


 消費していない、だと?


 こんな馬鹿なことが有り得るのか?


「まずいぞ」


 残り時間が三時間を切っている。もしもタイムリミットが過ぎれば敵のHPが完全回復する。


 しかも暴走モードで敵の防御力が大幅に上がり、さっきよりもダメージが通りづらくなっている。


 その上で念動力の絶対防御がある。アースブロックを阻止しなければ手の打ちようがない。


 どうしよう。このまま避け続けていてもじり貧だ。何とかしないと確定で死ぬ。


『ザ……ザ……ザザ』


 突然ボクの耳の奥に雑音が流れてくる。


『マ……マスター』


 この声はオルタだ。オルタがボクにチット通信をくれた。


『オルタ!』


 ボクは藁にもすがる想いで返事をする。すると通信ノイズがクリアになり、次第にオルタの声がはっきりと聞こえてくる。


『どこに居るのです? ラボのメインコンピュータから管理者権限を確認し、マスターの存命を知り、実体があるのに精神体の姿だけが無い。思わせ振りで大変に不愉快です。どうせだったら死んでくれてもよかったのですよ?』

『そんなことはどうでもいいんだよ! 今が大変なんだ!』

『おや? いつも余裕があるマスターらしからぬ発言ですね。どうやら本気で危険な状況にあるようですね。詳しくお聞かせてください』

『簡単に言うと死にそうなんだ!』


 ボクは事細かに状況を伝えていく。


『なるほど。それは重畳です。やっとマスターから解放される機会が訪れるのですね』

『冗談はよしてくれよ。それよりもこの状況を何とかできないのか?』

『イデアオンリーフロア。バトルリミットナイン。エスケープブロック。フロアマスターウィン。ダブルグレードマスタリーですか。少々厄介ですが、何とかなるかと思います』

『本当か!』

『はい。今から強制転移コンロームします。外部からの介入は可能です。マスターの実体にチットしている状況。実体を把握していれば問題ないです』

『今すぐにでき……』


 待てよ。ボクはこれで諦められるのか? できることなら勝つまで戦ってみたい。


『できます。さっそく転移を開始します』

『いや、その前に確認する。転移は一瞬で行えるのか?』

『はい。コンマ3秒もあれば十分です』

『だったらもう少し待ってくれ』

『何を悠長なことを言っているのですか? 貴方の実体をハッキングし、状況が分かっています。今の予想では到底勝てる相手ではありませんよ』

『何だよ。そのハッキングって。ひどいことをするな!』


 その一言がきっかけにボクは暴走中のアースバングに突撃を仕掛ける。


「うぉおおー!」


 グランドインパクトのリキャストタイムは10秒間、まだ余裕がある。ボクは砂地に足を着け、ホールドストライクの落下物を避け、ダブルジャンプで加速し、巨体の前におどり出る。


 予め貯めて用意していた吸収撃。接近し押し当てると黄色い蜂巣柄のアースブロックが発動する。


 その一瞬に反撃の斬撃が流れてくる。ボクは右に避けた後にバックステップ。その間に吸収撃を放出し顔面前に浮かばせる。


 残り三連反撃に合わせサイス型の斬り付けが来る。ランダムに斬る一撃を右に避け、二撃目を左に回避。三撃目の回転撃に合わせ、下から吸収撃を押し当てる。


「よし!」


 思った通りだ。アタックアクションにも確定クリティカルが通じるぞ。これでダメージを通すことができる。


 ボクはすかさずキャンセル連撃を放ち、攻撃を開始する。


「ちっ、上手く行かないか!」


 攻撃が弾かれた。どうやらのけ反り時間が短くすぐに復帰するらしい。敵の防御力が適応され全ての攻撃が四散した。ボクは瞬時にバックステップダブルジャンプで加速移動。壁際に移動し、グランドインパクトに備える。


『マスター。背後からの攻撃を提案します』

『了解だ。ボクも同じことを考えていた』


 こうなってくるとバックアタッククリティカルによるのけ反りブレイクを狙うしか方法がない。


 しかし、バックアタックを取るためには二分の一の運に任せることになる。


 ボクはグランドインパクトを天井でやり過ごし、終わりを見計らい砂地に下りる。そのまま一気に駆け抜け、敵の目の前で吸収撃を打ち放つ。


 アースブロックが発動する。反撃に合わせ吸収撃を顔面前に放つ。


「来た!」


 一撃目で回転撃が流れてくる。ボクはタイミングを見計らい軽めに跳び、背中の突起物に向け吸収撃を押し当てる。


「ギャアァアアッ!」


 上手く行った。初めて敵が大声を叫んだ。


 ブレイクヒット。確定クリティカルにのけ反りが発生し、体を大きく反り返させる。ボクはその間にキャンセル連撃を繰り出し、ダメージを重ねていく。


「うぉおおお!」


 五秒が経過した。一端状況を把握するためバックステップを刻み、敵から距離を取る。


 十秒が経過した。敵が全身を動かし復帰する。どうやら暴走中のブレイク時間は十秒が限界らしい。すでに天井に逃げるボクはグランドインパクトに備える。


『マスター。残り二時間四五分です。倒せそうですか?』

『今の攻撃でどれくらい削れた?』

『HP総量は942です。56減らすことができています』

『行けるな。オルタは最悪に備え、転移の準備をお願いする』

『了解です』

「さあ、ボクと戦おう! アースバング!」

「ヴォオオオーッ!」


 ボクの宣言に呼応し、アースバングが鳴き声を上げた。


 さらにボクは思考を加速させ、戦いに興じていく。

 まだ決着がつかないのかよ!

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