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1.別世界の模擬に浸るボクは長い夢から目覚める

 書いている最中に思ったんですが。とても長いです。難しいと感じたら読み飛ばしてください。

 バックブーストダッシュ。白い霧状のフォースを前面に放ち、背面に向け、移動を開始する。ボクは敵から目を背けず、距離を取ることにした。


 電想空間エフエイリア。グラウンドよりも広く、平たんな地面に円形とした空間が続き、端々がドーム状の壁を形成する。


 その中央でホバーリングをする魔王パンデニウムが、胸元からブラックホールを出現させ、空間の歪みを生み出す。


 黒い球体が徐々に大きさを増し、魔王然とした巨体を包み込む。荒々しい気流を生み風音が鳴り響く中に向け、ボクはフォースパーティクルカノンを放ち、その反動を利用し引力に抵抗を試みる。


「全を破壊し尽くせ。アブゾープディメンジョンブラック」


 魔王が必殺技の名前を告げた。これより発動が開始になる。ここからは一気に引力の強さが増し、背後に向かう行動が取れなくなる。


 追撃でグラビティボールの弾幕が放たれる。

 のけぞり効果がある無数の光が散弾として迫ってくる。


 バックブーストダッシュ。二足型のスプリスボディ前面からフォースを放ち、引力に抵抗しながら、黒い光の弾幕を回避する。


 バーチャルリアリティにあふれる映像美。現実感がある全域をキャラクターの目線で把握し、ドット単位での細かな動作を実現する。


 敵から放たれる等身大の黒い攻撃。その光弾幕の弾道を予測し無駄のない動きを極限まで追及する。


 大きく動けば引力の抵抗を過分に受けることになる。動きを短く制限し、力の分散に注意する。弾幕の動きを予想して、操作するキャラクター目線で回避方向を定めていく。


 上から全域を見下ろすイメージをすることができれば上位のランカーに成ることができる。そんな業界の鉄則において、ボクはそれなりに洞察力がある方だと自負している。長いプレイ時間で培ってきた経験を生かし、敵の動きを予見することができる。


 自分が敵に成ったつもりで自分の弱点を意識し、次の動きに繋げていく。どのようにボクを倒すことができるのかを理解し、攻撃の発動タイミングを導き出す。それができるのだから避ける方向を定め、黒い光が少なくなる方向に移動し、次の攻撃に備えることができる。


 回避行動を重ねていくこと数分が経過し、次の挙動が始まりを告げる。今までの攻撃に加え、ブラックバインドバリアが無造作に発動し、大きなシャボン玉が目の前に生み出されてくる。


 捕われた瞬間に移動ができなくなる無数の丸い結界。被弾するとそのまま身動きが取れなくなる。


 ランダムに中空から生まれてくる闇の光は回避の見極めが難しく、輝く瞬間に反応しなければ無駄に距離を稼ぎ、回避用の推進力が引力に影響を受け、中心に引き込まれることになる。この攻撃はミニブラックホールとも呼ばれ、当たり判定予測が難しく、シビアな動きが制限されることにもなる。仮に被弾した場合システムが強制的に数字を刻み、即死確定になると云われている。要はクリアがそれだけ難しいということだ。


 ちなみに死亡はシナリオに影響を与え、戦闘リプレイ回数がエンディングに直結する。ラスボスの戦いは一度の失敗で最高のエンディングを台無しにする不安を抱えている。


 クリアランクSのグランドエンドは、オンラインコンテンツへの入り口にもなる。エンドロールを見た後に育成したキャラクターのシリアルコードが生成され、その暗号を使いオンラインコンテンツに登録することができる。


 オンラインコンテンツはゲームアプリとしてのシナリオが存在し、スプリスブリンガーとの連携を行うことができる。連携するとオンラインゲーム固有のストーリーが楽しめ、様々なミッションを熟していくことができる。


 中でも極限ステージというものがある。オリジナルの敵を倒し限界階層に到達することを目標とし、階層毎でクリア時間とスコア数を競い合うシステムになる。総合的な評価ランキングを決め、そのランキングが上位になれば大会にエントリーすることができる。


 また、メインシナリオをクリアするとヒロインたちが主人公になるストーリーが解放されることになる。固有のスプリスを育成するシナリオもプレイすることができ、クリア後は主人公と同じようにオンラインコンテンツに登録することができる。


 その他にもダウンロードコンテンツDLCで主人公を増やすことができる。追加購入したモブキャラクターたちを使ってオリジナルストーリーを楽しむことができ、最後まで行くと同じようにオンラインコンテンツに登録することができる。


 その中でも唯一無料でできるDLCが存在する。ヒロインの義理の弟で本編では一度も出ることがない最弱のモブキャラクター。どういう風にDLCを購入したらいいのかという説明を行うためだけのキャラクターで、なぜかラスボスと戦うシナリオもプレイすることができる。当然クリアすることもでき、オンラインコンテンツに登録することもできる。


