第1話 銃撃
――ドンッ!
「いやマジか」
今の今までヴォルフの頭があった場所を正確に貫き、銃弾は木の幹をえぐった。黒髪が数本散った気すらする。
辟易したヴォルフは肩をすくめた。
視線を感じて即応しなければ殺られていただろう。
これでも今は人間のなりをしているのだが、ためらいなどはないのだろうか。人違いで何人か殺してるんじゃ。
「今日も今日とて殺意高めでいらっしゃる!」
ニヤリと口の端を上げながら、ヴォルフは老いた猟師との間合いを取った。
しなやかな筋肉を包む細身のパンツとシャツ、革の上着。黒で揃えた服が森の陰に溶け込む。
ヴォルフが身を引いた木立を見透かすべく動くのは熟練の猟師だ。
足音はほとんど聞こえないが気配が回り込むのを感じた。
こちらも呼応して風のように奔る。
「そんなに憎まれることはやってないと思うんだが……」
殺しも盗みも必要ならやってきた。女に迫られればわりとウェルカムだが積極的に寝取ることはしていない。
というか、この猟師がヴォルフを狙うのは日曜日だけだ。安息日とは何か問いたい。
まあつまり昔の何かしらではなく、現在のヴォルフが日曜になると狙う獲物が猟師にとっては問題なのだろう。
その獲物――ロッタ。
「――あの女、爺さんにモテるのか?」
ヴォルフは苦笑いした。このまま猟師と対峙していても埒があかない――出直すか。
身を低くし、ぶる、と首を振った。
すると黒い毛皮が身を包む。そこに現れたのは狼だ。分厚い肉球は落ち葉を踏みつつカサともいわせなかった。
音もなく姿をくらませたヴォルフは森を走りながら舌なめずりした。
「――あいつは誰にも渡さねえ」
ヴォルフはロッタの行く道に先回りすることにした。
彼女の今日の予定は、すべて把握済みだ。