10.アースバング戦その一
前回のあらすじ。
先に進んだオルタが帰ってこない。これは何かあったに違いない。
通信を試みた結果、オルタが危機的状況にある。
(今助けに行くからな。待っていろよ)
そう決意しオルタを追うノルテアは、転送装置に勇み足で乗り込んでいく。
着いた先に何が待ち受けているのでしょう。この後でノルテアはどうなるのでしょうか?
それではいつものように書見のほどよろしくお願いいたします。
『オルタ! 聞こえる!』
転送した先は暗く何も見ない空間が広がっている。白いボディで足を踏み出しチットで大声を張り上げる。
『オルタ! どこに居るんだ! オルタ! 返事をしてよ!』
反応がない。もしかしたらすでに何かのトラブルでやられてしまったのかもしれない。
そんなはずはない。オルタが本気を出せば流騎くんも上回る強さがある。単純にスプリスの性能だけを見れば、物語最強と言っても過言ではない。
そう簡単に倒されるような相手ではない。だとしたらなぜ会話ができないのだろう。
すると突然、目の前が明るくなる。パネルライトがカチカチと音を鳴らし順に点灯していく。
岩が露出し砂地の地面が広く続いている。遠くに丸みを帯びたドーム状の壁が見える。
中央に大きい岩が置いてある。その後ろに巨大なデジタル掲示板が壁から下がり、数字を刻んでいる。
突然ボクの目の前にウインドウが表示される。
そこに180秒のカウントが開始され、続きに何かが記載される。
「戦闘条件?」
イデアオンリーフロア。バトルリミットナイン。エスケープブロック。フロアマスターウィン、ダブルグレードマスタリー。
最悪だ。どうやらボクはボス部屋に着いたらしい。
イデアオンリーフロアとはイデア型のスプリスにしか入ることができない場所を意味している。
バトルリミットナインは9時間の戦闘を超えた場合に敵の体力とフォースが全回復するギミックトラップになる。
エスケープブロックは転送や想出で逃げることができなくなる。フロアマスターウィンは敵に勝つまで解放されないという意味だ。
ダブルグレードマスタリーは敵のグレードが倍になる。おそらく相当強い個体が現れるに違いない。
戦闘開始まで約二分。180秒あった数字はすでに110秒へと減っている。
どうやらここのD空間はボクが知っているところではないらしい。試練の事端は十層毎にボスが現れる。ここは二層。予想と全然違っている。
「くっそ!」
オルタの懸念が当たったな。ゲームと類似した世界に浮かれていたボクが馬鹿だったんだ。過去の知識に囚われ過ぎ、本質を見失っていた。
ここはイデアオンリーフロア。アンノウン型のオルタがたどり着けない理由になる。
おそらく別の空間に飛ばされ転送を強制されているのだろう。オルタが危機的状況にあるのだと勘違いしたのがいけなかったんだ。指示通り研究所に戻れば出会えたはずだ。あるいはあのまま待っていれば帰ってきたかもしれない。
なんて馬鹿なことをしたんだ。戦いに敗れれば実体も同様に滅びることになる。あるいはセーフティーを設定する手段もあったかもしれない。セーフティーモードになると倒されても復活できる。少し弱くなるのは覚悟の上だが、それでも死ぬよりましだ。
戦いの準備をしよう。腐っていても何も始まらない。勝つことだけを考えよう。
『ピー、ピー……』
ウインドウの数字がゼロになる。同時にアラートが鳴り響く。バトルスタートの文字表示が発端に画面が消えて無くなる。
広場の中央にある岩が動き出す。まるでゴーレムを連想する茶色い人形からカメの甲羅の形に変形する。その大きい巨体が広大な砂地の中央で形作られる。子供ほどあるボクの数十倍の大きさだ。
まずは解析だ。ボクはフォースを目に集め相手の強さを認識する。
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個体情報:
種類名[アースバング]
―――――――――――――――――――――――
能力ステータス:
グレード[8532]
戦闘力[13030324]
HP[10000/10000]
FP[5500/5500]
―――――――――――――――――――――――
「えっ? はあ?」
知っているアースバングじゃない。
「強すぎるだろう……」
ゲームでのアースバングは十層のフロアボス。
攻撃力と防御力と抵抗に特化しHPとFPが高く、攻撃に念動力のスペシャルアタックアクションを使用してくる。
逆に速力と幸運が低く、動きが遅い特徴がある。
けれどこのグレードは反則だろう。ゲームの80倍の数値だ。もしも弱点である鈍足が改善され速力が高くなっていた場合、手の打ちようがなくなってしまう。
「いや、待てよ」
もしかすると計算ができるかもしれない。
こいつもイデア型のスプリスだ。グレード1に対し補正値は1になるはず。
そうこう考えている内に敵が動き出す。ボクににらみを利かせてくる。
ボクはダブルジャンプで移動し、背後に向け円を描くように広場の端を走っていく。
「落ち着け……」
暗算は苦手だがゆっくりとやればできるはずだ。
まずHPとFPの最大値から強度が1000。知能が550。残りは7000がどこに振られているか見極める必要がある。
「よし」
けん制で攻撃を仕掛けよう。吸収のアタックアクションで見極める。
ボクはキャンセル連撃を行い、隠蔽を併用し吸収撃を打ち込んでいく。
敵の周りに光が生まれボクの攻撃を一瞬にしてかき消した。念動力が発動し、ブロック効果のある蜂巣柄の幕が作られる。
「予想通りだ。来るぞ」
アースブロックは特殊攻撃に分類されている。FPを使用し攻撃をブロックすると同時に反撃を仕掛けてくる。
