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第4話 悪魔と神のジレンマ

 声はユニア地区の中央、広場の方から聞こえて来る。走って到着したバルバダは、そこに四、五人の男女を見た。<化け猫>らしき姿はない。

「先ほどの悲鳴は!?バケネコって聞こえました」

 男性の一人が応える。

「今さっき、走って逃げて行ったよ、バケネコ!」

「どんな姿なのです?」


 その場に残っていた人たちの話では、薄茶色で全身の毛を逆立(さかだ)て、怒り狂っているような大きいネコで、度々(たびたび)近くで騒ぎを起こしている。元は飼い猫だったらしいが飼い主は現れず、子供やお年寄りは特に危ないから近づけない。

「やっぱりニーコだわ!どうすればいいのかしら」

「退治してしまおうという者も居ます」

「そんな!待ってください。何とか助けられないかな」

「後ろ足で立って、何かを抱えているらしかった」

「ふーん……なるほど」


 その日の騒ぎはそれで終わりだった。バルバダはバッグからメモとペンを取り出して記録する。<化け猫騒動>に少し近づけたようである。(おり)からのにわか雨なので、一度ツァツァリア宅へ戻った。メイドさんがタオルを手渡してくれる。髪と服を拭った。

「バルバダさま、これが届いています。どうぞ」

 お礼を言って封書を受け取った。賢者セザンからだ。早速(さっそく)、封を開けて読んでみる。


「賢者バルバダ、無事でなによりである。バッザ神のことは、こちらでもすでに察知している。対策を検討中だ。慎重に対処して欲しい。(われ)セザンは、お主が今後、賢者たちの中で重要な地位を占めると楽しみにしている。お主は『切り札』だ、グランディアの女神よ。あまりに危険なのであれば一旦引き返せ。そして事件を報告せよ!お主に対する期待はあまりに大きい。それを考慮に入れておくれ。グランディア賢者、セザン=デュマ=スム」

 ありがとうございます、賢者の長セザン。けれどまだ出来ることが有ったらしておきたい。


 今日でもう4日目……一週間の期限の半分が過ぎている。無理はしたくないけれど急がなくては。さっき騒ぎの起きた広場へ一人で行ってみる。何か<騒動>を知る手がかりになるものでも見つけられれば。でももう夕暮れ時なので、そんなに余裕はない。


 広場へ戻って来た。騒ぎがあった周辺を調べてみる。しかし特にこれといって見つかったものは無い。時計塔を見る。遅れている?あの時計。そうではない。止まってしまっているのだ、一秒たりとも遅れないとして有名な<時の精霊>の動かす時計が……!


 賢者としての感性が、異常なほどの圧力を受けていることを訴えている。圧力……そう、尋常(じんじょう)ではない。剣を抜くバルバダ。ブレードは淡い桃色をしている。背後に気配が……!

「フゴーーーーーーッ!!!おやまあ、人間のニオイ」

 バッザ神だった!


 振り向かずに広場の中を駆ける。それから後ろを向いた。黒光りする人肉の(かたまり)が、狭い出入り口を無理やり通って広場へ侵入して来る!図体(ずうたい)に付いた耳や鼻や生首が、壁とこすれてボロボロ落ちてゆく。そしてその替わりと成る「品」が、肉塊(にくかい)のどこからでもモリモリと湧いて出て来るのだった。それを見たバルバダは叫ぶ。

「汚らわしい悪魔!!あなたは<神>なんかじゃない!」


            *     *     *


 巨大なブヨブヨした塊は、どこからかしゃべった。

「神かどうかは自分でも分からぬが……あれ、神だったかな?まあ良い。しかし、そなたの意図(いと)するところの<悪魔>というのは否定させてもらおう、ニンゲンの女よ……!今そなたが(あん)じている通り、神も悪魔も(なんじ)らニンゲンの内に宿っておる」

 心の中を見透かされている!


 またしても黒く変化し赤い光を放つ剣。だけどこれしか武器を持っていない。自分の魔法が<神>であるバッザに通用するとは思えない。それでも何とかしなくては。もしかしたら<化け猫騒動>も間接的に目の前の存在と関係しているかも知れないし……!


