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第2話 女性聖騎士はガンコ者

 どんな人かは分からないけれど、今は前を走る女性に任せるしかない。全くためらわずに目的地へとバルバダを導く黒髪の女性。坂を上って通りから住宅街へ入ると、一軒(いっけん)の大きな屋敷(やしき)の前へ来た。女性は先に玄関の中へ。

「いいわよ。上がってください」


 賢者バルバダが玄関ホールに来ると、数名のメイドさんたちがあいさつしてくれた。

「この家は秩序の光の神アーンドゥアに守られているから安心していいわ。私はツァツァリアをいう<聖騎士 パラディン>です」

「良かった、どうやら味方のようね!バルバダ=アンレイです。『百の道の』賢者なの」


「そう、百の道の……。今日はもう遅いし疲れたでしょう。食事をして明日また、お話を聞かせてください」

 こうして賢者バルバダは、聖騎士ツァツァリアの自宅へやっかいになることに決めた。清潔で安全な客室を与えられ、一週間ほどお世話になることに。


 翌朝、食事をとると二人はユニア地区を歩いて回った。下町なので道が狭く、まるで迷路のように入り組んでいる。ツァツァリアは自分のことを語る。

「最近亡くなった若い娘さんを(とむら)っているの。一人でね。一度は皆で葬儀をしたわ。でもまだ彼女のところへ<お迎え>が来ないのを私は感じているの。娘さんの名前はアレーナ。何かまだ、この世に心残りがあって、あの世へ行けないのでは……そう思うの。皆は私のことをガンコ者だって言うわ。でもそうではなくてよ」


 バルバダはツァツァリアへ<化け猫騒動>について何か知らないかと(たず)ねた。しかし聖騎士は、ウワサ程度にならば聞いているとだけ答える。あまり深い事情は知らないらしい。


 聖騎士と賢者は、ユニア地区の中央にある広場へ向かい歩く。ツァツァリアはプレートアーマーにマントを着けて、剣を帯びている。バルバダは一風(いっぷう)変わっていて、剣士の修行をする者が着用する修道着(しゅうどうぎ)姿だ。上下リネンの動きやすい衣装。パンツスタイルに茶の帯とブーツ、それにリストバンドをしている。インナーシャツの色は黒。左腰に<人間性の剣>を、右腰に「理由の書」が入ったバッグを下げている。


 下町の広場にしては、けっこうな面積を持つ空間へ出た。正方形で中央に時計塔が立っている。塔は高さ5m、東西の両面に大きな時計盤が付いている。10時を少し回ったところだ。

「昼間は<混沌>の力も弱まる。私も見ました、バッザ神の姿を!バルバダさん、すぐ近くでそれを見ていたらしいけど、気は確かかしら?」


「ええ何とか……。あっ、あれは!?」

 何か中型の鳥ほどの大きさで、透き通った羽根を持つ灰色のものが、フラフラと空中を飛び回っている。ピクシーだ。それは二人を見ると、薄ら笑いを浮かべつつ近寄って来て呪文を唱えた。そしてケタケタと笑いながらどこかへ飛び去る。


「あっ!悪さをされちゃったみたい!」

 バルバダが声を上げた。何と彼女の唇が、上下とも「美味しく」変化しているのだ。ソースをかけた肉料理のような味がする。とてもしゃべりづらい!

「ピクシーは悪い魔法を操って人を困らせる、<混沌>の主力だわ!バルバダさん、お気の毒」


            *     *     *


 賢者は自分の「美味しい唇」に1時間も苦しめられた。その後、秩序の神へ祈りを捧げようと神殿へ向かう。しかし、やけに人通りが少ないのを二人は不審(ふしん)に感じて警戒する。周囲から視線が注がれているのに気づいた。そして……光を吸収するかのような暗黒色のフード付きローブを着た<死霊術師>に出会う。彼は複数のゾンビを伴って現れた。

 

 剣を抜くツァツァリアとバルバダ。<人間性の剣>は今回もまた<魔性>を示している。この剣で太刀打(たちう)ちできるのだろうか?聖騎士はゾンビを相手に戦っている。賢者は死霊術師が魔法を使おうとしているのを阻止すべく、黒い剣で打ちかかる。ガツッ!と杖で受け止めた死霊術師は戸惑(とまど)いをあらわにした。<魔性>の剣が、彼を強力に魅了(みりょう)しようとしているためだ。調子が狂って動きを止めるネクロマンサー。


 これ以上の無用な戦いを回避しようとして、二人はその場から逃げた。バルバダは提案する。

「ユニア地区を出ましょう。もっと色々とお話を聞きたいわ」


 グランディア王国の北部、メレティアとの国境近くの都市メントーゼは、人口13万人を(よう)する大都会である。下町ユニア地区は、その南西の一区画に当たる。大通りへ出て、都市の中央を北から南へ流れる川に近くへ来た。橋が架かっており周囲の見通しが良い。ここで疑問に感じていたことを打ち明けるバルバダ。


