「あなたの名前を教えてくださいっ!」~一目惚れした聖騎士長さまにプロポーズするため、しがない伯爵令嬢の私が騎士団入りした私の初恋の話~
煌びやかな社交界の場でそれはそれは一層輝いて見えました。
シャンデリアの眩さに負けないその剣の舞の美しさは、私の心を一気に掴みました。
「はっ!」
社交界では時折、騎士さまたちの演舞が開かれますが今日は特別すごい日なのです。
なんたって普段滅多に姿をお見せにならない聖騎士長さまがいらっしゃっているのです。
そしてその聖騎士長さまがちょうど私の目の前で剣舞をされておいでです。
「す、すごい……」
聖騎士長さまは双剣使いなのだそうで、剣を両手に持っていらっしゃいます。
私は一瞬にして引き込まれてしまい、いわゆる一目惚れをしたのです。
決めました!
私、彼の傍にいくために騎士団に入ります!!
こうして私の騎士団入団への道は始まりました──。
あ、言い忘れておりましたが私はこの国の伯爵令嬢でございます。
はい。
当然騎士になる身分ではございません。
この国では騎士は平民から成り上がるもので、貴族からなったものなど一人もおりません。
「えいっ!」
翌日からお父様に頼んで剣のお師匠さまに来ていただき、稽古をつけていただいておりますが、全くうまくいきません。
お父さまは私が騎士団になりたいと告げたら、泡を吹いて倒れてしまい現在お医者さまにかかっております。
お母さまはご病気で早くに亡くなってしまったので、一人娘の私がそんなことを言い出したことがあまりにもショックだったのでしょう。
でも私は自分の信念を曲げません!
絶対に聖騎士さまのお傍にいき、そして名前を聞くのです!!
この国では名前を知る=夫婦になるということです。
つまり、名前を聞くということはプロポーズを意味します。
ふと私の後ろに立ってみているお師匠さまを見ると、ひどく頭を抱えて困っておいででした。
やはり、私には剣の才能はないようです。
でも、だからと言ってあきらめる私ではありません。
その日から毎日素振り1000回を目標に稽古を続けました。
数日が経ちまして、無事にお父さまも意識が戻られたようでした。
「クロエ、もう心臓に悪いことはよしてくれ」
「お父さま、私は聖騎士長さまのお傍にいきたいのです! そのためには騎士団に入らなければなりません。私は貴族初の騎士団員になってみせます!」
「クロエ……」
お父さまは最初こそ反対をしていましたが、私の本気が伝わったのか応援してくださるようになりました。
そして、1年後。
私はついに騎士団の一員になれたのです!
「皆の者、よく入団してくれた。これからは国のために一緒に闘ってほしい」
はあ~。
やっぱり聖騎士長さまはかっこいいです~!
1年ぶりに見たお姿も相変わらずかっこいい!
金髪碧眼という大変見目麗しいそのお姿のみならず、大変お強いから女性からの人気もすごいのです。
噂では最近だと毎日3人の方から婚約の申し入れがあるのだとか。
やはり私の目に狂いはなかったのです。
彼は国宝級の素晴らしい殿方なのです!
でも、私はまだプロポーズいたしません。
私にはやることがございます。
「それでは、副騎士長から新人団員に指導があるので従うように」
そういって聖騎士長さまは国王との謁見に向かわれました。
「俺がお前たちを鍛えてやるから覚悟しろっ!」
この筋肉隆々のがっしりしたお体の持ち主が副騎士長さまです。
剣の腕前は聖騎士長さまにも劣らないのだとか。
そして私の目指す場所はそこ! 副騎士長の座です!
副騎士長の座につけば名実ともに騎士団のNo.2となり、聖騎士長さまの右腕となれるのです。
つまりその時がプロポーズするとき!!
しかし、今の細っこい腕で振るう剣では副騎士長さまに勝てないでしょう……。
これはまた長い道のりになりそうです。
それに副騎士長になるには、年に1度の決闘で現副騎士長に勝つ必要があります。
その決闘は5か月後でした。
私はその決闘で副騎士長さまを倒すべく、寝る間も惜しんで訓練をおこないました。
そして決闘の当日。
トーナメント形式で私は最後まで残り、ついに副騎士長さまと闘うときが来たのです。
「まさかお前がくるとはな、伯爵令嬢騎士!」
「私はあなたを倒すためにこの身を捧げてきました。全力で戦わせていただきます!」
「おうよ!」
私と副騎士長さまの剣が、凄まじい勢いで攻撃が繰り広げます。
それを静かに見守る聖騎士長さま。
見ていてくださいませ!
絶対に勝って、私は聖騎士長さまにプロポーズをいたします!
熱い決闘が繰り広げられたましたが、勝負は一瞬できまりました。
「はっ!」
「ぐはっ!」
身軽さを利用して宙返りをし、そのまま私は副騎士長さまの腹部を突きました。
これにより、勝負は私の勝ちで決まりました。
私はついにやり遂げたのです!
「よくやったな。お前の勝ちだ」
「ありがとうございます、副騎士長さま!」
「バカ。今からお前が副騎士長だ」
あ……そうでした。
ついに私は副騎士長になったのですね。
なかなか実感がわきません。
つまり私は、プロポーズできるのですね……。
ですが、おかしいです……。
いざとなると恥ずかしさで声が出ません……。
どうしましょう、ああ! 聖騎士長さまがいってしまわれます。
私は勇気を出して言いました。
「聖騎士長さまっ! あなたの名前を教えてくださいっ!」
その言葉でぴくりと肩を揺らした聖騎士長さまはこちらを振り返り、私に近寄ってきます。
思わずぎゅっと目をつぶる私にふと耳元で声がしました。
「クロエ」
それは紛れもない愛しい聖騎士長さまのお声でした。
まわりには聞こえないように耳元で言ったのです。
それよりも……。
「なぜ私の名前をっ?!」
「悪い、社交界でうっかり君の父上が呼んだのを聞いてしまったんだ」
「お父さま……」
そうでした。
お父さまは少し抜けているところがあったのでした。
「お前に先を越されてしまった」
「え?」
「名前を知ったときから君に私の妻になってほしいと言いたかったんだ。だが、君が真っすぐに副騎士長を目指して頑張る姿を見て邪魔をしたくないと思った」
「……」
「まさか理由がこれだったとは思わなかったが……」
「すみません」
「いや、私こそプロポーズが遅れてすまなかった。お詫びをさせてほしい」
聖騎士長さまは深く謝罪の礼をすると、今度は私の手を握った。
「え……?」
「私と結婚してほしい」
私は心臓が止まりそうでした。
嬉しくて嬉しくて、そして聖騎士長さまが好きという気持ちがあふれて止まりません。
「はい」
プロポーズをOKした私は、彼をじっと見つめました。
彼は笑いながら私に近づくと、耳元で名前を呟きました。
「────」
彼のお名前は私の胸の内だけにしまっておくのです──。