第4話 狩人
あの時取って食べたのは、サンドイッチから逃亡したサラミだ。ロッタではない。
なのにこの状況は納得いくものではなかった。
「――しつっけーな、おい!」
ドンッ、ガウンッ――ジャキ、ガコンッ。
発砲、排莢、装弾。
流れるようにこなしながら獲物を狩るのは老いた猟師だった。
今日はこの猟師にロッタとの合流を一度阻止されている。
どうせ彼女の目的地はわかっているし、と祖母宅に近い地点でリトライしてみたらこれだ。相手にもお見通しなのだった。
「どんだけロッタに執着してんだ……?」
そうつぶやくが、まんまブーメランなのは無視する。
ヴォルフこそ、この銃撃をくぐり抜けてまでロッタに会いに行こうとしているわけで。
それは、ロッタ本人ではなく、ロッタの作る料理への渇望からだ。そんな言い訳も、はたから見れば酔狂もいいところ。
命がけの食事。
だが本来、食べるとは命のやり取りだ。食べたい物があるのなら生命を賭して向かっていくべきではないのか。
「――なんてのは、まあどうでもいいのさ!」
ヴォルフは喉の奥でククッと笑った。
たまに思う存分やり合うのも楽しいじゃないか!
最終目的地、ロッタの祖母宅。
間もなく視界に入るだろう。そこまでに決着しなければならない。相手もそれはわかっているはず。
ヴォルフは押されっぱなしにしていたが、それで終わるつもりはなかった。
「――」
間合いを計ったヴォルフの足下で落ち葉が鳴った。即応して銃声。近くの木がえぐれる。続けて排莢音。
――今だ。
ヴォルフはフェイクの小枝を前に投げ、同時に首を振る。
装弾し、前をうかがう老猟師の背。
そこに音もなく黒狼がのし掛かった。
「ぐぅッ――!」
「終わりだ。狩られる可能性を忘れたおまえのミスだな、狩人」