「ユニア地区もそうだけど、メントーゼ市の人たちは何かこう……思い詰めているような、顔色の悪い人が多いようね、ツァツァリアさん?」

「ツァツァリアと呼んでください、私もアンレイと呼ばせてもらうから。最近、<虚無(きょむ)主義者 ニヒリスト>が増えているみたいなの」

「ニヒリスト?」

「そう。人生は(むな)しいって考える人たちのことよ。近々、それについて詳しい人物を紹介するわ」

「ツァツァリア、二人でバッザ神を倒しましょう!陰謀の神だなんて、ロクでもないわ!!」

「それは無理よ!相手は<神>ですからね。それに、あの混沌の神が何を狙って地上へ来たのかも分かっていない。焦りは禁物よ?」


「私、聖騎士という人と初めて知り合ったの。どんなことが出来るのかしら」

「そうね、魔法は扱えないけれど戦闘力が高くて、特に<不浄な者>に対して強いわ!他に、高次元の存在を感じたりすることも、ある程度できます。あなたは?賢者さん」


 賢者バルバダは自分の能力についてツァツァリアへ明かした。<秩序>と<混沌>の魔法が扱えて、聖騎士と同じように高次元の存在を感じたりコンタクトを取ることも出来ると話す。そして自分は他の賢者たちと違って武器も少し扱えることを伝えた。


「バッザ神の狙いは何だと思う?ツァツァリア」

「そうね、今のところまだはっきりとは言えないけれど、もしかしたらグランディアを、人間の社会を<混沌 メチャクチャ>にするつもりかも知れない」

「そんな!!」


「<混沌の鬼神>が、この都市に降臨していることを、メントーゼのほとんどの人たちは知らないわ!そうでなくとも、こう、何て言うか……危機意識が薄い感じがする。都会の人は他人に無関心なだけかしら?」

「そうかも知れないわね。今のところ、ユニア地区以外では異常が感じられない。それに<不審者>も居ないみたいだし」


 <不審者>とは何だろう?ツァツァリアはユニア地区へ戻れば分かると言っている。そこで再び下町へ戻ると、とたんに周囲から「盗み見られているような視線」を感じ始めた。得体(えたい)の知れない不安感を覚える。

「分かる?あれが<不審者>たちよ……!」


「そうね、敵の視線を感じます。あの人たちも<混沌>の手先かしら?」

「はっきりとは正体を現さないけれど、たぶんそうだと思うわ。それについても、明日、あなたに紹介する男性から詳しい事情を教わるといいと思う」

「男性なのね、その方?」

「うん。学者さんなの。インチキのね」

「インチキの学者さん?ふーん」


            *     *     *


 「百の道の」賢者バルバダは、自分をメントーゼへ派遣したグランディア十二賢者評議会の長セザンへ、ここまでのいきさつを手紙で報告することにした。<化け猫>の調査はまだ進んでいないこと、ツァツァリアという聖騎士の自宅でお世話になっていること、そして何よりも<混沌のバッザ神>が自分の目の前に降臨したことを伝える。


 最速の便(びん)で送ったので、明日には賢者セザンは読んでくれるだろう。そして何らかの返事を送り返してくれるに違いない。賢者評議会の長は頼りになる人物だ。きっと良いアドバイスを与えてくれるはずである。


 グランディン賢者の長、セザン=デュマ=スムは言った。

「都市に異変を感じるとの知らせを受けて、先週、ベテラン賢者を二名送り込んだが、異常は見つけられなかった。もしかしたら警戒されてしまったかも知れぬ。そこで今回、お主一人を派遣することにした。これをお主へ……その二重の指輪は<セイメイ>という名の<魔法の工芸品 アーティファクト>で、いつかは助けと成るであろう」

「ありがとうございます、賢者セザン。行って参ります」

 バルバダはネックレスで、受け取った指輪を首に掛けた。


「賢者バルバダ、お主が提出することになっている<事件報告書>によって、(われ)の育てている<フェアリークリスタルロッド>が、また一歩成長するであろう。そして<ロッド>は我らにとって、大陸にとって重要な<予知(よち)>を、またひとつ見せてくれるはずじゃ」


「一週間で<化け猫騒動>について調査し、解決せよ。ただしリスクを伴うかも知れん。もしあまりにも危険と見たらここへ、王都レムニアへ引き返せ。連絡を(おこた)らぬように。手ごわい相手と無理に渡り合う必要はない」

 長セザンはそう言ってくれた。でも「手ごわい」どころではない。相手は<神>なのだから!


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