どうせ叶わぬ恋ならば
[かけがえのない存在に]
幼馴染とは、残酷なものだ。
ー
段々と寒くなり、紅葉に色づいてきた頃のだった。
君の隣に彼氏ができたのは。
白いマグカップに茶色く温かい珈琲。
自分には似合わない渋いその味にいつしかハマっていた。
ー
落ち着いた雰囲気のカフェに二人の男女が顔を見合わせ座っていた。
ショートカットの女と耳にピアスを開けた男。
オレンジジュースに入っている氷がカランと、季節に似合わない音を立てた。
ー
「でさー、彼氏がねー」
「そっか」
「ねー聞いてる?」
「うんうん、そうだねー」
「もぉ……、スマホ見てないでよ」
そう言い、この時期に似合わないオレンジジュースを女が啜った。
男もスマホを閉じ、静かに珈琲を口へと運び、喉に通す。そしてカチャリと音を立て、マグカップを皿に戻した。
ー十何年前ー
「大人になったら、お嫁さんになって!」
「ん?いいよー」
「やった。約束だよ!」
「へへっ、うん」
ー
もう覚えていないだろう。
園児の約束なんか、ただのままごと。
大人は口を揃えてそう言った。
でも、僕は本気だったさ。
君にお嫁さんになってと言うのも。
君の笑顔をずっと見たいと思ったのも。
だけど、そんな約束は守られるはずもなく、無様に散っていく。
ずっと友達と言った奴がいつのまにか、離れていくように。
ずっと大切にするといい買ってもらった物が、押し入れの奥深くに眠るように。
約束なんて、忘れるのが吉という物だ。
だから、君は約束を忘れてしまっただろう。
どうせ叶わぬ恋ならば。
君の笑顔を見ていたいから。
君という存在を失わないために。
君の幸せを見ていたいから。
君の最高の幼馴染になりたいと願うよ。
かけがえのない唯一の存在に。
その恋心がコチラに向くことがないとしても。
その悩みがコチラに向くことがないとしても。
君に似合わない僕はそばに立っていたから。
一番じゃなくてもいい。
彼氏じゃなくてもいい。
だから、僕は……、
今日も相槌を打ち続けてみようじゃないか。
苦い珈琲が喉をつたった後の喉が、じんわりと暑くそして苦くなった。
ー
「そう、だけど別れるのは違うから話し合おうと思って」
「それがいいと思うよ」
「だよね、やっぱり私の最高の幼馴染」
パッと笑顔を見せる君。
喉がサァァと冷えるのがわかる。口が開いて出た言葉は、
「光栄だな」
その一言、たった一言だった。
「本当幼馴染が関でよかったよー」
「……、ありがとう」
もう紅葉も枯れて始めた時期だった。
マグカップに入った珈琲が冷たく冷めたのは。
読んで頂きありがとうございます。
反応して頂けると活動の励みになるので気軽にしていってください。