#3
「Eost alphabet yua duvia fostaqa sas」
「Woro Arezzi qumioeo fio jitepo」
「Shego, rek yuo Eost fio geao isqeriao」
「Xaea. Jajua rek yua vimipa moskaria diea babena sas」
「Matara yuo Regiaz shuuo?」
「Xaea. Qo Matara Hyortoa jesa guwea sas」
「Ryes senoeo fyuugeo. Muoeo, ryes bazo wahoeo iromo euo vifero dano seniao kyapiso」
「Qo vorma seniaea sas.」
「Oweipo urjiidoeo, rek yuo Worsef rotio epo jeso evinkiao. Rek gosgoeo bazo iromo dano paniao」
「Xaea, yega Zipuon sas」
「Rek yua yega Zaquran fia zonfiriaea」
「Demwega qo rugaq bawon epoa jesa noskusa」
「Kyacoa senoa noskusa」
少し遅れてワープしてきた数隻のイカに似た形をした宇宙船が月面に降り立った。そして大気生成フィールドを発生させた。その岩だらけの暗黒空間に浮かぶ地球人の遺産は、悲しみと寂しさを堪えているようにも、疲れ果てて眠りにつく忠犬のようにも見えた。
「Zerme jes idiv ?」
「Mataro yuo "Grant etawomen burve" die anharo」
右手首にあるタトゥーのよう有機デバイスを起動し、その人物は穏やかな声でジプオンに話しかけた。ジプオンはその白い瞳を見開いた。そしてお互い、交互に肩をぶつけ合い同志との再会を喜び合った。しかしすぐに、その同志は心配そうにジプオンの体を見た。その白い肌と灰色の髪、ポトル族特有の見事な幾何学模様が入った民族衣装ドルグルを着こなす彼は、いつもと同じように、決して揺るぎのない要塞としてそこに立っているように見えた。しかし、その要塞が崩壊の危機を迎えたのも事実だ。
「Ryes bazo nojuo feorvashao shuuo?」
「Xao, Zopena. Homudoeo」
肯定の返事とは裏腹に、ゾペナの不安感は宇宙に広がる暗黒のように広がって行った。
ジプオンとゾペナを中心とした調査班は船団を離れ、グラント調査隊の基地に足を踏み入れた。チームは全員、念のために宇宙用兼防護用の装備を装着していた。
おもむろにゾペナが入り口に歩き出し、既に開きかけている基地の鉄扉を力でこじ開けた。さらにもう一枚、これは明らかに外の扉よりも頑丈そうな鉄扉が姿を見せた。黒いそれを再びゾペナがこじ開けようとしたが、さすがに成功せず。十数分を要して、全員の力で粉々に壊した。
中はとても人工物とは思えないほど、洞窟に似た空気を放っていた。大気フィールドが有効なのか、その状態がどうなっているかは不明だが、彼らウォルセフは見たことのない虫がいた。
「Duvi mewee!」
この一行で一番食いしん坊であろう、ギギズが何の躊躇もなくそれを捕らえ、飢餓を迎えた子犬のように貪った。ジプオンとゾペナを含めた他の仲間はそれを白い目、元来白いのであるが、より白い目で見つめていた。特にジプオンは、さっきまでの冷静で頼りがいのある補佐役とはどうしても思えなかった。
「Mataro yu nobachu. Centipede, 지네, حريش, mille-pattes, 蜈, 百足, tausendfüßler, centpiedulo...... Arip iarjo」
「Huto, rek zerme jes shebuu shuu?」
ジプオンが暗闇でも分かるくらいに驚いた表情を見せた。全員に問いかけたが、少し考え、自ずから答えにたどり着いた。
「Eostes yu epo faziti vitvo roti shuu?」
