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リリアンとの共同作戦



 ユリシアスが集めた情報によれば、王都では今争いが起きようとしているらしい。

 聖騎士団から何度もユリシアスはどこかと、ガルウェイン家に連絡が来ていたそうだ。

 

 聖騎士団は大神殿に、リリアンの元に集っている。

 カトルと、そしてイルサナの行動は目に余る。

 有能な者を遠ざけて、自分に阿るものばかりを城に侍らせているのだという。


 森の民の長──ファティーグを城に呼び、重職に就かせた。まるでファティーグは、カトルの代わりに王のように振る舞っているらしい。


 そしてとうとう、神殿を排除しはじめた。

 聖レストラールの神像の打ち壊しがはじまった。黒き蛇の神像が建てられた。


 王国民からの暗君を討伐しろという声が日に日に勢いを増している。

 リリアンは兵たちを大神殿に集めている。カトルを討伐するために──。


 それを聞いて、フィアナは青ざめた。

 カトルは暗君などではない。だが──イルサナに支配をされている。フィアナがカトルの心変わりを信じたように、人々もカトルが暗君と成り果ててしまったことを信じているのだろう。


 フィアナは呪われていない。だから、イルサナに近づくことができる。

 ユリシアスと共に王都に向かう途中、カトルと食べた生命の林檎をいくつか摘んだ。


 ウルスラの話を信じるならば、イルサナは生命の林檎を知らないはずだ。

 彼女が森を出たのはつい最近。

 言い伝えの歌を知っていたとしても、存在を知らなければ生命の林檎が歌にでてくるとこしえの実だとは気づかない。


 生命の林檎の樹は無事だった。それこそが、イルサナがそれを知らない証拠だろう。


 そして、フィアナは大神殿に向かった。

 大神殿は、王の兵たちに取り囲まれていた。聖騎士団ではない。それは、カトルの私兵だ。

 裏口を取り囲む王の兵をユリシアスが倒しながら、進んでいく。

 ユリシアスに気づいた聖騎士団の部下が、ユリシアスを大神殿の中に通した。


 大神殿に入ると、リリアンが出立の前の祈りを捧げていた。

 すでに、カトルを討つための準備はできているようだった。


「リリアン様、出立を待っていただきたいのです」

「あなたは、フィアナ。無事だったのね!」


 旧知の友か、それとも妹にでも会ったようにリリアンはフィアナを抱きしめる。


「死んだと聞いた。私もそれを信じていた。ひどい火傷をしたと聞いたわ、無事でよかった」

「ありがとうございます、リリアン様」

「心配した……というのは、嘘になるわね。あっという間のできごとだった。気づけばイルサナが現れて、気づけばカトルは惑ってしまった。あなたを助けることもできないまま、あなたは斬り殺されたと噂で聞いたわ」

「火傷は、本当です。でも、カトル様は惑っていません。リリアン様、お力をお貸しください」

「詳しく聞かせてくれる? ユリシアス、あなたは……フィアナを守っていたのね。……守っていたと、いうことにしておくわ」


 フィアナの隣に静かに従うユリシアスに、何かを見透かすような視線を向ける。

 ユリシアスは表情を変えず「邪推は必要ありません」と短く言った。


「相変わらず、無愛想ね。フィアナ、こんな人と共にいたのでは、苦労したでしょう?」

「いえ、そんなことは……」

「フィアナ。……怪我をしているわ」

「大丈夫です。これぐらいは、たいしたことがありません」

 

 リリアンはフィアナの額や腕に巻かれた包帯にそっと触れる。

 投石による怪我は、目立つだろう。痛くはないのだと、フィアナは微笑む。

 リリアンは自分が傷つけられたような顔をした。

 心の優しい人だ。ユリシアスが彼女に憧れと思慕を抱く気持ちが、フィアナにはよくわかった。


 リリアンにこれまでのことを話す。彼女は神妙な面持ちで静かに聞いていた。


「──今、大神殿を取り囲んでいる軍の中には、イルサナの姿も、カトルの姿もないわ。軍を率いているのはファティーグという男。イルサナの父ね」

「カトル様と、イルサナは城の中ということでしょうか」

「ええ。斥候の報告によれば、イルサナは未だ、城で遊び呆けているらしいわ。お気に入りの者たちを侍らせて、カードゲームに興じているのだとか」

「……でしたら、忍び込みます」

「あなたが?」

「はい。……カトル様は私に呪いがかかっていると信じています。私の命は奪われたりしないことがわかれば、支配から自由になるはず。私ということに気づかれず、二人に林檎を食べさせることができればそれが一番ですが」

「私も共に行こう。私が、イルサナを討つ」


 フィアナとユリシアスの提案に、リリアンはしばらく悩んでいた。


「カトルを救えるのならば、私も救いたい。けれどそれができないときは、私は森の民もカトルも全て討つ。それが聖女としての務め」


 やがてはっきりとそう告げるリリアンの瞳は、決意に満ちていた。

 フィアナの手を取り祈るように、額をつける。


「カトルを救うため、兵を割くことはできない。あなたを守るためとはいえ、カトルは罪を犯している。あなたとユリシアスが命がけでカトルを救うというのなら、私も命がけでこの国を守る。できるだけ、兵も注意も引きつけるわ。圧倒的な力で、ファティーグを潰す。その隙に、城に忍び込みなさい」


 フィアナはリリアンに礼をした。

 それから、ユリシアスを見あげて口を開く。

 

「ユリシアス様、リリアン様と共に大神殿に残ってください」

「それはできない。私はあなたを守るよう、カトル様に言われている。それにフィアナ、あなた一人で何ができる?」

「……イルサナを殺します」

「それは、私の役割だ」

「騎士とは、主君を守るもの。そして主君の妻を守るのもまた騎士の務め。フィアナ、ユリシアスは聖騎士よ」


 リリアンに諭すように言われて、フィアナは「わかりました」と、小さく頷く。

 ユリシアスはリリアンを守るべきだと感じたが、それ以上フィアナは何も言わなかった。


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