 しかしその難易度は極めて高く、キャラクター性能が最弱で誰よりも能力が劣り、一辺倒な特化攻略が求められることになる。攻略後は固定された能力値になることから、エンドコンテンツに適さないとし、見向きもされないクソキャラクターの代名詞とされている。


 それでもボクは試行錯誤を繰り返し、独自の攻略方法を導き出すことに成功している。初期の状態でリセットと呼ばれる育成方法を行い、あえて弱く設定し、育成限界値を引き上げる道筋を立てている。


 ボクはこのキャラクターの在り方が大好きで、初回クリア時に鬱々と泣いた経験がある。一途に義理の姉を思う気持ちが美しく、自己犠牲に尽くし、姉の幸せだけを願い、身を呈し、愛しているにもかかわらず、他の男との逢瀬を応援していく姿勢。その優しい心根が健気でかっこよく、電想空間エフエイリアに残り、滅びを回避した世界を見守っていくエンディングを迎えることになる。そんな生き方が美しく、なにより誰も使っていない寂しいところが魅力的で、このキャラクターだけはボクのものだとするやり込みを行っている。そう公言できるほどボクは何度もオンラインコンテンツを攻略し、評価ランキング一位を維持し続けている。


 そう考えていると、魔王パンデニウムのアタックアクションが終わりを告げる。拡散される弾幕が止み、黒い球体が縮小していくエフェクトが発生する。


 数秒間のクールタイム。この瞬間が唯一の反撃ポイント。ボクは一気にブーストフロントダッシュで距離を詰め、ダッシュアタックを繰り出し、コンボダメージを重ねていく。


 右腕でファイアーアームハンマーの打撃技を放ち、左腕のブレイブブレードで連続斬りを加えていく。追撃にサマーソルトで蹴り上げ、両手でデッドリーサイスを持ち、回転攻撃を繰り出していく。上空へと飛ばし、背後に回ってフォースランスを地面から生み出し、空中で遅延ダメージを重ね、落ちてくるところにトラップボムを仕掛け、誘因起爆を起こし、引き寄せのアックススマッシュを振り上げ、打ち上げたところで杭の刺突パイルステイクをボディに突き刺す。さらに上空に上がったところでフレアフォースマインを放ち、追撃にディメンジョンロイルカノンを呼び込む。上空から降り注ぐレーザーでの対空遅延効果のあるダメージを重ね、浮かび上ったままの魔王の巨体に向け、一気にダメージを与えるフォースリミットブレイクを発動する。技の中でも最も火力が高いとされるスーパーフレアフォースマインを放ち、上空に浮かんでいた魔王の巨体に光の塊をぶつけ、派手に炎の輝きを散らしていく。そうした攻撃の最後に残りのフォースリミットゲージを使い、ブーストアタックチャンスを繰り出していく。


 ブーストアタックとは、アタックコスト限界を増やすことができる必殺技のことで、そのコスト容量を使い、重コスト技であるクールタイムアタック効果のある攻撃を仕掛けることができる。


 クールタイムとは再行動時間のことで、アタックコストの分だけ長くなり、その長い時間を使って攻撃を繰り出すことができるクールタイムアタック技は、ブーストアタック効果により普段よりも圧倒的に長い遅延火力を生み出すことができる。


 今まで繰り出して来たアタックコストの分だけクールタイムが強制的に訪れる。その時間を無視し、さらに加算されたアタックコストの分だけクールタイムアタックを放つことができる。


 フォースリミットブレイクはアタックコストが倍になるデメリットを含む。しかしその分のクールタイムも長くブーストアタックコスト限界数も多くすることができる。


 それを逆手に取り、クールタイムアタック技であるザントルネードサイコを発動し、ぐるぐると回転する光の輝きで、魔王の全身を頭上に打ち上げていく。アタックコストが限界の三倍に膨れ上がっているため、その分の時間だけ光る風の回転を持続することができる。激しく音を鳴らし、火花を散らし、白い人型スプリスから放たれるフォースの輝きが連続でダメージエフェクトを刻んでいく。


「うぉおおー!」


 本来アタック時間は十秒もあれば長い方。その間に五十ほどのコンボを重ねていくのだが、オーバーアタックコストになった状況での攻撃は四十秒と長く、コンボ数が四百を超える数字を刻んでいく。


 まだまだ続くアタックコストゲージ。全回復まで二十秒ほどの余韻がある。その間にも繰り出し続ける光の回転攻撃がコンボ数を重ね、敵のHPゲージを削っていく。


 しかし、これで終わりではない。実はこの先にも続きがある。


「そこだ!」


 ブーストアタックが終了し、リキャストタイムが順次終わりを告げ、アタックコストのリセットが訪れる。そのタイミングを見計らい、敵が地面に叩き付けられた瞬間に今まで一度も使っていなかったローキックを繰り出す。


