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2.お姉さんと再会

こうして、特訓の日々が続くこと半月。

ついに、魔王城に向かうことになった。


魔王城へ向かう日の朝、俺たちは国王に呼び出された。

「勇者、リリス、アリシア。特訓おつかれであった。そなた達なら、魔王アリスを倒すことができるはずだ。よろしく頼む。」


国王からの激励を受けてすぐ、魔王城へ向かった。


誰も倒すことができない、魔王アリス。

どれほど恐ろしいのだろうか。


「なに不安そうな顔、してるのよ。私の特訓についてこられたあんたなら、大丈夫よ。」


「そ、そうです…!勇者様なら、絶対大丈夫です!」


「ありがとう、リリス。アリシア。ーーさあ、行こうか。」


森を抜け、丘を越え、途中でモンスターに襲われることもあったが、俺たちは訓練を生かしながら進んで行った。


リリスの剣が鋭く魔物の動きを封じ、アリシアの魔法が的確に敵を仕留める。

俺も少しずつ、自分の役目を果たせるようになってきた。


そしてーーついに魔王城に着いた。


「……あれが、魔王城……。」


どこまでも黒く、空を切り裂くようにそびえる巨大な城。

禍々しさと威圧感が、空気をも歪めるようだった。


「じゃあ、入るぞ。」


魔王城の中は、外の雰囲気とは打って変わって静まり返っていた。


広い石造りの廊下に、蝋燭の炎が揺れている。

足音が響くたびに、まるで誰かに監視されているような錯覚すら覚えた。


「……いやな感じね。」


リリスが剣に手をかけ、警戒を強める。

アリシアも、小さく詠唱の準備を始めていた。


「気をつけよう。……いつ、魔王が出てくるかわからないからな。」


そう言った瞬間、城の奥からゆっくりと重い扉が開いた。


ギイィィィ――…


「あら、ずいぶん私のこと、待たせたのね?」


低く、艶やかな声が響く。


この声には、聞き覚えがある。

この声、まさか。


「やっと来てくれたのね?陽斗(はると)くん」


玉座の上。黒いドレスを纏った美女が、ドレスと同じ色の黒い髪をなびかせて微笑んだ。


「え………天音(あまね)さん……?」


「ふふっ…この世界ではアリスって呼んで?それとも、昔みたいにお姉ちゃんて呼んでもいいけど?」


俺が小学生のころ、マンションの隣の部屋に住んでいた5歳上の天音さん。

美人で優しくて、俺の初恋の相手だ。

でも3年前のある日、天音さんは突然居なくなった。

引っ越したと聞いていた。

そこからずっと、会うことはできなかった。


ずっと会いたかった天音さん。

まさか、天音さんとの再会が異世界になるなんて。

そして、俺が勇者で天音さんが魔王だなんて。


「天音?だれ?あんた、魔王と知り合いなの!?」


リリスが叫ぶ。


そんなリリスを前に、天音さんは冷たい目で笑う。

「知り合いだなんて、ねえ?」


アリス――天音さんは、薄く微笑みながら立ち上がる。


「知り合い、なんて軽い言葉じゃ足りないわよね。ねぇ、陽斗くん?」


その視線は、甘さと狂気が入り混じっていた。


「……天音さん、どうして……どうして、あなたが魔王に……?」


震える声で問いかけると、アリスはすっと表情を変えた。


「どうして……?」


その唇が、静かに開かれる。


「私だって、魔王になんてなりたくなかったけど…こうするしかなかったのよね。」



リリスが剣を構えたまま、わずかに眉をひそめる。

アリシアは唇を噛みしめていた。


「でも、魔王になって良かったわ。ーーこうして、陽斗くんにまた会うことができたんだもの。」


そうやって妖艶に微笑む天音さんは美しかった。


俺はやっぱり、天音さんが好きだ。

天音さんと一緒に元の世界に帰りたい。


「天音さん、俺はあなたを倒したくなんてない。だけど、倒さないと元の世界には帰れない。だから俺は、天音さんを倒して一緒に元の世界に帰りたい。倒すといっても、殺すわけではない。方法は、いくらでもあるはずだ。」


「あら。随分と生意気な子になったのね?昔は私に意見なんて、できなかったくせに。……まあ、でも。そうね。退屈してたしーー。」


天音さんは1歩ずつ近づいてくる。


「ここ、魔王城でしばらく暮らしたら?殺さずに倒す方法?もここで見つけたらどうかしら?」


「はあ!?何言ってるのこの魔王は!?頭おかしいんじゃないの!?」


「魔王城に住むなんて…ありえないです…。」


反論するリリスとアリシア。それはそうだ。


「ふふっ……。そちらのお子様達も仕方ないから、一緒に住まわせてあげるわ。私と陽斗くんの邪魔をしたら許さないけどね?」


天音さんは、まるで昔のお姉さんだった頃のように、悪戯っぽく微笑んだ。


だけどその目の奥には、かつて見たことのない深い闇が揺れている。


「……天音さん。」


俺はまっすぐに彼女を見つめた。


「あなたがこの世界でどんな思いをしたのか、俺にはわからない。だけど、それでも、俺にできることがあるなら……天音さんを、独りにさせないってことだけは、できると思うんだ。」


「陽斗くん……。」


その瞳が、ほんの少しだけ潤んだ気がした。


だがすぐに、彼女は微笑みを取り戻す。


「ふふ……。そんなこと言われたら、ますます帰したくなくなるじゃない。」


「リリス、アリシア。納得できないのもわかる。だけど、魔王城に住むことが、魔王を倒す方法を見つける1番の近道だと思うんだ。お願いだ、協力してくれ。」


俺は、リリスとアリシアに頭を下げた。


「そ、そこまで言うなら…。仕方ないわね…。」


「……わかりました。勇者様について行きます。」


「ありがとう、リリス。アリシア。」


「決まりね?これからよろしくね?陽斗くん。ーーついでに、お子様達も。」


こうして、俺たちと魔王との共同生活が始まった。



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