 混沌のバッザ神は食事中である。幾つも持っている手で空中をつかむと、巨大なバッタやコウモリや、毒々しい色のキノコやトゲトゲしい形のトカゲや、はたまた美しく新鮮な花などが、その手の内に現れ、これまた幾つも持っている口へ放り込んでクチャクチャとヨダレを()らしつつ食べている。


 身の毛もよだつ想いでそれを見ていたバルバダは、足がすくんで動けなかった。逃げようとするが身体が言うことをきかない。そこへまた、高さ3mもある混沌の兵士アシュラも現れた。様々な見栄(みば)えの良いもの悪いものを食べながら、バッザ神は舞台俳優の青年みたいに魅力的な声で言った。


「百の道の賢者らしいが……百、というのは少々、欲張りすぎではないかね?十ぐらいにしておいたら、どうかと思うぞ」

 声も出ないバルバダへ、さらに語り掛ける<鬼神>。

「神に対して剣を抜くとは、無謀なのか勇敢なのか。自分ではどう思うかね?強大な<敵>を前にして!」

 そして腹の底が破けてしまうのではと思えるほど(ひび)き渡る悪声(あくせい)で笑った。バッバッバッバ!!!

 

 その時、持ち主のピンチを知って胸のリング<セイメイ>が輝く!近くに居る味方を呼び寄せてくれる……現れたのは、軍馬に乗ってランスを構えた聖騎士ツァツァリアだった。これを見てバッザ神はもう一度笑う。バッバッバッ!!そして神に(あだ)なそうとする人間たちへ向かって告げた。


「面白い!女よ、それは<人間性の剣>ではないか。しかも<魔性>を示している。そんなにもワレを毛嫌(けぎら)いするのであれば、いよいよ汝も<本当の姿>を見せよ!どこまでも傲慢(ごうまん)なニンゲンよ!!!」


 神の手の一つが動いて賢者バルバダを指さす。とたんに彼女の身体に異変が起き始めた。身長がグングン伸びて体が大きく成り、それに(ともな)って上半身には、青白い鳥のような羽根が生えそろい、下半身には野獣の体に生えているような剛毛がゾワゾワと現れる!口は裂け目は血走り、髪は数十の(たば)に成って長く結び合わさった。自分の姿の変貌(へんぼう)を見たバルバダは、まるで夜に鳴く魔鳥のごとき叫び声を発した。


 そちらへアシュラが武器を構えて突進する。両者は同じぐらいの身の(たけ)だ。ツァツァリアが何か大声で言ったが<変身したバルバダ>には聞こえていないらしい。長槍を突くアシュラ!しかし素手のバルバダはそれを信じがたい素早さでつかんでしまった。そして力任せにボキリと折ったのだ。


 それでも左手の剣で打ちかかる、アシュラの左腕を右手で打ち払い、バルバダは左手でアシュラの頭を鷲掴(わしづか)みにする。そのまま力を込めると青銅色の頭はバゴン!!という音とともに砕かれてしまった!地面へ倒れ込むアシュラ。それを見ていたツァツァリアはランスを抱え、馬を操りバッザ神へ突撃する!


            *     *     *


 美しく気高く、とても妖しく、そして強い<半人半神(はんじんはんしん)>と成ったバルバダは見た。バッザ神の肉の塊へ、ツァツァリアのランスが深々と突き刺さるのを!慌てて食事の手を止める鬼神。

「バッザ神よ、あなたこそ魔性の者!」

「ワレが?バカな!!」


 テラテラと黒く光った巨体は一度、さらに大きく(ふく)らんで、お似合いの目玉や、おあつらえ向きの脚や、せっかくの白い羽根をバラバラと落とす。直後、穴を開けられた風船みたいにブシュシュシュシューーーッ!!!と、飛び回りながら中の空気(!)が抜けて行った。


 全くもって手のひらぐらいの大きさに縮んでしまったバッザ神は広場の地面に落ちる。そして「あーーー!」と言いながらシューッという蒸発音(じょうはつおん)を出して()けて、さらに小さく成り土の上のシミに成った。やがてはそれさえ消えてなくなった。


「アンレイ!アンレイ、大丈夫!?」

 気が付くとバルバダの姿は元に戻っており、自分が倒れて失神(しっしん)していたのだと知った。……だとすると、あの大きく変身した自分というのは夢だったのかしら?

「夢なんかではなくてよ、バルバダ=アンレイ。勝ったわ私たち!バッザ神を倒しちゃった!!」

 人間が……私たちが<神>に勝った……?広場の時計盤を見ると、また動いているのが分かった。バッザ神もアシュラも居ない。時計は0時を回っている。


 翌朝、ツァツァリアとバルバダはユニア地区を見て回った。町の雰囲気が全く違う。ピクシーたちも居なくなっている。何もかもが健全で、正常であるような気がした。しかし……!自分たちを見張る<不審者>たちの視線に気づく。まだ終わってはいないのだ。


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