1.勇者の特訓
俺、長田陽斗、高校2年生。
今日もいつも通り、スマホ片手に塾へ向かっていた――そのはずだった。
でも、急に視界が真っ白になって、気がついたら…
「ここ、どこだよ……」
どう見ても、異世界だ。これが異世界転生というやつか?
まさか現実にあるなんてなあ…。
「来たか、勇者よ!」
「はい!? ……え? 俺ですか!?」
俺を指さして、国王を名乗る男が叫ぶ。
「そなたこそ、勇者に相応しい!魔王を倒して、世界を救ってくれ!」
「ちょ、ちょっと待って!? 塾行く途中だったんですけど!? 英語の小テストとかあったんですけど!?」
「――というわけで、魔王アリスを倒していただきたい。」
「急展開すぎるだろ!? 俺の話、聞いてた!?」
その後、何を言っても聞き入れてくれなく、俺はしぶしぶ魔王アリスを倒すことを承諾した。
「さすが勇者である!ーーそなたにしか、魔王アリスは倒せん。よろしく頼んだ。」
「はぁ……。」
勇者って剣で戦えばいいの?俺、剣とか持ったことないんだけど。
「そなたには、魔王を倒すための協力な仲間を紹介する。まずは聖騎士、リリス。リリスは真面目で剣の腕も確かだ。」
リリスと紹介された、長い金髪をポニーテールにまとめた強気そうな美少女が俺の前に立つ。
「こんなのが勇者?本当に大丈夫?……足ひっぱらないでよ。」
ファーストコンタクトは最悪だ。
「次に、魔導師のアリシア。この国で1番の魔導師だ。」
アリシアと紹介された、肩くらいの長さの青い髪のおとなしそうな美少女が俺の前に立つ。
「アリシアです…その、よろしく…。」
緊張しているのだろうか?
声が小さくてよく聞き取れない。
「勇者には、この2人と一緒に旅をしてもらい、魔王城を目指してもらう。魔王城に行く前に、旅をしながら半月ほど訓練をしてもらう。訓練の指導員は、2人にお願いする。」
「なんで私が……」
気だるそうに呟くリリス。
「が、頑張ります…」
自信がなさそうなアリシア。
こうして、訓練という名の旅が始まった。
☆
「いい?剣の振り方はこう。…だめ、全然だめ。力が足りない。あんたそれでも男?……なんでこんな奴が勇者なのよ……。」
訓練1日目。午前中のリリスの剣の訓練はあまりにもハードだった。
俺、今まで剣なんて持ったことないんですけど?
「まず、構えがおかしいの。こんなんじゃ力、入りにくいでしょ。」
そう言ってリリスは俺の背後に回り、剣の構えから教えてくれた。
胸が当たっていて、剣の構えどころではない。
「あの……リリスさん、その…む、胸が…」
「……………死ねば?」
怒られてしまった。
午後からは、アリシアとの魔法の訓練だ。
「ねえ、そもそも俺って魔法使えるの?この世界はみんな魔法が使えるものなの?」
「いいえ、魔法は魔法の適正がないと使えません……。でも、勇者様には、魔法の適正があります。少し特訓すれば、簡単な魔法は使えるようになるはずです。」
魔法を使うには、魔力を込めて詠唱をする必要があるとのことだ。
まずは、魔力のこめ方を教えてもらう。
「えっと…私がこれから、魔力を込めます。魔力を込めると、胸の当たりが熱くなるんです。この感覚を共有したいのですが……その、私の胸、触ってもらえますか…?」
何を言ってるんだ。痴女なのか?
「え、胸を…触る…?」
「あの、変な意味ではないんです!ただ…この感覚を共有するには、実際に触ってもらわないとわからなくて……。」
よくわからないが、わかった。
「じゃ、じゃあ…失礼します。」
見た目以上に豊満な胸に触る。や、柔らかい…。
「は、はい……。じゃあ、魔力を込めますね……。」
熱い。これが魔力か。
不思議な感覚だ。
「では、やってみてください。胸の当たりに力を込めて。」
俺の胸が熱くなり、胸のあたりが光る。
どうやら成功したらしい。
「一発で成功するなんて…すごいです!」
アリシアはぱっと笑顔を見せた。さっきまでとは違って、どこか安心したような、そんな表情だった。
「ありがとう、アリシアのおかげだよ。感覚、なんとなく分かった気がする。」
「よかった……私、役に立てたみたいで……。」
ぽつりと呟いたその声には、ほのかな嬉しさと自信がにじんでいた。
それからしばらく、俺はアリシアと魔法の基本を反復練習した。火の玉を灯す程度の簡単な魔法ではあったけれど、自分の中に何か新しい力が芽生えているのを感じた。
夕方。訓練を終えた俺は、焚き火を囲みながらリリスとアリシアと並んで夕飯をとっていた。
「……今日の訓練、悪くなかったわね。私の特訓についてこれるなんて、なかなかやるわね。」
リリスがぽつりと呟く。
「お、それって褒めてくれてるのか?」
「別に褒めてない。――ま、ちょっとだけ見直しただけよ」
リリスが赤くなった頬を隠すように顔をそむけた。
その仕草が、なんだか少しだけ可愛かった。
「私も、楽しかったです……。また、魔法の訓練、しましょうね……?」
アリシアが控えめに微笑む。
こうして、俺たちの特訓1日目が終わった。
最初はどうなることかと思ったが、2人とならうまくやっていける…かもしれない。