再度、皆に問いかける。応じたのは自慢の有機デバイスで調べ上げたゾペナで、小さくうなずいた後に「Veryuo xao」とだけ言った。
「Herje raakaaen dan seno kyapis」
ジプオンのその言葉を聞いて、ゾペナとウィソとペタが額に付いている有機デバイスを起動した。真っ暗だった人工洞窟に光が齎された。ジプオンらは、さらなる光を求めて電灯のスイッチを探ろうとした。だが、それよりも好奇心が勝った。そこには明らかに何十年も立ち入った痕跡のない風景が広がっていた。窓ガラスや扉が壊れた部屋。その中には、埃かぶった研究機器や棚、そして長く奥まで続く一本道の広い廊下。照らし出されたことで、全貌とまではいかずとも、とりあえずの構造は把握することが出来た。一行は誰が言うでもなく、自然に入り口から見て一番近い右側の部屋に入った。ジプオンは半ば無意識に、その部屋の入り口近くにあった白いスイッチを押す。だが何も起きなかった。
その部屋には壊れた薬品の瓶らしきもの、息絶えたコンピューターたち、何より彼らを驚かせたのは数体の汚れた白衣を着たミイラだった。
「Zao Eostes?」
ジプオンはミイラの1体の傍に寄り、色々と見ているゾペナに問うた。ゾペナは動きを止めずに「Xao」とだけ言った。
最初は興味が勝った様子でミイラを調べていた彼女だが、腕にあった大きな切り傷の痕に見えるものを見つけて、周囲を見回し、横倒しになった棚の横からわずかに見えるミイラ化した尻尾の先を見た途端、雰囲気は一変した。
「Fuven! Rabanto!」
それを聞いた瞬間、全員が素早く装備していた武器を構えた。そして警戒態勢となり、互いが互いの死角をカバーしつつ、ゆっくりと部屋を出た。
その瞬間だった。
廊下の天井から2匹、向かいの部屋の方から2匹、廊下の奥の方から2匹が、俊敏な動きをもって一同に襲い掛かった。
特徴的な灰色の肌。鋭い目。頭部にある短くも尖った角。大きな刃物のような爪。長く伸びた尻尾。まるで肉食恐竜の生き残りであるかのようなその容姿は、一度見れば脳裏に貼り付いて剥がせないだろう。
ジプオンは剣を噛ませることで、1匹目の噛みつき攻撃を防御した。2匹目は彼の背後から襲い掛かり、後頭部に噛みついた。幸い、防護服が鎧の役割を果たしている。しかしそれほど安心できるものではない。彼は正面の怪物を蹴り飛ばすと、諦めを知らずに後頭部を噛みつき続けてくる敵の頭を片手で強く握り、強制的に取り外した。そして床に叩きつけ、首を剣で刺した。徒に暴れていたが、その瞬間まるでしぼんでいく風船のように、急速に生気を失った。
「助けて!お願い!助けて、誰か!」
ペアをやられて復讐に燃えるのは、文明を持つ知的生命体だけに限らない。異形の生物も、それは同じだ。得意の声帯模写でジプオンを惑わせるいつもの戦法だが、今回に限ってはそれは絶対に効果がない。何故なら、ジプオンが地球の言語を理解していないからだ。そもそも怪物の方も言葉の意味など理解していないことを、ジプオンは経験上知っている。どちらにしろ、これは無意味な作戦であるのだ。
しびれを切らして、怪物は鞭のように尻尾で攻撃を仕掛けてきた。しかしジプオンはそれを容易く剣で切断し、素早く敵に近づき首を両断した。
ペタとウィソはマウティ鋼の矢じりを持った矢を取り出し、自慢の弓にセットした。標準はもちろん、怪物である。ペタの矢は脛に、ウィソの矢はもう1匹の右目に命中した。ドロドロとした悍ましい赤い血が噴き出す。しかし怪物たちは怯むことなく、2人の矢を軽々躱すほどのスピードを発揮した。ペタは尻尾で、ウィソは噛みつきで攻撃された。ペタは応戦の矢を放とうとしたところ勢いよく吹き飛ばされ、埃まみれの床に顔面から着地する羽目になった。もしヘルメットをしていなかったら、彼女の顔面は目を背けたくなる状態になっていただろう。しかし、彼女のマスクとヘルメットは少し損傷した。ただちに影響があるレベルではないが、こんな未知の地でそれは十分恐怖への火種だ。しかし彼女はそれを振り切り、なおも突進してくる敵に向けて弓矢を構えた。依然、途轍もない俊敏さだ。だが、脛から流れる血が未だに止まっていない。当然、血痕も健在。動き自体は複雑ではないことに気付き、真正面から怪物の脳天に正確無比な一撃を与えた。怪物は断末魔をあげる暇も無く、床に倒れた。