「よし!」


 その一瞬が勝負を決めることになる。


 ローキックを受けた敵がダメージを受け、攻撃を繋げるチャンスが訪れる。


 ここを逃さずリキャスト時間を最初に終えたファイアーアームハンマーから順に攻撃を繋げ、二回目のコンボを重ねていく。


「それ! それ! それ!」


 敵のHPを高速に減らし、失敗がないように体を動かしていく。確実にコンボを繋げ、最後の技、フォースリミットブレイクを発動し、上空にスーパーフレアフォースマインを打ち上げる。


 激しくエフェクトが煌めき、盛大に放たれるフォースの輝きが格闘ゲームのEX技を連想させる。


 魔王パンデニウムの体に激突し、爆音の炎がフレアのように広がり、地響きと同時に数コンボのダメージを刻む。


「よし! 勝った!」


 ラスボスのHPが全壊し、勝利宣言のBGM音を鳴る。四散するフォースの光が周囲にまき散らされ、ストーリー最後のグレードアップ効果音が鳴り響く。


 ボクは思わず嬉しくなり、両手を上げてガッツポーズを執る。


「ん……」


 どうやらベッドの側面金属にバーチャルギアをぶつけたらしい。頭から痛みが伝わって目が覚めたボクは、エンドロールを見ることなくオートセーブを理由にゲームをリセットし、バーチャルギアを外して現実に意識を戻す。


 あれ?

 今まで何をしていたのかな?


 睡眠に耽っていたようで覚醒と同時に過去の出来事を忘れてしまう。


 ふつふつと湧き起こる緊張感のドキドキも今は嘘のように冷静になっている。


 そうまぶたを細めていると、ふいに姉の顔が視界に入ってくる。


 義理の姉は月城音葉つきしろおとは月城乃央つきしろのなかであるボクにとって一番大切な人。将来は結婚を前提にお付き合いをしたいと真剣に考えている。


 あれ?

 それってスプリスブリンガーのヒロインと同じ名前じゃなかったかな?


 覗き込んでくる姉の美しい顔がゲームヒロインとそっくりで思わずベッドから体を起こす。


 見慣れない部屋の内装が視界に入る。思わず首をかしげてしまう。


「私のこと、覚えていますか?」


 姉が声を掛けてきた。視線を合わせたボクは思わず首を傾けてしまう。


 覚えているも何も昨日会ったばかりじゃないか。


 あれ?

 そうだっけ?


 記憶が混乱している。気のせいだろうか。


「ねえちゃん……」


 寝ぼけてのどの調子がおかしいボクは、女の子のような声色を放ち、成人にしてはありえない幼さを心内でアピールする。


「嬉しいですね。私を今でも姉と呼んでくれるのですね」


 なに言っているの? お姉はお姉でしかないよね?


「私の願いを聞いてくれますか?」


 だから、なんでそんな畏まった話し方をするの?

 いつもみたいに言ってよ。ちょっと乃央聞いてよ。みたいにね。


「嬉しい。やっぱり乃央のなかは優しいですね。こんな私の願いでも聞いてくれるのですから」


 眠いよう。もう少し寝たいから用件を早く言ってよ。好物の花梨糖はいつもの棚の中に置いてあるからさ。


「一つ、外に出て世界を救って欲しいのです。乃央と相性がいい体が見つかったので、その方と“一緒になって”、現実の時間を過ごしてきて欲しいのです」


 いいよ。よく分かんないけどやってみる。


「よかった。これで私の心配事が消えました。もう思い残すことがありません。また乃央のおかげで全ての人が救われるのです」


 うん、うん。天才のお姉でもたまには失敗することもあるよね?

 いいよ。ボクがフォローしてあげる。


「用件はそれだけです。できるだけ早く察していただき、早急に対応をお願いします」


 分かったよ。気合を入れて“会社”の仕事に当たるね。


「ありがとう。次に会うときは良い報告が聞けるように期待していますね」


 うん、お休み、姉ちゃん。


「私たちを決して許さないでください。もしも私以外の管理者に合うことがあれば、絶対に……、で……ね」


 なんか言った? 全然聞こえないよ?


「…………」


 まあいいか。もう寝るね。


 ボクは力を緩め、枕に頭を固定し、重たいまぶたを閉じていく。


 姉と初めて会った時の記憶を思い出し、ほほの筋肉を緩めていく。


 実の両親を事故で失い、孤独になったボクが大企業を従事る月城家の養子として引き取られ、与えられた部屋で静かに泣いていたあの時。泣き疲れ眠っていた傍らに姉が寄り添い、ずっと手を握ってくれたひと時。その優しさがきっかけでボクは今でも姉に憧れている。


 今では義理の父と母から仕事を引き継ぎ、姉が社長を務め、ボクが秘書として支えている。


 そんな毎日が楽しくて仕方がなく、明日もそんな日が続けばいいと信じている。


 大好きだよ。

 だからずっと一緒に居ようね。

 ねえ、お姉ちゃん。


 そう心内で思い、ボクは闇の中へと静かに意識を閉ざしていく。

 そのうち面白くなってくると思っています。今後ともよろしくお願いします。

 きっと。

 そのうち。

 必ず……。

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