反撃にはパターンがある。フォースでできた弾を作り出し、今まさに行おうとする現象を引き起こす。
「うおっ!」
予備動作が無かった。来ると思い避けたら死ぬ。
ゲームの時と違って威力がおかしい。野球の玉ほどのエネルギーがバランスボールの大きさまで増幅している。
だけど分かったことがある。背後に回っても敵が振り向く気配が無い。ボクの位置を補足できていない証拠だ。
ゆっくりと体を反転させている。あの動きは遅くまるでグレード1だった頃のボクにそっくりだ。体が大きい分だけより鈍足に見える。
速力は初期値のまま。敏捷はおそらくゲームと同じ1だ。機運も同じだとすると残り7000は制御か耐性に振られているはずだ。
ゲームでは強度と知能と耐性だけに補正値が設定されている。だとしたら耐性7000が妥当だろう。
「馬鹿じゃねぇーの」
単純に計算すると防御力が21000になる。ゲーム中盤に出てくる敵のステータスを超えているじゃねぇかぁ。
「そんなもんダメージが通る訳ねぇだろう!」
倒す方法は念動力を使わせFP切れを狙うしかない。
そのためには攻撃を何度も繰り返しアースブロックの反撃を避け続ける必要がある。動きが遅いので背後に居れば何とかなるはずだ。
その後は攻撃を通すために裏技をする必要がある。今から気を張るとため息が出そうになるので、その時が来るまで考えないことにしよう。
しかしよく知って欲しい。ダブルジャンプを使用し加速を試みつつ5500ある敵のフォースエネルギーを使わせ、一度の失敗も無く回避を成功させ続けなければならない。
これが普通の人間のできることなのか? 非常に疑問である。
仮にダブルジャンプが失敗したらどうなる。ボクはその場で足を止め念動力の餌食になる。他の動きもそうだ。単純なミスで避ける場所を間違えるだけでも人生が終わることになる。
「これさあ、高等テクニックなんだよね」
何度も使うもんじゃねぇんだよ。気を散らせると終わっちぃまうじゃねぇか。
吸収撃にアースブロックが反応する。敵の念動力がフォースの弾を生みボクに攻撃を仕掛けてくる。
そうして五分が経過した。何度も繰り返した結果を確認するために、敵のステータスを視認する。
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個体情報:
種類名[アースバング]
―――――――――――――――――――――――
能力ステータス:
グレード[8532]
戦闘力[13030324]
HP[10000/10000]
FP[5452/5500]
―――――――――――――――――――――――
五分でFPが48。ほとんど減っていねぇじゃねぇか。
バトルリミットナインのトラップが発動している。九時間後に敵のHPとFPが回復する。つまり消費がこの程度では九時間後に416残ることになる。
「このペースじゃ間に合わない」
最低でも六時間の余裕が欲しい。三時間で敵のFPを使い切らせるにはどうしたらいい。
そんなことは分かり切っている。正面からより多くの攻撃を引き受けるしかない。
「うぉおおお!」
ボクは大声を張り上げ敵の前に立ちキャンセル連撃を繰り出していく。敵はアースブロックと同時に反撃のフォース弾を繰り出し、地面から巨大な岩を隆起させる。
グランドインパクトが発動した。念動力の強化で取得できる最上級の技能。強烈な振動を生み出す範囲攻撃。
避けるにはデルタジャンプが有効だ。後ろの壁を蹴って垂直に昇りやり過ごす。インパクトの揺れが収まったらダブルジャンプに切り替え地面に着地。
その間も攻撃の手を休めない。フォースの弾を打ち反撃させFPを消費させる。グランドインパクトのリキャストは10秒だ。敵は“強念動力”の異能を使い、散らばった岩を持ち上げボクに打ち込んでくる。
別名ホールドストライク。念動力のスペシャルアタックアクションの一つ。コンジクトを持ち上げ敵に当てる技になる。
ダメージ性能は低いがリキャストが3秒と速め。すぐに繰り出すことができる強みがある。
巨大な岩が頭上から落ち、ボクはそれをダブルジャンプで避け続ける。岩のコンジクトは役目を終え、その場で消える。再び敵の近くに現れ、攻撃手段として用いられる。
「うぉおおお!」
グランドインパクトがまた来る。壁を昇りフォース弾を避けコンジクトの追撃を回避。
ダブルジャンプと吸収撃の反動で空中を闊歩。足元の先の地面で地響きが揺れ、岩が隆起する。続き降り注ぐ岩とフォース弾を引き付ける。
「これでどうだ!」
ボクは電光掲示板に表示された15分の経過を確認し、敵のステータスを再び調べ見る。
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個体情報:
種類名[アースバング]
―――――――――――――――――――――――
能力ステータス:
グレード[8532]
戦闘力[13030324]
HP[10000/10000]
FP[5140/5500]
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戦いを始め5分。さらに10分が経過し300のFPを追加で消費させることに成功する。
「よし!」
このペースで戦うことができれば三時間後にFPをゼロにすることができるはずだ。
「うぉおおー!」
ひたすら吸収撃を打ち続けルーチン化したアクションを繰り返し行い、ボクは戦いに身を投じていく。
勝機は正面対決しかない。
これから三時間は絶対にミスが許されないのだから。
ミスは許されないのだ!
ボクは雑魚とは違うのだよ、雑魚とは!