一方のウィソは、噛みつかれた右腕をどうにか救い出そうと抵抗したが、怪物の牙が段々と防護服を貫通し、彼の生皮に触れていた。それをも貫通するのは時間の問題だったが、彼が思うほど猶予は無かった。血液と筋肉が刺される感覚。思わず、痛みに叫びをあげてしまった。だが同時に、円形にとめどなく広がる怒りを発し、噛まれたままの状態で左手を使い矢を取り出し、怪物の左目に突き刺した。今度は怪物が叫ぶような咆哮をあげた。ウィソはそのまま怪物を押し倒し、馬乗りになり暴れる敵を無理矢理押さえつけた。そして両眼の矢を引き抜き、それを無防備になった怪物の胸に思いっきり突き刺した。最後の抵抗でウィソの腕を爪で引っ掻くような動作をしたが、すぐにおさまった。
ギギズを襲った個体は、彼を押し倒し鉤爪で執拗に攻撃した。引っ掻いたり爪を突き刺したりしたが、ダメージを与えても致命傷にはならなかった。野性的攻撃にさらされたギギズも、もちろん無抵抗ということはない。右手に持っていた槍を短く持ち直し、怪物の脇腹に深く刺した。体勢を大きく崩された怪物はよろめき、弱弱しく威嚇した。そのような好機をギギズが見逃すはずはなく、槍を引き抜くと連続で敵の体の数か所を刺した。徐々に弱まる相手を見て、とどめの一撃を腹に与え、怪物ごと槍を天井に向けて掲げた。それを下した後、ゆっくりと槍を引き抜き、念のために生死の確認をした。
ゾペナにとって怪物の狩りは非日常ではない。彼女の粗暴な従兄も含め、特にバーランヴァ族にとっては、むしろ日常の1ページだ。だが彼女はそれが嫌いだった。特にこの、彼らがラバントと呼ぶ怪物のことは。常に血なまぐさい宇宙の野生生物の中でも、とりわけそれが強く色濃い獣。それが彼女の幼少期より変わらぬ評価。そして、無慈悲に忘れたい過去を思い出させる厄介者。
それが彼女の攻撃に影響を与えのかもしれない。ゾペナは向かってくる怪物の頭を、自身の斧でぶん殴り卒倒させた。怪物はすぐに回復したが、彼女にとってはさほど意味は無い。問答無用でその首根っこを右手で掴むと、左手で頭を掴み、思いっきり首を引きちぎった。返り血が防護服に付いた。それを雑にふき取ると、彼女は仲間たちの状況を見た。手助けは必要ない。彼女はそう確信した。
静けさの戻った室内。誰が言うでもなく、皆奥へと歩み始めた。また敵に襲撃されないかという不安は当然あったが、そんなものはもはや、雨上がりの道路に出来た小さな水たまりみたいなものだ。気にしてはいられない。
一番奥には、地下へと向かうためのエレベーターがあった。正確には、その成れの果てだ。扉は半壊し、中身は無くケーブルだけが垂れ下がっている。全員、下を覗いた。思ったよりも、高くはない。そう判断したのか、ジプオンとゾペナは何の躊躇も無く飛び降りた。残りの3人はその考えに同調せず、自前のロープを使って降りて行った。
「Rek rugaq cotia jes munba」
ゾペナが降りた先にあった大きな扉の地面に空いている穴を、指さして言った。そのゾペナを先頭に、一行は穴に入って行った。
その光に最初に触れたのは、当然ゾペナだった。一瞬、あまりの眩しさに目を開けられなかった。やがて慣れたころ、彼女の双眸には緑色の景色が入り込んでいた。かつては動植物の実験場だったのか、それともこの施設の食糧生産工場だったのかは定かではないが、ここには機械的に管理された自然が存在し、それは今現在、本当の自然へと昇格していた。天井にはまばゆい光、それを求めるように植物が壁や床を支配している。しかし生物の気配までは覆い隠していない。
「Duvi qeos waho」
誰に言うでもなく、ゾペナは呟いた。
「Vormao anozoeo fio femidio」
「Cerkaro」
「Rek piur fi jes hahyia」
ゾペナのその言葉に全員が納得し、植物とたまに姿を見せる地球の生物たちを掻き分け、さらに奥へと進んで行った。
すると謎の扉にたどり着いた。そこは明らかに頑丈に作られていて、傷1つない。何かしらの金属なのだろうが、少なくとも彼らウォルセフが知る範疇の物とは思えなかった。ジプオンが開ける策を皆に問うとしていたところ、勝手に扉が開き始めた。一同は、その光景に釘付けとなった。




