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4.女子会

魔王城の一室。天音の大胆な行動に耐えかねて退散したリリスとアリシアは、別室に寝泊まりすることになった。


「……まったく、あのド変態魔王……!お風呂に誘うとか、頭おかしいんじゃないの!?」


「は、破廉恥です……破廉恥すぎます……っ」


「はぁ…。頭痛くなってきた。さすがにあいつら、もうお風呂上がったわよね?私たちもお風呂に入りましょか?」


「そ、そうですね…!そうしましょう!」


蒸気がたちこめる浴室。

陽斗と魔王アリスはもうお風呂から上がったみたいで、誰も居なかった。


「……ん、ひろ……っ」


リリスがぽつりと呟く。


「すごい……。お風呂なのに、なんだか緊張しますね……」


アリシアも小さく息を吐いた。

湯けむりの中、二人はバスタオル1枚――

その柔肌を露わにして、並んで湯船に脚を沈めていく。


「……って、ちょっと、近すぎじゃない?!」


「え、ええっ!? だって、奥に座ってるの、リリスさんしかいなかったから……!」


あわてて少し距離をとるアリシア――が、滑って、

「きゃっ」と声を上げてリリスに体ごと倒れかかる。


「ちょっ……アリシアっ!? 胸、当たってる、ってば……っ!」


「ご、ごめんなさいっ、わざとじゃなくて……!」


あわてて離れようとするが、湯船の中で脚がもつれて――

「わっ……!」

今度はリリスが前に倒れ、逆にアリシアを押し倒す形に。


「ひゃあっ!? ……り、リリスさんまで……っ!」


湯の中、ふたりの柔らかな胸と胸が、思い切りぶつかる。


「……な、なんでこうなるのよ……っ!」


「わ、私の方が聞きたいですぅ……!」


二人とも顔を真っ赤に染めたまま、そっと距離を取りながら湯船の縁に背を預ける。


「……ていうか、さっき思ったんだけど……アリシア、意外と……その、けっこうあるのね」


「なっ……っ!? リ、リリスさんだって……!」


「へ、変なとこ見てんじゃないわよっ!」


「見てないです!でも……やっぱり、ちょっと気になっちゃって……」


しばらく沈黙が続く。

そして、


「……リリスさん」


隣から、アリシアがぽつりと名を呼ぶ。


「ん?」


「……髪……綺麗ですね」


リリスは一瞬きょとんとしてから、思わず鼻で笑った。


「何よ急に。」


「ご、ごめんなさいっ。でも、さっき後ろから見てて……ずっと真っ直ぐで、サラサラしてて……羨ましいなって」


「……あなたも、細くて柔らかそうな髪してるじゃない」


湯の中、肩を並べるふたりの髪が、濡れて肌に貼りついていた。


「触っても、いいですか?」


「……どうぞ」


アリシアの指が、リリスの髪にそっと触れた。

湯であたたまった掌が、意外なほどに優しくて。

思わず、リリスの肩がぴくりと震えた。


「……ご、ごめんなさいっ、冷たかったですか?」


「い、いい。……別に、平気」


小さな囁きのような声。


アリシアの指が、ゆっくりと髪を撫でるたびに、胸の奥がくすぐったくなる。


「……やっぱり、すごく綺麗。触ってて、なんだか落ち着きます」


「……変な子ね、アンタって」


「さ、そろそろ出ましょ。のぼせちゃうわ。」


「はい…!」


静まり返った夜の魔王城。

他の部屋からは何の物音も聞こえない。


リリスとアリシアは、ふたりで使うことになった一室のベッドに、それぞれ横になっていた。

小さなランプの灯りが、天井をぼんやり照らしている。


「…………眠れない?」


リリスがぽつりと、天井を見たまま呟いた。


「……はい。なんだか、変な感じで」


「私も。……あいつらがいちゃついてたせいで、脳が妙に冴えてるっていうか」


「……リリスさんって、こういう時も冷静ですよね。」


「冷静じゃないわよ。めっちゃ疲れてるのに、眠れないもん。」


ふふっと、アリシアが小さく笑った。


「……なに笑ってるのよ。」


「いえ……なんだか、ちょっと安心して。リリスさんでもそんなふうに思うんだなって。」


「当たり前でしょ。人間なんだから。」


「……でも、こうして誰かと同じ部屋で寝るの、私、初めてなんです。」


「そうなの?」


「はい。両親は朝から晩までいなかったですし、魔法学院では、1人部屋でしたから。誰かの寝息が近くにあるの、変な感じだけど……ちょっとだけ、落ち着きます。」


リリスはそれを聞いて、ふと目を閉じた。


「……意外ね。アンタって、もっと繊細そうに見えて、そういうの嫌がるタイプかと思ってた。」


「えっ……リリスさんのほうこそ、そう見えると思ってましたけど。」


「……そっか。似た者同士かもね。」


ふたりの間に、小さな沈黙が落ちる。


けれどそれは、居心地の悪いものではなく、

少しずつ馴染んでいくような、あたたかい間だった。


「……リリスさん。ありがとう。」


「は?」


「こうして話してくれて。……ちょっとだけ、安心できました。」


「……べ、別に……話したかったわけじゃないけど。あなたが変に緊張して寝れないなら、こっちまで落ち着かないじゃない。」


「ふふっ……じゃあ、もう少しだけ、話してもいいですか?」


「……まあ、眠くなるまでなら」


ランプの灯が、ふたりの影をやわらかく揺らしていた。

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